ソードアート・オンライン ラフコフ完全勝利チャートRTA 2年8ヶ月10日11時間45分14秒(WR)   作:TE勢残党

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 アルゴが段々東横桃子みたいになってきたので初投稿です。
 あはは、誰?(定期)


日常回②

 カラードがMTDに復帰して1週間。始まりの街の広場で行われた復帰会見にて、深々と下げた頭を万雷の拍手喝采でもって迎えられたカラードは、すっかり幹部としての業務に復職していた。

 

 カラードの元の仕事は、戦闘要員全体の統括と、治安維持業務の管理。本人の意向により攻略組への合流はもう少しほとぼりを冷ましてからということになったが、それでも多忙には変わりない。

 

 必然、カラードが最前線に出る機会は、追放中ほどではないにしろ減少していた。

 

 そんな中、カラードが業務以外で欠かさず通っている場所がある。今日もまた、仕事の合間を縫って「そこ」へ訪れていた。

 

「…………」

 

 石造りの工房に、鎚の音がこだまする。音源には、エプロンドレス姿が板についてきたリズベット。バーチャル世界なので汗が滲んだりはしていないが、本職もかくやという真剣な顔で一打一打、心を込めて鎚を振り下ろしていく。

 

 すぐそばに立っている依頼人――カラードもまた、それを感心した様子でじっと見つめていた。視線の向く先は、預けられている大剣か、あるいはリズベットか。

 

 金属同士がぶつかる音が数十回を数えた頃、金床に置かれた≪エッジ・オブ・コロッサス+8≫がにわかに光のエフェクトを帯びる。1秒ほどで落ち着いたそれは、≪エッジ・オブ・コロッサス+9≫という名前へと変化していた。

 

「ふぅー……完成よ」

 

 それを見てようやく人心地ついたのか、リズベットは大きく息を吐いてから剣を持ち上げ、カラードに渡す。

 これで9回連続成功。カラードの持つ大剣は、文字通りSAO最強のステータスを突っ走っていた。

 

「流石だな、リズ。魔剣クラスを苦も無く強化するか」

「1週間で9回分も素材集めてくるアンタも大概だと思うわよ」

 

 剣のプロパティ画面を確認しながらしみじみと語るカラードに、照れながら反論する。リズベットが自分で言いだしておいてなんだが、カラードに愛称呼びさせるとどうにもむず痒い感じがするな、と最近は思い始めていた。やめさせる気は全くなかったが。

 

 「魔剣クラス」とは、β時代から使われる武器の区分、その最高位に当たるもの。現行最前線で入手可能なNPC/プレイヤーメイドの武器より、明らかに突出した性能を誇るユニーク品のことだ。

 

 β時代から数点の目撃情報があり、その全てが発見されてからずっと最前線で使われ続けるため「90層とかの頃にはフロントランナー全員が魔剣持ちになってるんじゃないか」などと揶揄されていたこともある。

 

 しかもそれらの武器は、大抵が多くの強化試行回数が設定されており、極端に拡張性が高い仕様であった。そのチートじみた性能と絶対数の少なさから、「ごく一部のプレイヤーに戦力が集中しすぎる」と批判が殺到したものだ。

 

 デスゲームになった今、それらは強力なプレイヤー個人を表す象徴としても機能する。10層~長いもので30層、時間にして2か月から1年近くに渡って最前線で使用できるオーバースペックなユニーク装備、それが魔剣の正体であった。

 

「現段階でこれを強化しうるほどの熟練度があればこそだ。誇っていい」

「も、もう! 褒めても何も出ないからね!」

 

 当然、そんな代物を強化するとなれば、鍛冶スキルの方も相当な値を要求される。強化素材そのものは5層の迷宮区で(ボスの色違いかつ小型の劣化版から)回収可能だが、強化の成功確率は素材の量と共に、鍛冶師の熟練度にも影響されるからだ。

 

 成功率95%に到達しうる腕前の鍛冶師が登場するのは、最短でも8層頃を待つ必要がある――と、カラードは考えていた。

 

 それを覆し、最前線6層にして成功率95%を実現してのけたのが、他ならぬリズベットだった。彼女はカラードの予想を超えて成長し、すでにSAO最高の鍛冶師となっていたのである。

 

「現に最強の両手剣が出ている。恩に着る、リズ」

「ま、まあそりゃあね? あたし、専属だし?」

 

 褒め殺しされて真っ赤になりながらも得意げなリズベット。

 

 カラードが帰還したあの日。心をかき乱された腹いせに何か無茶ぶりをしてやろうと思い至ったリズベットは、カラードを人気のない所へ呼び出して「アンタの専属鍛冶師になる」と言い放った。

 

 勝手にどこかへ消えないようにという重し代わりであり、世話焼きな所のあるリズベットが一番輝けそうなポジションであり、何より、カラードに見合う装備を用意できる職人であり続けて見せるという宣言でもある。

 

 何食わぬ顔で「元より、リズベット以外に頼むつもりはない」などと言い放ったカラードに返り討ちにされ、真っ赤な顔でカラードの鳩尾に拳を入れる羽目になったのだが、それはまた別の話である。 

 

 ともかく、目の前には完全成功のまま+9に到達した「魔剣」。リズベットにとっては、この関係がたまらなく心地よかった。

 

「……これを振るたびに、あたしのこと思い出して感謝しなさいよね」

「無論だ。リズが居なければこうはなっていない」

 

 時々意を決してこっぱずかしいことを口にしても、この大男は大真面目に受け取ってくれる。それが嬉しくて、リズベットは段々カラードに甘えたことを言うようになってきたのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 最近のアルゴには、1つ悩みがあった。

 

「カーくん、ちょっといいカ」

「すまん、少し用がある。後にしてくれ」

 

「カーくん、今……」

「カラードさん、この報告書なんですが」

 

「カー」

「あ、ここに居たんすねカラードさん」

 

 ――カラードが構って……もとい、休んでくれないのである。

 

 ただでさえ最前線に出てくることが少なくなったため、基本前線に帯同しているアルゴと会う機会は、最序盤の共闘中と比べると随分減少した。

 

 アルゴ自身、暇を見つけては何かと理由を付けて始まりの町に戻っているのだが、情報屋として多忙なアルゴに輪をかけて、カラードは常に何かしらの業務に追われて……否、自分から仕事を増やし続けているのだった。

 

 そもそも共闘していた時ですら、ふらりと居なくなってそのまま3日ほど連絡が付かなくなり、戻ったところを問い詰めたら迷宮区に籠ってレベリングしていた、などということが何度もあったくらいだ。

 

 彼にはワーカホリックの気があるようで、少なくとも「時間の無駄」を極端に嫌っているらしいことは、本人から聞いた訳ではないがアルゴは理解していた。

 

 それが近頃、悪化している。恐らく、自分の不在中に溜まった仕事を一気に片づけているのだろう。凱旋以来あまり構ってもらえない理由を探していたアルゴが丸一日がかりで見守ってみた結果、カラードのオーバーワークっぷりが浮き彫りになったのだ。

 

 早朝に対人戦の訓練、朝からは昼休みに鍛冶屋の女性プレイヤーに会いに行くのを挟んで夕方までMTDの仕事、それが終わってから今度は単独で迷宮区に繰り出している。日に3~4時間程度の睡眠時間以外、ほぼ働き詰めであった。

 

 恐らく、MTDの面々は深夜にまでカラードがレベリングや素材集めをしていることは知らないのだろう。カラード自身が睡眠不足をおくびにも出さず、頭のキレも鈍った様子がない以上、態度で察するのもほとんど不可能だ。

 

(休ませなきゃ……!!)

 

 その状況を目の当たりにしたアルゴは、昼休みに会っているらしい女のことよりカラードの心配が先に来た。

 

 「結果的にカラードの過労ぶりが分かったから」と自分のしたことを棚に上げつつ、アルゴは何とかカラードに休んでもらおうと腐心する。かといって、密かに「効率の鬼」と恐れられる彼を理屈で説得するのは難しい。

 

 以前は「ストイックなんだな」とスルーしていたが、あんな無茶をしていると知っていたら止めていた。あれでは体を壊してしまう。バーチャルだから無茶をしてもいいなどということはないはずだ。

 

(けド、一体何をしてやれば喜んでくれるんダ?)

 

 「働きづめのカラードを癒す方法」。生来の性格と「スラヴ系の混血児」という負い目から、生まれてこの方深い人間関係から一歩引いた生き方をしてきたアルゴにとって難題である。

 

 人懐っこいが深入りはしないスタンスのアルゴは、知り合いは多くてもそれ以上の仲になるものはほとんど皆無だったし、カラードに会うまでその方が気楽でいいと思っていた。特定の1人のためだけに何かするというのは、実のところ全く経験のないことだった。

 

(コスプレ……は引かれたら立ち直れないナ。料理スキルも裁縫スキルも取ってないし……いっそ裸とか……ってなに考えてんだオイラは!?)

 

 βからSAOにいる「オタク」らしく頭によぎる「メイド服」だの「ナース服」だのを自分のキャラに合っていなさすぎると脳内で却下し、ならばと出て来た倫理コード解除設定も即座に我に返って脳から追い出し……

 

「……どういう状況だ、これは」

「膝枕だヨ」

 

 結局、ある程度穏当な手段で情に訴える他ないと結論を出した。

 

「カー君、このところずっと忙しそうだったからナ! オネーサンが癒してやるヨ!」

「有難いが……恥ずかしいな、これは」

 

 ちなみに、場所はMTDの所有している小屋の一つ、無造作に置かれているソファーの上である。人気のない場所で作業しているのを見計らって声を掛け、座らせてからカラードの頭を引っ張り倒したのだった。

 

 流石のカラードも恥ずかしさが勝ったらしく、ばつが悪そうに身じろぎしようとしてアルゴに止められている。それはそうだろう。他人に見られればどんな邪推をされるか分かったものではないし、体格差・年齢差を鑑みれば、カラードはロリコンの誹りを免れない。

 

「いつもオレっちが助けられてばっかりだからナ、たまには甘えてくれてもいいんだゾ?」

「……ありがとう、アルゴ」

 

 いくつか積み上がっていた予定や外聞等、その他いくつかのツッコミどころを認識しながら放棄して、カラードはあくまで穏やかに礼を述べた。疲れが溜まっていたのは事実なので、本心から有難く思う気持ちも当然ある。そちらだけを表に出した形だった。

 

「!!……ま、まあ、これくらいならナ! いつでも言ってくれヨ! その、別にカー君になら、何で、も……」

 

 気をよくしすぎて誘っているようなセリフを口走ろうとしたアルゴだが、眼下のカラードが早速目を閉じているのを見て口を閉じる。聞かれなくてよかったような、少し残念なような気持ちを一旦置いておいて、代わりにカラードの頭を優しく撫でてみる。

 

「にへへ……」

 

 前に見た夢とは、真逆の光景。けれども、流れている空気の穏やかさは同じくらいだと、アルゴは思った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 アルゴに撫でられていたカラードは、脳内で今後の予定を組み替えながら狸寝入りを続けていた。一応、体勢的に甘えているのはカラードの筈だが、体格差のせいかふやけた顔のせいか、どうにもアルゴが甘えているようにしか見えない。

 

(……立ち直っているようなら問題はないか)

 

 予定外に強い依存傾向がみられたので、少し距離を開け、代わりにリズベットと接近して反応を調べてみたのだ。結果としてリズベットに嫉妬するでも一人で落ち込むでもなく、カラードを心配してきたことから問題はないと考えられた。

 

 独占欲と言うよりは、依存心や奉仕に重きが置かれ、後は拒絶への恐怖もあるか。重くはあるが、それはカラードにとって心地よい類のもので、害はない。この分なら、1日程度であればアルゴを丸め込んで監視の目から抜け出すことも可能だろう。

 

 実際、アリバイ作りのために大量の仕事を抱え込んだのも事実なので、正直に言うとかなり疲労が溜まっていた。的確に自分のして欲しいことを見抜いて実践してくれたアルゴに感謝し、何か礼をしなければなどと考えを巡らせつつ、カラードは襲ってくる眠気に意識を任せることにした。




 ちなみに、アルゴネキがハーフなのは公式設定。ミドルネームに「カリーナ」が入るらしいゾ。
 段々投稿が遅くなってきてるけど、次くらいからリアルの都合が付きそうだからまたペースが戻ってくると思うから許してください何でもしますから!!

P.S.
 メッセージで長文の質問状くれた兄貴がいるけど、意見感想質問なんかはまとめて感想欄にぶち込んどいてくれよな~頼むよ~

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