ソードアート・オンライン ラフコフ完全勝利チャートRTA 2年8ヶ月10日11時間45分14秒(WR)   作:TE勢残党

42 / 82
 今度こそガチバトル回なので初投稿です。


13/n おま○け(前半)

 カラードの強さの秘密。

 

 アレックスは数か月間、数え切れないほどのデュエルを経て、それを少しずつ、ほんの少しずつ理解していった。

 

 装備とレベルも攻略組最高水準だが、やはり一番はプレイヤースキルの高さだ。

 

 重装備のタンク型ビルドにも関わらず、どういう訳か攻撃スピードがアレックスと同レベルで早く、速い。カラードに倣って体術スキルも組み入れてみたが、それでもシステム上、隙は生まれるはず。しかしカラードには、それが一切見当たらなかった。

 

 アレックスは一度、その絡繰りを本人に聞いたことがある。

 

『慣性と重力で、自分が動かせずとも剣は動く。"動く"のなら、後は方向さえ合わせてやれば、それは立派な"攻撃"だ』

 

 言っていることはサッパリ理解できなかったが、それ以来カラードはアレックスとの模擬戦で頻繁にその「技」を使うようになった。

 

『頭ではなく、体で盗め。お前はその方が向いているだろう』

 

 そう言って惜しげもなく自分の技を見せてくれるのが嬉しくて、アレックスはさらに模擬戦に没頭していった。

 

 そして今。アレックスはもう何度目かも分からないその「技」に、また打ち砕かれている。

 

 高速でのやり取りの中、巧みにフェイントを織り交ぜたカラードの剣は、的確にアレックスの体力を削ぎ、攻撃を妨害し、あるいはカウンターとして叩き込まれる。

 

 アレックスの苛烈な攻撃を難なく捌き切るカラードも、流石に攻めあぐねているのか攻撃の頻度は低い。だが、その数回の攻撃はどれもアレックスの手薄なガードではまるで守り切れず、肌を直接切り裂いて確実に命を削っていく。

 

「……ぁ、はぁ」

 

 "死"がどんどん近づいてくるのを感じる。別に死ぬのは怖くない。危機感はつまりスリルで、むしろ心地よいくらいだ。

 

 だが、目の前にぶら下がった極上の「ごほうび」を味わえないまま、カラードに認めてもらえないまま退場するのは絶対に嫌だ。

 

「甘い」

 

 カラードが剣を振り下ろす。ガードは間に合わない。何とか身をよじるが、左腕と左脚が巻き込まれ、切断された。地面に叩きつけられた剣は、破壊不能オブジェクトのエフェクトと反動によって反対側へ跳ね上げられ、その瞬間、剣が光を帯びる。

 

 アレックスの得意技、遅延ソードスキル。何度も喰らっていれば、模倣できないカラードではなかった。

 

 飛び出した剣により、アレックスの右手脚も切り飛ばされる。たったの一合で、アレックスは四肢全てを失い、達磨にされてしまった。

 

「ひーる」

 

 だが、その程度で無力化できるほど、今のアレックスはヤワではない。右腕が切断される寸前、その手は確かに、腰のポーチにセットされている回復結晶を握っていた。

 

 アレックスの掛け声に応じ、赤ゲージに入りつつあった体力が一気に全快。同時に、失った手足が光のエフェクトと共に復活する。一連の動作が終わった時点で、アレックスは地面に落ちてすらいなかった。

 

 即座にその場から飛びのいて、カラードがダメ押しとばかりに重力と慣性に任せて放った斬り下ろしを回避。

 

 緑色に戻った体力ゲージからはすぐに目を放し、目の前の雄にアピールすべく新たな攻撃の準備に入る。

 

「どうした。いいのは威勢だけか」

 

 カラードが一見無防備にも見える態勢で、ガシャガシャという重い金属音と共にアレックスへ歩み寄った。

 

 カラードの攻撃は、一撃が重く、正確。対してアレックスは、手数と速さで圧倒するのが持ち味。だのに手数で並ばれては、勝負にならないのは必定であった。

 

「ァァアアア!!」

 

 アレックスが雄叫びを上げて突っ込む。余計なことは考えない。ただ、目の前の異性に認められるためだけに、全身全霊で攻撃をする。

 

 飛び上がっての唐竹割りを、カラードの斜めに構えた剣が捉え、威力を斜め下方向へ流される。透き通った金属音を響かせ、凄まじい威力の斬撃が完璧に受け流された。

 

 アレックスはそれを意にも介さず、下りた手の勢いをそのままに地面に付き倒立、一瞬腕を曲げ、戻す時の反動を使って足を思い切り突き出し、前方、カラードの顎へ。しかし冷静に一歩引いたカラードに躱された。

 

「ぬるい」

 

 追い討ちの両手剣が迫るが、これはアレックスの反応が間に合った。すぐさま姿勢を低くして躱すと、勢いを利用して放たれた二撃目にガードを間に合わせ、自分から吹き飛んで威力を殺す。

 

 丁度推進力を失った頃に背後の壁に足が付いた。

 

 その壁を蹴って一気に加速、弾丸のような勢いでカラードに迫る。が、これはカラードの腰を使ったフルスイングに合わせられ、アレックスは力負けして宙に打ち上げられる。

 

 アレックスは空中で体勢を立て直し、身体を横向きにして回転しながら、カラードから見て右斜め下へ斬り下ろす。

 

 カラードの構えた両手剣とぶつかる直前、アレックスの剣が光を帯び、それを()()()()()()左下方向へと曲がった。

 

 勿論剣が意思を持っている訳ではなく、カラードの剣筋を読んだ上でそれを迂回できる軌道のソードスキルを事前にセットしているのである。

 

 アレックスの十八番、空中遅延ソードスキル。カラードは咄嗟に半歩ほど右側へ動き、アレックスの剣はカラードの左腕を少し掠るにとどまった。

 

 カラードの体力がわずかに減少するが、既に先ほどまでの戦闘で受けていたはずのダメージは回復し切っている。数秒後には、このダメージもなかったことになるのだろう。

 

「フーッ、フーッ♡」

 

 アレックスは、荒れた呼吸もそのままにカラードを睨みつけている。同時にその目は危険な光を宿しており、戦いの興奮と身体の昂ぶりが極限に達し、ある種のトランス状態にあるのが見て取れる。

 

 同時にアレックスは、今までにないほどの思考の冴えも自覚していた。感覚が研ぎ澄まされ、限界を超えて集中し、イメージに身体がピタリとついてくる。いわゆる「ゾーン」。

 

「いい目だ。()()()のなら、もっと力を見せろ」

 

 本能に塗りつぶされて血走った目を、しかしカラードは受け止め、褒める。その煽りに答え、アレックスは「あの技」を繰り出すと決めた。

 

 練習はしたが、戦いの中で成功させたことはない。

 

 ぶっつけ本番。上等だ。

 

「ァァアアア!!」

 

 気声と共に、アレックスの剣がカラードに迫る。

 

 アレックスお得意のラッシュ攻撃だ。だが、それまでの攻撃と一つだけ違う所がある。

 

 "勢い"と"落ちていく力"を、攻撃に転化している。アレックスはこの土壇場で、カラードのシステム外ユニークスキルをものにして見せたのだ。

 

 ステータス。装備。指輪。遅延ソードスキル。空中攻撃。そして新たな技。

 

 彼女の持ち味は手数。それがカラードの技を吸収したことで磨きがかかり、ほとんど切れ目のない連撃を可能としていた。

 

 一撃一撃を単体として、ただがむしゃらに速くするのではなく、それらの動作を一本に繋げ、流れるように、立て続けに斬撃を叩き込む。その様は激しく、荒々しく、しかし同時に滑らかで、さながら踊りのようにも見えた。

 

 ――だが、まだ足りない。

 

 元より、カラードからすれば自分の技。どう繋がるか、どこになら剣を動かせるか、カラードは()()()()()。速さでは完全に上回られたカラードだが、正しく動けば対応は可能であった。

 

 アレックスの猛攻を涼しい顔で防ぎ、躱し、受け流し、時にカウンターまで仕掛ける。カラードは、しかし確かに喜んでいた。

 

 アレックスもまた、カウンターで飛んでくる斬撃を避けもせず、ひたすら攻撃を続ける。未だHPが減りもしないカラードに対し、アレックスの体力は着実に減っていた。

 

 これでも、まだ劣勢。

 

(……もっと)

 

 もっと速く。もっと強く。カラードの防御を突き崩し、カウンターを間に合わせないほどの「力」が必要だ。

 

「もっと、もっと、もっともっともっともっと!!」

 

 ラッシュを続けるアレックスは、自身も気づかぬうちに不思議な光を帯びていた。

 

(……来たか)

 

 アレックスの美しい紫色の瞳が、金色に染まっている。それを見たカラードは、一層口角を吊り上げてその「異常」を歓迎していた。

 

 剣戟は、限界を超えて速く。そして連撃が途絶えた瞬間、アレックスが剣を大上段に構える。

 

(もっとつよく、もっとはやく)

 

 構えた剣が、ソードスキルとはまた違った輝きを放つ。

 

(――これが、そうか)

 

 存在するとは思っていた。アレックスに、その素質があるとも。

 

 だがカラードも、自分の目で見るのは初めてだ。自らの仮説が正しかったことを喜びながら、目の前で吹き荒れるシステムを超えた力を、ただ全力で迎え撃つ。

 

(アタシもっと、強くなれるよ。だから、だから――) 

 

「――よこせぇぇえええええ!!」

 

 この上なく不純にして、この上なく純粋。好いた男に自分の方を向いて欲しい。情けが欲しい。そして、もっと強い力が欲しい。単純で、そして何よりも強い欲求が、ついに形を持って現れた。

 

 剣と剣がぶつかり合う。今度は、カラードが力負けする番だ。

 

 ジャストガードを上から崩されたカラードは、足を地べたに付けたまま、土埃を上げて後方へ押し込まれる。そのまま数メートル移動して、ようやく止まった。

 

「っく、ハハハ。なんだこれは、予想以上だ……!」

 

 カラードは自分のHPゲージを見るや破顔し、静かに、しかし興奮した様子で語る。一撃で、体力の約3分の2を持って行かれた。

 

「ここまで形にしてくるとは思わなかった……凄まじいな、おまえはいつも俺の期待を上回る」

 

 そのテンションのまま、今の攻撃について褒めちぎるカラード。攻撃の余韻が切れたアレックスは、期待に満ちた表情で、ただそれを聞いている。モジモジと落ち着かない様子はさながら、飼い主に「待て」を言い渡された大型犬のようだった。

 

「――だからこそ」

 

 直後。カラードの纏う雰囲気が一変する。鋭い眼光でじっとアレックスを見つめ、同時にアレックスがそこに()()を感じとり、ゾクリ、と体を震わせた。

 

 ――やっと、こちらを向いてくれた。

 

()()()()()()()()()()()

 

 カラードは啖呵を切ると剣を構え、アレックスに突撃する。この日初めての、カラードからの攻撃だった。

 

 アレックスの心に刺さるよう情熱的な感じに飾っているが、内容自体は紛れもなく本心だ。ここまでの力を見せた手前、絶対に手元から離れさせる気はない。

 

「――ぁ、は♡」

 

 それを察知したからこそ、アレックスは全身全霊で抗うことにしたのだ。

 

 カラードがそれをねじ伏せ、強引にモノにしてくれることを期待しながら。




 続きはR18版にその内。
 後半はアルゴの反応をお送りします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。