ソードアート・オンライン ラフコフ完全勝利チャートRTA 2年8ヶ月10日11時間45分14秒(WR) 作:TE勢残党
分かっておったろうにのうワグナス、女視点でラブコメをやったらレディコミみたいになると。読んだことないけど。
……露骨な描写はしてないしBANされないよね? しばらく常駐しとくからヤバそうだったら教えて?(心配性)
待ち合わせ場所には、アルゴ本人が自分の定宿の部屋を指定した。
元より本当に重要度の高い機密情報を扱う時は、どこかの宿屋の部屋を使うことも多い。毎度毎度それで何もない当たり実は女として見られていないのではという疑惑がアルゴの中に生まれたこともあるが、ともかく習慣であった。
そして今回そうしたのは、アルゴが相手と、カラードと会うことをそれだけ重要視している証左だった。
「すまんな。いきなりで」
部屋に入るや否や、カラードはそんなことを言う。いつもの唐突さが、しかし今のアルゴには安心を感じさせた。
アルゴはパタパタと駆け寄り、カラードを喜びに満ちた目で見上げる。
数十分は、ただの世間話が続いた。カラードにも何か用があるらしかったが、珍しくタイミングを計りかねている様子だ。普段なら多少不躾になってでも用事を優先するカラードにしては珍しい。よほど大事な用でもあるのか。
なんにせよ、カラードが久しぶりに会いに来たというだけで余りにも舞い上がっている自分を自覚する。我ながら現金だと思うが、それすらどうでもよくなるくらいに、ただ一緒にいられることが嬉しかった。
やがて、アルゴの入れたコーヒー――実は甘党のカラードに合わせ、砂糖多め――が無くなったころ、アルゴが意を決して切り出した。
「……それで、今日はどうして来てくれたんダ?」
声はほんの少しの不安を孕んでいたが、本人としては隠し切ったつもりである。
するとカラードは何やらコンソールを弄り、手のひらサイズの紺色の箱を実体化させる。
「これを、渡そうと思ってな」
アルゴに手渡されたそれは、アクセサリーなどを入れるのによくある、毛足の短い絨毯を固めたようなフォルム。
開けてみると、中には指輪が安置されている。太めのリングに、赤い色の石があしらわれたものだ。
「か、カー、くん、これ、こレ」
驚きのあまりどもりながらも、カラードの言葉を聞き逃さぬよう聞き耳スキルを総動員する。
「偶然手に入ってな。……以前、膝枕をしてくれたことがあっただろう。それの礼と、後はホワイトデーの品でもある」
アルゴの用意した小さなハート型のチョコレート。帰宅してから食したカラードは、食べた瞬間に敏捷値が3ポイント上がり、いくら時間が経っても戻る気配がないことを発見する。
後にクエスト専門ギルド「キューザック」全面協力の元で調べたところによると、そのチョコは発見されていなかったはずの「1年目のバレンタインクエスト」の達成報酬によるものであり、「送られた者の願いを叶える」という触れ込みだったと判明した。
カラードは、そのフレーバーテキストを唯のフカシとは断じなかった。彼はかねてから、このゲームに何か「気持ち/心による影響」が一部システムを超越して存在するらしいことを察していたからだ。
そして、このチョコの効果によってそれは確信に変わった。
敏捷値が上がったのは、カラードの計画遂行を急ぐ気持ちによるものだと考えられた。恐らく、摂食した者の「気持ち」を読み取り、その方向性に合った何らかのプラス補正を齎す、というのが「願いを叶える」効果の正体だろう。
つまり限定的にではあるが、本当に食べた者の願いを叶えるチョコレートだったのだ。カラードはそう結論付け今に至る。カラードは、アルゴによって自分の「気持ち仮説」がほぼ証明されたことをいたく感謝していた。
そしてアルゴがどうやってクエストを発見したかは分からないが、少なくとも相当な手間と労力をかけただろうことは明らかだった。
故にカラードは、アレックスの方が指輪を有効活用できると分かった上でアルゴに渡した。アルゴの意図は、ある意味伝わっていたのだ。
2つ纏めてで悪いが、とばつが悪そうにしているカラードの言葉は、結局アルゴの耳には殆ど入っていなかった。
アルゴが震える手で指輪を持ち上げてみると、初めて入手したアイテムとしてプロパティ画面が表示される。
敏捷値+20。デメリット無し。
それがどれほどの価値と意味を持っているか、分からないアルゴではなかった。
市場に出回ったとは聞いていない。恐らく迷宮区からの一点ものか、つい先ほどのボス戦のLAボーナスという線も考えられる。どちらにしろ、武器でいう所の「魔剣」に匹敵する代物だ。
他の攻略組たちの装備ですら、これほどの性能を持つものはなかったはず。
これをアレックスが装備したら。敏捷重視のアタッカーである彼女は、ひょっとしてカラードをも超える使い手に成長するかもしれない。聡いアルゴには、それが想像できてしまった。これは、性能で言うなら、アレックスが持つべきものだ。
そうでなくとも、攻略組でこそ使われるべきだろう。だから、アルゴは聞いた。
「……オレっちが、もらっていいのカ?」
この状態でも判断を誤らないのが、アルゴの良い所である。カラードはそう評価しているし、今回のそれもカラードにとって非常に好ましい態度であった。
故にカラードはニコリと笑って頷くと、照れくさそうに暫く硬直してから、やがて観念したように口を開いた。
「俺が、アルゴに渡そうと思ったから持ってきた。……では、駄目か」
恐らく、偶然というのは建前だろう。以前他の女に高性能な片手剣を渡した時、似たような建前を使っていたらしいことをアルゴは知っていた。
ではこれは、ギルドや、ゲームの攻略よりも、自分が優先されたということか。
あのカラードが、アルゴに分かる程度の「効率」を曲げてまで。
「ダメ、じゃ、な……えぐ、ひぐっ……」
アルゴは精一杯気持ちを伝えようとしたが、結局何一つ言葉にはならなかった。
◇◇◇
「落ち着いたか」
「ぁ、うン……にへへ、ありがとナ」
テーブルごしだったのでどこからか用意した布で涙を拭くにとどめていたカラードが、アルゴに引っ張られて胸に顔を埋められ、さらに数分彼女は、やっと嬉しさを表に出すことができた。
カラードにとっては見慣れた、甘え切った顔。それをひとしきり見届けた後、カラードはおもむろに席を立つ。
「……あまり長居しても悪いな。そろそろ、お暇する」
「ぁ、もう、帰っちゃうのカ?」
アルゴはいつも通り、寂しそうな顔をする。しかしまだ、嬉しさの方が勝っていた。彼女からすれば、何ならこのまま同居したいくらいなのだが、多忙なカラードに迷惑を掛ける訳にも行かない。
「ああ、用もあるからな」
「…………」
何も言わず、俯くアルゴ。時間から見て、アレックスの所に行くのだろう。そう思うと、アルゴは胸が張り裂けそうだった。
しかしアルゴは、一旦は見送ろうとした。カラードに貰った指輪だけで満足だと、無理矢理納得しようとする。
――せめて目に焼き付けておこうと、カラードの後ろ姿を眺めた時。
カラードの手に、
「――っ!!」
アルゴが次に気が付いた時には、カラードの袖を引っ張って引き留めていた。
「何か、用か」
どうやらこの時点で、カラードはアルゴが何をしようとしているか察したらしかった。普段のポーカーフェイスと違い、「嫌な予感がする」という表情が隠し切れていない。
何と言えばいいのか考えていなかったし、分からなかった。しかし、俯いたままのアルゴが口を開くまでたっぷり数十秒間、カラードは何をするでもなくアルゴを見つめていた。
「…………今日は、一緒にいてくレ」
結局アルゴはやりたいことの半分も言い出せなかったが、
「そうか、わかっ――」
答える時、カラードが自分の目線に合わせてかがんでくれることは知っていた。
なので、そのままカラードの首に腕を回して、衝動に任せて唇を合わせた。
カラードは、抵抗しなかった。一度アルゴが首に手を伸ばした瞬間にピクリと動いたが、アルゴの表情を確認するや行動を辞めた。これを拒んだら、そのまま別れることになると確信できたためだ。
それはカラードにとって、
「……何を」
「カー君が、悪いんダ」
蕩けているようで危険な光を宿した目をカラードに向ける。思ったように声が出ず、ようやく自分が泣いていることを理解した。
寂寥感、喪失感、焦燥感、あとは恐怖と、依存心と、性欲。あらゆる感情がぐちゃぐちゃに混ざって、アルゴの理性を完全に飛ばしていた。
「カー君が、勝手にフラフラどっかに行って……なのに、こんなのくれるかラ!!」
泣きながら語気を強める。一番欲しかったものを貰ったせいで、自分がモノでは満足できないことを自覚してしまった。
欲しいのは、証だ。カラードが他所に行っても、自分のところに戻ってきてくれるという証拠、繋がり。あるいは、いない時に縋れる思い出。
「オイラを、こんなにした……責任、とれヨ……!」
倫理コード解除、および装備全解除。暴走したまま、何度かつっかえながら設定を済ませていく。あえて言語化するなら、
――後に、カラードに語った本人の弁を載せておく。
「壊されるかと思ったけド……にへへ、『それでもいいかナ』って思えるくらい幸せだったヨ」
お陰様で、先駆者兄貴のお気に入り数を追い越しました。始める時の密かな野望の一つが叶い、感無量です。お気に入り・感想を下さっている方々に、この場を借りてお礼申し上げます。
さて、アルゴの胸についてですが、「小動物系つるぺた女子」VS「本人は色気がないと思っているが剝いてみたら存外ある」という相反するロマンのうち、後者が採られたというだけのことです。貧乳が嫌いだから盛った訳ではない、それだけは真実を伝えたかった。
2/17 18:45追記:R18版、工事完了です……。あらすじの所にリンク張っといたから成年者兄貴姉貴は楽しんでってくれよな~頼むよ~。