ソードアート・オンライン ラフコフ完全勝利チャートRTA 2年8ヶ月10日11時間45分14秒(WR) 作:TE勢残党
環の某裏切ってる中隊長に対する反応でご飯三杯行ける名作ですよクォレハ(ダイマ)。
アインクラッド第25層の攻略は、困難を極めていた。
主街区のすぐそばから凶悪なモンスターたちが道を阻み、迷路のごときフィールドが攻略組を迷わせ、随所に仕掛けられた毒沼や落とし穴が彼らの体力と気力を奪う。
迷宮区にたどり着くまでですら、ALSから2人、DKBから3人の犠牲者が出た。そのほとんどは緊張感に耐えきれなくなった末、隊列を乱して駆け出した結果はぐれ、そのまま戻ってこなかったのだと言う。
既に攻略開始から2週間が経過している。普段のペースなら、とっくに25層どころか26層も攻略できている位の時間、彼らは足止めされていた。
25層主街区を出てすぐに登場する≪マシナギア・ドリフター≫というモンスター。全高2mほどの、どことなくスチームパンクを感じる機械仕掛けの人形のような姿。
攻略最初期にこの敵との戦闘でDKBが死者を出して以来、MTD……と言うより、カラードの慎重ぶりは凄まじいものがある。
一般Mob相手で攻略組に死者が発生すること自体は、悲劇ではあるが稀に起こることだ。だがその理由は慢心であったり、いくつも不運が重なった末の事故であったりが普通。だが今回のそれは毛色が違う。
単純に高い攻撃力と防御力に攻めあぐねているうちに周囲のドリフター達がリンクした挙句、妙に足が速く走って逃げることが出来ず、雑魚相手だからと転移結晶をケチったのが致命傷になった。
マシナギア系モンスターのAIは特殊であり、攻撃対象が一撃死圏内に入らない限りソードスキルを使わない仕様だった。てっきりソードスキルは使ってこないものと思っていた被害者は、黄色ゲージから一気にHPを削り切られたのである。
事態を重く見たカラードは即座にMTD内で緊急会議を招集。生産部(リズベット)と調達部(ユリエール)に話を通して貯め込んでいた資材類を全て開放。
貴重な結晶アイテムすら惜しまず流し込み、2パーティー12人総がかりという経験値的には非効率極まりない攻略体制を維持しながらロードローラーの如く攻略を進めている。
結論から言えば、その判断は正しかった。進めば進むほど凶悪なモンスターと罠は増えて行き、それに比例して先行したALS、DKB両ギルドの被害も増加の一途を辿っている。
故に、キバオウの仕切りにて招集された三大ギルド緊急会談が緊迫した空気に包まれるのは、ある種当然の成り行きであった。
議題は、困難を極める25層の攻略をどうするか。
そのはずだが、3ギルド合同での戦線構築を求めるALS、これ以上の犠牲が出る前に一気に攻略してしまおうというDKB、それらを無視して採算度外視の超堅実路線を敷き続けているMTD。三大ギルドはどこも譲歩の姿勢を見せず、対立は続いていた。
当然である。ALSの言う通り連合を組めば、MTDは持ち前の大量の資材を融通の名目で強請られるのが目に見えている。
DKBの言う通り強行攻略などしようものなら、あと何人死ぬか分かったものではない。
MTDの超堅実路線は強固な基盤があるから出来ることであって、他ギルドが真似すればたちまちガス欠を起こす。
「このままウジウジしていても犠牲者が増えるだけだ。多少無理矢理にでも一気に攻略してしまった方が、結果的な死者の数は減る」
「個人戦やったら分があるとか思とるんやろけど、そうやって突っ込んだヤツから死んでったんちゃうんか!? 全員協力して進んだ方がええに決まっとるやろが!」
「土台、我々は現状に問題を抱えていない。MTDのリソースは、これまで通りMTDメンバーの命を守ることに使用する。そこを譲るつもりはない。よって両氏の意見には賛同しかねる」
上から順に、すっかり実力主義に染まってしまったディアベル、MTDのリソース開放を目論むキバオウ、理路整然と協力拒否を断言するカラード。議論は平行線であった。
MTD代表のシンカーではなくカラードが代理として出席しているのは、単にシンカーがお飾りと化しているからだ。優しすぎる彼では清濁併せ吞む実務に向かず、早々に実権を部下に明け渡してしまっていた。
よってMTDは事実上、各部門のトップによる寡頭制へと移行していたのである。
そして現在のカラードは、攻略やレベリング、治安維持といった戦闘部門全体の仕事を統括する、言ってみれば「将軍」の職に就いている。
階級上では「サブマスター」、職務上必要なら他の幹部に指示出しすることも可能な、実権上の頂点であった。故に、古い特撮番組の悪の組織にあやかって「大幹部」とも呼ばれる。
「せやから、そん態度がアカン言うとんねん!!」
業を煮やしたキバオウが、ついに声を荒げる。矛先はカラードだ。
キバオウの視点からすると、カラードたちは攻略組の本分「リスクを取る代わりにリソースを得る」に反しているのだ。現に
「後ろからチンタラついて来腐りおって! 攻略組の自覚あるんか!? あぁ!?」
「き、キバオウさん、そのくらいに……!」
故に、キバオウの怒りには一定の正当性があった。
副官の男性が静止するのに構わず、キバオウはカラードへの糾弾をやめない。
「25層の難易度を考慮すれば、通常通りの攻略では人が死にかねないと読んでのことだ」
一方、カラードはどこまでもどこ吹く風といった様子で応じる。
現にその通りだったのは言うまでもないだろう、とキッパリ言い切るカラードに、ALSとDKBの面々がもてあました苛立ちが議場を満たしていく。
「攻略を強行し、徒に死者を増やすそちらと我々。攻略組の自覚がないのはどちらか」
「なんやとぉ!?」
流石のカラードもヒートアップしているのか、棘のある正論を畳みかける。売り言葉に買い言葉だ。
「何にせよ、我々の方針転換はない。先に失礼する」
会議が始まっておよそ2時間。何一つ動きの見られないその場に嫌気がさしたのか、カラードにしては珍しく心底うんざりした様子で席を立つ。
「か、カラードさん!?」
「おいっ、ちょ、待たんかゴラァ!!」
同席していたユリエールが慌てて後を追い、その場に残ったのは激高するキバオウと、それを無表情で眺めるディアベル。それに彼らの副官だけだ。
「……ディアベルはん、追わんでええんか?」
「オレたちの理念、知ってるだろう」
苛立ちを隠そうともせずディアベルに問いかけるキバオウと、それに冷たい声で答えるディアベル。彼らは喧嘩別れの仲だが、それを棚上げして話し合う程度の社交性は、お互い持ち合わせていた。
組織の分裂を機に自身のカリスマ性の限界を悟ったディアベルは、残ったリンド達の理念をほぼそのまま取り入れて組織を再編成し、より強権的なギルドづくりに腐心した。
「騎士ディアベル」の名と実力は未だ健在であり、DKBはエリート主義の厳格な組織として生まれ変わったのである。
「優れた個人へのリソース集中。極論すれば『オレたちが一番強いと自認している』から攻略をしているのであって、MTDがそれを超えると言うのであれば、それで構わないのさ、オレたちは」
土台、他人のあれこれに口を出すつもりはない、と言葉を締め括って、ディアベルとリンドもまたその場を後にする。
ディアベルの目から、光が失われて久しい。彼はかつての協調性と、そこから来るカリスマ性を喪った。しかし代わりに、強引にでも周りを引っ張っていく力と、そこから来るカリスマ性を手に入れた。
「チッ、けったくそ悪ぅてならんわ。いくで」
交渉は決裂だ。
個人主義・エリート主義が高じて戦力面では突出しているが、まとまりに欠けスタンドプレーの目立つDKB。
結束の固さと抜群の連携で低難度ボスでは大活躍するが、突出したエースがおらず決め手に欠けるALS。
基盤の大きさは段違いで層も厚いが、攻略組の人員は寡兵を装備と練度で誤魔化しているに過ぎないMTD。
土台彼らは、互いのギルドの事など全く考えていないのだ。
勿論互いに排他的な3ギルドは、下層の一般プレイヤーには友好関係であると説明されている。
だがその内実は、「その方がボス攻略に都合がいいから、最低限の協力体制を敷いている」に過ぎない。
彼らは勢力面で互角とされて、だからこそ均衡を保っているに過ぎなかったのだ。
――2/21 2:10追記 おまけのおまけ:現在公開可能な情報――
現時点でのMTD組織図は、以下の通り。
見て分かるように、大きな実権を持つ幹部がカラード本人と彼に好意を持つ人物で固められており、カラードはSAO最大ギルドたるMTDの全権を事実上掌握している。
将来のアルゴの動向、概ね4つのルートで固まったゾ。そのうちそれとなーくアンケ取るかもだけど、どれ選んでも相応に可哀想なのは保証するから気負わずに答えてくれよな。