ソードアート・オンライン ラフコフ完全勝利チャートRTA 2年8ヶ月10日11時間45分14秒(WR) 作:TE勢残党
クッッッッソ久しぶりにR18版も更新したから見てってくれよな。
『あたしを欲しいっていうパーティーは、他にも山ほどあるんですからね!!』
――あんなこと言わなきゃよかった。
パーティを抜けるにしても、せめて街まで待てばよかった。
シリカの脳内には、後悔ばかりが渦巻いていた。
アインクラッド第35層。最前線から17層も離れているが、ここを主な狩り場にしているのは、いわゆる中層プレイヤーのなかでも上澄みだ。
日銭稼ぎと、レアアイテム探しと、あとはぶっちゃけ暇潰し、あるいは日常を彩るほどよい刺激。そういうものを求めて見知らぬ者とパーティーを組み、数日単位で冒険をする。それが今の、シリカの日常だった。
偶然にも、フェザーリドラという超レアモンスターのテイムに成功し、ピナと名付けた。
若く、容姿に恵まれ、皆がちやほやしてくれる。
そんな環境で過ごした日々は、13歳の少女を慢心させるには十分だった。
自分とピナだけでも、この迷路を突破して街に帰るくらい造作もないと思っていた。
それが、この結果を招いたのだ。
「グルルルル……ガァッ!!」
眼前には、ここ≪迷いの森≫で最強と言われる人型モンスター≪ドランクエイプ≫が3体。バランス良く高い能力に、腰に下げている酒の入った壺という回復手段まで持ち合わせている難敵だ。
夜になるとこいつが複数で出てしまうから、35層の探索は夕方までに切り上げるのが鉄則である。
シリカもまた、今日迷いに迷って夜を迎えるまでそうして来た。
だから対応の経験がない。
「きゃっ!」
羽子板のような木剣を大振りに叩きつけてくる。かわすのは難しくないが、直撃すれば大ダメージは免れないだろう。その懸念が、彼女から余裕を奪う。
辛うじて回避には成功した。だが体制を崩した彼女には、"次"を振りかぶった二体目の攻撃を捌く余力は残っておらず――
「きゅるっ!!」
――その小さな体を盾に主人を庇ったピナが居なければ、クリティカルにより彼女の身は危なかっただろう。
「ピナっ!!」
生々しい音を立てて地面に叩きつけられ、転がっていくピナ。
テイムされたモンスターというのは、総じて小動物であるから体力が低い。ゲージを見るまでもなく、即死だった。
「ピナ、ピナっ!!」
シリカの呼びかけも虚しく、ピナはひとしきり苦しそうに鳴くと、その身体をポリゴンへと変えて散って行った。
「そんな……」
シリカがへたり込んでいる間にも、敵は行動を続けている。
既に硬直の終わった最初の一体を含め、≪ドランクエイプ≫達は再び木剣を振りかぶる。
が、その切っ先がシリカの体を打ち付けることはなかった。
背後から叩き込まれた
他の二匹がそれに気づき――システム的には、たった一撃で与ダメージがシリカの戦闘開始からの総量を上回り――ヘイト、すなわち意識を剣の持ち主へと向ける。
二匹の目が最後に映したのは、笑いながら剣を振りかぶる若い男の姿だっただろう。
「ぁ、え……?」
三匹全てがポリゴンと化してなお、シリカは状況を飲み込めていなかった。
「さて、と……怪我ない? だいじょぶ?」
「あ、は、はい……」
シリカのHPゲージは、この段階でも注意域には入っていない。ピナが最後にかけた回復ブレスのお陰だ。
故にシリカには、ピナのことを悲しむ余裕はあった。
そして男は、それを
「っと……ごめん。その子、助けらんなかった」
「っ! い、え、私が悪かったんです」
二人の間に重苦しい空気が流れようとした所、男の方が言葉を繋げた。
「……ピナ、って言ってましたっけね。アイテム欄、ピナの心ってアイテムないですか?」
のそのそとアイテム欄を確認。見つけた「心」をアイテム化してみると、輝く水色の羽毛――ピナの羽根が、シリカの手元に現れた。
「……っ!」
「待った待った、それがあるんなら蘇生ワンチャンありますよ!!」
敬語とタメ語を混ぜて軽妙に喋るその男は、きっと元々はお調子者なのだろう。
苦手なりに真面目な話をしているのがシリカにも伝わったのか、あるいは単に助けてもらったことで気を許したのか。彼女はすんなりと彼の言を信じていった。
「お、シリカちゃん発見!」
「今度パーティ組もうよ! 好きな所連れてってあげるから!!」
「す、すみません、今はこの人とパーティー組んでるので」
シリカから見て、この男は命の恩人に当たる。
「じゃあ、シリカちゃんはMMOはSAOがはじめて?」
「はい」
「人が入ってるからには悪いヤツもいますからねえ。詐欺にカツアゲ、≪レッド≫とか言われてる酷いのになると、他のプレイヤー
「やるって、殺すってことですか!? そんなこと……」
「まあそういう連中は頭のカーソルがオレンジ色なんで、
一人でいて、支えだったピナも失った彼女が、テイムモンスター用の蘇生アイテムを一緒に取りに行ってくれるという彼に急速に懐いていったのは、ある種当然の成り行きだっただろう。
「それで、明日はこのルートを通って≪思い出の丘≫まで……」
「えっと、どうしてここまでしてくれるんですか?」
「え? 当たり前じゃないですか、男ってのはかわいい女の子の前でカッコつけるようにできてんですよ」
「か、かわ……えへへ……」
その裏で、普段のトレードマークである鎖頭巾を外した男――
◆◆◆
「良かったですよ、
47層フィールドダンジョン≪思い出の丘≫を踏破し、プネウマの花を手に入れた帰り道。
モルテはその軽快な剣捌きと的確な指示でシリカの身を守ってみせた。何度か触手にからめとられてスカートの中が露わになることはあったが、彼女のHPは結局、1割と減少しなかった。
「できそう……そうですね、ピナを生き返らせるまで、油断しないようにしなきゃ」
下着を見られたのは大変恥ずかしかったが、それはモルテを意識していればこそ。
帰ったら遂に蘇生が叶うとあって、シリカは相変わらず上機嫌であった。
「お、いいとこ気づくじゃないですか」
むん、という効果音が出そうな気合の入れ方をしているシリカを、モルテは笑って褒めると――
「って訳なんで、そろそろ出てきたらどうですか? 隠れてる皆さーん?」
すっと鋭い目つきに変わり、誰もいないように見える雑木林へ声をかけた。
およそ1秒空けて、観念したように出てくる人影が一つ。
「え……ロザリア、さん?」
「フィールドダンジョン入口の一本道で待ち伏せて、大人数で包囲。基本は出来てるって感じですね」
現れたのは、シリカと前にパーティーを組んでいた槍使いの女。
ウェーブの掛かった赤髪を揺らして、二人の前に立ちはだかる。
「わざわざ聞き耳スキル持ちまで用意してターゲットの行動を割り出すのは高得点ですよぉ?」
「ハッ! ちょっとタネを見つけたくらいで偉そうに。大体、そこまで分かっててその子に付き合うなんて、バカ? それとも本当に誑し込まれちゃった?」
今までよりも刺々しいロザリアの言動、すべてを見抜いていますと言わんばかりのモルテ。シリカは事態が呑み込めず、おろおろしていた。
「やー、どっちでもないっすねえ。そもそも俺の目的はあんたですから。新進気鋭のオレンジギルド、
シリカとロザリアの表情が、目に見えて強張る。ロザリアの「何をどこまで知ってるんだ」という問いを隠そうともしないその顔に、モルテは渾身の嘲笑で答えた。
「あれ、ひょっとしてバレてないとでも思ってたんですかぁ? 昨日顔合わせた時点で即バレに決まってんでしょ! あんた有名人なんだから、身バレには気を付けなきゃ!! ……で、俺は"皆さん"って言ったはずなんですけど。他の人達はダンマリで?」
「チッ……出な!」
挑発と、合図。それに合わせて、雑木林からさらに数人の若者たちが現れる。
「ひっ……あの、カーソルが!」
その大半は、頭上のカーソルがオレンジ色。犯罪プレイヤーだ。
「大丈夫です。俺の傍から離れないで」
さりげなくシリカを庇うように後ろに下げ、モルテは8人のプレイヤー達と対峙する。
「随分自信があるみたいだけど、この人数に勝てるとでも思ってんの?」
「トーゼン。思ってるに決まってんじゃないですか」
モルテお得意のヘラヘラとした笑みに、段々と凶暴さが付与されて行く。シリカはその様子を、困惑しながら見つめることしかできなかった。
「はっ! あんたがどれだけ強いか知らないけどね、攻略組でもないだろうに1対8で勝てる訳が――」
「あれ、もしかして気づいてない……?」
わざとらしく問いかけた直後、さも今気が付いた風に大げさなリアクションを取って見せるモルテ。
「ぶふっ、くくく……いや、ふふ、すいません、まさかこの程度のハイディングで隠し通せるなんて思ってなくて!」
パチン、というモルテが指を鳴らす音。
その瞬間、ロザリアとモルテ達をぐるりと取り囲むように、十数名のプレイヤーが現れた。
「話が違ぇじゃん! 後ろから刺して一人くらい殺す算段だったろ!」
「あはは、スイマセンて」
ジョニー・ブラックと、配下の隠密部隊5人。
モルテ指揮下の戦闘部隊9人。
カーソルの色は、全員オレンジ。
「あ、あ……あんたら、まさか……」
ロザリアの槍を持つ手が、カタカタと震え出す。
オレンジギルドを率いる彼女にとって、その存在は余りに大きく、強く、そして恐ろしい。
彼女ら自身、"あの演説"に触発されて犯罪稼業を本格化させたのだ。
「ああ、自己紹介がまだでしたねえ」
いつもの鎖頭巾を被り直したモルテは、両手を広げて得意満面、ご満悦。
どうやらこの登場シーンは、彼の演出によるところらしかった。
装備を外してす、と掲げた左腕には、小さな棺桶の入れ墨。
「俺は
この一言だけで、相手は戦意を喪失したようだった。
「ま、待ちな! スカウトって言ったね! あたし達を殺しに来たんじゃないんだろ!?」
いち早く放心状態から回復したロザリアが、泡を食って確認にかかる。彼女らとて人の子……いやむしろ、自己中心的であるからこそ、生存のためなら何でもするという心意気は人より強い。
「お、ちゃんと頭回ってますね。モルテポイント1点あげちゃう。そう、あんた等が中々ガンバってるみたいなんで、ウチの傘下に入れてやろうと思ってきたんですよ」
最大手による、吸収合併の提案。
「傘下と言っても、あんたたちがやることは今までと変わりませんよ。ただ定期的に、シノギの一部を俺達に上納してもらうってだけです。その代わり、ラフコフの名を出すことが許される。きっと今より稼げますよ?」
彼女たちは知らなかったが、現在のラフコフは同様の手段で、アインクラッド中の犯罪組織をその傘下に加えていた。
「…………イヤだって言ったら?」
「話し合いで解決しないんなら……次は殴り合いですよね」
モルテの言に合わせて、戦闘部隊の面々が武器を構える。
武器種の違いこそあれ、モルテとジョニー以外は全員が同シリーズの武具で揃えている。中層を縄張りにしているタイタンズハンドの目線で見ても、非常に質が高いのは分かった。
それもそのはず。彼らは皆、SAO最高の鍛冶屋集団「エッジウォーカー」の作ったプレイヤーメイド品の武具で全身を固めているのである。ロンゲン商会という横流し経路と、賭博や売春などの資金源の賜物であった。
それを確認したタイタンズハンドの面々は、話し合いもなしに一つの結論に達する。
自分たちはもはや、彼らの言いなりになる道しか残されていないのだと。
それを察した彼女らは、皆装備を解除して膝をつき、本人なりのやり方で忠誠心を示す。
ラフィン・コフィンの勢力が、また一つ拡大したのだ。
「うんうん、勝てない相手にケンカ売らないの大事ですよ~。やっぱり俺が見込んだ通り、こいつらは使えそうですね。じゃあロザリアと、シリカちゃん」
「は、ぇ?」
目の前で起きている事態が許容量を超えたのか、シリカは完全に放心してしまっていた。
「付いてきてくれます? ボスに挨拶がありますからね」
「あ、ああ……じゃない、はい。わかり、ました」
ほい転移結晶、と軽々しく高価なアイテムを押し付け、ロザリアは素直に受け取る。
「…………か」
「ん?」
「あたしを、だましてたんですか」
一方のシリカは、ようやく問いかけることができたようだ。
彼女に言わせれば、「私のたった一日だけのお兄ちゃん」。
それほど慕っていた異性が、シリカでも知っているほど悪名高い殺人ギルドの幹部だった。
「まさか!
「ぶっ!! そりゃ流石にひでーってモルテ!!」
「うるさいですね!」
ひとしきり言い合ってから、下卑た笑い声をあげる幹部たち。
シリカは目から光が消え、その場にへたり込むことしかできなかった。
「あと、多分トップは今回の件の見せしめかねてすげ替えになると思うんで。あんたら二人は行先一緒ですよ。ウチの
「す、すげかえ……」
話を聞くほどに、ロザリアは顔を青ざめさせていく。蛇の道は蛇と言う様に、「ラフコフ」に逆らった者がどうなるか、一番よく知っているのは犯罪者だ。特に、女であるロザリアは猶更だろう。
「い、嫌だ! 備品は勘弁して! ねえ、こうして会った仲じゃない! あ、あなたの情婦になってもいい! だから――」
ラフコフの「備品」になるという末路がどういうものか。それを朧気ながら知っていて、だから必死になる。
「いや、そういう話じゃないんですって。俺らに剣向けてんだからケジメはいるでしょ? はい決定事項ね」
「何でもします!! 望むなら■■だってするし■■■だって舐めます!! ■■■も■■■も好きなように使っていいです!! だからそれだけは――」
それまでの気の強そうな印象はどこへやら、四つん這いでモルテに擦り寄り、縋りついて懇願するロザリアを、
「うるせぇんだよペチャクチャと」
いつの間にか片手剣から切り替えた手斧で、思い切り打ち付けた。
「が、ぎっ……!?」
「あんまりグダグダ言うんだったらこの場でブチ殺すぞ。慰安と広告はそっちのシリカちゃんが本命で、お前はスペアなんだよ。ないならないで別にいいの。それを生かしといてやろうってのにさあ」
首元に突き立てた斧をグリグリと回しながら、普段のヘラヘラした声から一転、ドスの効いた声で語りかける。
「おいHPなくなるぞ? 死ぬよお前? どうすんの?」
「は、ひ、いぎぃ」
「どうすんのって聞いてんだよォ!!」
「な、なる! なります!!」
「"やらせてください"だろぉ!?」
「や、やらせてください!! 備品に、なりたいです!!」
その言葉を引き出した瞬間、モルテは今までの剣幕が嘘だったかのように斧をひっこめ、にこやかに対応しだした。
「よし! もー、最初からそう言えばいいんですよぉ。……あれ、シリカちゃんは?」
「……あんたの"詰め"見て気ぃ失ったからさっさと運ばせたよ」
モルテの問いに答えたのは、タイタンズハンドの面々をせっせと麻痺させていたジョニー・ブラックだった。
信頼していたはずの男による詰めがよほど怖かったのか、あるいは目の前の現実が受け入れられなかったのか。シリカは完全に気を失った状態で座り込んでいたのだ。恐らく数時間もあれば、問題なくラフコフの本拠地まで送り込まれるだろう。
今回の目玉は彼女でもある。あの人気と美貌と若さをつかえば、ラフコフにもっと人を呼び込めるかもしれないのだ。
「お、そっか! したらこれで仕事終わりですね!」
そのシリカが回収できたのなら、もうここに用はない。
あれだけ脅されれば、タイタンズハンドの面々は必死になって仕事をするだろう。ヘマをすれば、次は自分がロザリアのようになる番だ。
彼らは元々、カネのために殺しができる貴重な面子。ロザリア以外に締め付けをする気はないが、成果を出すまでは贅沢させない、というのがPoHの方針であった。
「折角なんでメシ食って帰りましょうよ!! あ、ロザリア以外のメンバーには追って指示出しますんで、とりあえず解散で。連絡先はロザリアが知ってるでしょ」
(オレ最近、コイツのキレ芸が怖くなってきた……)
その場に配備されていた戦闘部隊の心情を代弁しつつ、ジョニーはモルテと共に最寄りの圏外村へと引き上げていったのだった。
後日、カラードのもとに一通のメッセージが届く。
内容は暗号化されていたが、要約するとこうだ。
――作戦は成功。タイタンズハンドは解散し、ラフコフ傘下に入った。
よって本件依頼料として、シリカを受領する。
いい取引だった。イッツ・ショウ・タイム。
制式装備があると一気にチーム感が増すよね。
それが鎧とかだったら立派な騎士団の出来上がり。