ソードアート・オンライン ラフコフ完全勝利チャートRTA 2年8ヶ月10日11時間45分14秒(WR) 作:TE勢残党
始まりの街、転移門前。
ボスが攻略され、次の層の転移門がアクティベートされたら、前の層に転移して凱旋するのがβ時代からの習わしだ。
それはアルゴやMTDの手によって一般プレイヤーたちにも知らされており、今の転移門広場は異例の人だかりができていた。
恐らく1000人以上いるのではないかという群衆は、しかし不気味なほど静まり返っている。皆一様に、固唾をのんで攻略組の帰還を待っているのだ。
今回ばかりは、情報屋として暗躍するアルゴも群衆の一人でしかなかった。
実を言うと、既にアルゴの手元には攻略が完了した旨のフレンドメッセージが届いている。犠牲者がないという報告も。
それでも、どうしてもこの目で確認しないと気が済まなかった。
(…………頼ム)
アルゴが焦れて自分にもよくわかっていない何かに祈り始めた頃、広場の中心に光のエフェクトが現れた。
広場が期待の籠ったどよめきに包まれ、βの頃に聞きなれたSEを響かせながら、立て続けに数十人のプレイヤーたちが続々と現れる。
β時代には見慣れた光景。「街開き」だ。先頭は、リーダーたるディアベル。
次々戻ってくる攻略組の中に見知った巨躯を見つけたアルゴは、思わず駆け出していた。
「カーくん! その、どうだっタ!?」
カラードは何も言わず、ただ先頭に立つディアベルに目を向けた。直後、そのディアベルが注目を集めると、ボス戦前と変わらない、いや明らかに嬉しそうな態度で演説を始める。
「皆、3週間も待たせてしまって悪いね! たった今、第二層の転移門はアクティベートされた! オレたちは誰ひとりとして死んじゃいない!」
「――オレたちの、完全勝利だ!!」
そう締められるや否や、広場は万雷の拍手と歓声に包まれた。
「勝ったぞ……おい、大丈夫か」
アルゴは安心するあまり膝の力が抜け――地面にへたり込む前にカラードに抱き留められた。
「にゃ、はは、ごめんヨ。安心したらつい、ナ」
そう言って照れたように笑うアルゴは、しかしとても嬉しそうにしている。
「お熱いな、お二人さん」
「この身長差はちょっと犯罪じゃないすか?」
ただ、今のここは街開き真っ最中の転移門広場である。カラードの後ろから現れたのは、先ほどまでの激闘をカラードと共に乗り切ったキリトとジマだが、戦闘中の連携が今は息の合った揶揄い方にしか使われていなかった。
アルゴがとても小柄という訳ではないが、日本人離れして長身なカラードと一緒にいると親子のような体格差である。こうしてカラードに介抱されていると、構って欲しい時の猫のような印象も受ける。「≪鼠≫のあだ名の割に猫っぽい所がある」とは、キリトの言だ。
「すっかり懐かれちゃったわねえ」
遅れて到着したユウママまでも、ニヤニヤしながらカラードに声を掛ける。
「あ、いや、これハ」
この辺りで我に返ったらしく今度こそ赤面を衆目に晒したアルゴは、恥ずかしそうにフードを目深に被る。だが開き直ったのか、カラードから離れる気はないようだ。
「……おかえリ、カーくん」
PTの面々に散々に冷やかされながら、消え入りそうな音量でもあったが、その声はカラードの耳には間違いなく入っていた。
◇◇◇
第一層が攻略されて数日。攻略組はその勢いを保ったまま、かなりのスピードで迷宮区の探索を進めていた。
攻略組の士気は高い。犠牲者を出さずにボスを攻略したという自負と、自分たちに混ざっているだろうβテスターには負けたくないというライバル意識。
攻略は、あまりにも早いペースで進んでいた。
「……早すぎやしないカ?」
アルゴは、そんな現状に危機感を抱いていた。
確かに、反β感情を抑えるため、それをライバル心という形にして攻略へのエネルギーに変えたディアベルの手腕は凄まじい。彼がいなければ、現時点で攻略組は分裂していたに違いない。
一層攻略時点で、攻略組の平均レベルはギリギリ10に届いていないと思われた。この一か月で概ね分かってきたが、アインクラッドにおける安全マージン……つまり、「初見でもよほどのことがなければ負けない」ラインは層+10レベル。現状の攻略組では、足りていない。
士気は高い。しかしそれが危険な気がする。今でこそ犠牲らしい犠牲は出ていないが、このままいってしまっては不味い気がする。
そんな漠然とした不安を抱えている中、キリトから緊急の連絡が届いた。
「アスナの武器が強化に失敗して破壊された。そんなことがあり得るのか?」
(ありえなイ。βテスト時代はもちろん、今も強化に失敗しても武器が壊れるなんてことハ)
ないはず、なのだ。1層時代の徹底的な検証により、その事実は確認されているはず。破壊するにせよ、何の目的でそんなことを?
攻略組の、それもトップクラスの使い手が武器を失くしたと言うのだ。当然、無視することはできない。方々伝手を使いメッセージを飛ばすと、すぐに状況の深刻さに気付かされた。
攻略組だけで
思考の海に沈みかけたのを強引に切り上げ、既にアインクラッドでダントツの練度を誇る隠蔽スキルを起動させると、アルゴは宿屋を飛び出した。
何にせよ、件の鍛冶屋を調べてみる必要がある。
そう思い、アルゴは大急ぎで2層主街区へ。アインクラッド最初のプレイヤー鍛冶ネズハの露店を訪れた。
(あいつカ)
いつものように隠蔽をかけながら手頃な物影に隠れ、露店の様子をうかがう。β時代にいたプレイヤー鍛冶と比べても、変わった様子は見られない。時折来る客へ物腰柔らかに応対し、丹精込めて槌を振るっているように見える。
丁寧に槌を振るえばボーナスが付くなどということはないので、彼は単に誠実なのだろう。少なくとも、ここから見ている分にはそうとしか思えない。
やはり何らかの仕様変更によるものなのか、と頭をよぎる先入観をシャットアウトして、張り込みを続ける。元々彼が営業を終えてからが本番のつもりだ。そう気を取り直そうとして、何の気なしに視線を動かす。
ネズハから見て右斜め後ろに建っている背の高い建物。その二階のテラスに見慣れた人影がある。
(カーくん?)
最近フード姿を辞めたカラードが、コーヒーカップ片手に外を見ていた。
(外っていうカ、さっきからじっと何を見て……っ!!)
そこでようやく、今自分がやっていることと結びついた。カラードの位置取りは、ネズハから見て死角だったからだ。
彼もまた、ネズハの怪しさに気づいたのか。だとしたら、こういう事が専門である自分に声を掛けなかったのは何故なのか。隠蔽スキルすら持っていないカラードがやるより、
(……後で問い詰めてやル)
自分でも理由のわからない腹立たしさと少しの寂しさを感じながら、アルゴはひとまず、隠蔽を続けることにした。
◇◇◇
「アーちゃんの武器がやられタ。オマエも張り付いてたアイツの仕業ダ」
そんな旨のメッセージに対し話し合いを提案したカラードは、路地裏の個室付き飲食店でアルゴと角突き合わせていた。初めて顔を合わせた時より店のグレードが上がっており、個室がなんとなく豪華になった。
「俺も、例の噂を聞いてネズハを尾行していた」
「っ……なラ」
「だが証拠が掴めなかった。まだ悪意のある推測に過ぎない」
「……」
「仮に悪意をもって武器破壊を行っているなら、それは間接的な攻略の妨害に当たる。必然、彼に与えられるペナルティは、大きなものになるはずだ」
普段は寡黙なカラードが、らしくない長台詞を喋っている。彼はそれだけこの件を危惧しているのだ。アルゴはそう考えて、黙って聞くことにした。
「だがSAOで、ペナルティの与え方は多くない。不確実なまま情報が他所に出れば、どうなるか予測が付かなかった」
最低限、この目で見てから報告を挙げたかったと釈明するカラードを、アルゴは特に疑いもなく信じてしまった。今まで彼が持ち込んできた情報の殆どは、カラードが自分の目なり身体で確かめたものだったからだ。
「じゃア、カーくんも捜査手伝ってくれるんだよナ?」
「勿論そのつもりだが――」
「ま、そん時アーちゃんには謝っとけヨ? すんげーショック受けてたらしいからナ」
相変わらず無表情だがどこか申し訳なさそうにしているカラードを、アルゴはニヤリとした笑顔でフォローする。
「ああ。……ありがとう」
「いいってことサ。持ってる情報は全部吐いてくれるんだロ? 釣りがくるってモンだヨ」
抜け目がない、というよりはカラードに罪悪感を与えないための形ばかりの罰を披露したアルゴは、それに気づいて再度礼を言うカラードをニヤニヤしながら眺めていた。
――おまけのおまけ:現在公開可能な情報――
・ネズハ
最近になってフロントランナーに追いついた集団≪レジェンド・ブレイブス≫の一員。表向きソロで、アインクラッド最初にして唯一の鍛冶師として強化詐欺を繰り返している。原作ではリンドやキバオウのとりなしにより処刑まではされなかったが、果たして。
おまけのおまけに乗っけて欲しい情報は募集してるゾ(ネタ切れ)。
次回も恐らく明後日になるから気長に待っててくれよな~