ソードアート・オンライン ラフコフ完全勝利チャートRTA 2年8ヶ月10日11時間45分14秒(WR)   作:TE勢残党

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 ついに調整平均が9の大台に乗ったので初投稿です。
 やったぜ。投稿者:変態糞リョナラー
 予定を変更して、先に戦争狂ちゃん回をお送りするゾ。


日常回③

 アレックス(Alex)は多くの場合男性名「アレクサンダー(Alexander)」等の略称であるが、女性名「アレクサンドラ(Alexandra)」にも使われる。

 

 その点、ゲーム開始当初は男性アバターだった銀髪の両手剣使い、アレックスは感謝していた。ネットで調べ、何の気なしに「強そうだから」という理由で選んだ名前だが、今にして思えば中々自分に合っている気がする。

 

 人気のない路地裏。ここで模擬戦が始まって、まだ数分。

 

 その数分で何度もカラードの大剣に叩き切られたアレックスは、そんな益体のないことを考えていた数分前の自分を恥じた。今は、ジリジリと距離を詰めてくる大男に全神経を向けなければ。

 

(こいつは、出し惜しみしてる場合じゃねぇな)

 

 現在の状況を再確認してゾクリと体を震わせると、すぐに≪ロバスト・ツーハンデッドソード+5≫を構え直す。

 

「……っし、オラァ!!」

 

 掛け声とともに繰り出された両手剣は()()()()()()()()()()光を帯び、急激に角度を変えてカラードの真横から切っ先が飛来する。

 

 動作の途中でソードスキルを割り込ませ、システムアシストを悪用して物理法則を無視した動きをして相手のガードを外させる超高等テクニック「遅延ソードスキル」。十数分の一秒単位のタイミング同期が要求されるため、事実上アレックスの専用技であった。

 

 βテスト時代、男アバターだった頃のアレックスが発見し、当時のデュエル環境で無敵を誇った彼女だけの必殺技――があっさりと弾かれ、カラードには一分の隙も見られない。

 

 武器防御スキルのジャストガードは、そのタイミングのシビアさ故に実戦には向かないとまで言われているのだが……少なくともアレックスは、この死んだ目をした偉丈夫がガードを失敗している所を見たことがなかった。

 

(――ぁは、やっぱ勝てねぇ)

 

 カラードの追い討ちによって急激に減少するHPバーを視界の端に捉えながら、アレックスは戦いの興奮とは別種の昂ぶりを抑えきれずにいた。

 

 アレックスが尻もちをついたタイミングでデュエル終了の表示が出て、ひとまず試合は決着を見る。今回も、カラードの勝ちだ。

 

 艶消しされ、ほんの少し紫がかったダークグレー……ガンメタルカラーの板金鎧に身を包んだカラードが、巨大な両手剣を軽々と持ち上げアレックスに向ける。全長2メートルを超えるそれは、(効率の)鬼の金棒だの鉄塊だのと恐れられるカラードの代名詞。

 

 芯となる刀身の両側面にいくつかの鋭く研磨された石片が挟み込まれたような形で、古代アステカで用いられたという「マクアウィトル」と呼ばれる剣に近いフォルムをしている。

 

 元ネタだろうそれと違って芯材が金属で、幅はほぼそのままで倍以上の長さになってもいるが、「5層ボスの残骸の最も硬い部分を削りだして刃としてはめ込んだ」というフレーバーテキストを考えると納得のいく構造だろう。

 

 銘は≪エッジ・オブ・コロッサス≫、この世界最初の「魔剣」。アレックスは、最近ついに完全成功品(+20)になったとも聞いている。見た目の凶悪さ通り、切り裂くというより叩き切るタイプの、尋常ならざる破壊力を持つ剣だ。

 

 その威力は、先ほどからアレックス自身が肌で感じているところだ。視線誘導と機動力を重視した結果胸の下半分と腰回り(と手足)以外はまともに守っていない彼女では、2、3回かすっただけでデュエルが終了してしまう。

 

 現に2戦前と5戦前のデュエルでは、ガードの上からHPを削り切られた。

 

「ぁは」

 

 その凶暴さを思い出したアレックスは、めくれ上がったスカートにも構わず、尻もちをついた姿勢のまま恍惚とした声を漏らす。無防備に揺れる巨大な乳房と合わせて、向かい合っているカラードからすると、かなり煽情的な光景だろう。

 

 あるいは一般人視点だと、大剣を突きつける鎧姿の偉丈夫相手に必死で媚び、命乞いをする美少女という構図にも見える。カラードが人気のない場所を指定したのは、そういう絵面に配慮したからでもあった。

 

「……もう終いか?」

 

 アーメットを装備しているため表情は分からないが、カラードの言はどこか呆れを含んでいるように感じられる。

 

「んなワケねぇだろ? もういっぺんだ」

 

 折角願いが叶えられたんだ。こんな楽しいこと、終わらせてしまうのは勿体なさすぎる。

 

 そんな思いを胸に、アレックスは再び剣を構えた。

 

 ――第4回MTD杯、名前を新たにしたPvP大会で圧倒的な成績を残してMTDに招聘されたアレックスは、その実力を買われてMTD二軍のリーダー格にまでアッサリと出世していた。

 

 だが、彼女はあくまで対人戦を極め、より強い相手と戦うためにPvP大会に出て、そしてMTDに入ったのだ。目的は、初めからカラードだった。

 

 故に、アレックスの対人戦技能に目を付けたカラードが模擬戦を持ち掛けたことは、彼女にとって願ったりかなったりであった。

 

「判断が遅い。即断できるよう常に動きを用意しておけ」

「フェイントで硬直している。かかっても食い破る位の気概を持って動き続けろ」

「足さばきが率直すぎる。読まれるぞ」

 

 数々のダメ出しとともにカラードの体術スキル≪弦月≫で蹴り飛ばれたアレックスは、近くの家の壁にぶつかってHPが半分を切り、またもデュエルに敗北する。カラードのHPは、全く減っていない。

 

(思った通りだぁ……強えー♡)

 

 ゾクリと体を震わせ、ゆっくりと立ち上がる。

 

 ここまで9戦、0勝9敗。対人戦ならMTD最強と言われるジマに完勝しているアレックスが、一太刀すら入れられない。完全に別次元の強さであった。

 

 戦えば戦うだけ、抗う余地のない技術と暴力に蹂躙される。HPの1ドットも減らせないまま敗北するたびに、カラードの強さを肌で感じられ、身をもって理解できる。

 

 その度にアレックスは、カラードに惹かれていく……否、()()()()()()()()()()()()()()()()自分を自覚していた。

 

 彼女の好みのタイプは、ズバリ「強い男」。元々筋骨隆々だったり腕っ節の強かったりする男が好みだったが、SAOという自分も戦える世界を得て以来、その傾向が悪化していた。

 

 その点、カラードは理想の「雄」だ。取り繕った言い方をするなら「好みのタイプ」、あるいは「一目惚れ」。PvPの第1回大会でカラードの戦いぶりを見て以来、彼女はカラードこそがSAOで最強のプレイヤーだと確信していた。

 

 あいつはまだ力を隠している。β時代、PvP最強プレイヤーの一角として鳴らした経験がそう告げていた。

 

 だから、β以来のPvPガチ勢仲間であるモルテの誘いを蹴ってまでMTDの門を叩いた。数少ない自分に食らいつける存在だった彼の強さも中々魅力的だが、カラードと比べるとどうしても霞む、というのが偽らざる感想だった。

 

「こっちに来て良かった……!」

 

 その選択に間違いはなかったと、今の彼女は確信していた。現に彼女は、カラードの全力を受け止め、知ることができた。それが、少なくともアレックスにとってはたまらなく嬉しかったのだ。

 

 些か倒錯的に思えるが、アレックスのそれはただの被虐趣味とも少々趣が異なる。

 

 彼女は自分より弱い相手を痛めつけることに悦を見出し、互角の相手と死闘を繰り広ることを楽しむのと同じくらい、自分より強い相手に屈服させられる時を待ってもいた。デスゲームという極限状態で、ただでさえ極端だった思想が手の付けようがないほど歪んだ結果であった。

 

 戦いの興奮や死の恐怖が性欲に結び付くケースはよくあると言う。彼女も恐らく、そういう類なのだろう。ただ少なくとも一つ、言えることがある。

 

 彼女はどんな局面であろうと、心の底から戦いを楽しんでいるのだ。

 

 ある意味、闘争本能の権化。価値基準が野性的であり、「本能に忠実」と公言して憚らない彼女らしさの最たる部分であり、才能の源でもあった。

 

「どうした。まだやれるだろう」

「ぁは、とーぜんだ……!!」

 

 最高に興奮している時の口癖が、こんなにポンポン出る日はそうそうない。

 

 下半分しか覆われていない巨大な胸を揺らして、再びカラードに突撃する。

 

 軽装防具の中でもわざわざ露出の多い装備を選んでいるのは本人の趣味でもあるが、それが目に見えて相手の隙、ひいては勝率に直結するからでもある。女性陣には大不評だが、対ジマ戦勝率100%という数字が戦術の正しさを証明していた。

 

 アレックス自身が人目を気にしない質(持ち前の巨乳のせいで慣れてしまったとも言う)なのも、見られたところで動きが鈍らないという意味でいい方に働いている。

 

 気が散るという苦情が届いて以来、対人戦以外の時は多少露出を減らしているし、カラードにはどちらにしろ通用せず、この場では「気を引くため」以外の意味はないのだが。

 

「はぁあああ!!」

 

 ミニスカートが翻るのも気にせず大ジャンプし、上からの攻撃を試みる。これに関してはわざと見せている。バカバカしいようだが、男余りのSAOで対人戦をするに当たり、これほど有効なものはない。

 

「不用意に跳ぶな」

 

 しかし渾身の空中遅延ソードスキルは、カラードの大剣にいともたやすく合わせられ、そのまま押し切られてしまった。

 

「空中ソードスキルは所詮奇策だ。自分から使うもの……で、は……」

「うわ、とととっ……!?」

 

 そのままもつれ込んだカラードは、後ろに倒れたアレックスに覆いかぶさるような形になる。

 

「っ!? あ、あぁ。好きにしろよ、アンタのもんだ」

「何を言ってる」

「え――」

 

 そのままマウントポジションを取って大剣を突き刺したカラードにより、デュエル終了の電子音が鳴り響く。アレックスには本日10個目の黒星が付いた。

 

「あー、まだデュエル終わってなかったのか……」

「負けそうになった時に諦めが早すぎる。あそこからでも、俺の腹を蹴っていれば逆転の目はあった」

 

 その駄目だしを聞いたアレックスは愕然とした。

 

 その程度、気づけない自分ではないはず。全力で戦った末の結果でないといけない、という自分の信念が、カラードのものになりたい気持ちに負けつつあるのか。

 

「……そう、だな。わかった! もっと足掻かねーとだよな! カラード、もう一回いいか?」

「無論だ」

 

 それでは、自分を直属として引き抜くと言ったカラードの期待に応えられない。自分には戦いの腕しかないのだ。そこに真摯さを欠くことは、自分のプライドが許さない。

 

 そう思い直したアレックスは、浮ついた気持ちと少しの不満を一度しまって、彼女にとって至福の模擬戦に集中することにしたのだった。

 

「それとな。あまり言いたくないが、下着による視線誘導はずっと見えていると効果が薄れる」

「そうなのか!?」

 

 なお、とにかく見せればよいという考えは数日のうちに修正されたようである。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「んはぁ……しあわせぇ……♡」

 

 数時間に及ぶ特訓の後、アレックスはしばらくその場に残って余韻を堪能していた。

 

「……んで? いつ出てくんだよ、ネズミ」

 

 やがてアレックスは視線を物陰の一か所にやり、訳知り顔でそんなことを言う。先ほどまでと比べると、随分ドスの効いた声だ。

 

 およそ1秒後、そこには動揺した様子のアルゴが可視化された。

 

「なんで、わかっタ?」

「アンタなら来るっていうのと、隠れるなら絶対そこにするだろ。あとは勘」

 

 アルゴの質問に、こともなげに答えてのけるアレックス。彼女の直感は、時に野性動物の領域にまで到達する。

 

「アンタが何してたか知らねーけど。アタシはカラードのこと好きだぞ」

 

 アレックスゆえの、ストレートな宣戦布告。

 

「アタシなら、()()()()()()()よりよっぽど満足させてやれるね」

 

 コレもあるし、とこれ見よがしに自分のたわわな胸を強調して見せる。その美貌と胸の大きさでもって「No.1嬢」であり続けたという母の血筋と教えに、アレックスは初めて感謝できた気がした。

 

 一方のアルゴは何を思っているのか、硬直したままだ。

 

「アタシはさ、遠慮とかそういうのよくわかんねーから……」

 

 言いながらアルゴの方へ近づいていき、

 

「チンタラしてっとアタシが喰うぞ」

 

 耳元でそう囁き、アレックスはそのままどこかへと立ち去って行った。

 

 後には立ち尽くすアルゴだけが残る。1月下旬のことであった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

(……どーすっかな)

 

 先ほどのも本音だが、同時にアレックスは、カラードが複数の女を囲っても気にするつもりはなかった。土台あれほどの傑物が、自分含め一人の女の器に収まりきる訳がない。アレックスはそう考えていたからだ。

 

(でもあいつ、諦めないだろーな……キャラ違うし、二人で分けるかあ)

 

 アレックスの本命の狙いは、あの独占欲の強そうなアルゴを揺さぶって、二人かあるいはもっと多くの女で共有するのを認めさせること。

 

 普段あまり頭の回転が早い方ではないアレックスだが、本能に関わることへの考えはむしろ鋭い方である。どこまでも野性的な女であった。

 




 Sってことは、Mなんじゃないかな(至言)。

 以上、戦争狂ちゃん改め、処女ビッチ痴女ドMおバカ野生児狂犬バーサーカーちゃん(属性過積載)です。コンゴトモヨロシク。

 エッジ・オブ・コロッサスは「フラグメントアックス」でググるとイメージに近いのが出てくるゾ。

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