黒バス ~HERO~   作:k-son

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外伝:その声は到来の知らせ

全中ベスト4という結果で終わった明洸中学バスケット部。

その中で、エースとしてチームに認められていた2年の荻原シゲヒロ。彼は、帝光中バスケ部に身をおいている黒子テツヤの旧友であり、試合で見まえることが出来なかった事を後悔していた。

 

---あと少しで、約束を果たすはずだったのに。不甲斐ない。

 

世代交代により、3年生は引退。

チームは現在の2年生・1年生で作り直さなければならない。

そしてそのメンバーの中で一際目立つ2人の事も考えなければならないのだ。

 

 

 

今年の地区予選が始まる少し前に転向してきた補照英雄と灰崎祥吾。

元の学校が帝光中という事もあり、全員がどう接して良いかが分からず、探り探りの日々が続いていた。

しかし、やはり帝光という名があって、素直に受け入れられない。

荻原は思い切って、どちらかというと話しかけやすそうな英雄に声を掛けた。

 

「帝光って事は、黒子も知ってるのか?」

 

「テツ君?なんで知ってんの?テツ君が学校外に知り合い作ってるとか驚きなんだけど。」

 

唯一の共通の話題がこれしかないので、まずは何と無く会話を続けていく。

人柄はかなり良いと思う。となりの灰崎はあまり積極的に会話に参加してこない。

 

「ああ、こいつ。人見知りするタイプだから。気にしないで。」

 

「勝手な事言ってんじゃねぇよ。まぁ、これから頼むわ。」

 

灰崎が英雄の背中を軽く殴っている。少なくても挨拶くらいは出来るらしい。

 

「おう!よろしくな!!」

 

英雄と灰崎は大会規定により、公式試合に出場出来ない。それでも練習に参加して、チームに馴染もうとしてくれていた。

中学生にしては長身で、それでも動きは軽やか、技術も含めて全国クラス。帝光出身は伊達ではない。

明洸の上級生を上回るパフォーマンスを見せ、荻原は素直に感心していた。

ただし、他のメンバーに『元帝光』という肩書きが邪魔をして、もう1つ上手くいかない。なまじ出来るから尚更だ。

その状態で全国大会の同行をしても逆効果になる為、英雄と灰崎は学校で見送る事になった。

 

 

 

そして、大会が終了し、秋季になって、2学期が始まり、3年も引退し、新たなスタートを切った。

そんな時の事であった。

 

「文化祭ってもう直ぐあるでしょ?」

 

部活の休憩中に英雄が荻原に話しかけた。

灰崎はともかく、英雄に対する外様扱いの意識がやや薄れており、荻原となら普通に話が出来るようになっている。

 

「バスケ部としても参加しない?」

 

英雄の提案。2年の途中で転校して来た為、共有の思い出が欲しいと言い出した。

普通は運動部が文化祭に出し物をする事は滅多にない。

それ故、荻原の興味をそそる。

 

「何かやりたい事あんのか?」

 

「うん。吹奏楽部みたいにさ、ステージに立とうよ。」

 

英雄は、演目でフリースタイルをやろうと言い出した。

フリースタイルと言えば、ストリートダンスにバスケットボールを組み込んだもので、最近ではインターネット上に動画などが沢山投稿されている。

文化祭は10月の上旬。現在9月の新学期が始まった時期で考えれば、時間が足りない。練習時間を割く訳にもいかない。

 

「え?別にいいじゃん。やろうよ。」

 

その時、他の部員の反感を買った。

英雄達は帝光から逃げ出した臆病者達という認識も少なからずあって、今の発言はバスケットを半ば諦めた奴の発言に聞こえるからである。

 

「何なんだよお前...俺達は真剣にやってるって言うのに!」

 

「やめろよ持田!」

 

胸倉を掴む持田を荻原が引き離し、状況を落ち着かせる。

灰崎はそれを横目で見るだけで、微動だにしない。

 

「お前もあんまいい加減な事言うなよな。」

 

「ゴメンよ。でもさ、大会終わってからも気を張り詰めすぎじゃない?」

 

それでも英雄は懲りずに、発言を続ける。

実際、全中が終わった後も直ぐに練習を再開し、ぱっと見には分かりづらいが、選手1人1人の切り替えが未だに出来ていなかった。

直接試合をしなかったが、準決勝で負けた相手に帝光中が圧勝していた。

それを知ってしまった以上、不安が募る。頂点は何処まで高い位置にあるのだろうかと。

 

「1度リフレッシュしないと、そんな顔で練習しても勿体無くない?」

 

結局、英雄に押し切られ、希望を募って参加メンバーを集めた。

始めに参加したのは、英雄と灰崎、そして荻原だけであった。

 

「ま、こんなもんじゃね?」

 

「お前、人望無いのな。」

 

「うっせ!荻原君参加してくれんじゃんか。」

 

荻原としても半信半疑で参加しているが、フリースタイルに対する興味は以前からあった。

英雄のいう事も間違いではないと思って参加を決めた。

 

「で。何から始めるんだ?」

 

「最初は、ボールに慣れてみようか。」

 

英雄が取り出したのは、試合用ではないバスケットボール。

表面がツルツルで、通称『エナメルボール』。

英雄が知人から借りてきたというボールを手にして、そのなじみの無い感触を確かめる。

 

「へぇ、大分違うなぁ。」

 

「摩擦が少なくなるようになってるから、スピン系はやり易い。」

 

そう言って、英雄は指先でボールを回しているのだが、その回転速度は試合のボールでは出来ない。

フリースタイルの練習は、体育館のステージの上で行われており、他のメンバーは通常通り練習を行っている。

しかしながら、何をしているのかがどうしても気になり、気が付けば3人の動向を目で追っている。

 

「序盤はボールに慣れるのと、ダンスの練習がメインだから。時間も無いし、キツめに行くよ?」

 

言葉どおり駄目なところを厳しく指摘され、未経験なダンスまでやらされて、1週間が経った。

英雄は既に心得があるのか、ある程度のことは出来ており、灰崎も初体験と言っていた割に上達が早かった。

荻原もバスケ部のエースとしてやってきた事もあり、ダンス以外ではセンスを見せていた。

当然ながら、通常の部活の練習も途中から参加していたが、既に荻原はフリースタイルに楽しみを覚え始めていた。

 

「...シゲ。最近そっちはどうなんだ?」

 

「思ってた以上に楽しいぜ。...つか、もしかしてやりたいのか?」

 

「んあ!?...んな事...。」

 

1週間で3人のフリースタイルに魅入られた者は少なくない。

1度拒否した身としては、中々言い出しづらいところもある。それを察してくれる荻原に感謝したいところだ。

それを切っ掛けに、1人また1人と参加人数が増えていき、最終的には全部員が参加を決めた。

 

「おーおー、ボール足りないよ。シシさんに相談しなきゃ。」

 

気が付けば30人近い人数が集まり、練習しにくくなっている。

英雄は2日で、ボールを借りてきた。この人数分は苦労したらしく、苦笑いをする。何があったのだろうか。

なんやかんやで、フリースタイルと通常の練習を半分半分から、フリースタイルに重点を置き、文化祭での成功に向けて動き始めた。

通常の練習で気が付いたことがある。

 

「あれっ?」

 

「何か...上手くなってない?」

 

1度大会から意識を外し、多少なりリフレッシュしたお陰か、練習中にでも良いプレーがどんどん出来るようになっていた。

特にボールハンドリングが向上しており、ドリブルで思ったところに移動できる。

 

「アイツは...これを狙って?」

 

不安定な動きの中での確かなボールコントロール。それは、明洸メンバー全員のプレーの底上げに繋がっていた。

他の学校でも行われるような、基礎練習と同等の効果を持ち、尚且つ楽しんで出来るもの。

向上したのは、ボールハンドリングだけでなく、瞬発力やリズム感、バスケットでも重要な要因をも養っている。

 

「...。なぁみんな。もう良くないか?」

 

まさに今、劇的に英雄の印象が変わっている中で、荻原は全員に問いかけた。

未だに英雄と灰崎に対してどこか余所余所しい。だからこそ、これがチャンスだと思ったのだ。

 

「認めようぜ。ちょっと訳分かんないトコあるけど、バスケットに対する姿勢は本物だ。練習だって見れば分かってるだろ?」

 

荻原はその間に立っており、個人的には認めている。何故、帝光中を転校したのかは分からないが、逃げてきた様には決して見えない。

 

「そう、だな。」

 

文化祭を見事成功させ、その打ち上げと同時に歓迎会を開いた。

明洸中メンバーのけじめなのだろう。その日を境に、英雄を苗字で呼ばなくなっていった。

灰崎を名前で呼んだりしないが、それでも気軽に声を掛けるようにもなっている。

 

「灰崎おはよ!」

 

「...おう。」

 

そして、間もなく冬になる時、2人に明洸の背番号を与えた。

英雄に10番、灰崎に11番。公式試合に出られないものの、その番号に期待感が篭っている。

 

「期待してるぜ!今日から正式に明洸のメンバーだかんな!」

 

「だってよ、祥吾。一言くらい言ってやれば?」

 

「ああ。嬉しいぜ。ありがとうよ。」

 

英雄が軽く灰崎に振ってみると、素直に感謝を述べた。お陰で、空気が止まった。

 

「灰崎の礼なんて初めて聞いた...。」

 

「一応言っとくけど、本来はもっと話す方だからね。」

 

持田や荻原も目を開いて驚いているので、英雄がフォローに走る。このままでは灰崎のヘソが曲がってしまう。

英雄曰く、灰崎は帝光でコミュニケーションで失敗しており、今回はちゃんとしようと意気込んでいた。それもあって、今1歩踏み込めないらしい。

 

「英雄!余計な事言うんじゃねぇ!!」

 

結局、機嫌が悪くなりどやされる英雄を見ながら周りは笑っていた。

 

 

 

それから何度か、練習試合を重ねたが、連勝につぐ連勝。

長身の2人の加入により、全中よりも1段上の実力を誇るようになっていた。

試合中でも英雄の提案で、控え選手をドンドン出場させて、経験を積ませていく。

 

「よっしゃ!もっちーのDFに期待!!」

 

数ヶ月で、主力メンバーの特徴を掴んだ英雄は、その選手が最も活躍する局面を作り出して結果を出させる事もしていた・

その内、今まで控えだった持田がスタメンに昇格するまでに実力を上げた。

本来の実力差があったのだが、英雄と灰崎と連動してプレーする内に、自然に上のレベルでのプレーをする事ができる。

元々、エースだった荻原も同様に、数ヶ月で更なる飛躍を遂げていた。

 

「それじゃあ、今日はどうする?」

 

「やっぱカッティング中心にしねぇ?」

 

昼休みの時間を利用して、多目的教室でミーティングを行うようにもなった。

独特なバスケット論を持つ英雄の話は、視野を広げるのに大いに役立つ。

時に脱線して、雑談になる事もあるが、それはそれでよかった。

 

「そういやぁさ。何でここに来たんだ?」

 

英雄と灰崎が来てから半年以上が経った頃。

荻原は会話の流れで、以前から抱えていた疑問を持ち出した。

 

「俺の名前って英雄じゃん。ヒーローの役割って言ったら怪物退治でしょ。」

 

「なるほど!」

 

「いや、なるほどじゃねぇだろ。」

 

そのまま流されてしまいそうな荻原を灰崎が留める。前々から思っていたが、荻原も中々に天然だ。

気が付けば、つっこみ役が定着しており、灰崎もテンション高めに話している事もある。

 

「嘘じゃないけどね。俺には合わなかったそれだけだよ。」

 

「俺は、英雄から話を受けて面白そうだと思ったからだ。」

 

「「どっちみち、帝光中倒すけど。」」

 

いいところでハモる2人。実に相性が良い。

それは試合でも発揮されており、チームの苦しい時間帯では、必ずコンビプレーが炸裂する。

後に、スットクトン&マローンを髣髴させる程の名コンビと全国に広まる事となる。

 

「シゲシゲ。ちょっと良い?」

 

「ん?どうした??」

 

英雄が、嬉しそうにフォーメーション説明などに使う作戦板を持って走ってきた。

なにやら思いついたようで、最初に荻原に意見を聞きたいと言う。

 

「...っで。ここがこうなって、こういう時はこう。」

 

「うん...うん...いんじゃね?これ面白そうだ!」

 

今は授業と合間の休憩中なのだが、2人は熱中しており、始業の鐘がなっている事に気が付いていない。

英雄はその教室から締め出され、荻原も軽く説教を受けていた。最近ではこの光景が恒例となっており、英雄の顔も大分認知されている。

 

「という訳で、三線速攻を取り入れたいと思います!」

 

その日の昼休み中に英雄は、提案と同時に大体出来ているシステムの内容を説明する。

正直なところ、今まで使ってきた作戦・システムはメンバー全体に合っていない。

監督に任せても良かったが、英雄は自分で考えて、ここまで練ってきた。

 

三線速攻。

速攻時に3人が横1列になり、一気に駆け上がる速攻。

アウトナンバーを作り易かったり、コートを広く使えるのでチャンスも多くなる。

更に、3人がチャンスを得られなかった場合も、DF側は押し込まれており、残り2人のセカンドブレイクも充分期待出来る。

 

「基本は俺と祥吾とシゲね。あ、でも使い続けたら、3人にマーク厳しくなって間に合わない事もあるから、他のメンバーにもどの役割でも出来るように体で覚えて欲しい。」

 

この三線速攻の有用性は、練習すればそれなりに出来るようになりやすい事にもある。テンポとタイミングを間違えなければ、武器になるのだ。

そして、来年度の後輩達も続けて使用出来るという、2度の美味さ。

 

 

 

「.......。」

 

「どしたん?」

 

練習が終わって着替えている途中、浮かない顔をしていた荻原に英雄が声を掛けた。

 

「いや。この間、黒子に連絡取ったんだけど。どうにも上手くいってないみたいで...。青峰ってのはどんな奴なんだ?キセキの世代っつー凄いやつなんだろ?」

 

久方ぶりに聞いたその名に、英雄と灰崎の表情が固まる。

 

「青峰か...というよりも、あいつ等基本的にコミュニケーション能力低いから、人間関係で失敗してるんじゃないの?」

 

「確かにありそうだな。今更だけどよ、青峰くらいには言っておいた方が良かったんじゃないのか?」

 

「ん~。サプライズでやりたかったんだよ。居なくなった奴と全国で再開、って面白くない?」

 

「やられた側は堪ったもんじゃねぇ。」

 

英雄と灰崎が転校した事について話し合っているが、その辺りの事をなにも知らない荻原は見ている事しか出来ない。

英雄らは正直分からないと言う。青峰は基本的に良い奴という事で、何があったかも知らず、原因も分からない。

どちらにしろ、第三者が割り込める事情でもなく、出来る事もなにもないのだ。

 

「それより、キセキの世代かぁ。仰々しい名前がついたもんだ。シゲ、どこまでやれる自信ある?」

 

話はそのまま、帝光中との試合を想定したものになり、英雄から抽象的な質問が投げられた。

 

「どこまでって...。」

 

「夏の試合の映像資料見たけど、アレはやばい。俺と祥吾がいても、食い下がれるかどうかの問題になってくる。そこからはみんなの力が必要なんだ。」

 

「何度も見たが、アレ以上に成長する事を考えたら、強がりも言えねぇ。俺と英雄で40点取れるかどうか...。」

 

既にこの2人の頭の中には、帝光との試合のビジョンが作られていた。というよりも、それ以上必要な対策はない。

仮に2人分の失点を防げても、残り3人分の失点をどうするのか。その分、得点できればよいが、それが非常に難しいのだ。

 

「でも。」

 

2人の話を聞いて、改めて全中優勝という目標がどれだけ難しいかを実感する。荻原も少し顔を下げて考えていると、英雄からの一言に反応し顔を上げる。

 

「これを達成できたら、快感だろうね。想像するだけで鳥肌が立つ。」

 

その時、一瞬だがその光景が脳裏を過ぎった。同じく鳥肌が立ち、急に立ち上がった。

 

「何だ今の...あれは、お前のイメージか?」

 

「え?今、何て?」

 

「少しだけど見えたんだ。僅差で俺達が勝つところが。」

 

英雄はポカンと数秒動きを止めて、その後急に笑い出した。

何がおかしいのか荻原には分からず、英雄の笑いが留まるまで待っている。

 

「そうか!やっぱ、インスピレーションに従って良かった!祥吾以外にもいたのか!!」

 

何に感激しているのかは、やはり分からない。

しかし、灰崎も英雄の発言に驚いている。

 

「俺以外って...マジかよ。お前も共有できたのか?」

 

どうやら灰崎にも今のが見えたらしい。だが、それが何なのかは分からない。

それから、英雄や灰崎からの意見交換が以前よりも積極的に行われるようになった。

今まであまり使う事も少なかったスピンボールのパス。意外性に富んだプレーも練習で行い、英雄と灰崎が行っているコンビプレーの一種をも荻原は求められた。

着いていくのがやっとという状態でも、2人は容赦せず遠慮も無く、同じレベルのプレーに巻き込んでいく。

 

 

そして、3年生に進級し、地区予選が始まった。

格段に力を増した明洸中学は、抜群の成績で全国への切符を勝ち取った。

三線速攻という武器を得て、DFの頑張りが得点という形で現れる為、DFへの楽しみも感じるようになってきている。

何より、灰崎の得点力、英雄の創造性、それらに連動できている荻村の3人に相手チームはついていけない。

全中への手ごたえを感じ、改めて帝光中学打倒を決意した。

 

「やべぇ!俺達絶対上手くなってる!」

 

チーム内の盛り上がりも最高潮。去年の対戦成績は僅差なものが多かった事を考えると、その成長を確信する事ができる。

 

「(黒子!今度こそ!約束を果たすぜ!!)」

 

 

 

そして、全国各地の強豪が顔を連ねる国内最大の大会が始まろうとしている。

 

「黒子!久しぶり!!」

 

荻原はそう言ったつもりだったが、聞こえていないのかこちらを見もしない。

それどころか、ただただ俯いており、それが悲しそうに見えていた。

 

「黒子...?」

 

「シゲ。インタビューで忙しそうだ。試合も直ぐあるし、行こうぜ。」

 

その様子を見ていると、去年からスタメンになり、遂にはキャプテンにまでなった持田が荻原を試合会場へ呼ぶ。

荻原は、言われるがままに従って、全中の予選リーグを勝ち抜く為に、試合に意識を集中させた。

 

その甲斐もあって見事、予選突破。

危ないシーンもあったが、ベンチメンバーをフルに使っての意義ある勝利。

灰崎と英雄だけのチームとは言えない結果で、胸を張ってトーナメントに挑む。

 

 

 

「なんだこの試合。糞だな。」

 

トーナメントを勝ち上がっていく中で、帝光中の試合を観戦しているのだが、英雄が普段あまりしない口ぶりで、帝光中のプレーを一蹴。

 

「けど、強いのは間違いねぇよ。始まって2分でほぼ大勢が決まってるぜ。」

 

灰崎がそこにあまり触れずに、帝光の感想を言う。

相手は全国大会にまで勝ち進んだ強豪。弱いはずがない、それでも全く歯が立たない状況で、既に心が折れているようだ。

ひたすら1ON1を繰り返し、力の差を見せ付けるように点差が開く。

 

「ん?なんだ?何かを争ってる?」

 

持田が、要所要所で帝光メンバー達が言い合っている事に気が付いた。

よく見てみると、誰が1番点を取ったかを勝負しているように見える。

 

「タイムアタックってか?なるほどね。これが帝光の最果てか。」

 

「緑間だけは参加してないみたいだな。あいつらしい。」

 

「...ああ、そうだね。それが少しだけ嬉しいよ。」

 

英雄に悲壮感が漂い、真下でダラダラと試合している帝光を見つめていた。

これを見てしまうと、何故英雄達が帝光を抜けたかが納得出来てしまう。別にこうなってからの転校ではないのだが。

 

「ちょっと赤司と話したいな。ホントはもっと後にしたかったけど、アイサツに行って来るよ。」

 

試合も終盤になり、英雄が立ち上がる。少し心配になった荻原は英雄に同行する事となった。

 

 

 

「あ~!補照っちじゃないっスか!お久しぶりっス!!」

 

「あ、うん。黄瀬君も元気そうで。」

 

「あ~、本当だ~。」

 

試合が終わったばかりの帝光中の一団から黄瀬が英雄を見つけるなり飛んできた。紫原も一応反応したが、それほど興味がないのか欠伸をかいてすれ違うだけ。

それを淡白に対応し、英雄が目的の人物を探す。

 

「英雄か...約束は守ったようだな。」

 

「まぁ俺だからね。調子はどうなのよ、太郎君?」

 

緑間が歩み寄り、英雄と握手を交わしている。以前はそれなりに親交があったのは想像に容易い。

 

「...見ての通りなのだよ。」

 

「そっか、大変だったね。寂しかった?」

 

「ふざけるな。貴様がいようが変わることなどない。」

 

英雄が少し冗談を言うと、手を振り払って移動を始めていく。

 

「...よお。やっぱ来たな、待ってたぜ。」

 

荻原の知人は黒子だけ、いるはずの黒子の姿が何故か見当たら無い為、仕方なく英雄に付き添うだけにした。

続いて青峰が来たのだが、その目にある光は歪んで見えた。僅かな光に縋っているような、不安定さを垣間見た。

 

「青峰お前...。」

 

「頼むから、お前だけは俺をガッカリさせないでくれ。」

 

傍から見れば傲慢不遜・自信に満ち溢れた人物の言葉だが、英雄の腕を掴んでいるその様は藁にも縋る一杯一杯な一言に聞こえた。

これが先程の試合で圧倒的なプレーをした人物と同一人物なのか。

 

「ああ、見ての通り。灰崎もこっちにいるから、お前の期待には添えるよ。」

 

「そうか...。じゃあ、またな。」

 

荻原には青峰の気持ちを理解できる事はない。

天才プレーヤーとしての悩みなど、英雄だって理解した訳ではない。ただ、その瞳の奥にあった悲しみを見てしまっただけ。

青峰はずっと1年間待ち続けていた事など、知る由も無い。

 

「ヒデりん...久しぶり。ごめん、青峰君の事、どうにも出来なかった。」

 

「いいよ、そんなの。謝る事じゃないし。それに、裏切り者に声掛けてくれてありがと。」

 

「うん。ごめん。」

 

青峰の後に桃井と言う女子マネージャーが現れて、これまた理由が分からないが英雄に謝っている。

英雄の一言に何か思うことがあるのか、もう1度謝った。

 

「...英雄君、そして荻原君。お久しぶりです。」

 

「テツ君。そんな顔しないでよ。桃ちゃんもそうだけど、出来れば笑って欲しかったな。」

 

「黒子。久しぶり。」

 

「時間があるなら、シゲと話しておいで。色々あるでしょ?」

 

英雄は、気遣いもあるだろうが、人払いをしたかったのだろう。

目の前にいるもう1人。強烈な存在感を放つその少年に英雄は目を向けていた。

 

「ちょっといいかな?赤司様?」

 

「...いいだろう。嘗てのチームメイトのよしみだ。少し付き合ってやる。」

 

そこから何が行われたのかを荻原は知らない。

その後に英雄がついたため息が妙に印象的だった。

 

「こういうのって腐れ縁っていうのかな?」

 

「さぁな。知らね。」

 

準決勝にも勝利を収め、遂に辿り着いた夢の舞台を前に、ストレッチを行っている。

英雄らも帝光中と対戦するのは始めてであり、緊張感を隠し切れない。

 

「もっちー、ごっちん。覚悟は決めた?」

 

この試合のスタメンは、荻原、灰崎、英雄、持田、後藤。

英雄が、全体に向けて確認をしている。

 

「何が?」

 

「無様と笑われても勝利にしがみ付く覚悟。シゲも、テツ君は残念だったけど、試合に集中してよ?」

 

明洸の準決勝は無事に終わっていたが、帝光は黒子の負傷が発生していたのだ。

相手の肘が黒子の頭部に強打したらしく、決勝の出場は無いだろうとの事。

 

「分かってる。ここまでやっと来たんだ。やってやるさ!なぁみんな!!」

 

「「「おう!!」」」

 

明洸の魂はやはり荻原である。

荻原の一言の重みは英雄では出せなだろう。

アップも完了し、コンディションに不安はない。

 

さぁ、全国の頂点への挑戦を始めよう。

 

「勝とうぜ!」

 

『キセキの世代』と『勇敢なる愚か者達』の伝説級の試合。

その幕が、今上がる。




荻原君のキャラに問題あれば、ご指摘をお待ちしております。

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