ソードアート・オンライン ラフコフ完全勝利チャートRTA 2年8ヶ月10日11時間45分14秒(WR)   作:TE勢残党

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 スランプの沼に嵌っていたので初投稿です。まただよ(前中後編)
 曇らせ……曇らせってなんだ……?


16/n おま○け(中編)

 ――()()()()

 

 そう語るピトフーイの目は、確信に満ちていた。

 

「……同類。俺がか?」

 

 カラードは、努めて冷静に聞き返す。

 

 ピトフーイは()()()、攻略組が最初に補足した殺人プレイヤー。キリト達によって存在が推定されている者達と違って、複数の被害が確認されている"本物"だ。

 

 そんな存在に同類認定されると言うことは、つまり――

 

「あはははは!! 自覚ないとは言わせないわよ!? 一緒にいるそいつらは表の、正義気取りの連中だけど、あんたは違う! あんたは裏側、こっちの人間でしょ!!」

 

 周囲の者達が気圧され、何も言われないのをいいことに、ピトフーイの演説はヒートアップする。

 

「表に攻略組がいるみたいにね、裏にも裏なりに管理されちゃっててねー。自由な殺し合いとかどこにもなかったワケよ。だからこうして私が舞台を用意してあげようってワケ!」

 

「ねぇカラード。将軍だか政治家だか知らないけどね、アンタが裏で誰と繋がってるかくらい――」

 

「――ピトフーイ」

「ん。なんだい、少年?」

 

 演説を遮ったのは、能面のような表情のキリトだった。ピトフーイは心底楽しそうに、おどけた口調で応じる。

 

「お前の言ってたでっかい花火ってのは、これのことか」

 

 声から感情は読み取れず、しかしピトフーイを知っているかのような口ぶり。アスナにはそれが気がかりで、「キリト、くん?」と不安そうな表情を向けている。

 

「花火……花火、あぁ、言ったわそんなこと!! えっとね、そうだけどちょっと違うわ!」

 

 隠す必要は感じなかったようだ。

 

「スエーニョ達はそう、準備か、導火線みたいなもの! あんたたちが本命の花火よ! こいつら殺したお陰で、普段見えもしない強い連中がこーんなに!! 釣れちゃった!!」

 

 興奮気味に両手を広げ、踊るような身振り手振りを交えて語る。

 

「カラードも、アレックスも、キリトもアスナもジマも! "裏"のモルテたちだって!! アインクラッドの強いヤツが、雁首揃えて私のお祭りに参加してくれる!!」

 

「お祭り……?」

 

 それに反応したのは、やはりキリトだった。

 

「そうさ、盛大で、破滅的な、楽しい楽しいお祭りだ! 名前は"戦争"って言うんだけどね!」

 

 戦争。それを起こそうとする黒幕の台詞にしては、彼女はあまりにも軽薄で、しかしだからこそ十分な説得力を持っていた。

 

「殺人鬼の私! 正義を振りかざすあんたら!! そんで、面子を潰された裏の連中!! 駒は揃えた、理由もある! せっかくの自由な世界なのに、現実みたいなしがらみ持ち込んでんじゃないわよ! もっともっと楽しまなきゃ!!」

 

 戦争を楽しむ。そんなことを本心から言ってのける女を、攻略組の面々は理解できなかった。

 

「――そんなことのために、10人以上も殺したのか」

「え、うん」

 

 アッサリと認める。それを聞いて、キリトはいよいよ堪忍袋の緒が切れた。

 

 キリトが表情の消え失せた顔のままコンソールを呼び出し――アスナが、その手を掴んで止める。

 

「アスナ、頼む。退いてくれ」

「キリトくんダメだよ!! こんな、殺しなんて」

「こいつは、生かしておいちゃいけない」

 

 この数か月、キリトが鬼気迫る勢いでレベリングをしているのは、ある種の自傷行為に近かった。月夜の黒猫団を、サチを目の前で死なせたことを、彼はまだ乗り越えられていなかったのだ。

 

 キリトにとって初めて見るシリアルキラーを前に、キリトは怒りで我を忘れた。彼女が命を弄べば弄ぶほど、命の価値が、キリトの中に残る「サチの死」が、薄れていくような気がしたからだ。

 

「この人も殺しちゃったら、2層の二の舞に」

「こんなヤツ人間じゃ――」

「そこまでだ」

 

 衝動的にアスナの手を振り払おうとして――低く、よく通る声に阻まれる。

 

 味方すら一瞬竦みあがるほどの威圧感の元は、カラードだった。普段と違い、その巨躯が相応の畏怖を周囲に与えている。

 

「あっは! いいよいいよ~、そう来なくっちゃ!」

 

 ピトフーイは平常運転のようだが、どこか期待を込めた目でカラードを見ている。

 

「この場は俺が預かる」

 

 そう宣言し、キリトに代わってピトフーイにデュエル申請を送るカラード。

 

「ピトフーイと言ったか。()()()()()()()()()から、さっさとその茶番をやめろ」

 

 "茶番"の意味するところがキリト達に分かったのは、

 

「ちぇー、バレてたかあ」

 

 ピトフーイがぶーたれながら、アレックスの拘束をするりと逃れてからだった。

 

「っ!! オマエ今、何した!?」

「……そうカ、≪縄抜け≫!!」

 

 関節技から抜け出されて愕然とするアレックスと、ようやく事態を飲み込み始めたアルゴ。

 

 体術スキル500から解放されるスキルMOD(強化オプション)。体術を500まで上げている者自体は攻略組にも数名いるが、縄抜けと同時に開放されるMODには、大正義とまで言われる「見切り」が存在する。

 

 つまり、候補として存在することは知られていたが、実際の取得者はゼロと思われていたのである。思い出せただけでも、アルゴの知識量は驚異的と言えた。

 

「業腹だが、この女はここで倒さなければ、次は地下に潜って更なる悪事を働くだろう」

「分かってんじゃん♡」

 

 ピトフーイの顔が、凶暴に歪む。とてもそうは見えないが、心から笑っているのだ。

 

 事実、彼女はいつでも逃げられる状況で、態々こちらを挑発していたのである。カラードの判断に、異を唱えるものはいなかった。

 

 既に二人は武器を構え、臨戦態勢。

 

「ちょ、ちょっと待テ! 完全決着って、殺し合いじゃないカ!!」

「そうだ」

 

 カラードは平然と答え、ピトフーイもまた、ニヤニヤと凶暴な笑みを浮かべてナイフをいじっている。

 

「しっ、死ぬかもしれないんだゾ!? なんでそんな、アッサリ!!」

「「何を今更」」

 

 重なった声は、奇しくもカラードとピトフーイのものだった。

 

「勝てばよし。負ければ死ぬ。ボス戦と変わらん」

「そういうとこが同類なんじゃん、どうやら私たちは"親友"のようだね!!」

「ほざけ」

 

 これから殺し合いをしようと言うのに、何ら気負いなく相対する二人。

 

 キリトを宥めるのに必死でこちらには意識が行っていないアスナ。

 

 後方、訳知り顔で腕を組んでいるアレックス。

 

(あ、レ? オイラがおかしいのカ!?)

 

 この場にいるのは、アルゴ以外全員が、攻略組の最前線で戦う戦士たち。

 

 アルゴとて、想い人を死地に送り出す身。自ら最前線に出向いて単独調査を行うこともある。だが彼らほど……攻略組ほど、血に()()()()()()()訳ではない。

 

 攻略組とそれ以外の者達の間では、"殺し合い"に対する温度差が大きくなりつつあるのだ。

 

 所謂ところの――住む世界が、違う。

 

「カー、くん」

 

 それを認識したアルゴは、それ以上文句を言うのを止めて、カラードに歩み寄り――カラードに背中から抱き着いた。

 

「死なないで、くれヨ」

「勿論だ」

 

 鎧越しで体温を感じることはできないが、そこに確かにいるカラードを全身で感じる。

 

 たった数秒。アルゴは感じ入ったように背中に縋りつき、「ありがとナ」という言葉と共に身を引いた。

 

「ねーそろそろいーい? いやー、感動のシーンを邪魔しないとか私ってば紳士~♪」

 

 空気を読んでいるのか読んでいないのか、ピトフーイのそんな気の抜けた言葉で、彼らの殺し合いは始まった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「……凄い」

 

 口をついて出た言葉は、誰のものだったか。

 

 その場にいた全員が、家探しを終えて戻ってきたジマ達さえ、その戦いに目を奪われていた。

 

 二本の短剣による絶え間ない連撃を、受け流し、弾き、躱し、そのすべてに、カウンターでもって返す。重厚な鎧と相まって、その鉄壁ぶりはかのヒースクリフにも匹敵しうる。

 

 一方で、その"鉄壁"の隙間を縫うように、針に糸を通すが如き精密無比な連撃を続ける女。小柄な体躯をものともせず、むしろ軽やかに斬撃をかわし続ける。

 

 筋力値の差から見て、直撃どころか、短剣で受けることさえまともに出来ないというのに、彼女は慄くどころか、却ってそれが戦意に繋がっているようだった。

 

 既に剣舞は数分に渡って続いている。これは、カラードにとって予想外の事態であった。

 

 ピトフーイの強さは、以前のアレックスに聞いたことがあった。β当時の彼女より明らかに格落ちであって、同じ四天王の括りに入れられるのは心外だったと。

 

「中々どうして、やる」

 

 ピトフーイの突撃を弾き返し、()()()()()()()()()彼女を賞賛する。

 

 ただ「勝つ」というだけなら、他にも手はある。態々正面から戦ったのはカラードなりの「接待」だったが……彼女もまた、独力でアレックスと同じ境地にたどり着いているようだった。

 

 予想外の粘りはそのせいだろうと結論づけて、彼はギアを一段上げることにした。

 

 鎧の耐久値は、()()均等に減っている。

 

 ――一方で、ピトフーイは狂喜していた。

 

 MTD大幹部、カラード。表でも裏でも、ピトフーイが暴れようとするたびにその影がチラつき、動きを制限されて来た。ならばと逆に煽ったのが功を奏し、今こうして戦っている。

 

 と、自分では思っていた。

 

 カラードが纏う空気が変わったと、それを認識した時には、ピトフーイは右腕を切断されていた。

 

「きひ♡」

 

 だが、ピトフーイにとって危地は、スリルは興奮の材料でしかない。

 

 何の躊躇もなく左で攻撃を再開しようとして――その左手が、()()()()()()()ことに気づいた。

 

「ぁ、れ?」

 

 現状を認識するより早く、カラードの左手が彼女の首を掴み、そのまま建物の壁に叩きつけられる。

 

「が、ぎっ……」

 

 ギリギリと、片手とは思えない膂力で首を絞められ、両腕の無くなった体で懸命に抵抗しようと足をばたつかせる。

 

 今理解(わか)った。彼は化物だ。

 

 数分間、互角の勝負を繰り広げた気でいた。だがここまでの自分は、明らかに遊ばれていたのだ。

 

「あ゛、ひゅっ、ぎ、ぃ♡」

 

 ゆっくりとつま先立ちになり、やがて両足が地面を離れる。華奢な体が、ジタバタと抵抗しながら持ち上げられていく。

 

 残り体力はおよそ2割。両腕の欠損が回復するまで、恐らく1分以上ある。あまりにも長い。

 

 首を絞められ、コールによる結晶利用も、降伏宣告も不可能。この瞬間、彼女は抵抗手段が全て失われたと気づいた。

 

(――あぁ、そっか)

 

 私、こういう風に死ぬんだ。

 

 そう認識した途端、ピトフーイは得も言われぬ興奮に身を焼かれた。

 

「か、ひゅ、ぁは、ひひっ♡」

 

 両腕を切り飛ばした幼児体型の女を、首を締めながら持ち上げる大男。

 

 抵抗してこそいるが、それ以上に興奮した様子で、ともすれば性的快楽すら得ているのではないかという恍惚とした顔の華奢な女。

 

(あぁ、これが、これが――"死"の味か!!)

 

 黒目が縮み、目の焦点は定まらず、だらしなく開いた口からよだれを垂らし、嗤う。

 

 さながら危ない薬でトリップしたようなピトフーイが、最後の理性を振り絞って、自分に"死"を与えてくれる相手の顔を見て――

 

「死ね、ピトフーイ」

 

 明確にぶつけられた殺意と、目線。

 

 それが最後の引き金となり、彼女の興奮は限界を超え――意識は、そこで途切れた。

 

「……両手を落とした手前、カーソルは動かせんか」

「仕方ない。降参する」

 

 そんなカラードの声は、ピトフーイの耳には入っていなかった。




???「強さこそが正義なら、もっと強いやつにボコボコにされれば満足なのか?」
アレックス「うん!!!」

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