虹の袂   作:M-SYA

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いつもお待たせしております…!

読んでくださっている方は本当にありがとうございます!

本編はまだアニガサキ1話の内容ですが地道に進んでおりますので是非付いてきて下さると嬉しいです!

それではどうぞ!


想いの葛藤

「さて、近江さんも一緒に来ることになりましたし、まずはどこから探しましょうか、果林さん?」

 

 校舎の陰で昼寝をしていた近江さんを新たに仲間に加え、いよいよせつ菜さんへ接触を図るため何か案があったのであろう果林さんに問いかける。

 

「輝弥くん、せっかく同好会の仲間として一緒にやっていこうとしてるんだから気兼ねなく彼方ちゃんでいいんだよ~?」

 

「……それは流石に僕が嫌なので彼方さんでお願いします」

 

「あらら~、輝弥くんにいきなり嫌われてしまった~」

 

 彼方さんは先輩後輩関係なく仲良くしていきたいと思い、そう言ってくれたのだと思うがやはり先輩は先輩として扱わなければ俺自身のポリシーに反する。

 

 だが言葉の選択が悪かったからか、嫌という言葉に彼方さんは少ししょんぼりさんになってしまった。

 

「あっ、別にそんな悪く言うつもりは……!」

 

「……なんてね? 確かに君はだいぶ真面目な性格に見えるから、このくらいの距離感の方が輝弥くん的にはちょうどいいのかな?」

 

 しょんぼりとした彼方さんを見て自分の軽口に思わず弁解しようとするが、彼方さんは気にしてないかのように舌を軽く出して笑って見せた。

 

 柔らかな印象を持つ彼方さんがこういった仕草をすると少し大人の魅力を感じる。

 

「もう、彼方さんもからかうのはやめてくださいよ……」

 

「それが君の性分なんだから仕方ないわね」

 

 俺は思わず果林さんをカッと睨みつけてしまったが果林さんは何事もなかったかのように俺の前に移動する。

 

「とりあえず優木せつ菜ちゃんがどこの学科にいるのかも分からない現状は、それがはっきりする場所に行くしかないわね」

 

「はっきりする場所って言っても……そんな所ってどこにあるんですか?」

 

「あっ、もしかして生徒会室ですか?」

 

 慎は答えを勿体ぶられてもどかしい気持ちになっているとしずくさんが果林さんの意図を汲み取ったのか一筋の予想を立てた。

 

「ふふっ、流石しずくちゃんね。その通りよ。生徒会室なら生徒一人一人の情報が書いてある名簿があるはずよ」

 

「そっか! それでせつ菜ちゃんの名前を探せば、自ずとどこの学科にいるのかわかるもんね!」

 

「なるほど……生徒会室か……」

 

 エマさんも納得がいったように声色が明るくなる。

 

 確かに生徒会室へ行けばこの学園の生徒が一覧で閲覧できる名簿があるだろう。

 

 果林さん達と出会うまではせつ菜さんに会うための方法を必死に考えていたが、思いもよらぬ助け舟により事態は急速に進展した。

 

 この人にはよく手玉に取られるが、逆にその器用さが今では重宝していることを痛感して俺は果林さんをまた一つ見直すのだった。

 

「ならば善は急げと言いますし、早速出発しましょう」

 

 俺の声に他のみんなは呼応するように頷くのだった。

 

 

 輝弥たちが生徒会室へ向かうと決めた同時刻……別の場所では……。

 

【??? 視点】

 

 今日の生徒会業務を終わらせ、生徒会室の鍵を掛ける。

 

「ふぅ、今日も特に大きな問題はなく終了ですね……」

 

 扉の施錠が完了したら鍵は職員室へ戻しに行くだけなので、いつもならばそのまま帰るのですが今日の私は少し寄り道したい気分になりました。

 

「……あそこに行ったら、誰かが待っている……なんてことはないですよね……」

 

 仲間と切磋琢磨した思い出の場所に誰かがいることに淡い期待を寄せ、鍵を預けに職員室へ向かうのでした。

 

 

【輝弥視点】

 

 生徒会室に着いた俺たちは扉の前で待機していた。

 

「……では、行きましょうか……」

 

 生徒会室に入る前に気持ちを落ち着け、いざ入ろうとする。

 

 扉に手を掛け、ノブを捻ろうとするが思うように回らない。

 

「あれっ? 開かないな……」

 

「どうした? もう鍵掛かってんのか?」

 

「いつもこの時間帯まではお仕事をしていたはずだったけどもう帰っちゃったのかなー?」

 

 せつ菜さんの居場所を突き止めようにもこれでは先に進めないのでいきなり手詰まりとなってしまった。

 

 エマさんもこの時間帯はまだ生徒会室の電気がついていたのを記憶していたので今日も同じものだと思っていたようだ。

 

「私たちの事を嗅ぎつけたのでしょうか? それともただの偶然なのか……」

 

「この状況で考えても仕方ないわね。なら今日はこのまま解散にしましょう」

 

 しずくさんは俺たちの会話がもうせつ菜さんの耳に入ってしまったことで先手を打たれたのかと推測する。

 

 だが果林さんはこの場で考えても無駄と判断して、この状況を甘んじて受け止め素直に引き下がろうと提案した。

 

 確かに、ここから別案を考えようとしても時間が無情に過ぎて成果が得られそうにはない。

 

「そうですね。もう時間もだいぶ遅いですしまた明日来ましょうか」

 

「そうだね~。なら、明日も放課後にまた集まろうか~」

 

 俺と彼方さんも果林さんの意見に賛同し明日で計画を練り直すこととして今日は引き上げることとした。

 

 

「輝弥? どうしたんだ、まだ帰らないのか?」

 

 生徒会室から離れ、校舎外に出たところで三年生組と分かれ慎としずくさんも帰路に着こうとするが、俺が足を動かそうとしない様子を見て慎が声を掛けてきた。

 

「最後にもう一回だけ……部室棟に寄ろうかなと思って……」

 

「輝弥くん……」

 

「今、あっちに行ったところで何か進展があるわけではないのは分かっているけど……。それでも何か起こらないかなって思わずにはいられなくて……」

 

 俺もとことん往生際が悪い男だ。

 

 だが、一度気になってしまってはもうそれが頭の中から無くなることはないので最後に部室棟へ行ってこの蟠りを晴らしたい。

 

「まぁ、お前の気持ちも分かるぜ。俺は寮の門限もあるから先に帰らせてもらうけど、長居はしないようにな。今の時点でじたばたしても仕方ないんだから」

 

「分かってるよ。ただ見に行くだけだから」

 

「あの……私も……付いていっていいかな……?」

 

 慎からの忠告を受けた後、しずくさんが恐る恐る声を掛けてきた。

 

「えっ? 別にいいけど……ただあまり面白いこともないよ?」

 

「うん、分かってる。けど……私も今日は部室の方に顔を出してなかったからやっぱり見ておきたいなって思って……」

 

 しずくさんはそう言って静かに微笑む。

 

 しずくさんがこう言うのであれば俺としては無下にするつもりはない。

 

「分かった。なら一緒に行こうか」

 

 こうして俺としずくさんは一緒に部室棟へ向かう事にした。

 

 

「そういえば、しずくさんとこうして二人で話すのはあのライブの前日以来だね」

 

 部室棟へ向かう途中、何も話をせずに行くというわけにはいかないので何か話題になりそうなタネを引っ張り出す。

 

 しずくさんについては演劇が好きという事以外は何も知らない。

 

 そのため俺には演劇で話が出来そうにないので、それ以外で話を振ろうとするが直近で出会ったことくらいしか話を出せない俺の引き出しの少なさが恨めしくなった。

 

「あはは……そうだね」

 

 しずくさんは笑って返してくれるが、少し乾いてるように聞こえる。

 

 それに俺がライブ前日の話を振ったことで両手で持っている鞄を握る力が強くなり鞄が少し震えてるようにも見える。

 

「しずくさん……あの時の事、まだ気にしてる?」

 

 しずくさんの様子が今までと違うのが気になったため、その原因について聞いてみる。

 

 原因は間違いなくあのライブについての事だろう。

 

 同好会の活動を休止すると決まってから俺と会ったのだ。

 

 ライブを楽しみにしていた俺の目を見てしずくさんはいたたまれない気持ちになったのだと思う。

 

 だが、どのような弁論を述べようともライブへの意気込みとして俺に嘘をついたことに変わりはない。

 

 きっとしずくさんの中で自分の良心と悪心が入り混じってどう弁解すればいいのか分からずにいたのだろう。

 

「……っ。……うん……。あの時はごめんなさい。私……輝弥くんに対して最低な事をしたね……」

 

 しずくさんは俺に話題を振られ少し苦汁を飲むような表情をするが、決心がついたように俺に謝罪をする。

 

 だが、しずくさんは俺の目を見るのが怖いのか中々目を合わせてくれない。

 

「……もう気にしなくていいよ。確かにあのライブの後、しずくさんに対して思う事はあったけど……でも話してくれたお陰でしずくさんも辛い思いをしていたんだなって理解できたから」

 

「……それでも私は輝弥くんに期待させておいてこの始末だったんだよ……? もっと怒ってもいいはずなのに……」

 

 歩きながら話しているとしずくさんは足を止めて顔を俯かせる。

 

 前髪がしずくさんを守るように顔を覆うがその先にある表情は髪越しにも伝わってくる。

 

 俺は歩みを止め、しずくさんの元へと後戻りする。

 

 そして、鞄を置きしずくさんの両手を握る。

 

 しずくさんの手は小刻みに震えており、その震えを押さえつけるように自然と握る力も強まる。

 

「あっ……」

 

 しずくさんは手を握られ、顔を赤くし俺の顔を見つめる。

 

「……やっと見てくれた。俺は……しずくさんがもっと辛い思いをしているのにそれを考えずに自分の都合だけで怒るなんてこと……出来ないよ……」

 

 俺はしずくさんが泣き出してしまわないように言葉を選び、優しく微笑みかける。

 

「それにね? しずくさんから同好会の話を聞いてた時、俺悔しかったんだ」

 

「えっ……?」

 

 しずくさんは俺の口から出た言葉を予想していなかったのか呆然としていた。

 

「まだお互い知り合って間もないっていうのもあったけど、それでも……あの時のしずくさんの葛藤に気付いてあげられたんじゃないかって……そうしたらもう少し未来は変わったのかなって……」

 

「輝弥くん……いや、あれは輝弥くんを困らせたくないから私が勝手に意地を張ってただけだよ……」

 

 しずくさんは握られた手を見つめたまま乾いた笑いを出す。

 

「……でも……ありがとう……。そう言ってくれて……。凄く……嬉しいよ……」

 

 まるで先ほどの乾いた笑いで内に溜めていた悲しみを吐き出し切ったように、しずくさんは清々しいほどの笑顔を俺に向けてくれた。

 

「そうやって笑ってくれる方がいいよ。俺は……もうしずくさんにあんな思いをしてほしくない。そのためならどんなことでもやってみせる」

 

「……っ! うん、輝弥くんありがとうね……!」

 

 しずくさんは顔を赤くしながらも幸せそうに笑う。

 

 目尻に涙は残っているがそれでも堪え切ったようだ。

 

 だがそんなしずくさんを尻目に、俺はしずくさんに告白紛いな事をしてしまったと自覚しだんだん顔の温度が上昇していくのを感じる。

 

「……って、こんな所で時間を食ってても仕方ないね。も、もう行こうか」

 

 しずくさんの手を放し鞄を担ぎなおして同好会の部室へ向かう事とした。

 

「ふふっ、そうだね。……本当に彼は凄いな……」

 

 しずくさんが呟いた一言は、顔が熱くなって正常な判断が出来ていない俺の耳には届くことはなかった。

 




今回もありがとうございました!

輝弥くんとしずくの想いがぶつかりましたね。

ここから二人の間に絆が芽生え始めます…!

次回もお楽しみに!
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