黒バス ~HERO~   作:k-son

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外伝:コートの外は複雑系

「おい、さっきから呼んでるんだけど。いい加減気付け」

 

青峰と桃井が相模高校の試合観戦と言う目的を果たし、東京まで帰ろうとした時だった。

少々怒声気味に背中から声が聞こえた。

 

「あぁ?誰だよ」

 

「あっ」

 

「よう。久しぶりだなホント」

 

その人物の顔をみた2人は、あり得ないと目を見開いた。

ここにいないはず人物がここにいる。幽霊でも見たかの表情に、対面した人物も少々満足気だった。

 

「何で。アンタ、こんなトコで何してんだ?」

 

「お前こそ。先ずはアイサツだろーがよ」

 

「お、お久しぶりです...虹村さん」

 

嘗ては、青峰達と同じユニフォームを着て、一時であるが4番を背負っていた男。虹村修造がそこにいた。

困惑気味になった桃井は、アイサツを半ば強引に求められた。

 

「おう。元気そうだな、桃井......んで?」

 

「ほら、大ちゃん」

 

青峰のアイサツ待ちになっても、中々言わない青峰を桃井が肘でつつく。

気持ちは分からなくもないが、言わないと話が進みそうにない。

 

「オヒサシブリデス、ニジムラサン」

 

「ほーお。いい度胸してんな」

 

渋々口にした青峰の棒読み具合に、虹村の眉間も狭まる。

バスケの実力とは関係ない部分で、不思議と逆らえない青峰は、目をそらして誤魔化した。

 

「ま、いいだろ」

 

「あの、虹村さんって、確かアメリカに」

 

青峰の悪態を流した事で、桃井が本題を切り出す。

虹村は、帝光中バスケ部を卒業後にアメリカに渡ったと聞いていた。家庭の事情とだけ教えられ、具体的な理由は定かではない。

 

「まーな。色々あったけど、とりあえず落ち着いたんで帰国したってトコか」

 

「へー」

 

「お前、友達いないだろ」

 

桃井の質問を答えていると、青峰の悪態が目に付く。フリでも、もう少し興味を持つべきだと思う。

今の学校でも同じ様な事をしていそうで、円滑な人間関係構築が出来るとは思えない。

 

「ん?アンタ、今どこの学校、ナンデスカー」

 

敬う気持ちが全くなく、タメ口を虹村に睨まれて再び棒読み。

コートの外の話には興味が沸かないが、コートの中の話では別。井上の事もあり、妙な予感が頭を過ぎる。

 

「ったく。えーと、秋田の陽泉ってトコだ」

 

「やっぱり。そんな感じがしたんだよな」

 

「えっ!ええーっ!!」

 

青峰の予感は的中し、帝光中の縁の根深さをしみじみと感じた。

しかし、想像だにしていなかった桃井は、思わず絶叫。

気持ち良いほどの驚きっぷりに、やっぱり虹村はどこか満足気であった。

 

「お、良いリアクションだな」

 

「確認しますけど、むっくんと同じ...」

 

「ああ。途中入部でもIHには出られそうだ。監督に選ばれれば、だがな」

 

秋田県の陽泉と言えば、キセキの世代の1人、紫原敦が進学した高校の名前。

そこに虹村が加入したと聞けば、開いた口も塞がらなくなる。

 

「っく...駄目だ、にやけるのを我慢できねぇ。おは朝占いで1位だったのか?」

 

たった数時間の内に楽しみが一気に増えた事で、今日は良い日だと、青峰は確信した。

普段なら信じない占いも今なら信じられそうだ。

秀徳、海常、相模、陽泉、洛山と、もしかしたら負けるかもしれない激戦が、この先に待っていると思うだけで、その身が震える程の歓喜が押し寄せる。

 

「何ブツブツ言ってんだ?」

 

「な、何だよ。あ、あんま見んな、よ」

 

「大ちゃん、ちょっと気持ち悪い」

 

笑いながら文句を言う青峰が、実に奇妙に見えた桃井は、正直少し引いていた。言葉の端々で、プスプスと空気が抜ける音がすれば仕方もない。

 

「何かお前、変わった...いや戻ったのか」

 

虹村が帝光中を卒業する頃の青峰は、こんな間抜けな顔を出してはいなかった。最後に見たのは、正式にスタメンをキセキの世代に奪われた頃。

 

「(ふーん)ま、いいや。そんじゃ、夏に千葉で会おうぜ」

 

「何で千葉?」

 

「何でって今年のIH開催地でしょ?」

 

バスケに関してなら青峰の頭脳はよく回るのだが、元が元なので抜けも時々ある。桃井がその抜けに補足説明を加えた。

 

「へーそうなのか。ああそうだ、紫原にもヨロシク伝えといてくれ。千葉でぶっ潰すってよ」

 

「おう。任せとけ」

 

客席に戻る虹村は、去り際に片手を振る。その背中を見送る途中までは良かったが、再び噴出し顔が綻ぶ。

 

「だから気持ち悪いって」

 

プスプスと忙しない青峰を生暖かく見守る桃井だった。

 

 

 

「どうして、どうしてここにいるんだ...タツヤ!」

 

また別の場所では、黒子・火神・持田の3名が試合を観戦していた。

第4クォーターが開始された直後、火神は思わぬ人物との再開をしていた。

黒子の次は火神と、ゆっくりと試合を見る事が中々出来ない。

 

「久しぶりに会ったんだ、そう威嚇するなよ」

 

「どなたですか?」

 

感情を露にする火神は明らかに動揺しており、緑間や青峰達に取った態度とは別物。

火神の知り合いと言う事以外は分からない為、黒子は火神に問う。

 

「初めまして、タイガが世話になってる。俺は氷室辰也だ、よろしく」

 

「どうも。黒子テツヤです」

 

「持田礼二です」

 

焦る火神はさておき、先ずは冷静に自己紹介を簡単に行う3人。

礼儀正しく、挨拶だけでも悪い人物には思えない。

 

「おいっ!無視すんじゃねぇ!」

 

「ふう...コートの外でどうこうする訳がないだろう?日本に来た目的の1つではあるが」

 

フランクに握手を交わす氷室に、火神がいきり立つ。

そんな火神に向かい合い、鋭く言い放った。

 

「あの、お2人はどういう」

 

「あ、見苦しいところを見せて済まないね。俺とタイガは兄弟みたいなもの、かな」

 

始めは優しそうな人だと思っていたが、どうやらそれだけではないらしい。徐々に火神に対する敵対心が目に映る。

火神と向かい合った時の目が明らかに違う。笑みを消し、火神を睨みつける。

 

「話は変わるが、IHには出るのか?」

 

「ああ...初戦は勝った」

 

逆に火神の対応は弱くなって、氷室と目をあわせられなくなっていた。

 

「そうか。それは丁度いい。思い切って、時期を早めたのは正解だったな」

 

「丁度いい?一体」

 

話は変わってIHについて。

この会話に何の意味があるのか。疑問を抱きながら、火神は素直に返答する。

 

「簡単だ。俺もIHを目標にしているからな」

 

「なっ!」

 

氷室が日本にいる事自体に驚いているのに、それ以上の情報に驚かされる一方で、頭が追いつかない。

 

「黒子君、だったね?君の事は敦や修造から聞いているよ。何時か試合する時を楽しみにしている」

 

「敦、修造...?まさか、紫原君の事でしょうか」

 

更に氷室は黒子をも驚かせた。

嘗てのチームメイトで、キセキの世代の1人・紫原敦。そして、1学年上の実力者・虹村修造。まさかこの名を聞くとは思いもしなかった。

アメリカにいた虹村が帰国していて、紫原と同じチームにいる。

 

「さて、俺はそろそろ失礼するよ。秋田は遠いのでね」

 

目的の試合はたった今終了し、相模高校が勝ち名乗りをしていた。

関東まで来た目的は別にあって、虹村の誘いでここにきた。

 

「(相模高校か。たった6人で、お世辞にも華麗とは言えない出来だが)」

 

高校バスケに触れて、まず初めに耳にしたのがキセキの世代。それとは別に、虹村が上げた要注意人物達。

試合の全てを通してみるとイマイチなバスケットだが、問題はここからどこに向かうかである。

 

「(もしかすると、台風の目になるのかもしれないな)見ておいてよかった」

 

火神の事も気にかかるが、そればかりを見ている余裕はなさそうだと、氷室は虹村との合流に向かう。

 

 

 

「あー、疲れた」

 

コートの周りで色々と起きている中、相模の面々は1時の勝利に一息ついていた。

フォローに走り回っていた灰崎は、勝利を喜ぶ事無く汗を拭う。

 

「お前ら。俺が事前に言っていた事を覚えているか?」

 

「スポドリの粉末が薄い?」

 

「言う訳ねーじゃん」

 

不満顔をぶら下げる花宮の質問に英雄がトンチンカンな答えを返し、すかさず鳴海がツッコむ。

相模にマネージャーがいないので、試合中のスポーツドリンクの用意は1年生の役割となっていた。

恐らく英雄自身が思った事なのだろう。

 

「第3クォーターで試合を決めろって言ったよな」

 

花宮は無視して話を続ける。

少人数で有効な温存策が出来ない為、消耗戦を避けて早めに試合を決めておきたかった。

しかし、花宮の立てたプランから外れ、最後までバタバタと泥臭い試合を演じてしまった。

 

「自分は出て無かったくせに」

 

「ああっ!?」

 

「祥吾~」

 

その分、花宮は休めており、良くないと分かっていても放置した。

灰崎の不満も分からなくもないが、花宮は聞き逃さない。仕方なく荻原が仲裁をする。

 

「悪い、俺の責任だ」

 

「んな事、最初から想定してんだよ。図に乗るな」

 

素直に非を認める井上にも容赦なし。かなり低い評価を下していたのか、責任を感じる事が過剰評価と言う。

洗礼を受けた井上は、思った以上のダメージに言葉を無くした。

 

「ムゴいな」

 

「何言ってんだ鳴海。帰ったら徹底的に追求するからな」

 

他人事な感想を言っていると、鳴海は死の宣告を受けた。

 

「よかったじゃん。今すぐじゃないってさ」

 

「帰りたくない...」

 

鉄は熱いうちに打て。

本音では、今すぐにミスを徹底的に指摘し、どういう意図でやったのか追及したいところ。

しかし、大会のスケジュールもあって、ここに留まれない。整理体操や撤収作業もあって、反省会は後回し。

終わらない恐怖に絶望する鳴海に、英雄がフォローするのだが、聞いちゃいない。

尤も、飛び火する可能性が大いにあるので、他人事ではない。

 

 

 

「あーあ、態々見に来るような試合じゃなかったな」

 

「とりあえず勝った、それだけなのだよ」

 

試合終了と同時に観客の大半は帰路に着く。高尾と緑間もそれに倣い、駅に向かう。

話題は勿論、相模について。

 

「だが、あの6人目を確認できた。収穫はあったのだよ」

 

「あー、それな。けど、言っちゃ悪いが、そこまで警戒する必要なさそうだぜ?」

 

暁大カップの時との違いは、6人目がいる事だけ。

相模が上手く言っていない理由も、その6人目との連携が取れていないからであり、それ以外は変わらない。

 

「どうかな。どうやら、ブランクのせいでプレーが硬くなっている様だが、試合を重ねれば本来の動きも戻るだろう」

 

「ふーん。相模だからって事もあるだろうけど、えらく気にするのな」

 

やたらと気を払う緑間に疑問を抱くが、5人から6人になった事は大きく違う。そういう意味なら、高尾にも警戒する理由は分かる。

 

「いずれ分かる」

 

過去の井上を知っている緑間には見えていた。本来の姿を取り戻した時、全く違うスタイルが加わり、相模の力は1段上がる。

 

「つーかよ。そんな事言ってると、先輩達にまたどやされるぜ」

 

「言われるまでも無い。そういう意味でも、ここに来てよかったのだよ」

 

相模を意識せずにはいられないが、目先の目的も大切だ。取るべき雁首が目の前に並び、やるべき事を改めて確認できた。

先ずは東京都を取り、1位通過を目指す。そして、堂々と全国を制覇する。

 

「(黒子、青峰......貴様等には絶対に負けん)」

 

緑間には、この2名に負けたくない理由があった。

緑間と2人の違い、それは学校の選び方にある。緑間は几帳面な正確もあって、文武両道な高校を選んだ。

しかし、あくまで勝つ為の環境として秀徳を選んだのだ。バスケットの環境としてならば、緑間が尤も恵まれている。

だからこそ負けられない。尽くせるだけの人事を尽くした緑間にとって、黒子と青峰にだけは負けたくなかった。

 

 

 

「アイツは、氷室辰也は、俺にバスケットを教えてくれたんだ」

 

随分と人が少なくなった廊下のベンチで座り、火神は氷室との関係を説明していた。

火神の個人的事情に、踏み込む必要はそこまでないのだが、さっきのうろたえ様を見る限り、試合に影響しないとも限らない。

火神が断らないのであれば把握しておきたいと、黒子は説明を求めた。

 

幼少時代、アメリカでの友人作りに苦戦していた火神は氷室と出合う。

コミュニケーションの一環でバスケットを教えられ、その時初めてボールに触れた。

その後、師匠と呼べる人物と出会い、メキメキと実力を付けていった。

血が繋がらなくとも同じボールを追う内に、2人は兄弟となり、次第に練習相手から対戦相手へと変化した。

 

「だけど俺は、その事をよく理解していなかった」

 

気が付けば対等と言えるほど、2人の力量の差は無くなっていた。

互いが別のチームに入る事が当たり前になり、火神の勝ち星が積み上がって行く事で、当然の様に2人は衝突した。

 

【弟のお前には絶対に負けたくない。だから賭けをしよう】

 

目指していた兄は、自身を負けたくない敵として定め、次に敗北した時は兄弟を辞めると言い放った。

この時の火神は、バスケットをコミュニケーションの一環であると言う考えを多少なりと持っており、負けたくはないが、氷室の感情を理解できなかった。

当然、火神は拒否するも、強引な氷室によって賭けは成立した。

 

そしてその日はやって来た。

ストリートコートの使用権を駆けた試合で、火神と氷室は敵味方に分かれた。

気持ちの整理が付かないまま氷室を相手取る事になり、苦戦は必死かと思われたが、試合は火神のいるチームの優勢。

その最中、氷室の怪我による不調に気付く。

このまま勝っても良いか、火神は再び迷い、ワザとシュート外し、引き分けに持ち込んだ。

その行動は、氷室のプライドを酷く傷つけ怒りを買い、問い詰められる。

 

結果、賭けの内容に1つ加えられた。

負けたほうが、兄弟の証であるリングを捨てる。つまり、どちらが勝っても兄弟と言う関係は消滅する。

最早賭けとも言えない物だったが、負い目のある火神は呑まざるを得ない。

しかし、火神が日本へ引越しが決まった事で、その日は来なかった。

 

「火神君」

 

「分かってる!分かってんだよっ!俺がやった事でタツヤを傷つけた。けど俺はっ!」

 

あの日を思い返さなかった事はない。何が悪かったのか、どうすれば良かったのか。

何度考えても、後悔と反省を繰り返しても答えは出なかった。

火神の望んだ結末は、氷室の望みとは違っていて、重なる事は恐らくなかった。

それでも、氷室との関係を壊したくなかったのだ。それは、今でも変わらない。

 

「僕も同じ失敗をしました」

 

「え?」

 

非難を受けると思っていた火神は、気の抜けた顔を黒子に向ける。

 

「帝光中が、キセキの世代が最強だった時、内部の信頼関係は崩壊しました」

 

キセキの世代と言えば、圧倒的な個の力の集合体。どんな作戦も戦略も圧倒し踏みにじる。

逆に作戦・戦略が不要になった帝光中は、互いの信頼関係も不要となり、最悪の雰囲気を生み出していた。

 

「部員の1人として、僕はなんとかしようと考えていましたが、結果として何も出来ませんでした」

 

日に日に悪くなる現状を前に、何1つ行動出来ない自分に苛立つ日々。

今となっては過去の事。本来の顔を見せ、年齢相応の表情を出している。けれども、今でもあの頃を忘れられない。

 

「だけど、火神君はまだ間に合います。傷つく事を恐れないで下さい」

 

自分でも偉そうだと思うが、火神の直面している問題の1つの答えを知っている黒子には、同じ思いをしてほしく無かった。

うやむやには出来ない。火神の理想にも遠く離れている。

 

「だから少しでも近づく努力をするべきだと思います」

 

関係の修復は無理かもしれない。全く傷つかない方法も無い。

それでも、正面から向き合った結果なら、少しは納得出来ると思うのだ。

 

「これは、あくまでも僕個人の意見なので絶対ではありませんが、何もしない方が後悔すると思うんです」

 

「黒子......そうかもな」

 

同じ様な経験をした黒子の言葉は、実に参考になる。

 

「さ、帰りましょう。持田君が待っています」

 

話のキリがつき、黒子は立ち上がる。

火神も倣って立ち上がり、体育館の外へと向かうと、持田が出入り口の近くでたたずんでいた。

 

「終わったか?」

 

「まあな」

 

持田は買ったばかりのペットボトルを手渡した。

 

「あ」

 

黒子も受け取ろうと手を伸ばすと、持田の目が遠く後ろの方に向いた。

 

「シシさんにアイサツしたいんだけど」

 

「うるせー。いいから帰るぞ」

 

大分話し込んでしまったのか、あれだけいた観客の姿は見えない。

そして開いた扉の中から、相模メンバーが出てきた。

 

「時間空けると今日何やったか忘れそうだからな」

 

「ブログ、更新したいんだけどなぁ」

 

「まぁまぁ、しゃあないじゃん。って、あ」

 

コートの外でも揉めている相模。鳴海は花宮に背中を強く押され、学んだ井上は関わらない様に努めていた。

そんな中、荻原が黒子達に気付く。

 

「黒子ぉ!もっちー!来てたのか!」

 

「よお」

 

「どうも」

 

荻原に笑顔で駆け寄られ、普段は物静かな2人も笑顔で応えていた。

 

「なんだコイツら」

 

「さあ?」

 

誠凛の3名とは初対面となる花宮と井上は、一先ず様子見に周る。

黒子や荻原の間を割って入り、火神が英雄の前に立った。

 

「...久しぶりだな」

 

「..........?」

 

火神の挨拶を受けたが、英雄の首は傾いている。

完全に忘れてしまったという訳でもなく、深く息を吸い込み酸素を脳に入れて、記憶を引っ張り出そうとしていた。

 

「忘れちまったか?」

 

「ちょと待て......確か、サガミ ダイゴ、でしょ?」

 

「やっぱり出所はお前か」

 

本日2度目の間違い。1時間前くらいに同じ事があった。

間違って覚えられていた名前も一緒で、青峰の言っていた天パ野郎が目の前の人物に違いない。

 

「火神大我だ。ちゃんと覚えとけ」

 

「ん。俺、英雄。よろしく」

 

英雄から差し出された手を強く握り、2度目の自己紹介を終える。

 

「そういや黄瀬君やっつけたんだってな」

 

「あっそうだそうだ。太郎君も気にしてたよー」

 

灰崎が、誠凛に対し気になっていた事を口にし、英雄も便乗して話を広げた。

 

「そうでしたね。正直、勝ったと言う感覚が無いので、なんとも言えませんが」

 

「何言ってんだ。勝ちは勝ちだろ」

 

勝利の実感を持たなかった黒子から感想を聞きだそうとしたが、特になし。謙遜しているのか、練習試合だからか、はっきりしない黒子に火神が直球でものを言う。

 

「へー。もっちーはどうだったの?」

 

「そうだな。俺は少ししか出てなかったから、勉強になったとしか」

 

黒子の人となりを知っている荻原は、それ以上追及せず持田に同じ質問をした。

持田も同様に情熱的な感想などは出てこなかった。

 

「おい。そろそろ帰るぞ」

 

「はーい。それじゃね」

 

話のキリがついたところで花宮が帰宅の指示を出す。試合は終わっても、本日の予定は消化し切れていない。

なるべくなら英雄らも回避したいところだが、この先を考えると甘んじて受け止める必要がある。

手早く別れの挨拶をして、この場から後にする。

 

「あ、そうだ。リコ姉...じゃない相田監督によろしく言っといて、予選が終わったら練習試合申し込むからって」

 

「それは良いですね。その時は、お互い勝ち残っている事を願っています」

 

別れ際の挨拶の後に、口約束ではあるが勝手に取り付ける英雄であった。

 

「もっちーも頑張れよ?折角別のチームに分かれたんだ。対戦しないと損だぞ」

 

「考え方が英雄に似てきたな」

 

「え、そう?」

 

荻原と持田も互いの健闘を祈って、簡単なエールを交換していた。

その様子を見ていて思い至った灰崎は、持田の前に歩み寄る。

 

「灰崎?」

 

「控えの1人だなんて考えんなよ。チームメイトだろうが、先輩だろうが、遠慮するな。お前がゲームを作って行かなきゃ、都大会は勝てないと思え」

 

灰崎にとって、明洸中のメンバーは特別な存在である。最強には成れなかったが、ユニフォームを着たことに後悔はない。

そして、同じユニフォームで同じボールを追いかけていたからこそ、持田の実力も知っている。

誠凛の事を詳しく知っている訳ではないが、創部2年の新鋭チームになら、持田のプレーは必ず活きてくる。必要になってくる。

 

「俺達の話を蹴ったんなら、そのくらいはやれ。俺らを後悔させろ」

 

関係者以外は全く知られていない事実がある。

相模高校バスケットボール部を立ち上げる際、持田へのスカウトの話があった。

当時は、井上を除く5人までは内定していたものの、円滑な活動をする為の人数が致命的に足りない。全中経験者の持田に話が向かうのは当然の事であった。

英雄らは承諾を得られるものと考えていたが、結果は断念。持田は相模への進学を選ばなかった。

 

「...分かってる」

 

無意味な選択だったとは思えない。きっと何かあるはずと灰崎は考え、その答えをプレーで求めた。

そして、持田も真剣に向かい合う。

 

「俺なりなんて言わない。出来る事は全部やって結果を出すよ」

 

持田の言葉に一応の納得を示した灰崎は、その後に何かをいう事も無く踵を返していった。

 

「持田、お前」

 

「お前はお前、俺は俺。何でなんて、聞かないでくれよ」

 

微かに聞こえた今の話に、火神は初めて持田が誠凛にいる事の不自然さに気付いた。

しかし、持田は事情を聞かれたくないと目を合わせない。

氷室との関係を聞かなかったのは、持田自身が事情を聞かれたくなかったから。

 

「悪い。俺自身で解決しなきゃいけない事だから」

 

心配して気を使っているのだと分かっているが、ここから先に踏み込まれるのは、持田の意地が許さない。

 

「大丈夫ですよ、火神君。要はこれからもっと頑張るって事です」

 

「それなら、いいけどよ」

 

相模のメンバーが去ってから少しの間に、微妙な空気が流れたが、黒子が気を利かせて話を終わらせた。

 

「そういや、タツヤが言っていたお前の知り合いってどんな奴だ?やっぱスゲーのか?」

 

話を変えて、氷室の口から出た紫原と虹村の事について黒子に問う。

 

「ええ。紫原君はキセキの世代の1人で------」

 

氷室との事情を聞いた黒子は、火神の質問に快く応じ、2人について知る限りの事を伝えた。

そして思う。何時か持田が火神やみんなに、胸の内を打ち明けてくれるのだろうかと。

誠凛に誘った者として、力になって上げたいが、本人がそれを望んでない。

 

「(待ってますから、きっと君なら)」




考察:IH開催地
原作では、誠凛は海で合宿を行い、その後バスを使ってIH予選を観に向かいました。
・予算の少ない誠凛が行ける範囲で、海に面している
・東京の枠は3つだった為、除外
ここから千葉、神奈川の可能性が高いと判断し、物語の都合で千葉としました。

やりたい事が出来るこっちは、歯止めが利かなくなってしまいます。
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