黒バス ~HERO~   作:k-son

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外伝:所謂プレーオフ

暁大カップの3日目。各高校が1試合ずつ行って、リーグの結果が出揃った。

そして、暁大カップの締めくくりとして2つのリーグでどう順位だったチーム同士の対決が待っている。

下位からの試合が行われ、相模の試合は最後となった。

1試合ごとを苦労しながら結果を出し続け、やっとのことで辿り着いたリーグ1位。これだけでも、充分な自身を得られるだろう。

それでも最後の試合次第では、その自身も砕け散る可能背もある。

相手は、全国に轟く強豪。東京三大王者の1つ秀徳高校なのだから。全国クラスと戦って、差を見せ付けられるのか、はたまた手ごたえを掴む事が出来るのか。

 

 

2位同士の試合が終了し、1位同士。つまり、秀徳と相模の最終アップが行われている。

その様子を花宮が観察していた。

 

「(っけ。明らかに調整するって顔つきじゃねぇな。隙があれば、突こうと思ったんだが)」

 

これまでチームの第一目的に集中し、最悪負けても仕方ないくらいに思っていた花宮。しかし、全国のチーム相手となると少々気合の入り方も違う。

ほんの少しでも油断してくれれば、開始直後の主導権を取りやすいと画策していた。

もっとも、今大会で1番と言ってよいほどやる気マンマンな緑間を筆頭に、念入りに体を暖めている。

 

「(まぁ、それもいいか。本気で来るなら)おい、集合だ!」

 

開始時間に差し掛かり、アップを行っている相模のメンバーを呼び集めた。

 

 

 

 

「アップに抜かりはないな?半端なアップでは怪我をするぞ。ウチの名目上はIH予選前の調整目的だが、少々歯ごたえのある相手との試合もまた良い経験となるだろう。」

 

秀徳もまた、スターターのメンバーを集め、監督の中谷がコンセントレーションを促している。

これまでのリーグ戦では、試合の半分で控えを起用し、様々なケースを想定したシミュレーションを兼ねていた。早い話、秀徳が全力で勝ちに行った事は無い。

IH予選の直前での怪我が最も懸念すべき事である以上、無理は禁物。控えにも出場機会があるのだと意識付ける狙いもあって、秀徳として順調に事を運べている。

だからと言って、本気でのプレーから離れてよいとは言えない。力をセーブする事が癖になっても問題なのだ。

最後に、勢いの付く勝ち方が出切れば、今年のIHへの弾みにもなる。

 

「OFは練習どおりを心掛けろ。DFは序盤マンツーで様子を見よう。事前にマッチアップを確認しておけ。」

 

中谷はマンツーマンDFの指示を出した。想定でインサイドに不安がなく、アウトサイドへのケアを優先させたものである。。

チームの完成度はともかく、個々の実力は本物である事は既に確認している。今までの試合で制限をつけたままのプレーで、秀徳同様本気を出してはいない。

相手の事を全く知らぬまま、半端な攻撃をしようものなら痛いしっぺ返しがまっている。

 

「緑間。」

 

「はい。」

 

最後に緑間の名前を呼んだ。

 

「どうにもお前は、1部の相手の時に頭に熱が入りやすいようだな。熱くなり過ぎると足元をすくわれるぞ。」

 

「すみません。分かってはいるのですが。」

 

基本クレバーなプレーなのだが、相模に対する入れ込み様は異常。

暁大カップの初日はよかったのだが、昨日の晩には、整の為に体育館の使用を申し出ていた。そうなるのはキセキの世代のいる高校くらいだと思っていた中谷にとって、この事は懸念していた。

 

 

 

 

「この試合に俺はあんまコーチングしてやれねぇ。自分等で判断しろ。」

 

一方、相模ベンチでは、これまでのような声出しを行わないと花宮が告げる。

 

「あれをコーチングと呼ぶのか?」

 

「しかも上から目線かよ。あれのせいで今一調子が上がらないってのに。」

 

鳴海が疑問系で聞き返し、灰崎が不満顔。あくまでも『してやってる』風な物言いに1年達が疑問の声を上げていた。

 

「おいおい、先輩の優しさが分かんないのか?察しの悪い後輩だぜ。」

 

花宮のしたり顔は非常に腹が立つ。そんな気もないくせに、スカスカの言葉を話す。

 

「DFはマンツーで、OFはどうすんの?」

 

「完全フリーOFって訳じゃないんでしょ?」

 

何時もの事なので、英雄と荻原は特に気にせず試合について話を促す。

本日の1試合目で軽くゾーンDFを試したが、3Pシューター緑間がいる状況ではボックスワンくらいしかできないだろう。

慣れないゾーンよりもマンツーの方が安定性が高い。

そして、OFについて未だに花宮からの支持はない。

 

「まあな。あっちの対応次第ってとこだが、とりあえず序盤は鳴海中心で組み立てるぞ。」

 

秀徳のDF次第で、攻撃を切り替える作戦。つまり、今の時点で具体的な作戦は無い。つまり、悪い意味で今まで通り。

様子見という意味もあるだろうが、花宮は鳴海を指名した。

 

「俺か!?」

 

完全に予想を外された鳴海は、自らを指差し驚きの声を花宮に返した。

 

「うるせぇ!あっちに聞こえんだろ!!」

 

「ははは、いいじゃん。砕け散ってこいよ。」

 

「砕け散る前提で言うんじゃねぇよ。」

 

完全に他人事での物言いの灰崎に鳴海もカチンと来る。確かに相手の大坪と比較すると不利は否めないが、そう言われると歯向かいたくなる。

 

「さてさて、どこまでいけるかなぁ?楽しみ楽しみ。」

 

遠目で気合バッチリな秀徳の面々を眺めていた英雄はユルく笑う。

花宮はこの試合で口出しをしないと言った。つまり、駆け引きや相手の弱点を突いたり嵌めたりはせず、正面からやりあうつもりなのだろう。

勝利という目的を変更する事はないが、徹底的にこの試合を踏み台にする。目の前の勝利よりも、この先のタイトルを掴む為に。

多少リスクがあっても緑間と勝負しても良いというのは中々に愉快。

 

「ぼやぼやしてんじゃねーよ、行くぞ」

 

 

秀徳高校スターター

 

C  4番 大坪泰介 198cm(3年)

PF 5番 木村信介 187cm(3年)

SF 8番 宮地清志 191cm(3年)

SG 6番 緑間真太郎 195cm(1年)

PG 10番 高尾和成 176cm(1年)

 

暁大付属相模高校スターター

 

C  6番 鳴海大介 194cm(1年)

PF 7番 灰崎祥吾 188cm(1年)

SF 8番 補照英雄 189cm(1年)

SG 5番 荻原シゲヒロ 183cm(1年)

PG 4番 花宮真 179cm(2年) 

 

 

 

暁大カップ最後の試合。2つのリーグの1位同士の激突、秀徳高校対暁大相模。

大会の締めくくりである為、参加している全チームがメインアリーナの客席に集結している。

コート中央には整列を終えた黄色と赤の2つのチームが開始の合図を待っていた。

 

---試合開始

 

ボールが高々と舞い上がり、両チームのジャンパー大坪と鳴海が片手を伸ばして跳ぶ。

先に手が届いたのは大坪。4cmと経験の差で競り勝った。

 

「高尾!」

 

「っしゃあ!」

 

ジャンプボールを制し、早速先制点を決めようとボールを受けた高尾が緑間にパス。

 

「ヘイカモン!」

 

緑間がシュートに移行する前に英雄が詰め寄り、タイミングを潰す。

 

「今の内にマーク確認しろ!」

 

「口出ししないんじゃないのかよ。」

 

花宮の指示がいきなり出ているが、これは当然あるべきものでノーカウント。灰崎は、今まで通りの展開を予期し、表情が歪む。

相模はマンツーで事前のミーティングどおり、大坪に鳴海、木村に灰崎、宮地に荻原、高尾に花宮、そして緑間に英雄。

 

「...行くぞ。」

 

緑間はシュートチャンスを作る為、まずはドリブルを仕掛ける。

195の長身を誇る緑間のシュートにブロックしたくても、届くだけの高さが必要になるのだ。英雄は189で、ギリギリ出来るか出来ないか。少しでもタイミングをズレさせれれば決められる。

 

「っ。」

 

「パスかよ!」

 

3Pを警戒していた英雄の虚を突くパスは、ワンバウンドして大坪の手に収まる。

 

「こいやぁ!」

 

大坪の背中越しから鳴海がプレッシャーと共に大声を掛けた。この試合直前までの間で、散々発破を掛けられただけはある。

力負けしないように腰を落として肉薄。

 

「(へぇ、気合充分って感じだねぇ。けど、それだけじゃ足りないぜ?)」

 

正直、緑間があそこまであっさりとパスした事に少々驚いていた高尾。しかし、そのお陰でこの試合におけるミスマッチにほくそ笑む。

大坪は力で押し返し、タメを作ってスピンムーブ。そのまま、ゴール下に入り込んでバンクショット。

 

「おし!DF1本止めるぞ!」

 

「っく。」

 

大黒柱の安定したシュートで先制。このまま波に乗ろうと大坪が全体に呼びかける。

鳴海は今のプレーで大坪との差を改めて感じていた。その洗練された動きの1つ1つは、今の鳴海には出来ない。

 

「鳴海!」

 

「なんだよ!言われなくたって...」

 

「いいぞ、そのままいけ。」

 

「は?」

 

OFに向かう途中で花宮に呼び止められたが、鳴海の予想外の言葉に困惑した。

明らかな地力の差での失点を褒められるとは。多分褒めているのではないだろうが、今までと比べるとそれくらいの意味になる。

 

「OFOF!ガンガンいこうぜ!」

 

ポカンと花宮を眺めて足を止めてしまった鳴海に荻原が手を叩きながら呼びかける。

英雄や灰崎も鳴海の失点に全く気にしておらず、フロントコートで待っていた。

花宮がボールを運んで、鳴海がポストに入って、英雄・灰崎・荻原が足を動かしてパスコースを作る。秀徳のマンツーマンDFはOFと同じマッチアップで、ゴール下には鳴海をマークしながら大坪が待ち構えていた。

 

「ビビってんじゃねぇぞ鳴海!」

 

パスが鳴海に通り、またしても攻守を入れ替え大坪との対決。

全国でも屈指のCである大坪のDFは流石と言ったところで、上から覆いかぶさるようにチャンスを与えない。

 

「(誰がビビるか!つか、そんなもん問題じゃねぇし!DFだけでも半端じゃない!!)」

 

ターンしようとも先に肉薄されて振り向けない。振り向けなければシュートが打てず、中途半端なシュートはブロックを食らう事になる。

そして、ぼやぼやしていると3秒ルールでチャンスすら失いかねない。

 

「あれホントにビビってる?」

 

「(ビビって)ねぇ!」

 

英雄のおやおやとふざけながらの一言を切っ掛けに、鳴海が強引にシュートに向かった。

 

「甘い!」

 

大坪の腕が鳴海とゴールの間を綺麗に差し込み、シュートコースを阻む。

勢い任せにいったシュートをパスに切り替える事が出来ず、大坪もブロックで正面から叩きつけられた。

 

「ルーズ!」

 

「おぉっし!」

 

フリースローライン付近でブロックされたボールを荻原が拾ってキープに成功。すぐさまポストアップした灰崎にバスを送る。

 

「祥吾!」

 

灰崎が木村のプレッシャーを受けながら、受けたパスを声のした外にパスアウト。

右コーナーで英雄が受けてシュートチャンスになる寸前、緑間が間を空けずに追従する。

 

「良いDF♪」

 

英雄がニヤニヤしながらパスの勢いそのままにシュートに移行。やはり英雄・灰崎コンビの流動的なプレーは健在で、パスを受けてからの動きが滑らか。

しかし、マッチアップは緑間。それにもしっかり対応し、ブロックに向かう。

 

「やらせ..何!?」

 

英雄のポンプフェイクに釣られて膝を伸ばしてしまった。その横を英雄が通り抜けていく。

咄嗟に反転し英雄を追う緑間。完全に抜かれきった訳ではなく、タイミングギリギリでもブロックを狙う

 

「なんてね。」

 

クロスオーバードリブルで追ってきた緑間の逆を突きステップバック。足の位置を3Pラインの外に置いて、対戦十分のジャンプシュートを放つ。

0度からの3Pショットは、緑間の手を綺麗にかわしてリングを潜った。

 

「おっと、先に決めちゃったね3P。」

 

自他認める国内トップクラスのシューター緑間のプライドを逆なでする一言を英雄が告げた。

 

「...っく。」

 

緑間はあからさまに表情を変え、悔しそうに歯を食いしばっている。自分のDFから点を取られた事もあるが、先に3Pを決められた事が何より悔しい。

今の場面、英雄の有利な状況だとしても我慢しきれない。中谷に釘を刺されているのにも関わらず、一気に熱を帯びてくる。

 

「ナイス英雄!」

 

「おっけぇおっけぇ!シゲもナイス!祥吾もね。」

 

ブロック直後、ルーズボールを奪取する為に秀徳DFが崩れていた。荻原がキープした時には、パスコースも充分にあり灰崎も余裕をもってポジションには入れていた。当然、速攻に備えていた為に緑間のマークが甘くなり英雄へのケアが遅れる。後は、DFが落ち着く前に仕掛けて得点。

英雄の有利な間合いでの勝負は、緑間といえど不利になってしまう。

 

「(っつっても緑間相手だぜ?いきなり決めっかよ。...それに)」

 

OFに移りボールを運んでいた高尾は、先の攻防に苦い顔をしながら緑間と英雄を交互に見ていた。全国でも有数の強豪秀徳高校ですら、練習相手がいないほどの実力をもつ緑間。それをDFでシュートを打たせず、目の前で3Pを決めた。それが意味するものは実に深刻である。

そしてもう1つの、そして秀徳最大の懸念事項も今のプレーで現れていた。

 

「分かってんな、俺にも良いパス寄越せよ!」

 

中で木村のマークをしている灰崎が、英雄にパスを求めていた。

秀徳が最も警戒している存在、つまり現時点で相模のナンバー1スコアラーの灰崎である。秀徳は様子見を兼ねて灰崎に木村をマッチアップさせているが、木村がどこまで出来るかは不確定。秀徳ベンチの中谷も鋭く見つめていた。

 

「(相変わらず、補照・灰崎の連動性は目を見張るな。補照へのドンピシャのパスが無ければ、今の3Pは止められたはずだ。)」

 

ルーズ時に起きたDFのズレを更に押し広げたのは間違いなく灰崎の好パス。緑間がギリギリのブロックをさせられてフェイクに掛かった。

 

「DF1本止めるぞ!」

 

花宮の号令の下、相模のDF意識が高まっていく。

英雄が早めにチェックを行い、緑間がハーフラインを踏み越えた時点でプレッシャーを与える。

 

「(緑間にフェイスガードか。しかも、ハーフコートライン際でも打てる事も既にバレてやがる。)」

 

中学時代でも全国で何度か使った事があるのだから、全中経験者ともあれば知っていても不思議ではない。というか、決勝戦でのマッチアップで緑間は打っている。あの時は、赤司の崩しでパスを受けていたが、今の秀徳に簡単にパスコースを空ける手段は無い。

 

「なんだぁ?よそ見してていいのかよ?」

 

「っは!?」

 

高尾が花宮をほんの僅か目を離した瞬間、ドリブルしていたボールを弾かれた。

チームが有利になるようなゲームメイクをしようと情報収集をしていた高尾だが、高尾本人にも余裕はない。何故なら相手は、キセキの世代と渡り合える才能と謡われた『無冠の五将』の1人、花宮真。

油断をしていなくとも、隙を自ら作ってしまった。

 

「速攻!」

 

奪った花宮がコートを駆け抜け、高尾が追う。序盤の連続得点は流れを奪われかねない、ターンオーバーからの失点だけは抑えようと花宮に迫り手を伸ばす。

 

「ここまでお膳立てしてやったんだから決めろよ!」

 

「ぅっしゃあ!」

 

高尾を引き付けながら背後にいた荻原にパス。マークの宮地を振り切って完全フリーの状態でレイアップを決める。

続いて追いついた英雄がゴール下付近にポジションを取ってスクリーンアウトを行う。外すとは思えないが一応の約束事である。

 

「これが三線速攻...マジでこうなったら簡単に止められないぞ?」

 

大会初日で見たものであるが、実際に受けると笑えない。パスミスなんかしようものなら、そのまま失点に繋がるだろう。

この威力を見てしまうと、半端な強豪はOFに躊躇いが起きてしまうのも納得。常に鋭利な刃物を後ろ手に隠し持って対峙しているかの様な恐怖がある。

 

「ナイッシュ、シゲ!」

 

「一瞬でも気が抜けないって事か...上等!」

 

他の事に気を回す余裕は無い。この大会で、恐らく1番のPGとのマッチアップなのだから。しかし、これはこれで燃えられる。小さくガッツポーズをとる荻原に駆け寄る事なくDFに戻る花宮に視線を合わせた。

 

「...っち。アイツも熱血系かよ。」

 

「一々イラつかないでくっさいよ。余裕なんでしょ?」

 

「うるせぇんだよ。」

 

自分のミスからターンオーバーを決められて、凹むどころかテンションを上げていた高尾に花宮が舌打ちをしており、英雄が遠まわしに煽る。

 

秀徳高校 2-5 暁大相模

 

上々な立ち上がりを見せた相模だが、試合の行方はまだまだ分からない。不安要素の数は相模の方が多く、加えて秀徳の目つきが更に険しくなっていた。調整のつもりはなかっただおうが、この大会で本気を出した事が無かった為に切り替えが甘かった秀徳。

相模の連続得点は、本気のスイッチを入れるのに充分。秀徳の真価はここからである。

 

「なるほどな。だが、1本1本確実に決めていけばいいだけだ。」

 

大坪は冷静に状況を確認し、チームの方針を定めた。このくらいで、TOを取ったり監督の指示を仰いだりはしない。東京三大王者の称号は伊達ではないのだ。

自分達の本来の力でもってすれば、問題など存在しない。

 

「高尾、無理にパスしなくてもいい。お前の判断に任せるのだよ。」

 

「へ?なんだよいきなり」

 

ミスした高尾に緑間が声を掛けた。予想外だった高尾は、キョトンとした顔を緑間に向ける。

 

「言っておくが、別にビビっている訳ではない。少しでもパスが甘くなれば奪われるだろう。常に質の高いパスを心掛けろ。」

 

内心では直ぐにでも3Pを打ち返したいと思っているだろうが、簡単にムキになる程馬鹿ではない。

表向きには高尾を気遣った一言に聞こえるが、実際には3Pを打つ為に『良いパスを寄越せ』と言っている。

 

「くっくっく、無茶振りしてくれるぜ。全く仕方ねぇな。つか、そんなにしゃべるのな」

 

こうも積極的に緑間から話しかけてきたのは今回が初めて。必要に駆られての行動だろうが、緑間に頼りにされているのは悪くない。高尾は、表情に出さないように気合を入れ直した。

 

 

 

「思ったよりも冷静だったな。」

 

「ん?ああ、太郎君がムキになったら楽できたけどね。流石に都合よすぎでしょ。」

 

直ぐにやり返してこず切り替えを行っている秀徳に混ざっていた緑間を灰崎が見つめていた。灰崎の言葉に返答しながら、緑間の変化を感じ取り英雄は更にヘラヘラしていた。

 

「自分から話しかけるなんてキャラじゃないって、自分で思ってるかもよ。」

 

「おい!気ぃ抜いてんじゃねぇよ!DFだ!特に鳴海!」

 

「俺は何もしゃべってねぇ!!」

 

雑談に花が咲き始めた時に花宮が主に鳴海に向けて激を飛ばす。

鳴海は納得いかず、花宮に反論。鳴海と荻原はしっかり集中出来ていた。

 

「さぁさぁ、まずは第1クォーターを取ろうぜ!」

 

マッチアップの宮地に積極的にプレッシャーを掛けながら、気合の入った一言を荻原が言う。

 

「大坪さん!」

 

対して、確実性を求めた秀徳は先制点と同じく大坪にパスを集めた。

 

「ほらほらぁ、狙われてるよ?鳴海ちゃん!」

 

「うっせぇ!黙ってみてろ!」

 

OFの起点として、秀徳は大坪を選んだ。つまり、他のマッチアップよりもここが有利になるという判断の元である。

ズケズケと状況そのままに言ってくる英雄にカチンときながらも、鳴海は大坪に全力でぶつかっていく。

 

「っふ!」

 

パワードリブルで強引にスペースを作りターンしてシュート。押し込まれた体勢の鳴海が手を伸ばすが、元々4cmの差があって届かない。

 

「うん、やっぱりここだね。あちらのCも1年にしては悪くないが、それでは大坪を止められないよ。」

 

2度の対決で大坪が勝った。この事実で相模のウィークポイントがはっきり見て取れた中谷は、大坪中心からの展開で主導権の奪取を図る。

出切れば緑間の3Pで一気に追いついて突き放したいところだが、まだ無理をする場面ではなく、なによりマークの英雄を侮れないのだ。

 

「高尾!木村!分かっているな?序盤の要所はお前等だぞ。」

 

攻守交替のタイミングで、問題の2人を引き締めるように伝える。指示は簡潔だが、伝えるべき事は伝わっており、無言で2人は頷く。

 

「(っは、警戒しろ警戒しろ。どっちみち別から攻めさせてもらうしな)」

 

花宮は高尾に見せ付ける様にクロスオーバーでドライブを警戒させて、向かって右にパス。狙いは荻原のドリブル突破。

パスを受けた荻原の前には宮地が腰を落として、プレッシャーを掛けている。

 

「来いよ、1年坊」

 

「うぃっす!行きます!」

 

トリプルスレッドからダックインで宮地の足元を突く。身長差を逆手に取ったが、宮地も簡単には抜かせない。

 

「んなもんで抜かすかよ!」

 

「うわっ!マジ!?」

 

宮地が追従し再び眼前に立ちふさがった。荻原は、体勢を整える為にバックチェンジ。そこに英雄が通り抜ける。

 

「ボール借りとくよ。へい鳴海ちゃん!」

 

荻原の手からボールが英雄の手に渡り、ゴールしたの鳴海にパスを入れた。

 

「そう何度も、やられてたまっかよ!」

 

半身で肩を大坪の胸にぶつけてパワー勝負を挑む鳴海。経験値の違いから、恐らく読み合いでは勝てない。そもそも頭脳戦を得意としていない鳴海は割り切って正面から得点を狙う。

しかし、ゴール下の競り合いであればパワー勝負は当たり前、尚且つ相手は大坪。それくらいでは揺るがない。

 

「今度は力任せか?いいだろう!」

 

「っくそが!(ビクともしねぇ)」

 

「鳴海!寄越せ!」

 

咄嗟に声のする方にパスを送る鳴海。スペースに抜け出した灰崎がショットクロックのギリギリでジャンプシュートを決めた。

5人全員が動き回ってやっとこの得点。先に秀徳OFに比べて、この辺の安定感の差が序盤から出ている。

 

「おーけーおーけー、2点は2点。ナイス祥吾と鳴海ちゃん、シゲも次は頼むよ!」

 

「ああ!次こそ!」

 

昨日に秀徳の試合を見ていたのだが、やはりイメージとギャップをたった1度で修正するのは簡単ではない。

苦戦するのも想定済みな花宮が何も言わないので、代わりに英雄が呼びかける。

 

「灰崎。予想してたが、奴等調子に乗って鳴海んとこを攻めてくんぞ。」

 

「分かってんよ。フォロー、だろ?」

 

「ならいい。お前はマッチアップで楽してんだからな、その辺連帯責任になるから気ぃ入れろよ。」

 

「おいこら、そこだけは聞き捨てならねぇ。」

 

秀徳の唯一のウィークポイントである木村と灰崎のマッチアップを全く使わず、それよりも鳴海のフォローをさせてDFの建て直しを計る花宮。

灰崎にとって、それはいいが最後の一言だけは享受しきれない。今後の失点の原因は灰崎の責任も追及されるからである。

 

「(くそ...どうすればいい。どうすれば...。)」

 

第1クォーター2分経過して、僅かに3点差で相模がリードを保てている。

そんな中、鳴海は苦しんでいた。チームのOF・DF共にドタバタと不安定な原因は、鳴海と大坪の差。その差を1番に思い知らされているのは鳴海自身である。試合はまだまだあるというのに、このままでは相模の敗北は必死。

どうしようもなく悔しい以上に、打破する為の手段が欲しかった。もし大坪に対抗できれば、その分チームに勢いを作る事が出来る。そして、敗北の理由になどになりたくはない。

 

暁大カップ、リーグ終了後の決定戦。所謂プレーオフ。

序盤はお互いペースの奪い合いというよりも、相手に与えないような試合の進め方をしている。

チーム力では秀徳有利だが、個々の能力では同等。監督の中谷は未知数な相模に迂闊な攻めをせず、指示も控えて傍観に回っていた。

 

「(ぅんん...ゴール下の制空権でも取りに行くか。)」




既に緑間はパスします。

余談:そういえば、今年のファイナルも終わりましたね。
スパーズ強い!ヒートのビッグ3の解散は悲しい!

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