ソードアート・オンライン ラフコフ完全勝利チャートRTA 2年8ヶ月10日11時間45分14秒(WR)   作:TE勢残党

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SAO正式サービス開始日に乗り遅れたので初投稿です。
度重なる長期間不在、本当に申し訳ない。


21/n おま〇け(前編)

 アインクラッド60層を過ぎてからの攻略組は、ここにきてその勢いを益々加速させている。

 

 攻略ペースは平均して1層あたり6日を切るという超高速。絶え間ないレベル上げによって上位陣の平均レベルはうなぎ登り、解放される新たな街やフィールドの解析が追い付かず、三大ギルドの二軍もまたフル稼働でマッピングなどの情報収集を続けている。

 

 それ自体はクリアが近づくので歓迎すべきことだが、これだけの強行軍は攻略組メンバーの意思によって行われている訳ではなかった。むしろ士気の高さは史上最低レベルと言ってよく、方針と対立し一軍から脱退するメンバーもギルドを問わず現れている。

 

 遡ること一月半。当時の最前線である67層主街区にて行われた三大ギルドのトップ同士による対談――俗に首脳会談などと言われる――において、表向きは次なるクォーターボス対策であったりアイテム類の融通であったり通り一遍の議題について話し合ったとされているが、本当の招集理由は他にあった。

 

 攻略組メンバーの士気低下について。

 

 ここ数ヵ月間三大ギルド全てが苦しみ、しかし何となく口にするのは避けてきたその問題に、ついにカラードが切り込んだのだ。

 

「つまり、彼らは満足していると?」

 

「疲れている、というのもあるだろう。所謂中弛みだ」

 

 怪訝な顔で問うヒースクリフと、説明を続けるカラード。

 

「オフレコで頼みたいが、攻略組は少し()()()()()()。それ自体は歓迎すべきだが、特権化は腐敗を招く。下からの危機感が減った分、上からの引き締めが必要だろう」

 

 そう語ったカラードに対し、ヒースクリフは面白いものを見る目で頷き、ディアベルは少し考えてから「やむを得ないか」と漏らした。

 

「分かった。引き締めを強めよう。言い出したからには、案があるんだろう?」

 

 ディアベルがあっさりとそれに賛成を表明し、ヒースクリフも追随。それを確認したカラードは、早速考えていた方策を語り始める。

 

 ――現状の攻略組を三分する巨大勢力。そのトップである3人は、奇しくもそれぞれ違う所に強みを持つ。

 

 ユニークスキル「神聖剣」に裏打ちされた圧倒的な戦闘能力は勿論、会談や作戦立案時に異次元の知識量と発想の冴えを見せる「知力」で知られるヒースクリフ。一部では人力Wikipedia扱いされるほどの博識ぶりで、攻略組の作戦行動を支えている。

 

 1層時代から方向性は変われど、未だ衰えぬカリスマ性と苛烈な実力主義でもって聖龍連合を纏め上げ、攻略組に最も多くの「戦力」を提供しているディアベル。

 

 「黒騎士」の呼び名はかつて『気持ち的にナイト』と気さくに語っていた頃との変わりようを指しての呼び名だが、自ら黒染めした鎧を着用するなど、部下の期待する「理想のリーダー」であろうとする姿勢は変わらない。

 

 そして、構成員数2000を誇るアインクラッド最大勢力「MMOトゥデイ」を率い、数々の、まさしく"公共事業"と言うべきプロジェクトを成功させてきた「政治力」を持つカラード。名目上のトップはシンカーだが、彼が「お飾り」で実権がカラードにあるのは、こういった会議にシンカー本人を同席もさせず、それを周囲が受け入れている程度には公然の秘密であった。 

 

 事務処理、内政手腕という意味で言うと、この場で最も優れているのはカラードである。トップに立つ根拠をカリスマ性と戦闘力に持つディアベルも、元来学者肌で政治には無関心なヒースクリフも、それは認める所だった。

 

 そんなカラードの提案は、他二人もまた士気低下に頭を痛めつつあったこともあり、あっさりと受け入れられていった。

 

 

 ――それ以降のカラードの動向は、(表向きは)専ら「綱紀粛正」の四文字に集約できる。

 

 ノルマを厳格化し、腹心たちを鍛え上げ、これまでほとんど放任していた()()に、ある程度釘を刺すようになった。

 

 これまでのホワイトぶりと打って変わったような運営は、批判とは言わないまでも組織内に不満を溜め込むには十分。

 

 外から見える成果は、輝かしいものだ。下層民の評判は上がり、()()()()()()()()()()()()()攻略への希望が高まる。だからこそ、構成員たちは表だって文句を言えず、フラストレーションは蓄積されて行く。

 

 攻略開始から約1年4ヶ月が経過した今、攻略組は疲弊していた。

 

「……っていう感じだナー」

「なるほど」

 

 膝の上にちょこんと座ったアルゴが、真後ろのカラードを振り返りながら報告を進めていく。

 

 キングサイズのベッドに腰掛けたカラードは、服のはだけたアルゴを膝に抱えたまま、彼女に集めさせた情報を精査していた。

 

 照明を落としているため辺りは薄暗く、カーテンの隙間から月明かりが差し込んでいるが、部屋全体を照らすには至っていない。

 

 その気になれば3人くらい住めそうな広さのスイートルームは、サブマス特権で執務室を兼ねて使っているカラードの拠点である。ファンタジーというよりは現実の高級ホテルに近い、高級感を残しつつ落ち着いたデザインの室内はカラードの趣向を反映したものだ。

 

 彼は活動拠点として毎層、最前線の転移門近くにある一番いい宿屋を借りている。一等地のスイートルーム暮らしは攻略組の財力を以てしてもバカにならない出費になるが、少なくともカラードの財布の中身を知る者は皆文句を言わない程度の額だ。

 

 比較的若い世代が多く、上流階級出身者は精々アスナくらいしかいないSAOプレイヤーからすると、超高級ホテルをわが物顔で使いこなすカラードはそれだけで一定の畏敬の念を集めており、「上に立つ者は贅沢するのも仕事のうち」というカラードの持論を図らずも自ら証明していた。

 

 アルゴもまた、そういう単純な方法で敬意を持ってしまう小市民の一人である。 彼女自身、カラードからこうして呼ばれるのでなければ、気後れしてしまってとてもこういう場に泊まろうとは思わなかっただろう。

 

「世間じゃ()()()()……というか、攻略組の連中は英雄だヨ。ここ最近の快進撃で取りこぼしたリソースが、いい感じに中層の面子に回って経済もいい感じだって聞いてル」

 

 VRの利点は()()()()などの痕跡が一瞬で消え去ることだが、どことなく余韻が残っているのがカラードへの呼び方に現れている。

 

 カラードの信条というかクセとして、女を相手するときは自分から出向くようにしている。

 

 アレックスと会うのは本人の定宿か圏外(本人の強いリクエストによる)などだし、リズベットは工房や旅行に連れて行ったりで、ピトフーイは圏外村など人目のない場所が主。

 

 自分の住処に足を踏み入れさせることはアレックスにすら許しておらず――唯一の例外が、結婚して半同棲状態のアルゴだった。

 

 お互い住所不定の身であるから、完全に寝起きを同じ場所でしているわけではないが、多忙の合間を縫って可能な限り同衾してくれるカラードの気遣いは、一緒にいない時の動向を逐一詮索はしない程度の安心感をアルゴに与えていた。

 

「嬉しそうだな」

 

「そりゃナー、自分のダンナが活躍してたら嬉しいだロ」

 

 いつもの鼻にかかったような声でコロコロと笑うアルゴ。カラードはいつも通り無表情に見えるが、無駄な時間というものを嫌う彼である。カラードが何をするでもなく受け入れている意味をアルゴは理解していたし、だから安心して甘えている。

 

 

「……攻略組の不満にも対策は打ってある。心配は無用だ」

 

 ひとしきり甘い沈黙が流れた後、カラードはポツリとそんなことを言った。

 

 まさにアルゴが懸念していた部分。先回りするどころか対策完了を報告してくる周到さには、アルゴも未だに驚かされてばかりだ。

 

「結婚してストレージ共通化したってのニ、よくもまア知らない所で動けるもんだナ……」

 

 アルゴはしかし、その報告にほんの少しだけ、胸にチクリと痛む感覚を覚える。

 

 自分の知らない所でもカラードが行動し続けているのは以前から変わらないが、何も言わずに消えかけたり他の女をひっかけたりした"前科"をいくつも持っているカラードを前に、どうしても不安を抑えることができない。

 

 ――それが"嫉妬"や"怒り"ではなく"不安"でしかない時点で、どこまで行ってもカラードの手のひらの上であることに、彼女は気づいていなかったようだが。

 

 ともあれ不安げなアルゴを、カラードが背後から優しく抱きしめる。

 

「ぁ……」

 

「心配するな。()が心配しているようなことは起きない」

 

 ゲームシステムとは言え、結婚という明確な「唯一」を捧げられていることも、彼女の精神の充足に一役買っているだろう。

 

 アレックスやリズベット(や、アルゴは知らないがピトフーイ)のことをとりあえず棚上げする余裕と、そう言う時のカラードにチクリと嫌味を言えるくらいの自己主張を彼女は勝ち得ていた。

 

「……ハルくんは、ズルいナ。こんなんされたラ、オレっちが何も言えなくなるの知ってんだロ」

 

 ――その大半は、こうやって簡単に黙らされてしまう程度の、カラードにとって心地よいものでしかなかったが。

 

 口ではズルいと言いながらも幸せそうに体を預けるアルゴ――否、顔のペイントを取り払った帆坂(ほさか)(とも)を見て、カラードはほんの少しだけ口角を上げた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「最近、キバオウさん部屋から出て来ませんね」

 

 アインクラッド第1層、始まりの街。

 

 MMOトゥデイ(MTD)の本部は既になく、かつてとは比べるべくもなく淀んだ空気が充満したそこは、最前線が74層に到達する頃には「見捨てられた街」と呼ばれるようになっていた。

 

 この街を支配しているのは、名目上は変わらずMMOトゥデイ……ということになっている。

 

 無論、内実は違う。

 

「あの人はずっと酒浸り女漁りの贅沢三昧だろ。羨ましいもんだ」

 

 冒頭の台詞に応えたのは、MTD三軍警ら隊のリーダー、ケンスケという男。

 

 街の目抜き通りを一望する物件に、今のMTD1層本部はある。本部と名を冠してこそいるが、その実始まりの街を統治していることを対外的に示すための箱でしかなく、中身の人材は三軍(街の警ら隊)と少数の文官たちだけだ。

 

 本部機能は人員含めて全て上層の要塞のごときギルドホームに移転され、彼らの目が下に届くことは最早ない。

 

「荒れてますよね、キバオウさん。昔はあんな人じゃなかったんですけど」

 

 心配したような口調の小柄な男は、この状況になっても真面目に街のパトロールを続ける稀有な人員。上層移転の際にあった引き抜きも固辞し、最初期に助けて貰った恩があるからとキバオウの下に付くことを選んだ忠義の人だが、彼に出来ることはあまりに少ない。

 

「とっくの昔に仕事こっちに放り出しちまってるし、輜重部長たって上にへーこら媚び売って予算流してもらうだけの仕事だろ?」

 

 揶揄するように答えるケンスケは、何故か少し面白そうにしている。

 

「ま、中抜きしまくってるお陰で金払いはいいし、上は何も言ってこねえから好き放題出来るってモンよ。お前ももっと肩の力抜けって」

 

 ケンスケの言う通り、彼ら――旧ALS(アインクラッド解放隊)の面々は、今の始まりの街における支配者だ。

 

 上から流れて来る――ケンスケは「降って来る」と表現している――下層支援予算は、金額こそ決まっているが、その振り分けは彼らに一任されている。

 

 月ごとに縮小されつつあるその金が、最低限の食費を除いて全額彼らの懐に収まるようになったのはいつだっただろうか。

 

「どーせ出世の目も残ってねぇしな。ほどほどに楽しもうや。つーか、ここにいりゃあ最前線並はムリでも、そこそこ良いもんが食えるし、職員宿舎の寝心地も悪かねえ」

 

 彼らは既に、治安の維持や炊き出しなどと言った最低限の仕事すら、ほとんど果たさなくなっていた。

 

 代わりにすることと言えば、余った金で酒(のような何か)を飲んだり賭け事に興じたり、憂さ晴らしに一層のモンスターを狩りに出たり――

 

「何なら適当に女捕まえてタダ■ンし放題だしな! "コレ"に関しちゃ多分前線組も出来ねえんじゃねえか?」

 

 ――適当な罪状をでっち上げるなり食料や嗜好品を盾にとって脅したりして、街の女性と懇ろになったり。

 

 今もなお、始まりの街には2000人近い人間が暮らしている。

 

 その大半はいわゆる「引きこもり組」であり、つまり戦えない者達だ。プレイヤーの9割以上が男性と言われるSAOでも、多少の女性プレイヤーはおり、彼女等は「引きこもり」となっている割合がかなり高かった。

 

 どうにか下層の狩りが出来る者や、逆に割り切って養ってくれる男を見つけた者など、早々に足抜けした者達を除いた彼女たちは、第一層を支配するMTD三軍の者達に目をつけられた際、身を守るすべを持たない。

 

 相手はドロップアウトしたとは言え攻略組だったこともある本職の戦闘集団である。そうでなくても、辛うじて続いている「黒パンの支給名簿」という生命線をギルドに握られている彼女たちは、しばしば「飢えるか、言いなりになるか」の二択を迫られる。

 

「あの……サーシャとか言ったっけ、メガネで、教会でガキ匿ってる奴な。あいつとか中々そそったぜ~『子供たちには手を出さないで!』って、エロ漫画でしか聞いたことねぇような台詞と、なんつーんだっけ、シチュエーション? をマジでやれるたぁなあ」

 

 数少ない1層の自活者たちにすら、難癖と脅迫という形で彼らの悪意は届いていた。

 

「……それを俺に聞かせて、何がしたいんですか」

 

 真面目な男は、その口ぶりに不快感をあらわにしながら問いかける。

 

「勧誘がしてぇんだよ」

 

 間髪入れずにそう返したケンスケは、打って変わって真剣そのものな表情と声で真面目な男を捉える。

 

「カラードが粛清に乗り出した。キバオウはもう長くねぇ」

 

 真面目な男の顔が一瞬強張り、すぐに悲痛な面持ちに変わる。

 

「そう、ですか……もう……」

 

「んだよ、思ったより冷静だな」

 

「いつか……こうなるとは、思ってましたから。ただ、こうなる前にキバオウさんを立ち直らせられなかった。それだけが心残りです」

 

 ポツポツと語る男からは、この状況になってなお、明確な敬意と忠誠心が感じられる。

 

「そうかい。お前とつるんで長いが……そう言う所嫌いじゃないぜ。じゃあダメ元で聞くが、ギルドを移籍しねぇか。今なら逃げきれるし、俺の知り合いを経由してそれなりの大手に入れる算段が付いてる」

 

 ケンスケは、三軍警ら隊の内部で結成された犯罪ギルド「タリスマン」の幹部構成員だ。つまり、かの有名な殺人ギルド「ラフィン・コフィン」の二次団体幹部に相当するバリバリのアウトローである。

 

 カラードの動向に関する情報も、カラード本人からラフィン・コフィンに流され「今のうちに有望なものは引き抜いておけ」という無言の指示が彼の元まで伝わった結果であった。

 

 そのケンスケが言う移籍先とは、当然――

 

「有難いですけど、お断りします」

 

 それを(薄々察しはしても)知らない真面目な男は、しかしケンスケの予想通り、提案を拒絶した。

 

「そうかい。あいつに、お前ほどの男が付いてく価値はねぇと思うがな」

 

「それは自分が決めることですから」

 

 つまり彼は、とっくに自分の主人と運命を共にする覚悟を決めていた。

 

「もったいねえなあ。お前みたいなヤツばっかり消えて、俺みてぇなしょうもない奴が生き残る」

 

 普段から飄々としているケンスケだが、この時だけは心底寂しそうにしていた。




大衆の不満解消に一番手っ取り早いのは、悪を吊るし上げて皆で石を投げること。皆知ってるね?
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