虹の袂   作:M-SYA

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今回はメンバーたちが衝突します。
少しシリアスとなりますが、よろしくお願いいたします。



同好会の崩壊

【しずく視点】

 

 せつ菜さんからライブ開催の知らせが届いてから、私たちの熱意はさらに飛躍するのでした。

 

 ライブに向けて、皆さんのやりたいことがあふれ出てきて議論が止まりませんでした。

 

「ですから、ここは皆さんが一人ずつ順番にダンスをして曲を引き立てていくべきです!」

 

「いえ! ここは全員でダンスを披露するのが曲との一体感も相まってお客さんも盛り上がってくれるはずです!」

 

 披露曲のパフォーマンスについてせつ菜さんとかすみさんが火花を散らしています。

 

 二人ともスクールアイドルに対しての熱は人一倍強いので私は二人の意見に耳を傾けることしかできません。

 

「まあまあ、二人とも。熱くなりすぎてもいけないから一旦小休止しよ? 彼方ちゃんがお菓子を作ってくるから……」

 

「そんなことをしている時間はありません! 今の状況ではまだステージに立てるレベルとは如何せん言えません! 彼方さんもいつも寝てばかりいますが、そうは言ってられない状況だと分かっていますか!?」

 

「せつ菜ちゃん、そこまでにしよ? 確かに私たちはみんな、まだ見てくれる人たちの心を温かく出来るようなレベルにはついてないけど、それでも無理をしないように身体を休めることも重要だよ?」

 

 せつ菜さんとかすみさんの論争に収拾がつかない状況を、見ていられなくなった彼方さんが仲裁に入りますが、せつ菜さんは止まりません。それどころかまだ技量が足りていないと彼方さんにも牙をむきました。

 

 エマさんも間に入ることでせつ菜さんもひとまず収まりましたがそれでもせつ菜さんの顔からは焦りや不安が拭われることはありませんでした。

 

「……分かりました。では少し休憩を挟みましょう。10分後、別のパートについての練習を行いますので準備だけしておいて下さい」

 

 せつ菜さんはそれだけ言うとその場を立ち去って行きました。

 

「なんかせつ菜先輩、やけに熱くなりすぎてません?」

 

「まあ、それだけライブに向けて気持ちが高ぶってるってことじゃないかな~?」

 

 かすみさんは先ほどの論争を根に持っているのか少し嫌味を込めて私たちに話しかけます。

 

 彼方さんがかすみさんの頭を撫でながら慰めていますが、私も同じような感覚はありました。

 

 せつ菜さんは自分の大好きを広げたい、みんなの大好きを共有したいというスタンスの元、スクールアイドル活動を行っています。

 

 そのために自分の大好きを曝け出してみんなに認めてもらおうとしているのです。

 

 しかし、ここ最近のせつ菜さんは些か厳しすぎる気がします。

 

 本番が近くなり気が急いているのもあるとは思いますが、それでも自分のやりたいことを押し付けてるのではないかと感じてしまいます。

 

 でもせつ菜さんの言う通り、私たちの実力はまだまだステージで見せられるものではないということも理解しています。

 

 練習を今よりも沢山こなして、より見て貰えるようにしないといけないことは私も分かっているつもりです。

 

「でも、せつ菜さんの言う通り今よりももっとレベルアップしないとスクールアイドルとしては未熟なままです。かすみさん、ここは踏ん張り時ですよ」

 

「しず子がそう言うなら……もう少し頑張るけどぉ~……」

 

 かすみさんは釈然としないながらも同意してくれる。

 

 きっとせつ菜さんも焦りで少し周りが見えていなかっただけ。

 一度頭を冷やせば、またいつも通りの明るいせつ菜さんに戻ってくれるはず。

 

 それは私だけの思い込みに過ぎませんでした。

 

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」

 

「かすみさん、足を止めないで下さい! まだまだ練習は続いていますよ!!」

 

 せつ菜さんが戻ってきたらすぐに練習が再開しました。

 

 頭が整理されたのかと思ったのですが、休憩前と練習のペースが落ちることはありません。

 

 それどころかより激しさを増しているような印象がありました。

 

 私たちはせつ菜さんから飛んでくる喝を受けつつ、それに応えるように練習をこなしていました。

 

 しかし、皆さんの疲労も溜まりつつあったのか少しずつ返事が出来るような状態ではなくなっていったように感じます。

 

 そんな中で最初に目を付けられたのはかすみさんでした。

 

 かすみさんは元々私たちの中でも体力があるとは言えませんでしたので、ペースの上がる練習を重ねる内に少しずつダンスの精度が落ちていきました。

 

「……っす……少し休憩……させて下さい……」

 

 かすみさんは耐えられず手を膝に付け息を整えます。

 

 肩で息をするかすみさんを私は横で水を差し出したり、背中を撫でていました。

 

「休憩は先ほど取りました……! 今は時間が惜しいと言ったじゃないですか!」

 

 それでもせつ菜さんは止まることはありません。

 

 本人としては十分に休憩を与えたと思っているようでしたが、私としてはここまでの練習量をこなすための休憩量だとは思えません。

 

「せつ菜ちゃん、やっぱり練習量が多いよ。一旦はここまでにしよう?」

 

 彼方さんも黙っていられないと口火を切りました。

 

 少し語気が強くなっているように感じます。

 

「そんなことはありません! スクールアイドルが大好きなんでしょう? やりたいんでしょう? こんな事で根を上げるようでは大好きを皆さんに届けることはできませんよ!」

 

 せつ菜さんの発言に私たちは言い返すことが出来ません。

 

 せつ菜さんの言いたいことも理に適っていますし、実際私たちが不足していることも自覚していたのでどう反論すればいいのか分かりませんでした。

 

「でもっ……!!」

 

 そんな中、かすみさんが声を上げました。

 

「でもっ……こんなの全然可愛くないです!! 大好きを届けるとかかっこいいを見せるとかではなくて、かすみんはもっと可愛いのがやりたいんです!!」

 

 かすみさんの発言にせつ菜さんははっとしていました。

 

 私もかすみさんの発言に頭を金づちで叩かれたような衝撃が走りました。

 

 かすみさんは自分のやりたいことがしっかり固まっています。

 

 かすみさんは自分の可愛いをみんなに見せたいという事をコンセプトにしていますが、せつ菜さんのコンセプトと相反していることを自分の言葉で言い放ったのです。

 

 私は自分のやりたいことが定まらず、皆さんの意見に付いていくのみでしたのでせつ菜さんの意見の正しさに判断が付かないまま反論が出来ませんでした。

 

 そんな私をよそにせつ菜さんはかすみさんの発言に反論します。

 

「なっ……! それでは私が周りを見れていないみたいじゃないですか!! 私はかすみさんのやりたいことも尊重したうえで……!」

 

「あんなので尊重したなんて言わないで下さい! かすみんの今の気持ちも現に分かっていないじゃないですか! その発言が周りを見れていない証拠なんです!!」

 

 かすみさんも目に涙を浮かべながら反発します。

 

 二人の苛立ちはスクールアイドル愛と同じくらい風船のように大きく膨らんでおり、言葉という針で開けられた穴から空気と共に吐かれます。

 

 一度空いた穴は塞ぐことが出来ないように二人の口論は留まることを知りません。

 

 私がその空いた穴をどうふさごうか迷っていると、

 

「もうこんな喧嘩やめようよ!!」

 

 普段の声からは想像もつかない程、エマさんが大きな声でその場の空気を止めた。

 

「お願いだから、仲間同士で争うのはやめようよ……」

 

「エマさん……」

 

「エマ先輩……」

 

 空気が固まったことで風船から空気が漏れることも風船内に戻ることもありません。

 

「……私はっ……」

 

 せつ菜さんはその場にいられなくなり屋上から立ち去ろうとします。

 

「せつ菜さん……!」

 

「今日の練習は……これで終わりにします……。皆さん、気を付けて帰って下さい……」

 

 そう言い残し、足早に屋上からいなくなり扉の閉まる音だけが大きく響くのでした。

 

「……っうぅ……ひっく……」

 

 かすみさんは自分の中の線が切れたのか目に溜まっていた涙がこぼれ、そのまま泣いてしまいます。

 

 私は、そんな友人の横にただ立つことしかできませんでした。

 

「せつ菜ちゃんの所に行ってくるから、エマちゃんは二人のこと見てて?」

 

「うん……。ごめんね、いきなり声を荒げて……」

 

「気にしないの。むしろエマちゃんに感謝しなくちゃだよ。彼方ちゃんには止めることが出来なかったから……」

 

 彼方さんはそう言い残し、せつ菜さんを追いかけに校内に戻るのでした。

 

「かすみちゃん……大丈夫?」

 

 エマさんはかすみさんの前に跪き、指で涙を拭います。

 

「ご……ごめんなさい……こんな事で泣いちゃいけないのにぃ……」

 

「気にしなくていいよ。かすみちゃんもいっぱい抱えてたんだもん。こぼれちゃうのは仕方ないから……」

 

 エマさんはまるで幼い妹をあやすようにかすみさんに優しく微笑みかけます。

 

 私もこういう風に慰められたら逆に涙が止まらないかもしれないです。

 

「しずくちゃん、今日はもう帰ろっか。しっかり身体を休めて明日からまた頑張ろ?」

 

「……分かりました」

 

 そうして、私たちは練習を終え、各々の帰路に着くのでした。

 昨日までの同じ、楽しかったあの日々に戻ることを信じて。

 

 

 次の日、いつも通り朝練を始めようと早めに学校に着きましたが、部室でかすみさんと会いました。

 

「あっ……しず子……。おはよう……」

 

「かすみさん、おはよう。もう大丈夫?」

 

「……全然だよ! むしろ昨日で言いたいことは言えたから、今日から気持ちを切り替えた新しいかすみんが誕生するんだから!」

 

 かすみさんは私を見て一瞬固まったがそんな姿を見せまいとすぐにいつもの調子に戻った。

 

 かすみさんの笑顔は太陽みたいに眩しく輝いている。

 

 こんな太陽がいてくれるからこそ、スポットライトを浴びないと輝けない私も同じように光ることが出来ます。

 

「おはよう、二人とも♪」

 

「おぉ~? かすみちゃん、昨日と打って変わって随分とご機嫌だね~?」

 

 かすみさんの声を聞き、エマさんたちが部室に顔を覗かせます。

 

 お二人も顔色は良さそうで安心しました。

 

「エマさん、彼方さん、おはようございます」

 

「彼方先輩、今日からのかすみんは一味違うんですから! もうせつ菜先輩に負けたくないですからね!」

 

 いつも通りの部活が始まろうとしていたが、一つだけいつもと異なる点がある。

 

「そういえばせつ菜先輩は……?」

 

「うん……昨日、あの後せつ菜ちゃんを追いかけたんだけど、どこにも見つからなくて……。鞄も無かったし闇雲に探してもだめだなって思って、メッセージだけは残したんだ。せつ菜ちゃんだけが悪いんじゃないからね? って」

 

「…………」

 

「あれっ、せつ菜さん」

 

 彼方さんから話を聞いているとせつ菜さんが部室に入ってきました。

 

 せつ菜さんも気持ちを新たに来たんだと淡い期待を寄せていましたが、硬い面持ちを見る限りそういった様子ではなさそうでした。

 

「皆さん、おはようございます」

 

「おはよう、せつ菜ちゃん♪ 今日はどんな練習から始める?」

 

 エマさんはそんなせつ菜さんにお構いなしに話しかけます。

 

「その前に、皆さんに大切なお話があります」

 

「大切なお話?」

 

 いきなりの発表に彼方さんは何のことやらと首を傾げます。

 

「スクールアイドル同好会についてですが……活動休止にしたいと思います」

 

 あまりにも唐突な宣言がせつ菜さんから下され、部室に咲いていた沢山の花が無残に散っていくのをただただ感じ取ることしかできませんでした。

 




同好会の衝突…次回に続きます。

是非お楽しみに。
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