虹の袂   作:M-SYA

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今回で同好会の過去編は一区切りとなります。

よろしくお願いいたします。


斯くして同好会は

【しずく視点】

 

「スクールアイドル同好会についてですが……活動休止にしたいと思います」

 

 せつ菜さんは石造のように表情が変わることなく真剣な顔でそう宣言しました。

 

 唐突な出来事に私たちは目を丸くしていました。

 

「せ、せつ菜ちゃん……ど、どういうこと!?」

 

「た、確かに昨日は言い過ぎましたけど……それでも活動休止にする意味はないんじゃないですか!?」

 

 彼方さんがせつ菜さんの肩を握り、焦りながらもその目に訴えかける。

 

 かすみさんも自分の発言について弁解しながらせつ菜さんに訴えかけます。

 

「お二人とも。逸る気持ちはわかりますがまずはせつ菜さんのお話を聞きませんか?」

 

「そうだね、せつ菜ちゃんが理由もなくそんなことを言うとは思えないもんね」

 

 私とエマさんで二人を諭し気を落ち着かせ、せつ菜さんへ向き合います。

 

「ありがとうございます。いきなりこんな話をしてすみません」

 

 せつ菜さんは私たちに目を合わせ軽く一礼すると話を再開します。

 

「今回、このような決断をしたのは他でもありません。今一度、自分を見つめなおす必要があると判断したからです」

 

「自分を……見つめなおす……?」

 

 エマさんは理解が追い付かないのか頭を悩ませます。

 

「私は……皆さんの大好きややりたいことについて何一つ理解できていませんでした。自分の大好きを見せられるんだと張り切ったはいいものの……それしか私の目には入っていませんでした」

 

 せつ菜さんは自分の過ちを思い出しながら想いを吐露します。

 

 顔は先ほどから変化していませんが、そこから放たれる言葉は哀愁が漂っているように感じました。

 

「自分が楽しくやれていれば応援してくれる皆さんも同じように楽しくいてくれる。皆さんが心の底で何を考えているのかもしっかり理解しようとせず、自分の道を走り続けようとしていました」

 

 せつ菜さんの表情が少しずつ苦痛に満ちていきます。

 

 それだけ自分の中の正義感が憎らしく思えてしまうという事でしょうか。

 

「ですので、私は改めて自分のやりたい事は何かを考え直す時間が欲しいと思いまして、そのために私自身の活動休止を……」

 

「せつ菜さん……」

 

 私はせつ菜さんになんと言葉を掛ければいいかわからなくなりただ見つめることしかできなかった。

 

 せつ菜さん自身の葛藤を聞くことが出来るのはこれが初めてだからこそ彼女の悩みに対して誠実な回答が出来る自信がないのだ。

 

「せつ菜ちゃん、話してくれてありがとう。せつ菜ちゃんがそうしたいって言うなら私は止めないよ」

 

 エマさんがせつ菜さんの手を握り、優し気な目を向けながらせつ菜さんの想いを受け止めます。

 

 こうして他人の心に優しく寄り添ってあげられるのはエマさんの凄いところです。

 

「でもせつ菜ちゃんだけがそれを背負う必要はないんじゃないかな~?」

 

「それはかすみんも同意見です! かすみんもせつ菜先輩だけじゃなく皆さんのやりたい事をちゃんと分かってなかったですし……」

 

 彼方さんとかすみさんもエマさんに続く形でせつ菜さんへフォローを掛けます。

 

 二人も今回のトラブルについてはせつ菜さんのみの要因ではないと分かった上で連帯責任と感じているようです。

 

「皆さん……。いえ、それでもこれは私の采配の問題です。皆さんはしっかりと私の意見に付いてきて下さっていたんです。責任は私一人で……」

 

「せつ菜先輩、そんなの全然かっこよくないです! せつ菜先輩もかすみん達と同じ女子高校生です! 部活動の顧問とは違ってミスはあって当然なんです!」

 

「そうだよ! それでせつ菜ちゃんのみの責任にするなんて私は絶対に出来ないよ!」

 

 せつ菜さんが自分の能力を卑下しているがそれをかすみさんとエマさんが真っ先に否定します。

 

「彼方ちゃんたちにも責任はあるから、一度考え直す時間を作ってまたみんなで集まろ?」

 

「そうですね。今の状態ではしっかりとした方針も決めることが出来ないと思うので練習は一旦お預けにしてもいいと思います」

 

「そうすると今度のライブはどうしましょうか?」

 

 かすみさんはライブの事も心配する。

 

 それもそのはずです。

 

 初ライブを来週に行う体で進んでいたのでかすみさんとしてもこれを目標にここまで走ってきたからのですから。

 

「今の状態では満足のいくライブは見せられませんので私の方でライブ中止の連絡をしておきます」

 

「分かりました。せつ菜さん、お任せします。また時期を見てライブは再開しましょうか」

 

 ライブの調整についてはせつ菜さんが詳しいのでお任せすることにしました。

 

 ここでの悔しさを胸に、次でより良いものを作れると信じて。

 

 

 同好会の活動を休止すると宣言してから一週間後、翌日を本来ならライブに備えていたのですが、中止にするという事で練習はありません。

 

 今日は演劇の練習もありませんでしたので、そのまま帰ろうとしたときに後ろから声を掛けられました。

 

「あっ、しずくさん!」

 

 そこには入学初日にひょんなことからお知り合いになった輝弥くんの姿がありました。

 

 いつもなら慎くんも一緒に居ましたが今日は不在のようです。

 

「……あっ……輝弥くん……」

 

 正直、今日はそのまま帰りたかったのですがそうは問屋が卸してくれませんでした。

 

 私は無理やり笑顔を作って輝弥くんに向き合います。

 

「聞いたよ、明日ダイバーシティでお披露目ライブやるって!」

 

「あっ……そうなんだ……」

 

 輝弥くんの言葉に私は一瞬思考が停止しました。

 

(輝弥くんがライブの事を知っているのは良いとして……どうして中止って話を聞いてないの……?)

 

 輝弥くんの事だからライブについての話を人伝で聞いていると思ったのですが、本人の目の輝き具合からしてどうやらそんなことは知らなそうです。

 

「しずくさん……どうかしたの?」

 

「実はね……」

 

 私は輝弥くんにライブ中止の事を話そうとしたが一つの可能性が頭を過った。

 

(せつ菜さんは……この時間で何か考えているのでしょうか……)

 

 輝弥くんがライブ中止の話を知らないようにまず誰にも伝えてないのかもしれないという考えが私の中に浮上しました。

 

 実際、同好会の活動を休止する前はライブ開催のチラシを校内で見ていましたが、活動を休止してから今日までの間でライブ中止の連絡を見た覚えがありません。

 

 ライブ調整はせつ菜さんに全てをお任せしていましたが、現時点で彼がライブ中止を知らないという事はせつ菜さんは活動休止前に何かをやろうとしているのではないかという憶測が出てきました。

 

「……明日のライブが怖くてね……。私の気持ちがみんなにちゃんと伝わるのかなって……不安になっちゃったの……」

 

 私は真実を輝弥くんに話さず、ライブに対しての想いを吐露しました。

 

 こんなことをしても後悔するだけなのに、私は自分の心の弱さが恨めしく感じました。

 

「確かに初めてのライブで全くの未体験の世界だもんね。でも、大丈夫。しずくさんの想いは絶対届くよ。不安になっちゃうのは仕方ないから、それ以上に楽しむ気持ちを忘れずにしずくさんのやりたいことを見せてよ!」

 

 私の心境にはお構いなしに輝弥くんは純粋な眼差しで私を見てきます。

 

 輝弥くんにこんな顔をさせるのがこのタイミングという事が余計に私の心を痛ませてきます。

 

「輝弥くん……ありがとう。おかげで元気が出てきたよ。明日のライブ、頑張るね。それじゃあ」

 

 このまま彼と話すと自分の中の想いがあふれ出てきそうになったので、一言ライブについての意気込みを語り足早に去ることにしました。

 

 今の私が、彼にはライブ前の武者震いとして映ってほしいと切に願いました。

 

 そして、私の姿が彼から見えなくなったことを確認して、密かに校舎の陰で泣いていました。

 

「はぁ……ごめんね……輝弥くん……。私だって……楽しみたかったよ……」

 

 彼がまっすぐな笑顔で私を励ましてくれたのに、それを溝に捨てた。

 

 明日のライブを見に来ると言ってくれたのに、それを無残に切り捨てた。

 

 暫く彼に会うのはやめておこう、そう私は心に誓ったのでした。

 

 

 そして、ライブが明けた翌日、気持ちを新たにスクールアイドル同好会に顔を出そうとした時、一つの噂話を小耳にはさみました。

 

 それは私が絶対に聞きたくなかった噂。

 

「スクールアイドル同好会……廃部になったって話だよ?」

 

 それを聞き私の中に映し出されていた同好会の情景が霞んでいくのを感じました。

 

 




同好会の過去編はここまでとなります。
次回から輝弥くん視点のお話に戻ります。

色々と不明瞭な点はありますが、それは今後をお楽しみにしててください。
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