初めての菜々ちゃんグッズなので嬉しいですね。
「スクールアイドル同好会は本日を以って、廃部になりました」
中川さんの冷たい一言が生徒会室の中に残っていた。
「ど、どうして廃部なんですか!? 昨日、優木せつ菜さんがあんなに……人の心を動かすライブをしたんですよ!?」
俺は中川さんの発言に納得がいかなかった。
あの優木せつ菜さんのライブを見て、俺はこの部活で自分の音楽を奏でてみたいと思ったんだ。
それを目の前で握りつぶされても素直に引き下がることはできない。
「一体誰がそんなことを言ったんですか!?」
どうやら慎も同じ気持ちなようだ。
折角の友人の門出が、こんな無残に終わってしまうのは呆気なさすぎるといった様子だ。
俺たちの言葉を受けてなのか中川さんは目線を横にそらす。
「……廃部にすると言ったのはその優木せつ菜さんですよ」
「はっ……?」
俺たちは理解が追い付かなくなっていた。
二人には中川さんがふざけた冗談を言ってるとしか思えなかった。
「せ、せつ菜さんがそんな事言うはずがないじゃないですか!」
「そ、そうですよ! あの優木せつ菜さんがあんなライブを披露してくれた次の日に廃部にするなんてとても……!!」
「信じられませんか?」
「えっ……」
「貴方達は優木せつ菜さんの何を知って、そんな事を言い切れるんですか? 貴方達はそのライブを見ていたただのファンじゃないですか。何も知らないのに簡単なことを言わないでほしいですね」
せつ菜さんの事を信じたくて中川さんの言葉を否定したけど、中川さんから正論で返される。
でも、その言葉をただ受けるだけで引き下がりたくはない。
「確かに僕は優木せつ菜さんの事を何も知りません。昨日初めてその存在を知ったから生粋のにわかです。ですが、そんなにわかでもせつ菜さんのライブを見て心を動かされたんです。それってスクールアイドルが本来あるべき姿なんじゃないですか?」
「あるべき姿……ですか?」
「はい、僕はスクールアイドルの事は詳しく知りません。でも、一般的なアイドルはテレビで見たことがあります。アイドルの歌う姿や楽しんでる姿を見て、たまにかっこいいなって……辛いことがあっても……もう少し頑張ってみようかなって、勇気を貰えることがありました」
俺はテレビで見たことのあるアイドルを思い出す。
アイドルを追っかけるという事はしたことないし、そこまで興味を持っていたわけでもない。
それでも、何気ないアイドルの行動が印象に残ることはある。
パフォーマンス、歌、トーク、それは人それぞれだと思う。
そこから自分もあんな風に、なれはしなくても同じように輝くことはできるのではないかと思わせてくれるのだ。
「スクールアイドルも趣旨は同じことですよね? 優木せつ菜さんは自分のやりたい事をありのままに僕たちに見せてくれた。それが僕に勇気をくれたんですよ」
俺のまっすぐな訴えに中川さんは少し眉間にしわを寄せたが、すぐにそれを隠した。
「存分に想いを語っていただいて構いませんが、その優木せつ菜さんはファンの心を動かせても、もっと近くにいる人の心を動かすことはできませんでした。いや、気づいてあげられなかったと言っていいでしょう」
中川さんは少し声を小さくして目線を落としながら自分に訴えるように答える。
その様子に俺は少し違和感を覚えた。
「それは一体……?」
「……貴方達には関係のないことです。先ほども言ったように同好会が廃部になったという事実は覆りません。巴さんは今一度入部する部活動を選び直してください」
中川さんは俺にそう宣告すると、その場から逃げるように足早に生徒会室を去っていった。
俺はデスクに置いてある申請書を持ち、スクールアイドル同好会の文字をただただ凝視していた。
「輝弥……」
慎もまだ納得がいってないといった表情をしている。
思うことは同じなようだ。
「スクールアイドル同好会が廃部になるなんて絶対おかしい。そうなると分かっていたならどうしてあんなライブが出来たんだよ……」
俺は昨日のせつ菜さんのライブと表情を思い出す。
心の底からライブに対する熱い思いをぶつけてきて、俺の顔を見て満面の笑顔を向けてくれたあの表情の裏にこんな事情を背負っているとは到底思えなかった。
「こんなの俺は絶対認めねえ……! 何か事情があるに違いない……!」
「輝弥、俺も同じ気持ちだ。こんな理不尽なこと言われて、はいそうですかと引き下がれるか」
慎も俺の意見に賛同してくれる。
その瞳は熱く燃えているように見えた。
「スクールアイドル同好会についての情報を集めよう。何かわかるかもしれない」
「よし、なら善は急げだな」
俺たちは頷き、生徒会室を去った。
生徒会室を出て、俺たちは部室棟に来ていた。
部室棟は何十もの部活動を一つの建物中に部室として設けている。
それに加え、どの部室も相応の広さを有しているため初見の人はその規模の大きさに腰を抜かすことだろう。
「まずはスクールアイドル同好会の部室を探そう。何か情報があるかもしれないし」
「とは言うものの……この広さだもんなぁ……。どこから探せばいいんだよ……」
慎は部室棟の地図を見て呆然としていた。
確かにこれだけの部活数からスクールアイドル同好会を探すのは至難の業だ。
「手当たり次第に探すのもなぁー……」
片っ端から探しても時間がかかるだけだから何か効率のいいやり方はないだろうか。
俺たちは2人で腕を組み、じっくりと考えていた。
「うーん……」
しかし、その場で考えているだけでは何もいい案は浮かばなかった。
すると一人の少女が話しかけてきた。
「どうかしたんですか?」
その子はピンク色の髪をボブにしており、パッチリとした目と頭の上でピンとはねている髪が可愛らしい。
背が小さいのも相まって以前に会った中須さんとは違う小動物感がある。
中須さんは犬に対してこの子は猫みたいという表現が良いだろうか。
「貴女は……?」
「あっ、突然ごめんなさい。何か困ってるように見えたから」
学校指定の制服にパーカーを羽織った少女は驚かせてしまったことを淡々と謝った。
どうやら俺たちの様子を見かねて声を掛けてくれたようだ。
「はい、とある同好会を探そうとしてるんですけど見つからなくて……」
「その同好会って?」
「スクールアイドル同好会だよ」
「……」
俺たちが探している部活について教えたが途端に少女は黙ってしまった。
じっと見つめてくるので少し怖さを感じる。
「あ……あの……?」
「あっ、ごめんなさい。私、気持ちを顔に出すのが苦手で、本当はびっくりしてたの」
俺が少女への対応で困っていると少女は自分から苦手な事について話してくれた。
表情がさっきから何も変わらなかった事について腑に落ちた。
「そうなんだ。こっちをずっと見てきたから何か癇に障ることを言ったのかと思っちゃって……」
「そんなことない。ただ偶然が重なったと思って驚いてたの」
「確かに同好会の事を探してるって言ったときにびっくりしたって言ってたな。何かあったのか?」
慎の問いに少女は慎の方を向きながら答えてくれる。
「うん、貴方達と同じようにスクールアイドル同好会の事を探してる人がいたから」
「えっ、そうなの?」
それはすごい偶然だな。
各々がどこかの部活動を探しているだけなら何もおかしくはないけど、探している部活は全く同じでしかもその時間帯も似ている事から確かに少女としてはびっくりするだろう。
加えてどちらもこの少女にスクールアイドル同好会の場所を聞いているのだから。
「うん、スクールアイドル同好会はここにある」
少女は地図の方へ向き、スクールアイドル同好会の部室がある場所を指差して教えてくれた。
「そうなんだね。だいぶ端にあるから手当たり次第に探してたら時間がいくらあっても足りなかったから助かったよ。ありがとう」
「お礼なんていいよ。力になれたなら嬉しい」
少女に向かって笑顔でお礼を言うが、少女は変わらず無表情だった。
でも嬉しいと言った彼女から暖かな気持ちが伝わってきた気がする。
「そういえば君も一年生なんだね。どこの学科なの?」
「私は情報処理学科。名前は天王寺璃奈。貴方達は? 同じ学科にはいなかったけど」
少女は少し首を傾げながら質問する。
「うん、俺たちは音楽科にいるんだ。俺は巴 輝弥」
「俺は鈴川 慎。気軽に慎って呼んでよ」
「分かった。輝弥くんに慎くんよろしくね。私の事も好きに呼んでいいよ」
「じゃあ、璃奈って呼ばせてもらうよ」
「俺は……璃奈さんで呼ばせてもらうね」
俺はやっぱりまださん付けで呼ぶことにする。
慎みたいに気兼ねなく接するというのはまだ時間がかかりそうだ。
そんな俺を見て、慎はため息をつく。
「はぁ、相変わらずだな輝弥は」
「……?」
璃奈さんは話についてこれず頭にハテナを浮かべている。
「璃奈さんは気にしなくていいよ。じゃあ、俺達行くね。改めてどうもありがとう。璃奈さん」
「あ……うん」
璃奈さんは何か言おうとしたけど、俺たちが早々に出発したのを見てやめてしまう。
「……初めて……同級生の子とちゃんとおしゃべりできた……。もう少し話してみたかったけど……」
璃奈は俺たちが向かった方角を数秒間見つめた後、友人を探しに部室棟から出るのだった。
初めての璃奈ちゃん登場です!
素顔の璃奈ちゃん、本当に可愛いですよね…。