ソードアート・オンライン ラフコフ完全勝利チャートRTA 2年8ヶ月10日11時間45分14秒(WR) 作:TE勢残党
ほんへはもうちょっとだけ待ってくれよな。
「……勝負だ、ピトフーイ。どちらが正しいかは戦いで決めよう」
――埒が明かない。
――これ以上ペチャクチャと話されるのは危険だ。
そんな理由から、カラードは戦いによる決着を望んだ。彼女の望み通り、完全決着によるデュエルを申請する。
「分かってんじゃん♡」
ピトフーイの顔が、凶暴に歪む。とてもそうは見えないが、心から笑っているのだ。
「で、でもそれじゃア」
「業腹だが、この女の主張は正しい。彼女を倒せば、ひとまず問題は解決する」
止めにかかったアルゴに大きめの声で説明しつつ、
「策はある。信じろ」
彼女にだけ聞こえる声で、そう囁く。
「あはは倒すって! 素直に殺すって言えばいいのに!」
カー君はずるイ、と真っ赤になっているアルゴを尻目に、ピトフーイは嗤いながら準備を整える。対するカラードは、既に臨戦態勢のようだ。
10秒に設定されたデュエル前のカウントが進む。あまりにもスムーズに、殺し合いが始まった。
そして次の一瞬で、あまりにも多くのことが起こった。
ピトフーイは、何ら臆することなく一直線に突撃。
破れかぶれではない。殺し合いの覚悟が出来ていない素人を相手する場合、開始から覚悟を決めるまでのタイムラグを突くのが一番効率が良いと、ピトフーイは経験から学んでいたのだ。
数か月に及ぶ訓練で更なるプレイヤースキルを培った今のピトフーイなら、殺し合いに慣れていないキリトでさえ、或いは撃破可能かも知れなかった。
故に彼女の敗因は、単に「
「――コリドー・オープン」
デュエル開始と全く同時に、淡々と。
カラードは超レアアイテムたる、回廊結晶の起動を命じる。
ポーチに忍ばせていた結晶はシステム特有の迅速さでこれに応え、ピトフーイの目の前に、宇宙のような青黒い穴を開けた。
飛びかかっていたピトフーイは、既にトップスピード。碌に方向転換もできず、さながらブラックホールに吸い込まれるがごとく飛び込んでいった。
「降参する」
呟きは、ピトフーイの耳には入らなかった。
既に彼女は、ゲートの向こうへと転移していたからだ。
カラードの頭上、デュエルのLOSE表示に記される試合時間は、00:00:01。
カラードはたった1秒で、ピトフーイとの戦いに
◆◆◆
ピトフーイがゲートの先の石畳に着地した直後、デュエルのWINNER表示が頭上に出た。
「あぇ? デュエル……おしまい?」
ハイになっていた彼女の頭が、段々と冴えていく。
周りを見る余裕が生まれ……すぐに状況を理解した。
レンガ造りの寒々しい個室……否、独房。床は石。壁のうち一面は金属の柵で出来ていて、廊下を挟んで向こう側に同じ造りの独房が見える。
つまりここは、牢獄の中だ。
「なーにここ。私を裁判にでもかけようっての?」
もう少しで念願叶うところをスカされた格好だ。彼女からすれば興ざめこの上ない。
「……ざっけんじゃないわよ」
吐き捨てるように言う。
「アンタは同類、私と同じ根っこの壊れたキ■ガイ同士だろうが!!」
思い切り蹴りつけた鉄格子は、金属音ではなく不快な電子音を響かせ、ビクともしない。
「自分だけ常人気取ってんじゃねぇ!!」
2発、3発、4発。
紫色の≪Immortal object≫表記が、その行為の無意味さを伝えるべく表示されても、彼女は止まらない。
「卑怯者! 腐れ■■■! ■■■■■野郎!!」
湧き上がってくる激情に突き動かされるまま、思いつく限りの罵倒と共にひとしきり暴れて――それから彼女は、あらゆる方法で脱出を試みた。
開錠、穴あけ、物理攻撃、転移結晶、声かけ、フレンドメッセージ。すべてはあの死闘の続きのため。戦いの果て、自ら望んだ形の「死」を手に入れるために。
あと少し。
あとほんの少しのところに、欲しくて欲しくてたまらなかった「死」があったのに。
だが彼女がいくら焦がれても、牢獄から出ることは勿論、自殺することさえついに叶わなかった。
「はぁ、はぁ、はー……っ」
いつまでそうしていたか、自分でも分からない。
「満足したか」
ピトフーイに死を与えるはずだった男は、ついに打つ手が無くなったころを見計らってやってきた。
「……なによ。私のこと笑いにでも来た?」
「そうだ」
真顔でアッサリと肯定する男に、ピトフーイの怒りが再び沸騰しそうになる。
「てめぇっ!!」
「ここは第一層、黒鉄宮地下の監獄エリアだ」
人を殺せそうな視線と怒気を押し切って、カラードは平然と説明を続ける。
「その牢は俺にしか開けられん」
正確には、牢の開錠パスコードを知っているのがカラードだけという意味。900前後のピッキングスキルを持つ人材を用意すれば牢やぶりも可能と推定されているが、一々そんなことは教えない。
「それで? 開けて欲しけりゃ裸で土下座でもしろっての?」
「いいや。お前にはそれ以上何もしない」
躊躇なく装備を解除しようとし出すピトフーイを押しとどめる。この女に駆け引きの類が通用しないことを、カラードはよく理解していた。
「この世界では、飢餓感はあっても餓死はしない。お前はそこで、SAOがクリアされるのを待っていろ」
――お前のSAOは、これで終いだ。
「……は?」
ピトフーイは、ここでようやく理解した。
この男は、初めから自分の目的を知っていて、挑発に乗り、勝負を――
「大きな戦いがあったら、新聞の一つも差し入れてやる。退屈しのぎにはなるだろう」
それはつまり、自分の参加できなかったお祭りを……自分が死ねるかも知れなかった戦場を、後から知り続けるということ。
ピトフーイからすれば、極限まで飢えている時にガラス越しの目前でステーキを焼かれるような仕打ち。正真正銘、拷問である。
天才は天才を知ると言うように、狂人は狂人を知る。
カラードはピトフーイの心を、それこそパーソナリティから隠し事、誰にも打ち明けていない本当の望みに至るまで、この短時間ですっかり理解し尽くしていた。
故にカラードは、敵への対応としては極めて珍しいことに同情的で、だからこそ丹念に彼女を壊せる手を打ったのだ。
「――ふざけんなっ!! 出せ、ここから出しなさい!! 殺し合いの途中でしょ! 決着付けなさいよ!!」
鉄格子を掴んで力いっぱい揺らす彼女を尻目に、カラードはそそくさとその場を後にする。
「待てぇっ!! 行くな!! 私を置いていくなぁ!!」
最初こそ怒りに任せていたピトフーイだが、カラードが遠ざかるほど焦りの色が増し、威勢が無くなっていく。
「待って。お願い、だから」
そのうち鉄格子を揺らす手も止まり、
「わたしを、ころしてよぉ……っ」
最後には、すすり泣く声だけが響いていた。
18:20追記:一部表現を加筆・修正。