黒バス ~HERO~   作:k-son

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帝光偏
外伝:黄瀬の場合


帝光中バスケ部に入部して、そこそこ経つ。

入部から短期間で1軍へと昇格し、1軍のメンバーとの顔合わせも無事完了。

1部、かなり濃いキャラクターがおり、馴染めるか心配した。

特に、教育係になった黒子という同級生をよく目にする。いや、実際はかなり影が薄いのだが。

先日、2軍の練習試合に黒子と同行し、それを切欠に黒子に対する評価を改めた。

彼のバスケットプレーヤーとしてのあり方に尊敬する。

そんなこんなで、本日も厳しい練習である。

 

「黄瀬!」

 

「っス!!」

 

赤司からパスを受け、そのままシュートに向かう。

 

「おらぁ!」

 

ビシッ

 

後ろから強烈なブロックに襲われて、シュートを弾かれる。

かなり強く体をぶつけられたので、黄瀬は顔を歪める。

 

「痛っぅ。」

 

痛みのあまり、ついブロックした本人を睨んでしまった。

 

「ああ?なんだ黄瀬?文句あるのか?てめーが弱いのがいけねーんだろ?」

 

そう言いながら、荒いブロックをした灰崎は黄瀬の背中に膝蹴りした。

 

「ってめぇ!」

 

そこから2人の取っ組み合いが始まり、あわや暴力沙汰にまでなるところだった。

赤司の一声で納まったが。

 

「よう!1軍に大分馴染んできたみたいだな。」

 

青峰が水分補給している黄瀬に声を掛けた。

 

「...絶対分かってて言ってるっスよね?」

 

明らかに不機嫌そうな黄瀬。

 

「そんなこと言うなよ、他の奴のこともあんだろ?まあ、灰崎は基本的に誰に対してもあんな感じだからな。」

 

「確かに、黒子っちとか紫原っちとかとは馴染めたと思うスけど。つか基本的にって、例外なんかあるんスか?」

 

「えーと、まず赤司だろ。あと虹村さん。」

 

「ヒエラルキーのトップしかいねーじゃないスか!?権力に弱いって最悪じゃないスか!」

 

「んでアイツだな。」

 

青峰の3本目の指が数えられた。

 

「あいつ?誰っスか?」

 

「あ、そうか。黄瀬はまだ会ってなかったな。」

 

「まだ?1軍以外の人っスか?」

 

「あー...そうとも言えるし、そうじゃないとも言える。一応レギュラーかな?」

 

「訳分かんないっスよ!」

 

「とりあえず面白い奴だ。会えば分かる。」

 

「おい。いつまで休憩している。もう直ぐ練習が再開するのだよ。」

 

緑間が練習再開を知らせに来た。

 

「おお、悪りーな。そういや、アイツは何時戻ってくるんだ?」

 

「アイツ?補照の事か?それなら明日から復帰だそうだ。」

 

「へぇ、そりゃ面白くなりそうだ。」

 

「ふざけるな。単純に煩いだけなのだよ。...さっさと行くぞ。」

 

そう言いながら青峰は緑間に着いていく。

 

「(ホテル?2軍にも居なかったような。...つか、2軍の人の名前とか覚えてないし。)」

 

 

翌日。

練習開始前に汗だくで坊主頭の男が体育館にやって来た。

 

「うぃーす!補照英雄、只今戻りましたー!」

 

「ああ、英雄か。...なんだその頭は?」

 

「だっはっはっは!なんだその頭!反省ついでにお寺にでも行ってきたのかよ!」

 

英雄が登場するなり、赤司が途中までの挨拶を止め、青峰が大爆笑をする。

 

「ちげーから。なんか虹村さんに捕まって、監督のところまで引き摺られて、強制的に毟られた。」

 

「..ああ、そ、そうか...やっぱ無理だ!我慢できねー!」

 

「ちなみに自前のバリカンだ。面白かったぜ。監督も良い顔してたしな。」

 

虹村がネタばらしをしている横で、青峰の笑い声が止まらない。

 

「お帰りーひでちん。あ、良い感蝕~。」

 

紫原が丸坊主になったあたまをジョリジョリと撫でる。

 

「ただいま、あっくん。」

 

「お久しぶりです。英雄君。」

 

「テツ君も。ん?そうでもなくない?2週間くらいだし、つか学校生活で会うよね?」

 

英雄は紫原のジョリジョリを緩やかに受け入れ、黒子に笑顔で応える。

 

「まったく、お前が居ると騒がしくて堪らないのだよ。」

 

「そんな冷たいこと言わんでよ、太郎さん?」

 

「その微妙な呼び名は止めるのだよ。そこまで来たら真太郎にしろ。」

 

「じゃあグリーンのGで。」

 

「貴様!太郎もGも害虫の隠語ではないか!!」

 

面識のない黄瀬は少し離れたところで見ていた。

 

「(ふーん。どこかで見かけたことあるくらいっスね。そこまでのプレーヤーには見えない。)」

 

ふと気が付くと、英雄が黄瀬に向かって歩いてきた。

 

「君が噂のニューフェイスかい?俺、補照英雄。よろしく。」

 

「よろしくっス。黄瀬涼太っス。」

 

さわやかに握手を交わす。

 

「おっ!なんだか仲良くやれそう。ここ変わった奴が多いからツッコミ役が足らないの。」

 

「あぁ、なんとなくわかるかも。」

 

「テメェに言われたくねーよ!バスケ部トップクラスの問題児がよ!!」

 

「痛いっつーの!!お前にも言われたくねーっつの!」

 

青峰が後ろからヘッドロックを掛け首を絞める。

英雄イジリに灰崎も混じっているのだが、雰囲気が今まで以上に朗らかである。

 

「(こんな灰崎始めてみた。)」

 

他では一切見せることの無い灰崎のハイタッチ。

 

「ふ...。おい、そろそろ練習を始めるぞ。英雄、戻ってきたのは良いが、鈍ったなんて言い訳は通用しないからな。」

 

「おっけ!任せなさい!!この期間で渡された監督の特別メニューでどれだけ吐きそうになったかみせてやる!」

 

赤司の言葉で雑談を止め、練習を開始した。

 

「緑間っち、あの人どうゆうプレーすんスか?あんま大したことなさそうなんスけど。」

 

「練習中だぞ。私語は慎め。...その内分かるのだよ。」

 

 

基礎練をみっちり行った後は、3対3のミニゲームである。

 

Aチーム:緑間・黄瀬・青峰

Bチーム:虹村・灰崎・英雄

 

「青峰!」

 

「よし!」

 

ボールを持った青峰は鋭く切れ込む。

英雄はあっさり抜かれず、青峰の動きに合わせていた。

 

「(おっ、結構やる。)」

 

1軍でも青峰をとめられない者も少なくない現状、英雄の技量に少し感心していた。

 

「ちょっと腕あげたじゃねーか!」

 

青峰も嬉しそうに口角を吊り上げる。

 

「でも、甘めぇよ!!」

 

バックロールターンの途中で横にジャンプし、リングに向けて放り投げた。

英雄も手を伸ばすが1歩及ばず。

 

「あーーーー!!もう!!...次!次!!」

 

「へへっ!そう簡単にいくかよ!」

 

笑う青峰を見ながら直ぐに切り替える英雄。

 

攻守交替し英雄がボールキープ。

青峰が低く構える。

英雄が動く。

 

「フッ!」

 

虹村に向けてのパスフェイク。そして前に出る。

青峰も素早く反応し、ボールに手を伸ばすがそれもフェイク。

青峰が詰めた分だけ後退し、ジャンプシュート。

追った青峰の背後にスペースが生まれ、そこに虹村が走りこむ。

ポストアップした瞬間、シュートフォームの英雄からのパスが通る。

緑間がマークしているが、未だ体格で勝る虹村に押し負けてしまう。

着地後、英雄が虹村に走り寄る。

スクリーンプレーで青峰を虹村に預け、ゴールに迫る。

黄瀬がヘルプに来るが、ベストパスが灰崎に渡りシュートを決められる。

 

「く...。」

 

マークの灰崎に決められるのは悔しくてつい声に出てしまった。

 

「ぐっじょぶ!」

 

「うるせえ。」

 

英雄が灰崎を煽るが、灰崎にうざがられていた。

3対3の練習内容は黄瀬の予想を超えていた。

始めの印象から、青峰の相手にならないのではと心配していたが、なんのことはない。

10回のOFで青峰は5本のシュートを打ち、英雄は1本防いだ。更に決めた4本とも楽に決めさせたわけではない。練習とはいえギリギリのところで青峰がきめたのだ。

OFも青峰相手にボールキープし、直接点を取ることは出来なかったが、チームの得点につなげていった。

青峰に憧れる黄瀬にとって、敬意を示すには充分だ。

なにより、あの灰崎相手に連携を誰よりも取れている。夢でも見ているのかと思った。

 

「補照っち!!」

 

練習終わりに勢い任せで話をしようと近づいた。

 

「おお、いいところに。着いてきたまえ。」

 

「え?何スか?」

 

訳も分からず、連行されていく。

 

「うむ、実験だ。手伝いたまえ。」

 

「つか、そんなキャラだったけ?」

 

着いたのは部室。当然、まだ他の部員はいない。

 

「まず、準備するのはこれだ。」

 

出されたのは、ペットボトル入りのキツメの炭酸飲料。

 

「なんスか、これ?」

 

「揺らさない様に丁寧に運んだ炭酸だ。そんでこれを投入する。」

 

「これ、メン○ス?」

 

黄瀬は放置され、ドンドン英雄の手が進んでいく。

 

「最後に.....シェイク!!」

 

グォングォンともの凄い勢いでペットボトルが振り回される。

 

「ヘイ!パス!!」

 

「おっととと!」

 

急に投げ渡されて慌ててキャッチ。

 

「さあ、振っちゃいなよ!」

 

親指を立ててくるが、テンションの差に思わずイラッとしてしまう。

 

「そろそろ説明して欲しいっス!」

 

「聞いてるよ~。祥吾と揉めてるんだって?」

 

「それと何の関係があるンスか!?」

 

「あいつも偶にはやっとかないと。まあ、騙されたと思って!」

 

黄瀬はしょうがなく従い、振った。

 

「(はぁ、ホント意味分かんない。)」

 

心で愚痴りながら。

 

「おっけ!最後に俺の名前が書かれた札を下げておくことで完成っと。」

 

しかし、英雄は完成と言いながらも一切ペットボトルに触れずに着替え始めた。

 

「結局なんだったんスか!」

 

「まーまー見てれば分かるよ♪」

 

問い詰めてもけんもほろろで、反応は無い。

すると、他の部員達が部室に入ってきた。

 

「なんだおめーら、えらく早ーじゃねえか。」

 

「まっねー。」

 

「黄瀬。一体何をしていたのだよ?」

 

「...別に、何もねーっス!」

 

「??」

 

青峰らに対してあまりも自然にしている英雄。黄瀬は釈然としないと機嫌を損ねていた。

 

「ねー、このジュースひでちんの?炭酸なんか飲むっけ?」

 

さすがお菓子大好きの紫原。いち早くその存在に気付く。

 

「偶にはいいかな~って。普段は飲まないようにしてるしね。」

 

「ふん。当然なのだよ。仮にも1軍がそんなものを飲んでいるなんて、自覚が足らんのだよ。」

 

「っていう、姑さんがいるしね。」

 

「ねー。」

 

普段、そういった細かいところを緑間に指摘されている紫原は、つい同意してしまう。

 

「お!いいモンあんじゃねーか。もらうぜ。」

 

灰崎はいつもの癖で、ジュースを手に取ってしまった。

 

ニヤリ

 

その瞬間、英雄は鞄を手に取り、出口に走り出す。

 

バッシャァァ

 

ペットボトルのキャップを開けたと同時に一気に噴出す。

キャップは灰崎の顔面に命中し、更にジュースによって全身をビショビショにしてく。

 

「あーーははははは!!最高!!祥吾最高!!!」

 

「.....。」

 

「あっはっはは!!良い男が台無しじゃねーか!!ぷぷぷ、むしろ水も滴るってか!!」

 

灰崎はこの状況に戸惑いながらもだんだんと把握していく。

英雄と青峰は大爆笑。

 

「ぷっ!くくくくく...。」

 

黄瀬も英雄の意図が分かり、笑い声をあげた。

 

「...だから...っ...貴様らは....っく...くだらない...っくく..のだよ。」

 

緑間も堪えているつもりなのだろうが、まる分かりである。それを機にそこにいる全員が笑い始めた。

 

「あーもったいない...。」

 

紫原だけは1人ずれていたが。

 

「英雄...。てめぇか...。」

 

灰崎はゆっくりと顔を英雄に向けた。凄まじい形相で。

 

「にっげろー!!」

 

「待ちやがれ!!ぶん殴らせろ!!」

 

2人は部室の外へと走っていった。

 

「今、英雄と祥吾がすれ違っていったんだが...。何かあったのか?まあ、あったのだろうな。」

 

黄瀬には分からないが、どうやらいつもの事らしい。

...数分後。

 

「ただいま。」

 

額に汗を流しながら英雄が戻ってきた。灰崎に肩を貸しながら。

 

「英雄、ぜぃぜぃ...覚えてろ...。」

 

「(一体なにがあったんスかね?てゆうか、とんでもないっスね、この人。)」

 

などと思いつつも心なしか、灰崎への溜飲が下がっていた。

 

 

騒ぎは一旦落ち着き、下校を始めていた。

黄瀬は青峰、黒子、紫原、桃井と下校していた。灰崎ははぶててしまい、フォローに行った英雄と共に先に帰ってしまったが。

 

「はー、笑った笑った。」

 

「駄目ですよ、青峰君。あまり笑いすぎると灰崎君に悪いです。」

 

「そーだよー。ショウゴ君がまた怒っちゃうよ?ねーテツ君♪」

 

「いんだよ。どうせ矛先は、英雄か黄瀬なんだから。」

 

「なんで!?やったの補照っちじゃないスか!!」

 

「だって共犯だろ?」

 

「俺、なんの説明もされてなかったんスよ!?」

 

「そんな細けー事、灰崎には関係ねーよ。」

 

「ううぅ...。っていうかなんなんスかあの人!」

 

「言ったろ?面白い奴だって。お前も笑ってたじゃねーか。」

 

「面白いって...もうそれはいいっス!あの人レギュラーっスよね?なんで今までいなかったんスか?」

 

大勢がどうにもよくないので黄瀬は話題を変えた。

 

「それがまた傑作なんだけどよ。コーチと口論になった挙句、私物が見つかってそのまま隔離されたんだよ。」

 

「黄瀬ちんが来たちょっと前の事だよね~。」

 

「そうそう!そんで監督にとんでもないメニューを言い渡されて、現在に至るってな!」

 

「へぇー、初耳っス。でもレギュラーなら勝負してもらおうかなぁ。」

 

「おっ?あいつのやんのか?」

 

「補照っちが結構やるのは分かったスけど。あれなら何とかなりそうだと思うんスよ。」

 

「ほー。でもまあ、そりゃどうかな?」

 

「...どうゆう意味っス?」

 

青峰の反応にむっとしてしまう黄瀬。

 

「大ちゃん!言い方!!」

 

「怒るな怒るな。黄瀬もな。お前の実力も成長スピードも認めてるっつーの。英雄より早くその内スタメンになるだろーしな。」

 

「英雄君はコーチに嫌われてますからね。」

 

「え、そうなの~?」

 

「むっ君。それって1年生の時からだよ?」

 

「...もしかして、その謹慎みたいなのってさっきのが初めてじゃないんスか?」

 

「「「「そうだよ?(ですよ?)」」」」

 

4人はハモりながらそう答えた。

 

「てことはあれっスか!?俺の方がスタメンに早くなれるのに、補照っちに勝てないんスか!?」

 

「...聞いてみると、訳分かんねーな。」

 

青峰は笑いながら頷いていた。

結局、英雄のイメージが定まらずに解散した。

 

翌日、近くを通った緑間に聞いてみた。ちなみに今日のラッキーアイテムはニッパーらしい。よく没収されないものだなと思った。

 

「補照の事だと?というか貴様、黒子の時も聞いてまわったらしいな。」

 

「まあ、周りの人に直接聞いた方がいいかなって。青峰っちとかにも聞いたんスけど。良く分かんなくて。」

 

「...あいつは最初から馴れ馴れしい奴だったのだよ。直ぐ問題ばかり起こすし、問題を問われて降格しても全く変わってないし....思い出しただけでイライラするのだよ!!」

 

「と、とりあえず落ち着くっス。」

 

急に興奮しだした緑間。

この辺りの事はあまり聞かないようにしようと思った黄瀬だった。

 

「...しかし、コート内におけるあいつを酷評する者はいない。」

 

「え?」

 

「コーチには相当嫌われている。実際、自業自得なのだが。」

 

「それはもう聞いたっスよ。」

 

「しかし、条件付きだが試合には起用されている。監督から実力による降格の命がでたこともない。そして、わずか1年で実力差を詰めてきた。」

 

「へぇ、でも最後のは俺も一緒っスよ?」

 

「確かにあいつは貴様ほどの成長スピードをもっていない。だからこそ、皆補照に一目おいているのだよ。」

 

そこで話を止め、立ち去っていった。

聞けば聞くほどに分からなくなっていく英雄の印象。

埒が明かないと、行動に移す事にした。

 

「勝負っス!!」

 

練習終了後、部室に戻りながら汗の処理をしている英雄を呼び止めた。

 

「俺?今日はあっちの日なんだけどなぁ。...明日じゃ駄目?」

 

「英雄、やってやれ。」

 

英雄が顎に手を当てて考えていると赤司が促した。

 

「赤司様から言われたら断りにくいなぁ。」

 

「今度の試合に起用するように掛け合ってやる。」

 

「それって公式戦?」

 

赤司の言葉に反応した英雄の顔はかなりにやけていた。

 

「ああ、後はお前次第だ。」

 

英雄はスクリと立ち上がり、

 

「じゃあやろっか!!」

 

黄瀬が英雄の性格を掴んでいる赤司をさすがと思ってしまったのは、しょうがないのだろう。

OFとDFを交互に3本づつ行い、先攻は英雄から。

 

ダムダム

 

中学2年生で180を超える長身の割りに低いドリブルをする英雄。

さすがに簡単にはボールを奪えそうに無い。

 

「(へへっ、折角の後攻。まずは見せてもらうっス!)」

 

基本的に見れば真似できる黄瀬にとって後攻というのは都合が良い。

プレーを見極め、出来ればボールを奪おうと目を見張る。

 

キュッ

 

そして英雄が動いた。

左右にフェイントを使い揺さぶりを掛けてくるが、そのくらい黄瀬も着いていける。

じりじりと前進しながらというところでバックステップ。間合いをこじ開けられた。

 

「(くっ、やられた)」

 

手を伸ばすが、それは上半身だけであり、下半身がついてこなかった。

 

「んー。太郎君、どうかな?今の。」

 

「太郎と呼ぶな。...フォロースルーがまだ甘いのだよ。シューティングを増やすべきなのだよ。」

 

「やっぱそう思う?」

 

離れて見ていた緑間に意見を求める姿が黄瀬のプライドを刺激した。

 

「(今にその表情を変えてやるっス)」

 

黄瀬は今英雄が行ったプレーをそのままやり返した。

 

「(左右に振って、バックステップ!!)」

 

「おお!」

 

英雄も黄瀬と同じように反応が遅れてしまった。

 

「英雄。分かっていると思うが、負けたらさっきの話は無しだ。」

 

「...嘘。そんなの詐欺じゃんか!」

 

「ウチの理念を忘れたか?試合に出たければまずは勝て。」

 

赤司に反論するが、赤司が正論を叩き返す。

 

「...ふう。でもまあ、話には聞いてたけどコピーされたのは初めてだ。そう初体験だ!」

 

「......いや、その言い方はどうかと思うっすけど。..とにかく!補照っちのプレーを見れば見るほど俺は上手くなるっスよ!!」

 

「人から見ると俺ってあんな感じなのか。...うん!」

 

英雄がぶつぶつとなにかを言い終わると満面の笑みで顔を上げた。

黄瀬は、次も見極めに掛かっていた。

 

「え?(これって...。)」

 

黄瀬は目を疑った。

英雄は先程とまったく同じドライブの入り方をしたのだ。

 

「(舐めてんスか?...違う!)」

 

左右のフェイクからのバックステップ。全く同じ動きだと思ったが、先程よりも確実に鋭くなっていた。

今度はしっかりと踏み込んでのブロックも追いつけない。

 

「...さっきは手を抜いてたってことっスか?」

 

睨みながら問う。

 

「そんな訳ないじゃん。」

 

しかし、英雄の態度は嘘を言っているようには見えない。

対抗心が強くなり始めた黄瀬は英雄同様、同じプレーで得点を狙う。

 

「(俺だって!左右!!)」

 

ッパシ

 

「あ!」

 

フェイントの途中で英雄に割り込まれ、ボールを奪われた。

 

「顔に出過ぎ。いくらなんでも舐めすぎでしょーよ。」

 

「くっそ!」

 

最後のDF。これを止めないと黄瀬の敗北が決定する。

 

「(このままやられっ放しは..)我慢できねーっス!」

 

英雄は同じ入り方...から、シュートモーション。

 

「もう騙されねーっス!」

 

今度は素早く間合いを詰め、ブロックを狙う。この距離なら間に合う。

 

「からの~。」

 

そこから、英雄のブラインド・ザ・バックで抜かれレイアップを決められた。

黄瀬の敗北である。

 

「負けた...。」

 

結局、終始英雄ペースで終わり黄瀬は膝を着いてしまった。

 

「英雄。もういいぞ。」

 

「ん?まだ黄瀬君のOF残ってんじゃん。」

 

「あの様子じゃ、やる意味が無い。」

 

「キッツイね~。」

 

赤司の厳しい一言で英雄は苦笑いになる。

 

「それが帝光バスケ部だ。甘えは許さない。...それで、お前から見て黄瀬はどうだった?」

 

「DF、というか視野がちょっと狭いかなぁ?いつも通りに行けば問題ないけど。接戦になった時1番に狙われると思うよ。」

 

「もう少し経験を積ませなければいけないな。ふむ。そうか、参考にさせてもらおう。」

 

「経験積んだら恐ろしいプレーヤーになるね。俺も抜かれないようにしよっと!」

 

「というか、今日はいいのか?」

 

「ははは、半分は赤司様のせいなんだけど...試合の件、ホント頼むよ?じゃお先!」

 

赤司とのやり取りの後、英雄は走り去っていった。

 

「お疲れ様です。」

 

「きー君お疲れ。」

 

黒子が黄瀬にタオルを渡す。桃井も声を掛けてくれた。

 

「ちぇ。情けないとこ見られたっス...。」

 

「ま、まだ早かったってだけだ。」

 

「大ちゃん!言い方!!」

 

「ははは...。」

 

青峰のどストレートな言葉に苦笑いを零す。

 

「しっかし、分かんないっス。」

 

「どうした黄瀬?まだ引っ張ってんのか?」

 

部室で着替えていた途中で引っかかっていた事を呟いていた。

 

「いや、2回目の補照っちのプレーなんスけど。明らかに1回目より鋭くなってたんスよ。でも手を抜いてないっていうし。」

 

「単純に上手くなっただけなのだよ。」

 

「え?」

 

緑間が急に会話に割って入った。

 

「貴様を見てより良く改善しただけなのだよ。映像に撮ってフォームを修正する。それを己をコピーする貴様を目の前で見たのだ。理論上可能なはずだ。」

 

「へぇ、あいつそんなことしてたのか。」

 

「いやっでも!それだけで?補照っちはそんな成長スピードはないって言ってたじゃないっスか!」

 

「それは貴様より人事を尽くしているからだ。貴様の何倍も長くバスケの事を考えていた男だ。自分の出来ていないところなど、あの男にはとっくの昔に分かっているのだよ。」

 

「...。」

 

「俺たちの様に一気に1軍に合流した訳じゃない。それでもあの実力だ。決して自分からは言わないが、相当の練習量を行っているのだろうな。今日の用事も恐らくそれなのだよ。...納得したか。」

 

「...悔しいけど、認めるっス。でも次は勝つっス!」

 

黄瀬は歯を食いしばり、拳に力を込める。

 

「まだ、青峰っちとか緑間っちとかのプレーは真似できないっスけど、補照っちのプレーは真似できる。いつか必ず追いついて、いや追い抜いてみせるっス!!」

 

「(なるほどな。赤司はこれを狙っていたのか...。)」

 

緑間は赤司の手配りに気付き、笑みを零す。

黄瀬はあくまでもバスケ初心者。どこかでバスケを舐めてた節があった。

そこで英雄とぶつけることで、その意識の修正を図ったのだ。

黒子の時の事もあり、黄瀬が英雄に興味を持つのは明白である。

 

「??どうしたんスか?」

 

「いや、なんでもない。まあ精々頑張るのだよ。あいつには試合で見せる、もう1つの顔があることは覚えておけ。」

 

お先、と緑間は1人帰っていった。

 

「黄瀬。テツも待ってんぞ。俺たちも帰ろうぜ?」

 

「うっス!!」

 

こうして、黄瀬と英雄の顔合わせが終わった。

結局、先に黄瀬がスタメンになるのはご愛嬌。

ちなみに、英雄の試合の起用方法で黄瀬が驚愕するのはまた、別のお話。下さい。


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