ソードアート・オンライン ラフコフ完全勝利チャートRTA 2年8ヶ月10日11時間45分14秒(WR)   作:TE勢残党

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 本筋は休載明け初投稿です。
 オルガの次はライナーか……(異世界転生)


13/n おま○け(後半)

 ――元来アルゴは、人間関係のことになると一歩引いてしまうきらいがある。人懐っこい方なので戦友や仲間は作れるが、自分から踏み込んでいくのが苦手だ。

 

 この数か月で、特にそれが悪化している。カラードに依存しているのを自覚する以前から、彼女はどっぷり染められてしまっていた。

 

 そして今。最前線30層現在、アルゴを染め上げた張本人が距離を置いている。

 

 全く会わない訳ではない。アルゴ自身、MTDの外部協力者として不定期に情報交換を行っている。

 

 それこそどうでもいい情報を持っていけば毎日会う事だって可能なはず。本題を後回しにして1時間くらい談笑しても、誰もそれを咎めはしないだろう。他ならぬ、アルゴ自身を除けば。

 

『情報屋は、アルゴしかいない』

 

 25層のあの時、カラードはそう言った。その期待は義務感となって、情報収集に妥協することを、誰よりアルゴが許さなかったのだ。

 

 情報交換に私情を混ぜたから失敗した。自分にそう言い聞かせ、仕事中は努めて近づきすぎないようにしている。

 

(……大丈夫、大丈夫ダ)

 

 だってカラード(カーくん)は、あんなに自分を求めてくれた。

 

 肌身離さず身に着けている指輪を撫で、無理矢理自分を納得させる。

 

 アルゴの中で、「カラードに甘えたい」と「カラードにやめろと言われるのが怖い」が拮抗していた。故にアルゴは、アレックスに発破を掛けられてから実に三週間を無為に過ごすことになったのだ。

 

 だが今、アルゴはカラードのところにいる。

 

 正確に言えば、カラードの近くの物陰から、アレックスとの立ち合いを覗いている。

 

(やっぱり、ここに居タ)

 

 ――MTD三軍の警備ルートは、カラードの自作した暗号化された複雑なパターンの組み合わせに基づいて設定される。

 

 ルートの逆算に成功しているのは、今のところアインクラッドで1名。カラードのことを調査する片手間にうっかり解いてしまったヒースクリフだけだ。正面切って暗号を解こうとしたら、最低でもアスナ級の頭脳が要求されるのである。

 

 ではアルゴが、カラードの居場所を突き止められたのは何故か。

 

 簡単な話だ。「はじまりの街」広しと言えど、カラードVSアレックスなどという怪獣大決戦をやっても近所迷惑にならない場所は、地下室を合わせても4か所しかない。

 

 そしてアルゴの敏捷力なら、およそ20分で全部回ることができる。今回は2か所目であたりを引いたと言う訳だ。

 

 アルゴの見立て通り、今日もカラードとアレックスは模擬戦中のようだ。既にお互いフルスロットルのようなので、2本目か3本目だろう。特に今日は、アレックスの方から普段以上の気迫を感じる。

 

(目の色、違くないカ?)

 

 慣用句の意味ではない。物理的に、アレックスの目が金色に輝いて見える。アルゴの記憶が正しければ、彼女は紫色の瞳をしていたはずだ。忌々しいが恋敵の顔として意識していたので見間違いはない。カラコンを入れるような性格でもないし、何故?

 

 アルゴが考えを巡らせている間も、剣戟の音とともに火花が散り、達人同士が躍動する。磨いた剣の方向性は異なるが、どちらも遥か高みにいることは変わりない。

 

 派手な動きで野性的に戦うアレックスと、静かに、しかし要所要所では目にもとまらぬ剣閃を繰り出すカラード。

 

(綺麗、だナ)

 

 少し悔しいが、本心からそう思う。

 

 今アルゴが見ているのは、恐らく今のアインクラッドで五指に入る使い手同士による本気の戦い。MTD1位と2位による頂上決戦だ。

 

 特に今日は、カラードの動きがより洗練され、アレックスの動きにより情熱が乗っているように感じる。攻防が激しく入れ替わり、互いの攻撃が当たり前のように処理され続ける様は、まるで筋書きのある剣舞のようにさえ見えた。

 

 こんなにも魅せてくれるカラードが格好いい。

 

 それを一緒に作れるアレックスが羨ましい。

 

 間違いなく彼らは、言葉よりよほど雄弁に、剣で通じ合っていた。

 

 ……そして、永遠にも思えた剣舞も終わる。

 

 カラードがアレックスの喉元に剣を突きつけ、彼女を降参させたのだ。

 

 アルゴは一連の見事な動きに思わず見入っていて――そこでようやく、アレックスの様子がおかしいことに気が付いた。

 

 デュエルのウィナー表示を一瞥もせず、カラードは突きつけた剣を下ろさない。

 

「これで理解したはずだ。お前が、誰のものか」

「~ッ♡ は、ひ♡」

 

 それまでの野性味あふれる戦いぶりから一転、アレックスはずいぶんしおらしい。カラードに至近距離で囁かれる度、何やら体を震わせているのが見て取れる。

 

(……あ、レ?)

 

 先ほどまでの、本気の戦いの余韻がそのままに、()()()が出来上がっている。何度も愛されていたアルゴには分かる。これは……()()()()()時のカラードだ。

 

(い、いヤ、そんな、まさカ――)

 

 アルゴが現実を受け止められずにいる間にも、目の前の状況は進展している。少なくとも、アレックスはとっくに()()()だ。既に、自発的に装備を解除し始めている。

 

「言ってみろ」

「ぁは♡ アタシ、アレックスは……や、竜頭(りゅうとう)希空(のあ)は、カラード様専用の肉■■ですっ♡」

 

 聞くに堪えない獣性むき出しの台詞に顔をしかめて、そこから目をそらそうとし――アルゴは、雷にでも打たれたような衝撃を受けた。

 

 ガントレットが外れて、露わになったアレックスの手。

 

 そこに赤い石の入った指輪が嵌められている。

 

 ()()()()

 

「――ッ!?」

 

「ご主人様の■■■■て■■■■の■■■でぇ、アタシの■■■をしつけてください♡」

 

 もはや、アレックスの卑猥な言葉を聞いている場合ではなかった。

 

 足元がグラついたような錯覚に襲われる。瞳孔が開き、呼吸が浅くなる。それでもハイディングレートを減らさなかったあたりは、流石のプロ意識と言うべきか、職業病と言うべきか。

 

「ね、だからはやく♡ はやく♡」

 

 なおも寵愛をねだるアレックスは、目にハートマークを幻視するほど幸せそうに蕩け、何やらコンソールを操作している。

 

 傍目のアルゴにも分かる。あの煩雑な操作は、倫理コード解除設定だ。

 

「――ぁ、あ」

 

 口を開くが、声が出ない。空気の出るかすれたような音と共に、口をぱくぱくさせるだけ。

 

 現実を認められずその場に立ち尽くし、しかしアルゴの明晰な頭脳は、いやアルゴでなくとも、目の前の光景を見れば分かる。

 

 浮気されている――否、それも少し違う。

 

 自分はもう、とっくに捨てられていたのだ。

 

「ぁ……ぅあ、あ……っ」

 

 声にならない声、ほとんど嗚咽のような吐息が、口から漏れる。

 

(嫌だ、嫌だ、いやダ――)

 

 足の力が抜けて、その場にへたり込む。

 

 ()()()()アルゴは最後まで、二人に気づかれることはなかった。

 

(オレっちを、おいていかないで……っ!)

 

 そして、その場を逃げ出すことも、出て行くことも出来なかった。

 

(カー、くん……!)

 

 嫉妬と惨めさ。そして「25層であんなことになったんだから当たり前だ」という自嘲。それらがごちゃ混ぜになって、アルゴをそこに縛り付けていた。

 

 ――たっぷり1時間。アルゴは事が終わるまで、獣と化した彼らをただ眺めていることしかできなかった。

 

 それからアルゴは、どうやって塒に戻ったか思い出せない。

 

 幽鬼のような足取りの向くままに歩いて、多分、泥のように眠って、そして――気づいたら、カラードの私室の前にいた。

 

(……あぁ、そっかァ)

 

 この期に及んで、自分はカラードを諦めきれていないらしい。

 

(これが、最後ダ)

 

 光のない目と今にも死にそうな足取りで、そんなことを想う。自分でも分からないうちに、いつの間にかそう決めていた。

 

 もう、カラードの近くに自分の居場所はない。きっと迷惑がられるだろうが、それでも最後に何か、残るものが欲しかった。

 

 自分はとっくに、カラードなしではいられなくなってしまった。

 

 このデスゲームでアルゴを支えてきたのは、ずっとカラードだった。多分近いうち、自分は喪失感や寂しさに押しつぶされて何もできなくなってしまうだろう。そう自覚しているから、正気を保っていられる間に行くのだ。

 

 最後まで迷惑かけっぱなし。こうしていつまでも縋ってばかりだから、自分は愛想をつかされたのだろう。 

 

「……どうした」

 

 ドアが開き、いつも通りのカラードで出て来たのを見た瞬間……アルゴの感情が爆発した。

 

「うぉっ」

 

 カラードに飛びつき、押し倒す。

 

 先ほどまでの後ろ向きな覚悟が、もう全て吹き飛んでいた。

 

「やダっ!! オレっちを、捨てないでくレ!」

「オイラはもう、えぐっ、カーくんがいないと、ひぐ、ダメなんだヨ!!」

「う、ぇっ、オイラでも、満足させてやれル! もっと、ちゃんとするかラっ」

「オイラのこと、嫌いでもいいから、二番目でもいいかラ」

「一緒に居させてくれヨ……!!」

「なんでも、するかラっ! えぐっ、うぇ、ぐしゅっ……やだぁ……おいていかないでぇ……」

 

 衝動のままに、ひたすら思いの丈をぶつけて――

 

 その願いは、確かに叶えられた。

 

 歪で、同時に本人たちにとっては幸せな、そんな形で。

 

 

 それから暫く、カラードは女癖の悪さについて悪評を被る日々が続いたそうだ。

 

 しかし不思議なことに、カラードと親密な者達ほど「あの超人、欠点あったんだ」などと、むしろ安心されるくらいだったそうである。

 

 

――おまけのおまけ・現在公開可能な情報――

 

 βテスト初期の対人勢の間では、公式な大会はなくPKと兼業している者が多かったため通報よけに外見やプレイヤーネームは隠すのが常識であり、噂の中で「あいつは強い」という情報が細々と共有される状況だった。

 

 その中で、明らかに突出した実力を持つとされた者が4名いる。

 

 最前線からふらりと現れては大暴れして去っていく黒ずくめ。

 対人最強と謳われた剣技、遅延ソードスキルの開発者。

 トラッシュトークと奇策を用い、PK界隈で鳴らした戦闘狂。

 そして、狂気を感じるほど泥臭い戦いぶりに定評があった悪人面の紅一点(※)。

 

※この当時、最後の一人以外は全員男性アバターでプレイしていた。

 

 上からフロントランナー、デュエルガチ勢、PKと異なる場所の「最強」たちであり、最後の一人はある時黒ずくめに敗北したという情報が流れて話題にならなくなった。

 

 彼らが戦ったら誰が勝つのか。SAO最強の対人プレイヤーは誰か。

 

 終ぞ答えが出ることはなかったが、正式サービスの開始した今なら、あるいは分かるかも知れない。

 

 少なくとも()()()()()()、彼ら全員が今もSAOにログインしているのだから。




 ウマ娘二期、裏世界ピクニック、進撃の巨人、SAOP劇場版&新刊……面白い/面白そうなものが多くていいですね。
 闘技場関係の新刊との矛盾は……ナオキです。

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