ソードアート・オンライン ラフコフ完全勝利チャートRTA 2年8ヶ月10日11時間45分14秒(WR) 作:TE勢残党
戦争狂ちゃん動かすたびにR15で投稿できないシーンが増えてくので初投稿です。
2023年、2月14日。
現実世界ではバレンタインデーのこの日だが、悲しいかなおよそ95%のSAOプレイヤーにとっては、なんの変哲もない1日である。
男女比が極端なほど男に偏っている状況下で、関連するイベントやクエストが発見された訳でもない。そして元よりゲーマーというのは女性と縁遠い人種である。ことMTD以外の攻略組では、存在そのものがほぼ忘れ去られる事態となっていた。
唯一の例外たるMTDですら、女性プレイヤーの大部分が引きこもっている「始まりの街」を押さえてなお、その男女比は9:1近い。数少ない「1」の面々も日々の暮らしに精一杯で、こういった行事を楽しむ余裕のある者は稀だ。
「よし。今日はここまで」
「ふぅ、あざっした!」
故に、MTD内部でも浮わついた空気が流れるでもない。再び攻略組パーティーを束ねるようになったカラードに、彼直々の手解きを受けるジマ。いつも通りの光景であった。
カラードが希望者向けに実施している、対人戦闘訓練である。かなり実践的な内容を学べると受講者からの評判は高かったが……スパルタ式のレベリングに朝練が追加される関係上長続きするものは少なく、今ではジマともう1人しか残っていない。
そのもう一人は、今日はやることがあるからと訓練を欠席していた。故に今日は久々にマンツーマンでの朝練である。
自他共に認めるバトルジャンキーであるアレックスは勿論、ジマもまたレベリング自体を楽しめる手合いだったから最前線まで到達しているのだ。ある意味、天性の才を持っていると言えた。
「お疲れさまです! よかったらこれ、どうぞ」
頃合いを見計らってか、聞きなれた金属音を響かせリーテンが現れる。手には、近くの飲食店で販売されている果実水。鎧さえ考慮しなければ、すっかり運動部のマネージャーである。
リーテンは世話好きなところがあるらしく、自然とこのポジションが定着していた。後輩に負担をかけるのを嫌ったジマが何度か「無理にやらなくてもいいっすよ」と気遣ったものの、「好きでやってるからいいんです」と言い張るリーテンに根負けした形だ。
「助かる」
「お、あざっす」
二人して短く礼を言い、果実水を一気に半分ほど飲む。SAOでは運動して体が疲れたり汗をかいたりすることはないが、雰囲気や習慣は無意識な所にこそ影響するものだ。
「あと、その……これも」
リーテンが歯切れ悪そうに出してきたのは、簡易なラッピングが施された手のひらサイズの袋2つ。どうやら人数分のようだ。
「ありがたく頂くけど……何すか? これ」
「チョコレートですよ! 今日が何の日か覚えてないんですか!?」
「やっぱり」と言いたげに頬を膨らませるリーテン。男二人には何のことかわからない様子だが、一拍置いてからカラードが思い付いたように口を開く。
「……ああ、言われてみれば」
「え? 何かありましたっけ今日……あー!」
ジマどころかカラードも失念していたようだが、今日は2月14日である。つまりリーテンが持ってきたのは、バレンタインの義理チョコだ。
「そんなことだろうと思って、私が朝イチで持ってきたんですからね! 今のうちにお礼の品でも用意しといてください!」
「すまんリーテン。恩に着る」
現在時刻は、午前8時を回ったところ。MTD全体としての活動時間は概ね9時から18時なので、この隙に準備をしておけということだろう。
「しかし、カラードさんはそりゃ、本命のを貰うこともあるだろうからお返しいるでしょうけど、俺はそういうの要らなくないすか?」
「……先輩がそう言うなら、止めはしませんけどっ」
「どうなっても知りませんよ」と、何やら含みのある言い方と共にジト目を向けるリーテンをよそに、ジマはそそくさと食堂に戻っていった。
◇◇◇
昼休み。カラードは日課となった装備のメンテナンスを行うため、リズベットの元を訪れていた。
別に、メンテナンスだけなら毎日行く必要は無い。「こういうのは一回忘れるとズルズル来なくなる」だの「対して時間かからないんだから習慣にしておいて損はない」だの、手を変え品を変え来させようとしてくるリズベットに応えている形である。
「お、来たわね。そこかけといて」
リズベットはあくまで普段通りの態度で、カラードからテキパキと装備を受け取り、整備を進めていく。
兜を外すとカラードの短めの黒髪と光のない灰色の瞳が露わになり、次いで鎧が外され灰色の半袖アンダーウェア姿になる。普段は全身ガンメタルカラーの鎧姿だが、この時だけはそれなりに鍛えられている筋肉が確認できる。
リズベットは何故かそこに特別な何かを見出しているらしく、それとなく、しかし食い入るようにカラードの肉体を見ている。だが流石職人ということなのか、コンソールを動かす手は止めず、あっという間に鎧一式と両手剣がリズベットの元へ届けられる。
カラードも気づいてはいたが、特に実害はないのでされるがままだ。傍から見れば、世話焼きな女房にスーツをはぎ取られる夫に見えないこともない構図だった。
「茶でも出すか?」
「ん、だいじょぶ。それよりこの後お昼食べ行かない?」
「ああ、分かった」
様子を知る面々からは「熟年夫婦」と揶揄われ、さらに詳しい事情を知る者には「あんた二号さん囲う気じゃないでしょうね」だの「二股はダメっすよ」だの「やっぱ三人目いたかー」だのと酷い言われようである。
言われたのはリズベットではなくカラードであり、少し早いが何か対応する必要があるか、と思い始めたところだ。
とは言えそんなことは露知らず、リズベットはいつも通りテキパキと整備を進める。前回から丸一日しか経っていないにしては、随分と耐久値が減少していた。
「……あんた、またなんか無茶してない?」
「近頃、模擬戦の機会が多い。そのせいだろう」
怪訝そうに問いかけるリズベットに、あくまで平静に答えるカラード。実際、鎧のキズの正体は、急速に成長して一戦につき一撃くらいなら入れられるようになったアレックスによるものだ。
「……まあ、そういう事にしとくわ。ホント無理しないでよ?」
こう言う時のカラードは幾ら問い詰めようと情報を出さないと、リズベットはよく知っている。ジト目はやめなかったが、ひとまずこの件は横に置くことにした。
「はい、完成!」
直ぐに整備が完了し、リズベットからカラードへ装備一式が返却される。
「んじゃ、これとこれと……後これね」
カラードの前に現れたトレードウインドウには、見慣れた両手剣と全身鎧の他に、≪Handmade Chocolates(HQ)≫なるアイテムが入っている。HQとは、High Qualityということだろう。
こういうものまで品質にこだわってしまうのは職人としての性が、それとも渡す相手によるものか。
「助かる……これは?」
反射的に礼を言ってから、カラードはそれについて尋ねた。
「ああそれ……まあ、オマケっていうか……」
普段の歯切れの良さとは一転し、もじもじと言い淀むリズベット。頬には少し赤みがさしている。
「……あーやっぱダメだわ! あたしこういうの苦手なのよ!! やったことないし!」
半秒ほどそうしてから、開き直ったのか口調を荒げるリズベット。
「今日バレンタインでしょ! あげるわよ! ソレ!!」
「……そういえば、しっかりしたものを貰ったのはリズが最初だ。ありがとう、リズ」
素直に受け取ったカラードは、これまた素直に礼を言う。リーテンのアレは明確に見て分かるよう工夫された義理チョコなのでこういう数字には入れなくていいだろう、という謎の判断基準の賜物であった。
「~~っ、あんたはどうしてこういう時だけ……」
前半部分の付加情報がよほど気にいったらしいリズベットが顔を真っ赤にしている間に、カラードはさりげなくトレード欄に焼き菓子を忍ばせる。事前に用意しておいた返礼品だ。甘党のリズベットに合わせ、妙なフレーバーのついていない、甘味の強いものを選んでいる。
「そういう事なら、これは昼飯の後に頂こう」
「あ、う、うん! 待ってて、すぐ準備するから!」
それとは別口でホワイトデーには3倍返しすべく、計画上の予算を再編成する羽目になった。お陰でそれなりの予算は取ってあるが、どんなものを返したものか。
どこまでも「普通の子」なリズベットの好みを逆に把握しきれなかったカラードはこの後、実は一番返礼品探しに苦労することになる。
しかしそんなことはおくびにも出さず、カラードはチョコのプロパティ表示を眺めてリズベットの準備を待つのだった。
因みに、チョコレートは贈答用のものによくある仕切りのついた箱に十数粒入っているタイプで、一個一個フレーバーが異なっている凝りようだったそうだ。
10数層の段階にしては極めて高いリズベットの料理スキルを存分にアピールする狙いがあったようで、実際この数十分後にはカラードから剛速球の褒め言葉を幾つもぶつけられて顔を真っ赤にしたリズベットが昼時のレストランで目撃されたそうだ。
かなり後になって、それに感化されたアスナが後追いで料理スキルを上げ始めるのだが、それはまた別の話である。
◇◇◇
「カラードさん、お疲れ様です」
「ユリエールか」
昼の三時過ぎ、MTD本部――と言っても、購入したギルドホームではなく丸ごと借り上げている賃貸物件だが――のオフィスで報告書の確認をしているカラードに、隣の部屋から入ってきたユリエールが声を掛ける。いつもの制服姿、いつもの仕事風景だ。
MTDには制服が設定されているが、着用義務があるのは準幹部クラスより上位の構成員のみ。必然、デザインにはある程度の威厳が求められ、服飾センスに自信のある者達による何度かの会議の結果、軍の将校を想起させるようなデザインで纏まった。
しかし、元より真面目・誠実を絵に描いたような性格のユリエールがそれを着てオフィスで仕事をしていると、軍人というよりOL……もっと言えば役人を思わせる雰囲気となる。
デスクワークの手際の良さから見て、ひょっとするとリアルでもそういう仕事だったのかも、とはシンカーの弁だが、他ならぬカラードも「ユリエール公務員説」の支持者であった。
「ケーキ用意してみたんです。その、良かったらどうですか?」
頼りになるが融通が利かないことで知られるユリエールが、珍しく勤務中に菓子を持ち込んでいた。
手に持っているのは、皿に乗ったチョコレートケーキ。カラードは知らないが、始まりの街にある某ケーキ屋がバレンタイン限定で売り出している少数生産品であり、実は1切れ500コル以上する高級品である。
「ああ、なるほど」
「ええ、そういう事です。さ、どうぞ」
仕事人間である彼女なりの本命の表し方、ということだ。控えめな性分が祟って「重いとか思われたらどうしよう」という迷いが邪魔をし、口に出すことはできなかったが。
「では有難く……美味い」
「ふふ、良かった」
言葉少なにケーキの味を褒めながら食べ進めるカラードと、ニコニコと楽しそうにそれを眺めているユリエール。どうやら彼女には食べさせたがりなところがあるようだった。
とは言え、無口で感情の希薄なカラードと、委員長気質が災いしいい歳しておぼこのユリエールである。和やかな空気が流れこそすれ、何か関係が進むことはないのだった。
◇◇◇
MTDの仕事を終え、アレックスが強硬に渡そうとしてくる【とてもこの場には記せないモノ】をなんとか突っ返したカラードは、普段とくらべものにならない疲労(主に気疲れ)を感じながらMTDの個室に戻ろうとする。
ふと、建物の入口に見知った人影がいるのを視界が捉えた。
「……おかえリ」
アルゴだ。どういう訳か悲痛というか、痛々しいほどに寂しげな顔をしている。
「どうした?」
「えっと、その……ナ」
少し口ごもった後、何やら悲壮な覚悟を決めた表情で再び口を開く。
「…………受け取った、のカ?」
カラードは首をかしげた。受け取った、受け取ったとは……。
一瞬考えてから、一つの答えに思い至る。アレックスの「アレ」か。
「いや、断った。何だあれは、美人局か?」
カラードがそう答えた瞬間……否、正確には「や」の当たりから、アルゴの表情が目に見えて明るくなっていく。「ぱぁっ」という効果音がしっくりくる程度に。
アレックスをただの戦争狂と見ているカラードは、急激に自分にすり寄ってくる彼女を不審に思っていた。自分にとって都合が良すぎる態度から、どこかからハニートラップとして送り込まれている可能性も想定し、現在裏取りの真っ最中だったのだ。
洞察力には優れるカラードだが、これが女絡みになると今一つ冴えてこないのは昔からの悪癖である。
「当然の対応だろう」
「そ、そっカ。そっかぁ……にへへ……」
表情を蕩けさせ、心底安心した様子のアルゴ。
そう、カラードからすると、ハニートラップが疑われる相手からの施しは全て拒否して当然である。あんなことを押し付けようとしてくるなら特に。それを恐らく都合よく解釈したアルゴは、少し危険なほど恍惚とした表情でぼーっとしている。
「ぁ、そうダ。チョコ。こレ」
安心感から戻って来られていないのか語彙力を失っているアルゴは、もそもそと自分の着ているローブの懐を漁り、小さな箱を取り出す。
許可を取って開けてみると、小さなハート型のチョコレートが入っている。何の変哲もないが、男の目線から見た「こういうのでいいんだよ」という所を丁度良く突いたものだ。
先ほどのアレックスで散々気疲れさせられたカラードからしても、非常にありがたい控え目さ加減であった。
「……ありがとう」
短く礼を言い、丁度いい高さにあったアルゴの頭を撫でる。
およそ40センチの身長差故、アルゴが抱き着いてきた後も丁度良く撫で続けることができた。
……カラードは正直、アレックスのアレの後で少なからず辛抱たまらなくなっているのを抑えながらだったそうだが、アルゴ本人が気づいていないようなので良しとする。
なお、これは全くの余談だが、ジマのもとには本命義理合わせて数十個ものチョコが届けられ、甘い物が苦手な彼はこっそり包装を剥がして身内に食わせて回ったそうである。贈った者達の弁によると、「同格のカラードさんより手が届きそうだから」だそうだ。
本人達に自覚はないが、ゲームが上手いだけの彼らは、しかしSAOではデスゲームからの解放を目指す英雄候補生である。何かと評判の悪いALSやDKBはともかく、MTDの面々は下位プレイヤーを間接的に養っているのもあり、つり橋効果もあってか女性人気は案外高いのだ。
ネタがあった上事前に1500字書き溜めてたのに超苦戦した当たり、作者は日常回書くの向いてないことを魂で理解したゾ(1敗)。
なのでもう作るの止め……ませんw(EMNM)
戦争狂ちゃんのアレがカットされてるのは、何をどうやっても年齢制限の掛からない内容にできなかったからだゾ(3敗)。その内R-18版出すかも分からんね……。
23:03追記:一部表現を加筆修正。
22:41追記:アルゴのチョコの「クソほど気合が入ってる」の意味は後で分かると思うゾ。