ソードアート・オンライン ラフコフ完全勝利チャートRTA 2年8ヶ月10日11時間45分14秒(WR)   作:TE勢残党

66 / 82
 過去最大ボリュームなので初投稿です。
 感想1000件、ありがとナス!!


18/n おま○け(後編)

 アインクラッド第35層、迷いの森。

 

 クリスマスを控えて雪景色になったそこに、地図を見ながら歩く人影が一つ。

 

 いつも通り黒ずくめのキリトだ。

 

(サチが、黒猫団が死んだのは俺の責任だ)

 

(……なら俺は、どれだけゼロに近かろうと、蘇生の可能性があるのなら、試さなければならない)

 

 この一週間、キリトの様子は"修羅"と呼んでいいものだった。

 

 寝食を忘れる勢いで戦い続け、常軌を逸したレベル上げを繰り返す。元々アインクラッドでもトップクラスにレベルの高かったキリトは、最早全プレイヤーに並ぶ者のない超高レベルプレイヤーと化していた。

 

 大量に買い込んだ結晶アイテムとポーションにより、預金はすっかり底を突いた。

 

(例え……その途中で、死ぬのだとしても)

 

 サチが最期に言いかけた言葉を聞く。それが今のキリトの目的だ。

 

 一度は叶わないこととして諦められたサチの言葉が、蘇生アイテムの噂によって手の届くところに来てしまった。そのせいで、時間と共に少しずつ塞がろうとしていたキリトの古傷が、再び開いてしまったのだ。

 

 ――アスナがイベントボス捜索への参戦に遅れたのは、実はヒースクリフにお伺いを立てていたからではない。

 

 様子のおかしいキリトの説得を試みていたからだ。

 

 それでもキリトは、ソロで挑むことに拘った。だからアスナは一度方針を切り替え、まず蘇生アイテムをこちらで確保してから本腰入れてキリトの精神を何とかする方向に動き出していた。

 

 ――結論から言えば、それでは()()()になる。

 

「追いついたか」

 

 キリトの背後から現れたのは、4人。

 

 ガンメタルカラーの分厚い鎧で全身を固め、背には濃い緑色のマント。190センチ近い本人と同程度の長さがありそうな両刃の剣を装備したカラード。

 

 手にしたグレイブ(穂先が片刃剣のようになった西洋式薙刀)を取り回しやすいよう手足の装甲は最低限にしつつ、ブレストプレートと鎖帷子で固めたジマ。

 

 うろこ状の金属片で編まれた短い胸当て、タセットの下はミニスカートで、あとはガントレットとブーツだけという冬でもお構いなしの露出度を持つアレックス。

 

 灰色をベースに紫の線が入ったコートを着込み、片手剣を背負ったノーチラス。

 

 キリトにとってはボス攻略で見慣れた、MTDの精鋭だった。予想通り、つけてきたのだろう。

 

「単刀直入に言う。二択から選べ。俺達とパーティーを組んでイベントボスに挑むか、引き返すかだ」

 

 先頭のカラードが、鎧でさらに威圧感を増した巨躯でキリトに宣告する。

 

 だがキリトは、そちらに向き直ると、無言で戦力の分析を始めた。

 

(ジマ、アレックス、それと……ノーチラスって言ったか。完全に対人戦を想定してるな。1対4は無理だが……1対1を4回やれれば)

 

「三度目はない。組むか、帰るか」

 

 担いだ両手剣を装備してキリトに向ける。

 

 事情を知っていながら、カラードには慮るつもりも、メンタルケアなどするつもりも、

 

「……組んだら、意味ないんだよ」

「だろうな」

 

 ――共闘するつもりさえ、まるでなかった。

 

 鞘から引き抜かれた≪エリュシデータ≫が、その漆黒の刀身を晒す。

 

 50層ボスのLAボーナスによってキリトが入手した、現行アインクラッド最強の"魔剣"。素の状態でさえ、当時の最前線で売られていた()()()よりも攻撃力が高かったと言えば、その凄まじさが伝わるだろうか。

 

「1対4だが、加減をする気はないぞ。死なないよう気を付けろ」

 

 今お前に死なれては、今後に差し支えるからな。

 

 兜越しのため表情はうかがえないが、きっといつも通り無表情だっただろう。そう確信できる平然とした声で、だからこそキリトは神経を逆なでされた。

 

「~~ッ!!」

 

 激高したキリトが突撃しようとした、その時。

 

「ちょっと待った~!!」

 

 裏返った大声が、迷いの森に響いた。

 

「クライン!?」

「こうなる前に終わらせたかったが……仕方ない」

 

 闖入者の正体は、攻略ギルド「風林火山」だった。

 

 様子のおかしいキリトを心配したクラインが、独力で今日のボス戦に挑もうとしている可能性に気づき、仲間を連れて様子を見に来たのだ。

 

「待つのは構わんが、()()()()はどう思う?」

「何だと!?」

 

 虚空に向けてカラードが問いかけると、木陰からMTDとはデザインの違う、銀色の鎧に青のマントで統一された一団が現れた。

 

「ハハ。流石に、カラードの目を誤魔化すのは無理か」

 

 その中で一人、漆黒のフルプレートと群青のマントを身に着けたディアベルが、兜を外してカラード達の方を向く。

 

「お前も尾けられたな、クライン」

 

 キリトはあきれた様子で。

 

「どうする。まさか全員仲良くボス攻略に挑もう、という訳でもないのだろ?」

 

 カラードは相変わらずの冷静さで。

 

「冗談のセンスはイマイチなんだな。しかし、この人数差じゃデュエルも無茶だ」

 

 ディアベルは自分の中で結論を出しつつも、一応最低限の話はするという態度で。それぞれが、「当然」と言わんばかりに殺気を飛ばす。

 

「な、お、お前らやる気だってのか!? このデスゲームはマジなんだぞ!?」

 

 風林火山だけが、この場の異常な空気に気づいていた。否、最早風林火山が異常だったのかもしれない。

 

 全員が、戦ってでも蘇生アイテムを手に入れる覚悟。それは、人間同士の戦い……ギルド間の抗争さえも厭わないということ。

 

「……退いてくれ、クライン」

「キリト!!」

「この場の全員、承知の上だ。そうだろ」

 

 幽鬼のように、しかし確かな凄みをもって、MTDと聖龍連合を睨み返すキリト。

 

「不本意だが……こうなっては仕方がない」

「どこがだよ、そんな面子で来ておいて」

 

 カラードとディアベルは、それぞれ深く頷いた。

 

「ま、マジでやるんすか!? 戦争っすよ!?」

「ビビってんなよジマぁ。殺す訳でもねえんだから」

 

 ぶつぶつ言いながらも構えを取るジマと、ヤンキー座りから立ち上がり、嬉々として開戦の合図を待つアレックス。

 

 見かねて動いたのは――やはり、クラインだった。

 

「おいキリト! ここは俺達に任せろ、お前はボスの所へ!!」

 

 真っ先に叫んだクラインにより、場の空気が一瞬揺らぐ。

 

 その隙を見逃さず、キリトは包囲の合間を縫って駆け出した。

 

「アレックス」

「おう」

 

 一言で意思を伝達し、両手剣を構えたアレックスが飛び出す。持ち前の敏捷性と軽装の身軽さを生かし、あの分ならすぐに追いつくだろう。

 

「このっ……こうなりゃヤケだ!! かかってきやがれ!」

 

 食ってかかろうとしたクラインは、自分に向けて両手剣を振りかぶったカラードを見てようやく覚悟が決まったのか、あるいは決めさせられたのか、腰に差した刀を構える。

 

 今ここに、アインクラッド初の複数ギルド間による抗争が勃発した。

 

「ジマとノーチラスは風林火山を」

「り、了解っす!」

「……わかった」

 

 二人に指示を飛ばして、カラードは剣を構え直し、剣術で言う霞の構えに似たポジションへ。普通の日本刀より1.5倍ほど大きな両手剣には不釣り合いな構え方だが、カラード自身が189センチに全身鎧のいでたちであるためか、不思議と様になっていた。

 

(……仕掛けますか?)

(いや、潰し合わせよう)

 

 聖龍連合は静観。漁夫の利を狙うようだ。

 

 風林火山と組んで、MTDを倒してから裏切るのが最適解だったが、それは後知恵というものだろう。

 

「無視してんじゃねぇぞ! テメェの相手は俺だ!!」

 

 腰を落とし、刀に手をかけたクラインは、その姿勢のまま"溜め"へ。

 

 直ぐに刀がオレンジ色に光り出し、クラインの動きにシステムアシストが合流し、「カチリ」と何か――言うなれば、ソードスキルの「型」――にハマるように、一瞬で滑らかなものへ変わる。予兆モーションだ。

 

 ――「ソードスキルを先出しする奴(ss先出し奴)はカモ」。

 

 βテスト時代、対人界隈で標語のように叫ばれた言葉だ。実践できていたのは対人四天王くらいなものだったそうだが、難度が高いというだけで、戦術的には正しい言説だ。

 

 発動に1秒近いタメが必要で、しかも動きがプログラム化され毎回同じであるそれらは、いくらダメージ補正があろうとも、人間に隙を突かれず常用できる代物ではない。

 

 そもそもあれは"必殺技"なのだ。行動のルーチン化されている対Mob戦が本来例外なのであって、立ち合いでみだりに使うものではない。

 

 使うタイミングがあるとすれば、相手がよろめいた時や、向こうがソードスキルを使ってきた時など。あるいは、確実に発動させられる――

 

「おぉおおお!!」

 

 初撃。

 

 クラインはそれに則り、「居合」のような動作をするカタナスキル「絶空(ゼックウ)」を放つ。

 

 が。

 

「なっ!?」

 

 金属同士がこすれ合う不快な音と、夜に映える鮮やかな火花。

 

 カラードの両手剣がその刀を苦も無く絡めとり、さながら踊るような無駄のない動きで受け流したのだ。

 

 声が上がった時点で、受け流した勢いそのままに体を一回転させたカラードは、剣先をトップスピードに乗せてすれ違いざま、後ろからクラインの首を狩る。

 

 クリティカルヒット。派手な、しかし流血とはまた違う赤いエフェクトと共に、クラインのHPバーが凄まじい勢いで減少する。

 

「リーダー!!」

「あっちょ、邪魔しちゃダメっす……よッ!!」

「ぐがっ!」

 

 派手なエフェクトと効果音に誘導され、よそ見をした風林火山メンバーがジマに隙を晒す。それを見逃すジマではない。ちゃっかり右足の腱部分を薙ぎ払われ、歩行不能のバッドステータスを負う。事実上の無力化だ。

 

「あ、が……っおい、嘘だろ……止まれ、止まれよ……!!」

 

 HPバーの減少は、ある程度一気に減った後は数秒かけてゆっくり行われる。

 

 クラインのそれは黄色ゲージまで一気に減り、赤ゲージに突入してなお減り続け――

 

「――かっ! はっ、はーっ、はー……げほっ、げほ!!」

 

 全体の2%ほどを残してようやく止まった頃には、クラインはまともに立っていられないほど恐慌していた。

 

 筋力ステータス偏重のプレイヤーが放った、最前線で通用する名刀による斬撃。

 

 なおかつ、トップスピードに乗った両手武器が背後から無防備な首筋に直撃すれば、ソードスキルを使わなくとも、軽金属装備のアタッカー一人を削り切る位容易である。

 

「まだやるか?」

 

 オレンジになったカーソルを浮かべて、カラードが何食わぬ顔で問いかける。

 

「て、テメェ、リーダーをよくも!!」

 

 クラインが降参を申し出るより早く、ジマとノーチラスを抜けてきた風林火山メンバーが襲い掛かった。

 

「がはっ!?」

 

 だが怒りに任せた単調な突撃に、カラードは大剣の柄で応じた。

 

 両手剣ソードスキル、≪トーレント≫。ダメージはさほどでもないが、大きなノックバック効果のある技だ。

 

 鳩尾に柄をめり込ませた太った男が、真後ろにいた重装備の男もろとも吹き飛ばされる。

 

「ジマ」

「うっす!!」

 

 慣れてきたのか、打てば響く返事をよこす。そのまま転倒した二人をもろとも貫くように、紫の光を放つグレイブを突き立てた。

 

「ぐあっ!」

「ぎゃっ!」

 

 両手槍ソードスキル≪スイフト・ランジ≫は、全ソードスキル最速を誇る突き技だ。例外的に対人戦で通用するほどの出の早さとリーチの長さ、硬直の少なさから、知る者には「絶技」とさえ称される、いわゆる「壊れ技」であった。

 

「な、んだ、体が……」

 

 ――ジマが装備しているグレイブには、≪サンダーボルト≫という銘がある。

 

 雷を発する鉱石を、長いイベントを経由して加工し、絶縁体と長い柄で使用者に危害が及ばないよう改造されたそれは、渾身の一撃――ソードスキルが直撃した相手を、麻痺させる効果を持っている。

 

 SAOでも極めて珍しく、現在の攻略組で唯一実戦に用いられている「状態異常付き武器」。

 

 そう強い効果はなく、耐毒スキル200もあれば同レベルの相手にさえ効かなくなる程度でしかない。だが多くが耐毒スキルを持たない「ギルド所属のアタッカー」相手には致命傷である。

 

「やっぱこれインチキ臭くないっすか」

「今更だろう。ルールで解決できなかったから戦っている」

 

 忘れがちだが、彼は対人戦の名手にして、カラードの一番弟子。

 

 特に、カラードの手段を選ばない戦いぶりを本人なりに受け継いだ、MTD三番手である。

 

「こいつっ……!?」

 

 刺股を持ったメンバーの突きを、カラードはあろうことか宙返りして回避した。キリトに迫る高レベルと圧倒的な筋力ステータスの賜物である。

 

 そのままもう一回転して、空中でソードスキルを発動。

 

 両手剣スキルに詳しいものなら、当然≪大車輪≫の使用を疑う。空中から縦回転しつつ落下する大技だ。隙は大きいが、カラードとのレベル・装備差で直撃すれば兜越しでも即死もあり得る威力がある。

 

 咄嗟に刺股が持ち上げられた瞬間、両手剣の軌道が不自然に()()()()()した。未だカラード勢力下以外ではキリトくらいしか成功例の報告されていない、「空中遅延ソードスキル」。

 

 剣は振り下ろされることなく、カラードの足が先に地面に着き、着地の勢いを横回転に乗せて逆袈裟にフルスイング。がら空きの胴体を斜めに切り裂いた。

 

 今度は鎧ごと斬ったためHPの減りは緩やかだが、ソードスキル分の補正で赤ゲージギリギリまで到達。

 

「こっちの3人は皆降伏したっすよ」

 

 ジマの報告と合わせ、これで5人が戦闘不能。

 

 残る一人は――

 

「ただ順番が来ただけだ」

 

 ノーチラスの手で、嬲り殺しの憂き目に遭っていた。

 

「な、何を言ってッ」

 

 どうやって調整したのか、男のHPバーはパッと見ではゼロにしか見えないほどギリギリまで削り切られている。

 

「お前たちがユナを切り捨てたように! 次は……次は、風林火山(おまえたち)が切り捨てられる番だッ!!」

 

 慟哭と同時、薄く紫色に輝く≪黒曜の剣≫を振りかぶったノーチラスを、

 

「そこまでにしておけ」

 

 カラードが一喝。

 

「…………ッ!!」

 

 長い逡巡の末、舌打ちと共に手にした剣を下ろした。命拾いした重装備のメンバーは、放心状態で動けないようだ。

 

 風林火山6名、無力化。

 

 この時点で、戦闘開始から10秒と経っていない。

 

 聖龍連合の目論見は外れ、MTDの精鋭は全く損害を受けていなかった。

 

「はああぁあああああ!!」

「がっ……ぎひっ……♪」

 

 ただ一人、アレックス以外は。

 

「はぁ、はぁ……あんた、軽装のくせにしぶとすぎるぜ」

「オマエこそ……ぁは、オマエやっぱりカラードの次に強いな……♪」

 

 HPゲージはキリトが黄色、アレックスが赤。高々10秒かそこらでどれほど激しい戦いが行われたか分かろうというものだ。

 

「邪魔するなよ……俺は目的があるんだ……っ!」

「アタシも! だから勝った方が目的たっせーだ!」

 

 押し問答を続けながら、二人の剣が交差する。

 

 キリトの剣を、アレックスが飛び上がって回避。スカートの下に履いたショートパンツ――カラードの矯正による――を思い切り露わにしながら、着地に合わせて剣を振り下ろす。

 

 アレックスの野性を、キリトの反射神経が受け流す。ずっとアレックスのペースだが、それでも崩し切れず、しばしばカウンターを食らわせる程度の技量を、キリトは有していた。

 

「いい加減降参しろ……! それ以上やったら死ぬぞ!!」

「当然だろ! ()り合ってんだから!」

 

 そして、キリトの持つ"魔剣"エリュシデータ。並の両手剣より重たい一撃が、片手剣の速度とキレをもって襲い掛かる。スピード型であるアレックスでは、片手対両手にも関わらず正面から打ち合って互角になる有り様であった。

 

「アタシか、オマエ! 死んだ方が負けだ!!」

 

 しかし、"アインクラッド最強のソロ"対"MTD最凶の狂犬"との戦いは、意外な形で幕を閉じる。

 

「ふざけるな……おかしいだろ!! どいつもこいつも! 人の命を道具みたいに――」

 

 吼えたキリトの台詞が終わる直前、目の前に空間の揺らぎが出現。キリトは吸い込まれるようにそこに入っていった。

 

 回廊結晶。40層でピトフーイにやったのと同じ。

 

「……オマエもそうじゃん」

 

 援軍の正体を確信したアレックスの、勝ち誇った呟きは、恐らく聞こえなかっただろう。

 

「無事か?」

「あ! カラード!! こっちだこっち!!」

 

 すぐに、ポーションを持ったカラードが雪の向こうから現れた。

 

 カラードに気づくや否やぴょこぴょこ飛び跳ねながら近づく様は、戦いぶりに似合わず懐いた大型犬を思わせる。……その度揺れる豊満な胸部を考慮しなければ、だが。

 

「飲んでおけ」

「ん。へへ、カラード、ありがとな」

 

 あのまま戦っていれば、自分は死んでいただろう。

 

 カラードのためなら否はないが、それ以上カラードの役に立てなくなるのは困る。

 

 それに何より、窮地に陥った自分を見捨てず、きちんとカバーに来てくれたことが何より嬉しかった。

 

「……バカ正直に正面から突っ込んだのは頂けない。例えばそこの木を蹴り飛ばし、落ちた雪で進路を妨害するなど、方法はあったはずだ」

 

「ん、お、おぅ……そだな……」

 

 カラードの指摘を受けてみるみる元気がなくなっていき、あからさまにしゅんとした様子で答えるアレックス。

 

 彼の言う通り頭を使えば、わざわざ手を煩わせることはなかったかもしれない。自分はまた、主人と仰ぐこの男が求めるレベルに達せていないようだ。

 

「だが」

 

 アレックスが謝る直前、カラードの手がアレックスの頭に乗っかる。

 

「良くやった。アレを相手に善戦とは、並大抵のことではない」

「ぁ、へへ、えへへぇ……」

 

 少しクセのある銀髪をわしゃわしゃと軽く撫でて、そのまま来た道を引き返す。

 

「先に行く。次は聖龍連合だ。回復次第、追って来い」

「――おう、わかった!!」

 

 次なる指示に、アレックスは満面の笑みで応じた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 聖龍連合の士気は高まっていた。

 

「ディアベルさんがあのバケモンと互角に渡り合ってる!!」

「いいぞディアベルさん! やっちまえ!!」

 

 ディアベルがカラードを、リンドがジマを、それぞれ釘付けにしているからだ。

 

 ノーチラスは風林火山が撤退してから明らかにやる気が落ちており、最低限聖龍連合の残り4人を近づけさせない仕事はしているが、それだけだ。

 

 戦いは「二組の一騎打ちとその他大勢」という様相を呈していた。

 

「想定していたより、強いな」

「お前こそ」

 

 カラードの両手剣による猛攻を、ディアベルは手にしたタワーシールドで防ぎ、受け流し、時折剣で反撃を加え、しかしこれも防がれる。

 

「しつこいっすねぇ!」

「そりゃこっちの台詞だ!!」

 

 リンドはリンドで、隊長譲りの盾捌きでジマの手数とリーチを巧みにしのぎ切り、防戦一方ながらも致命打を受けることなく綱渡りを続けている。

 

 お互い防御型。特にカラードなどは、HPが減った傍から≪戦闘時回復≫スキルによって全快しており、黄色ゲージどころかHPバーがマックスからろくに変動しない有り様。

 

「俺は戦闘時回復を完全習得(コンプリート)している。今の3倍はダメージを与えなければ、俺は倒せんぞ」

 

 人間離れした精度の受け流しやジャストガード。

 850近い≪武器防御≫スキルによるダメージ軽減。

 リズベットの現・最高傑作たる≪グレートウォール≫一式の性能。

 ≪重金属装備≫のスキルModによる防御力増強。

 ≪耐毒≫により生半可な状態異常はシャットアウトされ、

 ≪戦闘時回復≫により10秒あたり1000ポイントの自然回復。

 

 それら全てを兼ね備えたカラードは、今やディアベルの攻撃を受けてさえ自然回復が上回るという不沈艦と化していた。

 

 ディアベル以外の者達もやがて気づく。カラードのHPが、微塵も減っていないことに。

 

 ディアベルが最適解を打ち続ける限り、カラードの攻撃を防ぎきり、()()()()()()()()()できる。そして一手崩れた瞬間、ギリギリの均衡が崩れ、瞬く間にディアベルのHPは消し飛ぶだろう。

 

 残った選択肢は、先延ばしと敗北のみ。

 

 その状態が数分間も続いたことは、数百合の剣戟の中で、二人が一度のミスもなく、最善手を打ち続けたことを意味する。

 

「は、はは。なんだよ……なんだよこれ!?」

 

 動揺しながら、それでも剣筋は乱さない。強者の誇りか、あるいは意地か。

 

「本当によく粘る……少し惜しいな」

 

 ――決着が、俺達以外の手によって付けられるのは。

 

 言い終えた瞬間、突如ディアベルの腹から刃が突き出た。

 

 アレックスだ。ポーションでの回復を終え、戦いに乱入して来たのだ。

 

 カラードは勿論、ディアベルも気づいていただろうが、よそ見をして剣を止められるほど、カラードの攻撃は甘くない。

 

 無防備な背中に突き立てられた大剣は、半分ほど残っていたディアベルのHPを容赦なく削り取る。

 

 真っ赤に染まったHPゲージを見やり、ディアベルは一つため息を吐いて、しかしどこか晴れ晴れとした顔をカラードに向け、呟いた。

 

「オレの負けだ。蘇生アイテム、有効に使ってくれ」

 

 かくして、雌雄は決した。この抗争の勝者は、全員オレンジカーソルと化したカラードたち、MTDだ。

 

「死者はいないみたいっすよ、まあ、そこはよかったっす」

「そうか」

 

 ジマの報告を受け、カラード達は森の奥へと歩みを進める。

 

 後は、消化試合だ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 サンタクロースを悪趣味にカリカチュアライズしたような怪物が、金切り声とともにポリゴンと化し、爆散する。

 

「これで最後か」

「……弱かったっすね」

「キリト達が強すぎたんだろ!」

 

 三人の言葉通り、イベントボス≪背教者ニコラス≫は、あっけなく一蹴された。

 

 最前線クラスの、それもキリト級か少し劣るレベルの4人が挑めば、あっさり撃破できるのも当然というものだろう。

 

「ドロップアイテムを確認する。蘇生アイテムを入手した者は名乗り出ろ」

 

 カラードの指示により、各々アイテム欄を確認。

 

 最前線レベルの武器防具や種々の換金アイテムは勿論、希少な鉱石から食材までドロップしている。四人で割っても相当な量だ、本来は中層プレイヤー数十人で挑むように設計されていたのかもしれない。

 

「あ、アタシ持ってる!! えっと……かん、たま……?」

 

 還魂の聖晶石(かんこんのせいしょうせき)。アレックスが解読できる漢字レベルは逸脱しているが、"蘇生"の一文が確かに入っていたのは分かった。

 

「見せてみろ」

「ん……あ、ちょっと待った!!」

 

 素直に渡そうとしていたのが一転、何かを思い付いたように出しかけた手をひっこめ、きししと笑いながら何やらコンソールを操作。

 

「じゃじゃーん! アタシからのクリスマスプレゼントだ!!」

 

 カラードの眼前には、蘇生アイテム1つが収まったトレードウインドウ。

 

「本当はアタシをやろうと思ってたけど……考えてみたらアタシはもうオマエのもんだからな! ……ダメか?」

 

 その場の思い付きだからか、少し不安そうにカラードの方を見上げるアレックス。

 

「駄目なものか。……本当にいい女だよ、お前は」

「えへへへ……だろー?」

 

 頭をぐりぐりと撫で回されてご満悦のようだ。

 

「フン、暴力・金と来たら次は、という訳か」

「頼むからここでおっぱじめないでくださいよ……?」

 

「えー」

「やる気だったんすか!? マジで勘弁してくださいよ!!」

 

 うんざりした風に見ているノーチラス、突っ込みに回るジマ。傍目には、仲のいい部隊に見える。

 

 事実、それは正しい。

 

(……本当にソレ、ここまでやる必要あったんすかね?)

 

 ジマの抱える疑念は、未だ芽生えたばかりなのだから。

 




【悲報】アレックス、パンモロを矯正される。

外観参考
 カラード:ハベル一式
 ジマ:腕脚がちょっと軽装になったプレートアーマー グレイブ装備
 アレックス:クレマンティーヌの防具を灰色にしたようなの+ヒガナステップ+アルトリウス挙動
 ノーチラス:原作エイジから紫色がくすんだ感じ


ヒント1:ジマは両手槍(パイク・長槍・コルセスカ・グレイブ等)と長柄槍斧(ハルバード・バルディッシュ・戟等)のスキルを両方鍛え上げており、相手に応じて使い分けている。

ヒント2:カラードは一人っ子。アレックスは弟(パシリ)が二人いる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。