ソードアート・オンライン ラフコフ完全勝利チャートRTA 2年8ヶ月10日11時間45分14秒(WR) 作:TE勢残党
16日の朝にR18版も更新したから見てってくれよな。
2023年、12月24日。
アインクラッドも冬が本格化し、攻略組は雪中行軍を強いられることも増えてきた。彼らにもきたる年末年始に向けてなんとなく浮足立った空気はあるが、ギルド単位でちょっとしたパーティーを開く程度で、祝いごとへの意識は低い。
そもそも最前線に来ているようなプレイヤーは、大抵が年季の入ったゲーマーである。傾向的に、この手のイベントに馴染めない者が多いのも必定であった。
故にアインクラッドでは、最前線に近づくほどクリスマスの浮かれたムードが消えていく……と予想されていたし、実際去年はそうだった。
「ポイントF、G、K報告来ました。イベントフラグ発見できず」
「ポイントJはモミの木ではありませんでした。ガセです」
「録音したクエスト台詞のテキストデータ化、完了しました。全員に読ませて解釈聞いてみます」
クリスマス限定イベントに攻略組全員が挑むことになるとは、誰も予想していなかっただろう。
アインクラッド第56層、完成して間もない聖龍連合(DDA)の本拠地。
2階中央に位置するここ、大会議室では、アインクラッド立体マップを前に十数人がせわしなく動いている。皆、ギルドから選抜された情報処理の得意な者達だ。
大型の≪ミラージュスフィア≫によって映し出された3Dマップには、そこかしこにピンがさされ、次々とメモ書きが追加されては打消し線で消されを繰り返している。
聖龍連合が動かせる戦闘員の数は、実に500人近い。
これは少数精鋭を標榜する血盟騎士団は勿論、ほとんどが非戦闘員で占められているMTDと比べても圧倒的に多い。有望な中・下層プレイヤーを片っ端から「傘下」として勧誘・吸収し、攻略組昇進を餌に好き放題こき使っていた結果生じた副産物である。
だが結果的に、「中~下層で動かせる手駒の規模と練度」において、いつしか彼らは他の追随を許さなくなった。
1層を実効支配しているMTD。最前線で無双の活躍を見せる血盟騎士団。そして中層を自分の庭とばかりに闊歩する聖龍連合。勢力ごとに得意なフィールドの区分けが、なんとなく成立していたのだ。
そして今、その大人数が全て。文字通り全員、たった一つの目的のために動員されている。
クリスマス前でなくとも、前例のない異常事態であった。
「……やっぱり、マジなんですかね。あの噂」
不安げに問いかけたのは、会議室の一番奥の机、ギルドマスターの鎮座するそこの隣に立っているリンドだ。
「だからこうして探してるんだ」
5層の小競り合い以降人が変わったと称されるディアベルは、どこか「覇王」らしさを感じさせる鷹揚な調子で、副官の問いに答えた。
彼らの探しているものとは、とある「モミの木」だ。
今から遡ること1週間。「クリスマスイブ1週間前」がトリガーになったのか、各地のNPCが一斉に、とあるイベントボスに関する情報を喋るようになった。
――12月24日の夜、アインクラッドのどこかにあるモミの木のふもとに「背教者ニコラス」というイベントボスが現れる。そのドロップアイテムには、死者を蘇らせる究極の秘宝が含まれているという。
攻略組に激震が走った。
「すでにいくつものギルドが動き出してる」
それ以降、最前線60層の攻略はまるで進んでいない。
三大勢力が「1軍」を含め、蘇生アイテムを手に入れるために奔走しているからだ。
MTDのカラードなどは、「ドロップした者が所有権を得る」と断言した上で、個人資産から蘇生アイテムに300万コルもの懸賞金をかける徹底ぶりであった。これは、平均的な攻略組メンバー1人の全財産に匹敵する額である。
その存在を疑うものも多く居たが、少なくとも攻略組の大半は、蘇生アイテム確保のため、ニコラスが出現するモミの木――今のところ、ヒントさえ発見されていない――を血眼で探しているのであった。
クリスマスイブ当日になっても、候補が絞り切れたわけではなかったが。
「それとも、オレたちだけでボス攻略に行くか?」
あの日から滅多に笑わなくなったディアベルが横を向き、その厳格そうな顔を副官に向ける。
「い、いや、そう言う訳じゃ……」
「
だが、放たれた言葉はリンドの予想と違うものだった。
「アイテム一つに右往左往するのは軟弱。これも、わかる。そもそも死ななければいいんだ。……だが」
ディアベルの目が一層鋭く光る。
「オレたちはいつだって、優れた個人にリソースを集中させ、そいつらによって攻略を推し進める。そういう理念のために動いて来た」
じゃあ、最も大切なリソースって何だと思う?
そう問うたディアベルの真意を、リンドは一瞬考えて、
「……命」
この場における正解を、導き出した。
「そう。恐らくたった1人だけが、命を2つ持つことができる。これ以上のリソースは、オレには思いつかない」
ディアベルは、自分の意をきちんと汲める副官に機嫌を良くしながら語る。
「ならばその1人は、アインクラッドで最強の個人であるべきだ」
「……それが、ディアベルさんだと?」
「
その目は楽しそうに細められ、しかし光は宿っていなかった。
「これは単なるアイテムの取り合いなんかじゃない。その裏に、組織力も軍事力もリソースも何もかもを含めての"アインクラッド最強決定戦"という意義がある」
「だとしたら――不戦敗ってのも、恰好付かないだろ?」
だから総動員をかけたのだと。ディアベルは言う。
「で、ですけど……二番から六番隊までの連中、ディアベルさんに隠れて勝手に」
「知ってるよ」
副官の懸念を、しかし彼は意に介さなかった。
「言っただろ、"最強決定戦"だって。最終的に勝者は1人なんだから、組んだ時点でいつ裏切るかの話でしかない。誰だってそうするし……
元より彼らは、組んだ方が効率がいいから組んでいるだけ。
同士討ち歓迎。派閥争い上等。いつも誰かが誰かを出し抜く実力主義の個人主義。スタンドプレーが偶然連鎖することでしかチームワークが成立しない。それが聖龍連合であった。
ただ、その混沌の中をディアベルがずっと勝ち続けて、
"自分を最強と自負するからこそ、プレイヤーを代表して攻略を進めるのだ"
聖龍連合に共通するエリート主義を誰より実践しているのは、他ならぬディアベルだ。
「黒騎士」と呼ばれ、そしてカラードやヒースクリフから「
「ここの指揮は七番隊のサンダースに引き継ぐ」
ディアベルがおもむろに席を立つ。
「行こうリンド、
「……とっくにですよ!」
できている、と確信しての問いかけと、当然、と言わんばかりの返答。
"この人を勝たせてやりたい"が、"この人なら勝ってくれる"へ。
果たしてディアベルは、変わらずカリスマの持ち主だった。
◆◆◆
「……って感じだナー」
その日の夜。いよいよイベントボス登場を直前に控えた、第49層・ミュージエン。
「聖龍連合が一番ガチで探してて、それでも候補は絞り切れてないそうダ。MTDは1軍があちこちに散ってるけど見える範囲では成果ナシ、ただカーく……カラードの動きが、表だっては全くないナ。血盟騎士団は団長がアーちゃん、アスナに丸投げしてから本腰入れ出したんで周回遅れって感じダ」
各ギルドがいよいよ決戦前夜の雰囲気を出す中、いつものフーデッドケープ姿で「仕事」に勤しむアルゴ。
「……モミの木についての情報はないのか」
聞いているのは、どこか覇気の感じられない様子の、しかしある意味で殺気立っているキリトだった。最も的確に表すなら――そう、自暴自棄。
「金をとれるようなモンはないナァ。……オマエこそ、目星ついてんだロ?」
「さあな……まさか」
アルゴが珍しく聞き返したことで、キリトが一瞬意外そうな顔をして――直後、纏う空気が刺々しいものに変わる。
「お前、ひょっとして今の情報売ったのか」
「その情報は高くつくゾ、2万5千コルってとこだナ」
「……相変わらず、あくどい商売だな」
「ついさっき情報買ったヤツの台詞かヨ」
「…………ほら」
苛立つ手でコンソールを操作し、指定の金額をアルゴに転送。
「マイド♪」というイイ笑顔と声で、アルゴが重い――意図的に重くした――口を開いた。
「25万コル積まれて、
カラードの動きが表立っては全くない。その持って回った言い回しの正体が、これだ。本人なりの守秘義務と干渉していたのだ。
カラードではなく、カーくん。つまりそれは、聞き出すのに"プライベートな手段"さえ用いられたことを意味するのだろう。
「悪いナ、オレっちは普段、中立を目指してるんだけド……今回はちょっと事情が違うんダ」
ここからはサービスダ、と前置きして、アルゴは蘇生アイテムを取り巻く状況を語り出す。
「聖龍連合とMTDがかちあう可能性があったんダ。聖龍連合は強さのためなら何でもするし、MTDにはアレックスがいるだロ? 最悪殺し合いどころか、ギルド間戦争の可能性すらあル」
キリトは、心底どうでも良さそうに聞いていた。普段の彼からすればありえないことだ。
「変な決着の付き方したラ、それこそ取り返しが付かなくなル。だから、どっちかをさっさと勝たせる必要があっタ。オレっちの誇りに誓って言うガ、カラードだから教えたんじゃなイ。最初にキリト、オマエに目を付けたヤツに教えようと思ってたんダ」
「……そうか」
キリトは、それ以上何も言わずに立ち上がった。
「お、おイ! マジにソロで挑む気カ!?」
その問いに答えるものはいなかった。
サチの死を、キリトは一度乗り越えたように見えた。いや、実際に乗り越えつつあったのかもしれない。
「蘇生アイテム」などと言う劇薬が、「どうにもならないもの」として割り切ろうとしていた少年の心に「希望」を与え、古傷を抉るまでは。
――カラードは、その心理状態を読み切った上で、アルゴにこう説いた。
『今にして思えば、俺の対応が拙かったのだろう。今のキリトは、誰かに止められるまで暴走し続ける。多少強引にでも止めない限り、恐らくは死ぬまで』
彼女はキリトを、カラードに止めさせようとしているのだ。
攻略組レベルの戦闘力がある訳ではない、彼女なりの戦いであった。
「……オレっちは、気にしてないからナ。カーくんにしかできない仕事がいっぱいあるんダ。そっちを優先してくれて構わなイ」
カラードが多忙なため、アルゴはまたしてもクリスマスに恋人と逢瀬を迎え損なった。しかしアルゴは、それでもカラードを気遣い、せめて何かしてやれることはないかと必死に動いていた。
そして、ひっきりなしに連絡のくるクリスマスボスの情報収集の合間に行った聞き込みで、ついに一つの有力情報をNPCから聞き出したのだ。
現在の最前線・第60層に存在する、とある横穴。
その最奥に、強力な両手剣が鎮座していると言う。
60層もSAOをやっていると、カーディナルの自動生成クエストの傾向もつかめて来る。NPCの口ぶりから手に入る装備の品質は概ね推し量ることが可能なのだが……今回は、今までに出たことのない、最上級レベルの(比類なき、とか、尋常ならざる、とか)形容詞がいくつも使われていた。
それは両手剣のレベルが今までのどんなクエスト入手装備より高い……魔剣クラスにある可能性を示唆している。
クリスマスボス関連で最前線がガラ空きになっていたために見落とされていたのだろう。
「疲れてるだろうけど……帰ってきたら驚いて、できれば褒めてくレ、カーくん。せめて、とっておきのプレゼントを用意してやるからナ」
アルゴはひとつ深呼吸をすると――覚悟を決めて、カラードに貰った指輪を、左手の薬指へと動かした。
次回はなるはやで更新するから許してください何でもしますから!!