ソードアート・オンライン ラフコフ完全勝利チャートRTA 2年8ヶ月10日11時間45分14秒(WR) 作:TE勢残党
どこぞの回復術師兄貴を見習って行かないかんのちゃうんか?
「なん……ですか」
解読済みの暗号文と、資料として添付された記録結晶。
流石に音声は切っているが……アスナの眼前に映る映像では、若い女性が筆舌に尽くしがたい行為を強要されている。
いわゆる"裏モノ"の、それも素人を使ったかなりタチの悪い類。撮影者も倫理コードを解除していれば問題なく録画できてしまうことが発覚したことにより作られたものだ。
流石に事態を重く見たか、数日後に茅場本人がアップデートを敢行。新規生産とコピーができなくなった(倫理コード解除済みの人物がぼやけて映るようになった)ため、残存品は数万コルの高値で取引されているという。
カラードが持ち込んだのは、そういう代物であった。
「なんですかこれッ!!」
バン、と机を叩いて立ち上がるアスナ。放心状態から復帰したアスナの目には、明確な怒りが湛えられている。
解読済みの暗号には、ただ4文字「たすけて」と書いてあった。
そして、この記録結晶の作成元は既に判明している、とカラードは言った。スエーニョという男を首魁とする、第一層を拠点に活動する犯罪組織だ。
「だから開封は後にしろと――」
「どうしてそんなに落ち着いてるの!? こんな……酷すぎる!!」
平然としているカラードに食ってかかる。彼女からすれば、合意もなしにこんな真似を……否、こんなアブノーマルな真似をするなど生理的に許されない。
「すぐにでも部隊を編成して、この人を助けに――」
「逆だ。アスナには釘を刺しに来た」
アスナが硬直する。才媛たる彼女には、続く言葉が簡単に想像できたからだ。
「この件は我々MTDが責任をもって処理する。くれぐれも、
「ふざけないで!! これを黙って見過ごせっていうの!?」
激昂する余り敬語が外れたのにも構わず責め立てる。
「そうだ」
返答は、あまりにもシンプルだった。
「~~ッ!! だったらどうして、私に」
「言えない」
カラードは、その意図を答えようとしない。
「いい加減にしないと怒りますよ!!」
「
だがこう言われて、アスナの印象は反転する。
(――行動がちぐはぐすぎる。わざわざ釘をさすためだけに、別ギルドに証拠の品まで持ってくる?)
一度思考の渦に嵌ってしまえば、後は早い。アスナの頭脳は、遺伝・環境・努力の三拍子全てが揃った本物なのだ。
(カラードさんが理由を言えなくなる事情……組織内部の意思統一ができずに、独断で? だとしたら今、カラードさんが言いたいのは『動くな』ではなく――っ!)
そこに、自分に都合のいい推測が混ざっていたことは否定できないが。
少なくともアスナは、「行くなよ、絶対行くなよ!?」というカラードの意図
ただ、「何故アスナに行って欲しいのか」という部分に、
「……分かりました。血盟騎士団として
彼女はヒースクリフの丸投げ……もとい信任により、血盟騎士団の実権を握っている。この手の決定は、事後報告で問題ないらしい。
「そうか」
「それはそれとして……この所業を見過ごせない、
挑発的な笑みでそう告げるアスナに、
「これは独り言だが。そういう者達を、いわゆるヒーローと呼ぶのだろうな」
カラードは、そんな言い回しで答えた。
――この時彼は出せる限りの情報を出したかのように見せたが、意図的に省いた説明が多くある。
スエーニョが、裏で行われているPvP賭博の元締めを兼ねていることも。
メッセージを送ってきた女性がデスゲームのストレスから来るギャンブル中毒で、スエーニョ達に数万コルの借金を抱えていることも。
店で働く女性たちの多くがそういう経緯での債務奴隷で、残りは「贅沢したいが、戦うくらいなら」と自らこの仕事を選んでいることも。
賭博も風俗も、この世界のほとんど唯一に近い娯楽として、SAO中にファンがいることも。
MTDの敷いたセーフティネットに安住できない者は、「戦い」や「クエスト」などで相応の労働を行わねばならない。スエーニョは明確に悪人だが、人々の選択肢を増やす役割を果たしているのも事実なのだ。
◆◆◆
25層の迷宮区にある殺人プレイヤーのアジト……ではなく、その一つ下の層にある安全地帯。
ピトフーイが殺人プレイヤー達との会談場所に指定したのは、そんな場所だった。
およそ10メートル四方の広間。ところどころに生えている巨大な水晶が青い光を放ち、光の届かぬ屋内ながら幻想的な明るさに包まれている。
「……来ませんね」
隣にいる幹部に声をかけたのは、広間の壁沿いで待ちぼうけになっている、殺人プレイヤーのしたっぱ。名をエンド
上半身裸に片手斧、帽子とスカーフで顔を隠し、コンビニ前の不良のような座り方でたむろしている。
さながら南米の麻薬組織にでもいそうな出で立ちで、周りのしたっぱたちの中でもひときわ気合の入った格好である。彼は形から入るタイプだった。
「アイツ遅刻とか舐めてんですかね? 来たらシメてやりましょうよヘッド!」
答えたのは、穴の開いた黒い頭陀袋を被ったジョニー・ブラック。話を振られたポンチョ姿のPoHは、逸る部下を「油断するな」と戒めている。
既に予定の時間を10分は過ぎている。何の連絡もないが、これまで判明している殺しの手口から見てビビって逃げるような手合いとは思えない。故に考えられる可能性は3つだ。
わざと遅れて来て挑発するつもりか、ハナっから来る気がないのか……不意打ちのために、この場にPoH達を誘導したのか。
「ぐぁっ!?」
天井から、小柄な女が降ってきた。ぴったりした全身タイツのような服に身を包み、長い黒髪を後手まとめた、両頬にレンガ色のタトゥーをつけた……ピトフーイだ。
彼女は、気合いの入った出で立ちの男の肩の上に着地。
それと同時に、男はポリゴン片と化して爆散。
派手なエフェクトを上げながら、彼女はその小さな体をゆっくりと、見せつけるように持ち上げる。
両手には、逆手持ちの大型ナイフ。短剣スキルを鍛え込んでいると、短剣限定での二刀流が可能になるのだ。
さっきまで男の首回り、左右の肩との継ぎ目当たりに深々と刺さっていたそれらが持ち上げられるのと同時に、
「ひひっ」
彼女は構え直して酷薄な笑みを浮かべた。
――隠蔽スキルによる奇襲と、二連クリティカルによる急所へのダメージ量は、数レベル下の人ひとりを即死させて余りある。
「何してる。殺れ」
その光景に気圧されていた殺人ギルドの下っ端たちが、PoHの指示によって動きを取り戻す。
その時には、もう幹部たちは行動を始めていた。
ピトフーイ目掛けて飛んできた片手剣を、彼女は軽々と躱し、続く斧の一撃を両手のダガーをクロスさせて受け切った。
火花と轟音を立てて、金属同士が激しくぶつかり合う。
「っくぅ~! この重み! お腹の奥にズンズン来るわぁ♡」
明確な殺意を持った片手斧……モルテ特製、「重さ」全振りの一撃を、しかしピトフーイは嬉しそうに受け止めながら、斧を目の前に喋る余裕まで見せつけた。
「この感じ……やっぱり♡ モルテじゃ~ん久しぶりねぇ。前より重くなってる!」
武器防御スキルもまた、相当な値まで鍛え込まれているのが見て取れる。
「アンタは随分縮んだじゃないですか。四天王呼ばわりされなくなってたるんだんじゃないですか……ねッ!」
相変わらず鎖頭巾姿のモルテに押し切られ、そのまま体術スキルによる蹴りを食らう……直前で、腕でのガードを間に合わせてダメージを最小限に。昔より30センチ以上縮んだ分、動きの俊敏さは増したらしい。
β時代に175cmほどの長身アバターでプレイしていた彼女は、今はリアルの外見に寄せられている。化粧とタトゥーで顔は似せられても、幼少期の病気で成長し切れなかった結果の幼児体型だけはどうにもならないのだ。
「アハハ! いいわぁ、あの時と違う、本気の殺意、殺し合い……♡」
体制を立て直しながら、ぶるりと体を震わせる。それは武者震いによるものか、あるいは単に、興奮から来るのか。
ピトフーイ……もとい神崎エルザは、ストレスを仕事や芸術にぶつけ、昇華させることのできる人間だ。
劣悪な家庭環境で歪んだ性根を音楽にぶつけた。SAOのサービス開始
これまで潜伏できていたのは、彼女が一般的な社会常識も持ち合わせていたから。
腐らず鍛え続けて来たのは、これまでの人生で磨いた忍耐力があったから。
結果ピトフーイは、β時代に「格落ち」と言われたプレイヤースキルにさらなる磨きをかけ、
「あははは!! 相ッ変わらずのぶっ飛び具合で安心しましたよ!」
剣戟の中でモルテが嗤う。彼は彼で中々の戦闘狂、身内が死んでいるにも関わらず、β時代の喧嘩友達と死合うことが出来てずいぶん楽しそうだ。
「うはぁ! いいねぇいいねぇ!! ケンカ売った甲斐があるってモンだわ♡」
二人はたった数合の剣戟で、言葉よりよほど多くの情報をやり取りしていた。分かり合っていたと言ってもいい。
「けど、私の命を張るのはここじゃあないわね。花火はおっきくなきゃ」
ピトフーイはおもむろにポーチから結晶を取り出すと……紐でいくつも繋がったそれを、思い切り地面にたたきつけた。
記録結晶のフラッシュ光を利用した、即席のフラッシュバン。
「させるかよぉ!!」
隙を伺っていたジョニー・ブラックが逃がすまいと得意の毒ナイフを投擲するが……光が晴れた時、そこにピトフーイの姿はなかった。
代わりに残されていたのは、アイテム化されたメモ一枚。
『次は、もっと大勢で戦いましょ』
そう書き記された紙きれを、PoHが拾って握りつぶす。
「……俺達とは別の気狂いだな、アレは」
ここまでの戦いを傍観していたPoHは、その本性になんとなくあたりをつけ……
「野郎ども。あの女を探し出して、俺のところに連れてこい。賞金も出す」
自分たちと相容れることは最早ない。そう結論付けた。
復讐代行だとか、むかつくヤツをぶっ殺すだとか。
賛同者の得られそうな題目を掲げてはいるが、その根本はただの希死念慮、自殺願望でしかない。ただそこに「常識」という多少の飾り気が入り込み、敵対できそうなより強い組織と、出来るだけ派手に戦おうとしているというだけのことだ。
そこに理性的な計算高さや素性を隠してのひたむきな努力が混ざるから始末に負えない。
「