すごくふわふわで気持ちが良いのです…!
同好会の現状
優木せつ菜さんのライブを観た次の日、俺はスクールアイドル同好会に入部しようと入部申請書を取りに生徒会室に行こうとしていた。
授業が終わり出発しようとした時、慎が声を掛けてきた。
「輝弥、どっか行くのか?」
「うん、早速スクールアイドル同好会に入部したくて、生徒会室に書類を貰いに行こうと思ってね」
慎は俺の答えを聞くと、優しく微笑んだ。
「そうか、やっぱりスクールアイドル同好会に入るんだな。暇だし、俺も付いていっていいか?」
「別にいいよ。にしてもどうしてさ?」
わざわざ俺の入部手続きについてくるなんて、大して面白いこともないけどな。
「いやー、このまま帰るのもあれだし、一緒にスクールアイドルを見た仲として友人の門出は見ていきたいなと思ってな」
慎は少し目線を外し、気恥ずかしそうに答える。
確かにあのライブで俺は心から熱くなっていた。
普通の高校生があんなにも見ている人を虜にできるんだと思って震えが止まらなかったのだ。
高校生になって新しい出会いを見つけることができたので、慎はそれを近くで応援したいという事だろう。
でも慎の性格上、それを素直に言うのは恥ずかしいといった所だと思う。
「そういう事ならいいよ。あんまり面白いものじゃないと思うけど……」
「別にそんなことはないさ。俺がついていきたいだけだからな」
「好きにしていいよ。じゃあ行こっか」
慎からの回答に満足し、俺たちは生徒会室の方へと向かった。
「そういえばどうして輝弥はスクールアイドル同好会に入ろうと思ったんだ?」
生徒会室へ向かう途中、慎は質問してきた。
確かにライブを見終わってからいきなり俺がそんなことを言ってきたもんだから慎も驚いたんだろうな。
「うーん、そうだな。俺、今までピアノを弾いてた理由が好きな曲を自分で弾けるようになりたいって思ったからなんだ」
俺は顎に手を当て、思考を巡らせながら答えを整理していく。
「でも、その曲を弾けるようになった時、姉さんが自分のことのようにすごく喜んでくれたんだ。それを見てこんな自分でも誰かを笑顔にすることができるんだなって思ったんだ」
俺はきっかけとなった時を思い出す。
あの時の姉さんの顔は今でも忘れられない。
「先週、慎と別れた後、何をやりたいかって考えてた時にピアノを弾いてたらそれを思い出して、そっちの道に進むのも有りかなって思ったんだ」
俺は慎と別れてからの事を話した後で少し焦ってしまった。
一人でピアノを弾いていたので慎が羨んで何か言ってくるかと勘ぐってしまう。
「へぇー、俺と別れてからそんな事があったんだな」
と思ったが、慎は特に気にする様子もなく両手を後頭部に置く。
慎って意外と気にしないのかな。
「まあ、俺としては輝弥にやりたい事が見つかってよかったよ」
慎はそう言いながら天井を見上げ真剣な顔になり何か感傷に浸っているようだった。
「……身内からのそういう言葉って……すごく勇気と力を貰えるよな……」
「慎……?」
突然喋るトーンが下がったため、俺は戸惑ってしまう。
と思った矢先に慎の声色が高くなり、歩くスピードを上げていく。
「……なんてな! 姉さんからの言葉と想い、しっかり貫いていけよ。それにお前のことを一番近くで応援してやるしさ」
慎はそう言い、俺の前を数歩先に行った所で俺の方へ振り向き、笑顔で拳を突き出した。
「……あぁ。ありがとう」
慎が突き出した拳に合わせるように俺も拳を突き返した。
二人の拳は実際に突き合っているわけではないが、二人には合わさっている感触が確かに残っていた。
(慎……お前に一体何があったんだ……?)
慎と拳を合わせた中で、俺にはただ一つだけの疑問が胸の中に残るのだった。
それから少し時間が経ち、俺たちは生徒会室に到着した。
だが、俺はすぐに入ろうとせず扉の前で固まっていた。
「……」
中々生徒会室に入ろうとしない俺に慎は痺れを切らした。
「どうした、輝弥? 入らないのか?」
「ごめん。一回ここには入ってるのになんだか緊張しちゃって」
俺はこういう時にも無性に緊張してしまう。
ただ生徒会室で入部申請書を貰うだけなのに、こんなことにも緊張してしまう自分が少し恨めしい。
「こういう時は勢いで行った方がいいだろ」
慎は俺と扉の間に入り、3回ノックをした。
慎のこういう時でもアクティブにいける所が羨ましい。
「はい」
中から女性の声が聞こえる。
これは中川さんの声だろうか。
「音楽科1年、鈴川慎と巴輝弥です」
「どうぞ」
入室の合図が入り、慎と一緒に生徒会室へ入る。
生徒会室の中には生徒会長である中川さん一人だけだった。
「あっ、中川さんお疲れ様です!」
「鈴川さんに巴さん、お疲れ様です。今日はどうしたんですか?」
生徒会長のネームプレートが置かれたデスクでパソコンと睨めっこをしていた中川さんはパソコンを閉じ、俺たちに向き合う。
「入部申請書を受け取りに来ました」
俺はここに来た目的を言う。
中川さんは特に疑問を持つこともなく笑顔で対応する。
「分かりました。少しお待ちください」
中川さんはデスクの引き出しから二枚の入部申請書類を取り出す。
「あぁ、俺は違うんです」
慎は自分も入部手続きをすると思われたので真っ先に否定する。
「あらっ、そうなんですか? では鈴川さんはどうして?」
「まあ、輝弥の付き添いで……」
「今日は僕が入部手続きをしたくて来たんです。慎は折角だから一緒に来たいと言ってたので」
俺は中川さんに事情を説明した。
中川さんは少し戸惑いながらも気を取り直して書類を渡してくれた。
「そうですか。では巴さん、こちらの書類に必要事項を書いてください」
中川さんから書類とペンを受け取り、必要事項を記載していく。
俺はその書類に自分の学科学年名前を書き、入部する部活動欄にスクールアイドル同好会と記入して中川さんに提出する。
中川さんは俺が書いた申請書を見て、目がピクッと動いた。
「……っ……」
心なしか書類を持っている手が震えてるように見えた。
「中川さん? どうかされましたか?」
中川さんがだんまりとしてしまったので、思わず声を掛ける。
「……いえ。なんでもないです。この書類ですが……」
「スクールアイドル同好会への入部です。昨日もライブやってましたし、今も活動しているんですよね?」
俺は目を輝かせながら中川さんに問いかけた。
だが、そんな俺に返ってきたのは非情な言葉だった。
「残念ですが……受理できません」
「……えっ……?」
中川さんの言ってる事が理解できず、聞き返してしまう。
「……ですからこの申請書類を認めることはできません」
俺と慎は目が点になり、ただ茫然としていた。
「ど、どうしてですか!? 輝弥は男だからスクールアイドル同好会に入れないってことですか!?」
慎は生徒会長用デスクを叩き、中川さんにがっつくように問いかけた。
「慎、一回ストップ」
あまり熱くなっても仕方ないので、一旦慎を制止する。
「中川さん、どうしてスクールアイドル同好会への入部が認められないんですか? 何か特別な理由があるんですか?」
中川さんは眼鏡のブリッジを押して、眼鏡の位置を直し空気を変えようとする。
「すみません、言葉が足りていませんでした。正確にはもう入れない、とでも言いましょうか」
益々俺と慎は頭の中がハテナで一杯になった。
「スクールアイドル同好会は……本日を以って廃部になりました」
中川さんの一言が無情にも俺の心に深く突き刺さったのだった。
今回もありがとうございました!
自分も慎みたいな友人が欲しいな…。