黒バス ~HERO~   作:k-son

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外伝:暁大カップ

5月の大型連休ゴールデンウィーク。

人によっては、小旅行にいったりと賑わっている。高速道路は渋滞しがちで、逆に家から全く外に出ない者もいる。

そんな中、相模高校の面々は、暁大学の敷地内にいた。

 

「でっかいなぁ。流石、暁大ってところなのかね。」

 

「そういや、ここのバスケ部って相当強いんだろ?去年もインカレで優勝したらしいし。」

 

英雄と荻原は緊張感無く、おのぼりさん状態できょろきょろと周りに興味を示していた。

 

「馬鹿共、恥しいから止めろ。」

 

周りには暁大の学生とちらほらと他の付属校が見られ、この状況であまりに田舎者臭い2人を花宮が止めた。

ちなみに、馬鹿共には灰崎と鳴海も入っており、2人は他校の選手にガン付けして威嚇していた。

顧問の一之瀬も引率として同行しているが、その辺りは花宮に任せっきりにして事務的なことのみを行う事になっている。

 

「口出しする気はないんだが、いつもこんな感じなのかい?」

 

「興味があるなら、練習でも見学に来てください。つか、テメェ等。今回のデキ次第では、二度と舐めた口利かせなくしてやるからな。」

 

一応程度の一喝。それでプレッシャーを感じるほど繊細な性格ではないのだが、今回の目的を思い出させる為のもの。

 

「だってよ、祥吾。」

 

「多分、主にお前に対して言ってるんじゃねぇのか?」

 

「祥吾も中々じゃね?」

 

「お前も偶にタメ口になってるぞ。」

 

「全員だよ馬鹿野郎。」

 

英雄・灰崎・荻原・鳴海は、軽く流して花宮に突っ込まれる。

堅苦しい雰囲気を好んでいる訳でない花宮は、ある程度フランクな接し方でも許している。2年生が1人という事で、上下関係もそこまで厳しくする必要も無く、試合中では逆にコミュニケーションに支障する場合もある。

しかし、油断すると直ぐに調子に乗ってくる1年4人。

 

「ちょっと申し込みしてくるよ。リーグ表を貰ってくる。」

 

引率の一之瀬が集団から抜けて、一足先に受付に向かった。

 

「ん...?おい、英雄見てみろ。」

 

灰崎が指差す方を見ると、オレンジのジャージを着た集団がいた。

ジャージとバッグにある学校名は、秀徳高校。その中でも一際目立つ、眼鏡のっぽ。

 

「お~。挨拶しとく?」

 

「...あっちはもう気が付いてんな。」

 

緑間真太郎その人が、こちらを鋭く見つめている。眼鏡の位置を直しながら、背を向けた。こっちに来るなという意味なのだろうか。

 

「いっちまったな。」

 

「まぁこれから3日は顔合わせるから、機会なんてその内くるでしょ。」

 

元帝光中の灰崎と英雄は離れていく緑間との縁の深さをしみじみ感じていた。

キセキの世代との対戦で、最初は海常の黄瀬だと思っていたところで緑間との対戦の機会がやってきた。

 

「お待たせ。これ、リーグ表ね。更衣室の場所も聞いてきたから、行こうか。」

 

入れ替わるように一之瀬が戻ってきて、受付で指示された場所に案内を始める。しかし、花宮以外の1年生たちが一之瀬に見向きもせずに表に群がっている。

 

「秀徳がAリーグで俺らはBか。」

 

「これじゃあ当らないかもな。」

 

「おい、行くぞ。」

 

一之瀬がさらりと4人の事を放置して花宮にぶん投げたので、仕方なく対応。

4人が見たリーグ表は2つあり、計12チームが6チームずつ分かれていた。秀徳以外は全て伝統ある暁大の付属高校。その秀徳との対戦するかどうかは分からなくなった。

花宮の声に従いながらも、表を眺めながら移動する1年達。

 

「簡単じゃん。こっちのリーグで1位になればいい」

 

「だな。」

 

英雄があっさりと3日間での6試合の最後に対戦する方法を答えた。灰崎もその言葉に疑いを持たず、表から目を離して花宮との距離を詰めていく。

キセキの世代が加入した秀徳高校が、古豪・中堅くらいで負けるイメージの方がし辛い。緑間抜きでも全国クラス。色々試しながらの本気モードでなくても、勝ち続けるだろう。

 

「ばぁか、その前にやる事あんだろーが。このままやっても勝てねーよ。」

 

今の相模の連携度を考えると、古豪・中堅クラスでも苦戦。下手をすると負けすらある。

多少一緒に練習するのと、しっかりコンビネーション等の高度な練習には大きな差があるのだ。寧ろ、秀徳とやりあうのが最後で良かった。

それまでの試合で、煮詰めて煮詰めて最後に全国クラス相手に己を計れる。

 

「(そういや、前にこいつ等が言ってたな)俺達の為の大会か...。いいぜ、とことん利用してやる。」

 

普通の部であれば些細な事だろう。しかし、こうも欠落した要因が多い相模にとって、些細な違いが大きな恩恵を齎す...かもしれない。

そうなるかどうかは、自分達次第である。

 

 

 

非公式なれど、それなりの規模で行う大会なので開会式を行う。

アップ後、直ぐに第一試合をメインアリーナとサブアリーナで同時開始。

1日に午前と午後で2試合。控えのいない相模にとってコレが1番キツい。昼食の量を間違えると本格的に致命傷となる。

Bリーグの1試合目から相模の出番となった。

 

暁大第二 対 暁大相模

 

 

『おい、あの面子見ろよ。』

『あれが噂の相模高校...』

 

相模高校の名前は既に広まっており、注目度も高い。Aリーグの高校もサブアリーナに見に来ていた。

 

「目立ってるね、なんか。」

 

「こんくらい当然だろ。警戒されてなきゃ楽できるけどな。」

 

荻原がざわめく観客というか、いずれ戦うであろうチームの視線が全て集まっている事に興奮気味になっており、花宮が諌める。

英雄達を呼び込んだ時点でこうなる事は想定内。警戒しないのは、半端な強豪くらいで、研究もされていくだろう。

ただ、今回に関してはあまり意味が無い。何故なら、チームとして全く完成していないからである。

こんな状態を研究した対策など、IH本戦の時では使い物にならない。幸いにも神奈川県内の付属高校は相模だけ。

晒すほど手の内がある訳でもないのに、花宮は余裕の表情。

 

「よーし。馬鹿共、この試合のプランを伝える。前半、速攻禁止だ。」

 

「何それ。すんげぇ面白そうなんですけど。」

 

「英雄。そのつっこみは間違ってる。」

 

試行錯誤しながらの試合だと予想していたが、まさかの縛りプレー。

英雄が驚くように口元を手で覆いながらリアクションをとっていると、荻原が訂正。

この試合の為に今までやってきた練習はなんだったのだろうかと、少々呆然としながら花宮の話を聞く。

 

「DFでボール奪ったら一旦俺に渡せ。カウンターなんかすんじゃねぇぞ。」

 

「テンポ落として全部セットOFって事か?」

 

「そうだ。前半は相手チームの情報収集を行いつつ、1つ1つのプレーを確認しろ。今の状態で速い展開なんかしたらミスが増えるからな。」

 

個人技はともかく、連携に関しては苦笑いが出るレベル。速いテンポで点を稼ぐのが理想だが、その前にやっておくべき事がある。

このチームで5対5を行うのは今回が初。ミスが出る事も容易に想像できる。

勝手に走り出しそうな1年4人に釘を刺す花宮。灰崎の質問に答えながら、この試合の過程での狙いについても説明する。

 

「そんじゃ、声出しはちゃんとしとこうよ。状況変化に伴ったコーチングとかヘルプ欲しかったら直ぐ言ってよね。」

 

「高校のデビュー戦だ、バシッと決めようぜ。」

 

「うっし!ド派手に行くぜ!」

 

「鳴海ぃうるせぇぞ!」

 

簡単な打ち合わせを終えて、コート中央に向かっていく。

久しぶりの試合で1年のテンションは既に最高潮になっている。

 

整列後、ジャンプボールで試合開始。

鳴海が上手くボールを叩いて、荻原がキープ。そして言いつけどおり花宮へ預ける。

 

「いいか。今はリスクを抑えろよ。1本1本集中!」

 

宣言そのままに、じっくりとした立ち上がり。花宮がトップの位置でドリブルして、チャンスを窺う。

 

「鳴海ちゃん、スクリーンスクリーン。」

 

「うるせぇ、分かってるよ!」

 

DFのズレさせる為に鳴海が花宮のマークマンにスクリーンを掛けた。

今やろうとしたが英雄に言われて、不満気にゴール下から離れる。

 

「鳴海!おせぇよ!」

 

終いには、花宮からもありがたい言葉を強めに投げかけられた。やる気が少しそがれた気がした。

 

「スイッチ行ってる!」

 

花宮はスクリーンを使ってマークマンを引き離し、ペイントエリアに侵入。鳴海のマークマンが代わりに詰めてきたが、荻原のコーチングもあって捕まる前にパスを出す。

パスの先のゴール下付近にはスペースが生まれており、タイミングよく灰崎が走りこんでいた。

 

「おっしゃ!」

 

花宮からのパスをそのままワンハンドダンク。チームの初得点を鮮やかに決めた。

 

「荻原!スペース埋めろよ!スクリーンアウトはどうした!?」

 

「あ、やっべ。」

 

灰崎に駆け寄っていた荻原にまたもやお叱りの一言。今の状況で灰崎が止められるとも外すとも思えなかったが、気を抜いてしまった。荻原は素直に反省の態度を示して、遠目で見ている花宮に頭を下げた。

昼休みでの座学で聞いた事なのだが、まともな練習無しでいきなり高い精度でやれという方が無理がある。

しかし、花宮に言い訳など無意味。しようもんなら、お説教タイムがやってくる。

 

「まぁまぁ、声は出てたしDFもこの調子で行こうよ。」

 

パンパンと手を叩きながら攻守の切り替えを呼びかける英雄。一見真面目に見えるが、ただボケる隙間が無かっただけ。

 

「マーク確認しろ!」

 

相模のDFはハーフコートのマンツーマン。マークの相手を声を出しながらそれぞれ確認していく。

特別代わったマークでもなく、ミスマッチもなく、同じポジションの相手をそのままマーク。

 

「シュート来るぞ!」

 

無理なスティールにいかず、バランスを保ったDFは相手にチャンスを容易に与えず、ショットクロックを消費させて焦りを誘発させる。

荻原のブロック越しに放たれたシュートは精度を欠きリングに弾かれる。

 

「もたもたすんな!リバウンド!!」

 

逐一花宮の指示が飛び、鳴海がリバウンドをものにした。

今度は先ほどの様に気を抜いたりせず、灰崎・英雄もスクリーンアウトをしっかり行っており、鳴海のリバウンドに後押ししていた。

 

「おっしゃ!速攻!」

 

「馬鹿馬鹿!ストーップ!!」

 

鳴海が勢いそのままに、前に向かってロングパスをしようとした瞬間、英雄が視界を塞いで止める。

おそろおそろと花宮を見ると、真っ直ぐこちらを睨んでいた。

 

「あはは...未遂って事で。」

 

「次はねぇぞ?」

 

鳴海個人だけが攻められるのならまだしも、急にとばっちりがやってくる事もあり、他人事には出来ないのだ。

無言で頷きながら鳴海は花宮にボールを預けた。

 

「っちぇ。何か調子でねぇな。」

 

速攻のチャンスをみすみす手放した事を未練に思い、不満を漏らす鳴海。

 

「だからじゃない?多分、マコっさんの狙いはそれなんだよ。」

 

「どういう意味だ?」

 

英雄は何か察している様で、花宮の考えに理解を示す。

試合開始直前のプラン説明で、深い部分については何も言及されていない。それを理解しろというのは難問だろうが、チームにとって何かしら利があるのだろう。

点差ではややリードを保っているが、今一ペースを掴めないまま試合時間は消化されていく。

 

暁大第二 27-33 暁大相模

 

第2クォーターが終了して完全なスローペースである。

 

「なんだぁ?相模の奴等、随分手こずってんな。速攻ん時も何かもたついてるし」

 

サブアリーナで簡易式に作られた客席に秀徳高校の面々が座って観戦していた。

高尾は前のめりに覗き込む様に見ていたのだが、想像とは違う試合展開に眉を顰める。

 

「ホントにあれがあの元明洸かよ。どーなの真ちゃん?」

 

「...感想など、言う価値もないのだよ...今は」

 

「今は?」

 

期待したほどのプレーは全く見られず、どこにでもある何の変哲も無いバスケット。

確かに堅いDFは認めるが、そこからカウンターに繋げられなければ意味も半減。ちまちまとイニシアチブを取っていくだけで、面白味は無い。

その辺の古豪に通用しても、秀徳には通用しない。

そんな風に考えて少々退屈になった高尾は、横に座っている緑間に話を振った。

緑間も同様な意見で、バッサリと切る。ただ、その割には食い入る様に試合を見ていた。

 

「緑間の言う通りだ。見てみろ相模のベンチを。」

 

緑間の最後の一言に高尾が引っかかった時、秀徳高校の監督・中谷が相模のベンチに目を向けさせた。

 

「うっわ、ガッラガラじゃん。あんな寂しいベンチ見たの俺始めてだわ。」

 

ベンチに座っているのは、引率で顧問の一之瀬だけ。控え選手のいない相模のベンチには空席が異常に目立つ。

 

「あれが相模のチームの状態を表している。あれでは練習するにも苦労しているのだろうな。練習に不足を持つ彼等にとって、このカップ戦はこれ以上ない機会だ。」

 

厚い選手層を持つ秀徳には考えられない状況。どれだけ優れた選手がいても、仮に中谷が監督をしていたとしても似た様な事をしただろう。

1人1人は既に全国クラスであるにも関わらず、この境遇は少々同情すらする。

 

「速攻に行けなかったのではなく、行かなかった。色々試し、試行錯誤を行った上で勝つ。実際、こうして有利に試合を進めていけているのだからな。今はともかく、今後は分からん。それが2日後であっても。」

 

プレーに制限を掛け、チーム完成度も下の下。それでも、古豪相手にリードを奪い続け、チームの伸びしろもまだ見えない。

緑間の様に、警戒して損はないと中谷は言う。

 

「ふーん。ちなみに真ちゃん的には誰が要注意?」

 

どれだけ優れたPGであってもコート外の事情については、そこまで知っている訳ではない。

中谷の言葉を聞きながらも、真剣に試合を見続けている緑間に声を掛けて。

 

「馬鹿め。俺の事より自分の事を心配していろ。相手はあの花宮だぞ。」

 

「いや、そーなんだけどさ。意外にクリーンなプレーするから、何か肩透かしを食らっちゃったみたいで。」

 

悪童・花宮とのマッチアップの可能性を知らされた時に、少し不安になっていた。しかしながら、今見たところはそんな感じはしない。

スタンダードなOFとDF。チームを仕切ってキャプテンも板についている。

悪童というよりも正道と言うところか。

 

「見たところ、灰崎が中寄りで補照が外寄りってところか。このまま行くと、補照が真ちゃんのマークか?」

 

「ふん。誰が来ようと関係無いのだよ。俺は人事を尽くすのみ。」

 

「出た出た。変人語録。」

 

ぷぷぷ、と緑間の言動を笑いながら試合に目を戻す。

 

 

 

暁大カップのインターバルは控え室に戻らずベンチで過ごす事になっている。

 

「馬鹿共ちゃんと集中しろよ。DF詰めがあめぇんだよ!」

 

「あっちのスクリーンの対応でミス多かったね、あははは....とりあえず笑ってみる。」

 

その間、徹底的に駄目出しを行っていた。

マークの受け渡しにもたついて失点を許していたのが、よく目立っていた。

特にインサイドでプレーする鳴海・灰崎・英雄が怒られる。

 

「お前、舐めてんのか?」

 

乾いた薄い笑いが花宮の血管を浮き立たせる。普段、直接的制裁をしない花宮も英雄の態度で胸倉を掴みあげる。

 

「おまっ!余計に怒らせてどーすんだよ!」

 

「鳴海!不用意に出すぎだ!裏のスペース使われてんじゃねーか!!」

 

怒気をそのまま全員に向けられ、頭を下げて聞くしかなかった。

前半に起きたミスを全て覚えている花宮からは逃げられない。

 

「よくもまぁ、ここまで細かく覚えてるもんだ。」

 

「灰崎!何他人事みてぇにいってんだぁ!?中に意識が行き過ぎなんだよ!もっと外への展開作って、マークを散らせよ!」

 

一応、フィールドゴールの成功率が100%であっても変わらない。問答無用で罵倒の嵐。

後半開始までの時間の9割全てを花宮の独演会(毒演会)と化し、まだ試合が残っているにも関わらず精神をなぎ倒さん勢いだった。

 

「分かったか馬鹿共。攻めたいオーラ出しすぎなんだよ。」

 

駄目なところを罵倒し続け、むしろ良いところなんてなかったのではないのかと思い始める頃にやっと終了。

言っている事は間違いなく図星で、速攻に行きたくて行きたくて溜まらない。そんな顔をしていた事もバレバレであった。

 

「でも、後半は行くんでしょ?」

 

花宮が少し苛立つ程に切り替えが上手い英雄が、後半の話を振った。

 

「っち。ああ、そうだよ。つか、お前反省してないだろ。」

 

「してるしてる。油断して鍵かけてなかったら、自転車盗まれたくらいしてる。」

 

「それ直ぐに忘れそうだな。」

 

無言で再度、英雄の胸倉を掴みあげる花宮。それを横目で灰崎が一言。

 

「あ~!早く後半始まらないかな。前半溜まってた分が、爆発しそうだ。」

 

荻原が堪らず立ち上がって両手を頭上に突き出す。

 

「練習した事全く出来てなかったからな。これ以上我慢は出来そうにないぜ。」

 

鳴海も同調し、後半の為に屈伸運動を始める。

 

「一々熱くなるんじゃねぇ!うぜぇよ。」

 

「あんだけ言われても気力充分ってところを評価して欲しいくらいなんだけど。」

 

賑やかなまま、後半開始の時間になり、コートへ向かっていく。

リードしていてもそれほど余裕がある訳ではないが、負けるという事は頭の中に存在しない。

花宮の毒を緩やかに受け流し、試合へ集中していく。

 

 

 

「ここから一気に攻めに転ずるか...表情に出すぎなのだよ。」

 

1年4人の雰囲気に変化が見られ、そこから緑間は察した。しかし、相手にも丸分かりで良いのかとも思う。

 

「いよいよ本気モードってか。お手並み拝見と行きますか。」

 

当然、高尾もゲームの動きを予期しており、前の手摺に肘を付き眺めている。

 

 

 

「前半みてぇに楽にシュートを打たせんなよ!」

 

そこまで手を抜いていなかったのだが、花宮の採点は厳しい。第二ボールからの再開で、相模はDFを固めていく。

相手チームは3年生を主力にしていて、当たり前の様に連携の質は高い。

しかし、相手PGが花宮と対峙してしまうと、プレーに制限が出来る。加えて、前半行った情報収集もある程度目処がついており、パターンにも当りをつけている。

 

「英雄そっち行ったぞ!」

 

「あいよ。」

 

相手Fはドリブル突破を図り、英雄につっかける。英雄は無理にスティールに行かず、コースを遮る事に努めた。

その間に花宮や鳴海達がパスコースをチェックし、シュートを打たせるように誘導した。

 

「タイミングおっけ。」

 

シュートを弾かず軽く触れてリバウンドに移行。

 

「おっし!ベストポジション!!」

 

鳴海の豪快なリバウンド。そして、制限解除により相模の三線速攻がこの場で披露される。

 

「鳴海!出せ!行くぞ、てめぇら!!」

 

花宮・灰崎・荻原が相手ゴールに向かって一斉に走り出す。

花宮を止めようと距離を詰めると灰崎にパス。灰崎に向かうと荻原にパス。第二の戻りの遅れもあって、荻原がフリーになった。

 

「1発目は俺だぜ!」

 

荻原の悠々としたレイアップが決まって、ガッツポーズを力強く決めた。

 

「いつまでやってんだ!さっさと戻れ!」

 

「おとと。最初くらいいいじゃんか」

 

余韻に浸る暇も無く、花宮の指示に従ってDFに戻っていく荻原。

 

「何かいったか?」

 

「イイエナニモ。」

 

 

 

「三線速攻か...速いなこれは。」

 

秀徳キャプテンの大坪が、たった1度でムードを変えてしまった速攻に顔色を変える。

 

「前半で見せた様に、DFはかなり鍛えこんでる。そこからの決定力のあるカウンターは厄介だぜ。第二も相当警戒して、OFに躊躇いが出てる。」

 

大坪の一言に宮地も一言添える。役割上、速攻に対応するのは緑間・高尾・宮地となるのだから、表情にも厳しさが表れる。

 

「ふむ、実に綺麗な速攻だ。というかこれは元々、明洸トリオが得意としていたパターンだね。そこに花宮が抜群のセンスで合わせてる事でパターンが倍増している。」

 

厄介さは理解しているが、今日これから対戦する訳でもない。監督の中谷はうろたえる事無く、素直な感想を言う。

 

「監督はご存知だったんですか?」

 

木村が中谷の言葉から話を広げようとして、次を促す。

 

「ああ、去年の全中決勝戦は視察でいたからな。」

 

こうして秀徳に緑間が加入する前に、中谷は直接試合を見ようと試合会場にいた。

中学最強を誇る帝光中から多く得点したこの三線速攻の威力をその目で見たのだ。

 

「あの3人がいるという事は、既にある程度の完成度を持っているいう事だ。下手に新しいフォーメーションの練習をするより遥かに効率的なんだ。」

 

英雄・灰崎・荻原をメインとした攻撃であり、中学と言えども全国で研磨された物があるのに使わない手は無い。

それが更に強力に進化したのだ。

 

「進化?」

 

「問題は、花宮とCの鳴海がいる事でバリエーションが増えた事にある。」

 

高尾が、キセキの世代の5人から点を取るというだけで、その威力が窺えるのに更に凶悪になるのかと顔を傾ける。

 

「まず今行った様に、あの3人の組み合わせでなくても決定力が変わらない。結果、攻守の切り替えが早くなる。」

 

明洸時代の頃は3人でのパターン以外との差があり、どうしても強引にならざるを得なかった。そこに、安定したシュート力を持つ花宮がいる為、攻守交替の見極めが楽になる。

 

「そして、後詰めが強力になった。」

 

 

 

相模の三線速攻をなんとしても止めようと、第二が懸命に戻る。必死に食らいつき、シュート精度を乱そうと足を動かしていく。

 

「おら!出番だぞ!」

 

花宮からバックパス。第二のフロント陣が戻りきっていないところを突かれて、セカンドブレイク成立。

 

「おっしゃぁあ!」

 

がら空きのど真ん中を突っ切って、ミスマッチのブロックの上から強烈なダンクを決めた。

 

 

 

「これだ。先行している3人を止めても圧力に押されて、セカンドブレイクの対応が追いつかない。鳴海は中々に走れるCという事もあるが、補照が外のポジショニングをしていてDFを惑わしている。」

 

相模の三線速攻のもう1つのパターンを指摘する中谷。

完全に相模ペースになり、OFに躊躇い始めた第二高校は半端なOFをそのまま叩き返される展開を繰り返す事となった。

 

「なるほど。強いね相模高校。」

 

「当然だ。これくらいやってもらわねば困る。でなければ、俺達と戦う事など夢のまた夢なのだから。」

 

今まで黙っていた緑間が急に発言する。

秀徳と相模が戦うとすれば、相模がリーグを1位で通過しなければならない。

 

「奴等を最初に叩き潰すのは俺だ。この機会を渡す訳にはいかない。」

 

完全に私情を持ち出す緑間に、3年生は反感を覚えるが何時もの事。宮地が木村からヤシの実を借りて、緑間の頭をかち割ろうと話していた。

 

 

暁大第二 53-77 暁大相模

 

 

第一試合は終了し、相模高校はまずまずのスタートを切った。

観戦していた者は立ち上がり、それぞれの試合の為の準備へと移っていく。

 

「真ちゃんの為じゃねーけど、まずは初戦。」

 

高尾も立ち上がって、意識を試合へと向けていく。

 

 

 

 

「終わったと思うなよ、馬鹿共。これから反省会だ。きっちりフィードバックしてやるから感謝しろ。」

 

それでも相模の試合は終わっていない。

 

「遠足は帰るまで、みたいな?」

 

「全然楽しくねーんだけど。」

 

花宮のやっている事に間違いはない。しかし、もう少し表現が軟らかくなればと思う。

修飾語のように罵倒されるのは、かなり堪える。英雄のテキトーな例えにブルーな鳴海が否定する。

 

「でも、ま...楽しかった。得るもの得たし、全国の頂点との距離がこのくらい縮まったんじゃない?」

 

「...あっそ。」

 

煮詰めるべきところは多くあり、まだまだ及第点にも及ばない結果だったが、1歩進めた事は事実だろう。

課題を明確にし、今後の指標を得たのは成長に繋がる。

英雄の真っ直ぐな感想に花宮は軽く流すのであった。




本編やらないといけないのは分かっているのですが、出来なかった事を出来る外伝が正直楽しい。
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