ソードアート・オンライン ラフコフ完全勝利チャートRTA 2年8ヶ月10日11時間45分14秒(WR) 作:TE勢残党
「なんとなーく察しは付くけど一応聞くわね。これ何の集まり?」
「カラードの愛人!」
リズベットの問いかけにイイ笑顔で応じたのは、もちろんアレックスだった。
呼び出しに応じて、何度か迷いながら奥まった場所のレストランまで来て早々これである。
「あ、おイ。オレっちは"一番"なんだゾ♪」
同席しているアルゴが、木製のジョッキに入った何かの飲み物を流し込みながら、上機嫌でアレックスを牽制する。
「おっ、いいねー。お前もだいぶ吹っ切れてきたな!!」
「えっと……何この、何?」
話に付いて行けないリズベットに、アレックスが詰め寄る。
「けど、カラードもいい所捕まえてくるなぁ」
「えっ、ちょ、近い近い」
巨大な胸を無防備に近づけながら、アレックスがねっとりした視線でリズベットを見定める。アレックス自身は今のところ至ってノーマルだが、カラードの好きなものを好きになろうという理論の延長線上らしい。
「悔しいけど、そこは同意だナ。リっちゃんいい女だシ」
「リっちゃん!?」
あまり絡みのなかったアルゴも、同類と見てか馴れ馴れしい。しかも今のアルゴは、さっきまでカラードとスイーツバイキングからのお泊りデートしていた帰りである。
「ま、ある意味
このように、半分酔っぱらいのような絡み方になるのも致し方なし。明確に一番はお前だと言ってもらえたのが相当嬉しかったらしい。もう完全に吹っ切れた、といった風だ。
(あたし、とんでもない人好きになっちゃったかも……)
今更リズベットは、そんなことを考えていた。
◆◆◆
「へぇ~、希空さん福岡住みなんだ! 全然訛ってない!」
「そりゃVRで訛ってたら住所バレるだろ。つーかアタシ以外はみーんな東京あたりなのな、カラードも
(あ、それ知らなかっタ……むぅ)
歪な関係かも知れないが、一応ある意味で姉妹のような間柄。仲良くしようというアレックスの提案は一応受け入れられた。
決めたのは無駄に同士討ちしないことで、夜のローテーション等は一切決めていない。あくまで、主導権はカラード。その点で、三人の姿勢は一致していたのだ。
ちなみに、リアル込みで自己紹介したのはアレックスに「お互いケンセーできねえのに話し合いもクソもねぇだろ?」といつもの凶暴そうな笑みで言われたからだ。見慣れているアルゴはともかく、リズベットはすっかり縮み上がっていたのは言うまでもない。
ともかく、この場でだけは本名アバター名どちらでも呼んでよい、という取り決めがなされたのだった。
「15、15、17って……カラードひょっとしてそっちのシュミなのカ?」
住所を教えられていなかったアルゴは、それを誤魔化す意味も込めてカラードの性癖に疑念を持つ。だが、どことなく期待が籠っているようにも見える。
「なんでちょっと嬉しそうなんだよ。つか、だったらアタシじゃ興奮しないと思うぞ」
「それもそっか。いや~、希空さん何食べたらそんなに大きくなるのよ」
中学生の妄想みたいな体格をしている希空は、時々同性から羨望を込めて聞かれることがあった。なんなら揉まれた挙句「重ッ何キロあんのこれ!?」と驚かれたこともある。
「遺伝だ遺伝。かあちゃんもデカかった」
「くっ、無慈悲な……!!」
何を着ていても主張を隠せないほどの巨大な胸を、リズベットはワナワナと妬まし気に見つめている。最初は怖がっていたリズベットだが、この頃にはもうアレックスと打ち解けていた。案外、相性がいいらしい。
「しっかし、あたし達はこうして情報出し合った訳だけど……カラードって全然リアルの話しないわよね」
一度はそれた話題だが、この三人に共通するのはカラードだ。話は自然とそちらへ進む。
「だなー。普通、仕事とか家族とかの話、聞いてもないのにペラペラ喋っちまうモンなのに」
「そうカ? ま、オレっちは"本名"教えてもらってるけどナ~♪」
これ見よがしに煽って見せるアルゴ。勿論そうなれば、
「おまえ住所知らなかったじゃねーか、そんくれえでイキんなよ」
「あ、あたしも歳とか身長とか教えてもらってるし!」
残り二人は張り合わざるを得ない。惚れた相手のことを知りたくなってしまうのは全員同じで、知識量をつい自慢したくなってしまうのも当然だ。
そもそも、アレックス以外の二人はそれなり以上にコアなゲームオタクでもある。この手のコレクション的要素にはめっぽう弱い。
「本当かヨ~? 情報は正確に出してもらわないと、オネーサン信じられないナー?」
だからアルゴはそこを突いた。人の個人情報だ、売り買いする気はなく、単に自分が知りたかっただけ。だが。
「何か
(えッ、オレっち教えてもらってなイ……)
「8月生まれで、今23歳って言ってたわ。何か研修? をやってたらしいわね。誕生日は何送ってやろうかしら」
(そ、それも知らなイ……)
「そういや、カラードは戦う時カウンター型みたいな扱いだけど、こっちが攻撃しないと向こうから殴ってくるんだよな。実はそういう時のが強ええんだぜ♡」
「あぁそれ。いつもあたしが鎧の整備してるけど、凄いわよ? 関節とか装甲のスキマにはぜんっぜん攻撃された痕がない上に、部位ごとの耐久値の減り方がビックリするくらい均等なの」
「キントーだと、どうなるんだ?」
「普通、咄嗟に防御しやすい利き手側にダメージが集中するのよ。けど装備の耐久値が減るほど防御力が落ちるから、理論的には色んな部位を順繰りで使うのが一番効率いいのよ。でもそんなこと普通できる?」
「……相当手ぇ抜いてたんだな、普段」
「そ。けど希空さんと戦った後だけは違ったわ。カラードは何も言わなかったけど、鎧は嘘つかない。間違いなく本気だったわよあれは。一目で分かるくらいね」
「お、じゃあアレは本当に本気だったんだな! へへ、そっかそっか!!」
「そうよ。あんたがガシガシ戦ってくれるから、あたしがメンテで会う時間も増えたって訳。そこは感謝してるわ」
「ふぅ~ん」
「…………」
今度は戦闘に関する話題で分かり合う二人をよそに、やはり入っていけないアルゴ。
カラードとそれなりに戦えるアレックスはもちろん、リズベットも武器防具に関連付ければかなり話せる。こういった部分では、アルゴは分が悪いと言わざるを得なかった。
「後はそう……露出の多い服は嫌いっつーか、あれで結構独占欲強いとこあるよな♡ 肌をさらすのは俺の前だけにしろって言われたぞ♡」
「へぇ~。あ、料理は和食の甘辛いのが好みなのよね、何度か作ってあげたことあるわ。家庭料理をあんまり食べてこなかったから憧れてたーとか珍しく嬉しそうにしてて……その……キュンキュン来たわ、不覚にも」
(……ぁ)
ここまでしょげていたアルゴだが、エピソードの話になれば別だ。それに気づいてアルゴは、リアルの話をあまりされていないことを棚上げできるくらいの元気を取り戻した。
(ま、それはそれとして今度聞きまくってやるけどナ)
アレックスが女性関係ではっちゃけ出したのがいいきっかけになったのか、アルゴは最近、ある程度カラードに強く出られるようになっていた。それまでの100:0で縋りつく関係から、カラードにも負い目が出来たのがいい方に働いているようだ。
「んで、アルゴは何かあるか?」
アレックスがずっと黙っているアルゴに気づき、話を振る。
「ふっふっフ。オネーサンを舐めてもらっちゃあ困るゼ。今日は寝かさないから覚悟しとけヨ?」
が、それは少々迂闊だったと言わざるを得ないだろう。
散々蚊帳の外にされてうっぷんの溜まっているアルゴに、カラードとの惚気話をねだるなど。
この後アレックスとリズベットの二人は、逆襲とばかりに語りまくるアルゴをなだめるのにかなり苦労した。
アルゴは主に5層のボス戦や指輪を貰った時の話や30層でよりを戻した時の話などなどを店をはしごしながら語りまくり、結局日付が変わる直前まで惚気まくったそうである。
残り二人も惚気に対抗し、途中からは思い人とのプレイ内容を含む猥談の様相を呈していたのだが……そちらはまた別の話だ。
◆◆◆
そうして姦しく話していたある時、アレックスはふと、ある点に気が付いた。
(……アタシが住所と大学、リズベットが歳と身長と誕生日、アルゴが本名。全員もらってる情報がダブってなかったな。……ひょっとしてわざと切り分けられてんのか?)
持ち前の直感で、カラードの意図にたどり着いたのだ。
(ってことはこれ……相手が何を知ってるかで、誰がバラしたか分かんのか! ぁは、さっすがカラードはとんでもねぇことするな♡)
普通は恐怖する場面だが、アレックスはご主人様の策士っぷりに関心するばかりだったようだ。
R18版に余計なタスクを増やしていくスタイル。
22:04追記:一部表現を加筆修正。
ピトフーイ姉貴とカラードは
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わかり合える
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わかり合えない