ソードアート・オンライン ラフコフ完全勝利チャートRTA 2年8ヶ月10日11時間45分14秒(WR)   作:TE勢残党

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 書いててクッソ長くなったので前後編に分けて初投稿です。


3/n おま○け(前半)

 茅場晶彦がデスゲーム開始を宣言してから、今日で三週間になる。

 

 だと言うのに、プレイヤーたちは未だ第一層すら攻略できていない。

 

 しかし今日、ついに第一層ボス攻略会議が招集された。

 

 招集を受けた者、応じた者は、無所属のソロプレイヤーたちを除くと大きく4つの派閥に分けられる。ディアベル、キバオウ、エギルがそれぞれ率いるグループと、MMOトゥデイ、MTDの精鋭だ。

 

「オレはディアベル! 職業は、気持ち的にナイトやってます!!」

 

 円形の青空会議場の中央に立ち、小粋なジョークで場を和ませたディアベルこそ、この場を主催している攻略組の筆頭格だ。曰く彼らのパーティーが今日、ボス部屋の所在を発見したのだという。

 

「話にゃ聞いてましたけど、随分コミュ力高そうっすね」

 

 会議場の外周、≪ジマ98≫……ジマと呼ばれている男性プレイヤーが、隣に座るカラードたちに話し掛ける。彼はカラードに見出されたMTDメンバーの一人で、自身の豊富なMMO経験と天性のセンスを活かし二週間で攻略組に追いついて見せた才人だ。

 

「あんたと違ってね!」

「勘弁してくださいよ……」

 

 茶々を入れた≪ユウママ≫は、自らMTDの門を叩いた後発組プレイヤーである。SAOでは珍しい女性であり、リアルでは主婦だという彼女は、しかし凄まじいタフネスを発揮して過酷なレベリングを完遂。遂には攻略会議に参加するに至った。

 

 この2人にカラードを加えた3名が、MTD勢力の陣容だった。MTDはこの2週間で急速に拡大、始まりの街では知らぬもののいない規模にまで成長したが、彼らの目的はあくまで後発プレイヤー間の相互扶助。最前線に出られるほどの手練れはほとんどいないのが現状であった。

 

「ちょお待ってんか!!」

 

 攻略会議は恙なく終わるかに思われたが、それに異を唱える者もいた。

 

「こん中に、今まで死んでいった1000人に詫び入れなアカン奴がおるはずや!!」

 

 キバオウと名乗る男の主張はこうだ。

 

 この中には初日以来、初心者たちを見捨てて自己強化にいそしんできたβテスターたちがいる。彼らのリソース独占により、後発プレイヤー達は苦しんできたのだと。

 

「そいつらに土下座さして、ため込んだ金やらアイテムやらを吐き出してもらわな、パーティーメンバーとして命は預けられんし、預かれん!」

 

 それだけ聞くと、一理あるように思えてしまう主張。故に一般プレイヤー、いわゆるビギナーの中には、彼に同調する者も多くいた。

 

「あれ、でもカラードさんは――」

「バカ! 黙ってろって言われたでしょ!」

 

 口を滑らせようとしたジマを、ユウママが制する。カラードはと言えば、疑われるのを避けるためか一切動じず、事の成り行きを見守っている。

 

(この状況で元βとして面が割れるのは避けたい、最悪バレるにしても、情報元は身内じゃないのが絶対……だっけ)

 

 カラードが元βテスターであるという事実は、MTD内部でも最前線に出る二人とシンカーにしか知らされていない。カラードは今の反β感情を見越して、自分の名前を出来る限り伏せるのと引き換えに協力を約束しているのだ。

 

(なるほど、あいつが言ってたのはこういうことか……!!)

 

 一方キリトは、初日にカラードから言われたことを思い出していた。カラードはあの時からこれを見越していたのだろう。「Mob以外の敵」とはつまり、プレイヤー同士の仲間割れ。

 

 ついさっきも挨拶してきたあの男には、一体何がどこまで見えているのだろうか。

 

「発言いいか?」

 

 彼らが何もできずにいると、プレイヤーの中から一人の男が現れた。

 

 エギルと名乗った男はどうやら外国人らしく、黒い肌に禿頭の大男である。かなりの威圧感があり、キバオウも少し気圧されている。

 

 エギルが取り出したのは、アルゴの刊行している攻略本。「大丈夫、アルゴの攻略本ダヨ」をキャッチコピーに、あらゆる町の道具屋で無料配布されている情報雑誌だ。

 

 情報の速さから見て、情報元は恐らくβテスター。それは後発の一般プレイヤーから見てもわかることだった。

 

 βテスター(かれら)は、一切の情報を独占した訳ではなかった。そうエギルは主張した。

 

「いいか、情報はあった。オレたちビギナーにとって、これ以上のギフトはない。ビギナーが死んだのは、彼らがSAOを他のMMOと同じ物差しで測り、引き際を見誤ったからだ」

 

 そう主張するエギルに、キバオウは反論できずにいた。

 

「……勝負あったわね」

 

 外周に座るアスナが呆れ気味の口調で断じる。隣のキリトも、近くに座るMTDの二人も概ね似たような考えだった。

 

 いつの間にか消えていたアルゴがこのタイミングで1層ボスの攻略情報を持ち込むなど波乱はあったものの、結局はディアベルのとりなしによってその場は収められる。

 

 ただ、彼らの反β感情は、間違いなく強まりつつあった。

 

 険悪になった空気を振り払うように話は本題に戻り、レイドの構成へ。

 

 ディアベル達やキバオウ達のような大規模グループはともかく、小規模グループやソロプレイヤーはこの場でパーティーを組み、連携を訓練しなければならない。

 

 キリトのようなソロプレイヤー(ぼっち)にとって、それはあまりにも難しく――

 

「手が空いてるならうちに入らないか」

 

 ――カラードが声を掛けなければ、キリトは間違いなくあぶれていただろう。

 

「お、カラードさんまた拾いモノっすか」

「いや、初日に一度共闘した。かなりの腕だ」

 

 自身も拾われた身であるジマは、今回もカラードお得意のスカウトだろうと思ったが、返ってきたのは予想外の返答。

 

「カラードさん基準で『かなり』っすか……」

「頼もしいね! 君、名前は?」

「あ、ああ。キリトだ」

 

 キリトは安堵と緊張が入り混じったような態度だが、恐らくこの場で最も対Mob戦に優れたプレイヤーだ。ちやほやされる内に慣れるだろう。

 

「後は、彼女も入れれば5人か」

 

 そんなことを思ってか、カラードはさっさとキリトから視線を外し、もう一人座っている「半野良」プレイヤーへの勧誘を試みる。

 

 MTDに加入はせず、しかし一部支援を受けながら単独で最前線までたどり着いたので「半野良」。今のアスナは、そんな微妙な立場に落ち着いていた。

 

「そっすね。えーっとじゃあ、カラードさんお願いしていいすか?」

「そこで自分で誘えないからジマくんはジマくんなのよ」

「何すかそれ、俺がヘタレみたいじゃないすか」

「違うの?」

 

 いつも通り騒がしい二人を尻目に、カラードはアスナの方へ。

 

「喧しくてすまん。君さえよければ、我々のグループに入ってくれないか」

「え、あ……カラード、さん」

 

 アスナは10日ほど前、「西の森に隠しログアウトスポットがある」というデマに踊らされて死に掛けたことがある。

 

 その時助けに来て、さらにMTDを紹介までしてくれたのがカラードだった。

 

 アスナ本人は後で知った話だが、その噂を流していたのは「鼠」のアルゴの名を騙る偽物であり、それを聞きつけた「本物」と共に慌てて駆け付けたそうだ。こう言ってはなんだが、アスナから見て随分と仲が良かった気がする。

 

 そこで二人に励まされたアスナはついに現実を受け止め、今までと一転してゲーム内で強くなることを目指し始めた。

 

 カラードの薦めで一度はMTDの厄介になったアスナだが、その攻略最優先の姿勢がMTDの方針とは合わないということで結局、数日前に離脱している。なので少々カラードには話しかけづらい状況にあった。

 

「出て行ったことについてなら、誰も気にしていない。そうだろ」

 

 そんな胸の内を見透かされているのか、カラードは真面目くさった顔でそんな台詞を言う。短い付き合いだが、彼は不器用そうに見えてその辺りの機微はキチンと理解している男だとアスナは知っていた。

 

 もちろん、こんな自分をわざわざ気に掛けるお人好しである、ということも。

 

「んまあ、結局攻略するのは一緒なんだから、どういうやり方でもいいんじゃないっすか」

「ま、そういうことさ。またボス攻略では協力しようよ」

 

 カラードの発言に、二人のメンバーも同調する。身内ではなくなったかもしれないが、最前線にいる以上戦友には変わりない。MTDは今や、治安が悪化傾向にあると言われる始まりの街でトップクラスに民度の高い集団としても知られつつあった。

 

「……はい!」

 

 まだ15歳のアスナだが、MTDの態度を見て、出て行っても戻る場所があることのありがたみを骨身にしみて理解した。

 

 こうして、MTDとソロプレイヤー二名による即席の対ボス部隊が結成された。

 

 この後、キリトが初対面の美少女(アスナ)を宿に連れ込んだとの噂が出て火消しにかなり苦労するのだが、それは別の話である。

 

 

 

 

 

 

―――おまけのおまけ:現在公開可能な情報―――

 

・MTD

 MMOトゥデイの略。シンカーが立ち上げ、代表を務める巨大なプレイヤー互助会。始まりの街を拠点にしている。

 最序盤のプレイヤーたちの補助、強化、情報共有を目的として設立され、1層攻略会議現在シンカー、カラード、ユリエールの三幹部によって運営されている。

 名実ともにアインクラッド最大規模を誇る一方、構成員の大半はいわゆる「引きこもり」であり、最低限の食事の支給こそ実現しているものの経営面は芳しくない。現在攻略組レベルの実力を持つとされているのは、幹部でもあるカラードおよび配下の戦闘員二名のみである。

 なお、ギルド結成クエストは3層でしか受けられないため、彼らはまだギルドではない。

 

・ユリエール

 原作にも登場している、シンカーの副官の女性。女性の割にとても背が高く、言動も堅め。

 カラードが探し回っていたところ、シンカーがひょっこりと見つけてきた。その後高い事務処理能力を評価され、本作でもシンカーの副官として幹部の地位にある。

 カラードの手ほどきにより急速に戦闘能力を身につけつつあり、カラード、ユウママ、ジマ98に続く生え抜きの攻略組候補としても期待されている。

 

・ユウママ

 MTD所属の女性両手斧使い。アラフォーだが、まだまだ通用する容姿をしている。

 リアルでの職業は主婦で、8歳と5歳の息子がいる。当初は救助を待っていたが、1週間経っても助けが来なかったので諦めて自分で攻略することにした。

 結婚して家庭に入るまでは金融系ブラック企業の営業担当だったため、4時間寝て18時間働く生活を数週間続けられるタフネスを持つ。それとMTDの情報網を活用して徹底的な訓練とレベリングを行い、後発組かつMMOに不慣れながら1層の攻略会議に追い付いてのけた。本名は朝倉裕香。

 

・ジマ98

 MTD所属の両手槍使い。大学生。田舎の若者といった感じの垢抜けない風貌。

 天性のゲームセンスの持ち主であり、自他共に認めるネトゲ廃人。saoのβテストにこそ受からなかったが、高校時代から別のMMOでトッププレイヤーだった。

 高校の同期だった当時のギルドメンバーの中でsaoを入手できたのは自分だけだったので仲間もおらず、ヘタレな性格が災いして一人で慎重すぎるくらいのレベリングを行っていたところをカラードに見いだされる。その後MTDの力を借りて才能が開花、2週間で攻略組に追い付くほどのプレイヤースキルを見せた。本名は野島拓哉。

 




 後編は明日。

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