虹の袂   作:M-SYA

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いつも読んでくださる方はありがとうございます!

今回もアニメにはないシーンとなります!
部室棟へ向かう輝弥としずくに待ち受けているのは…?




遠のく真実

(うぅ……まだ恥ずかしさが抜けない……)

 

 部室棟へ向かう途中、俺はしずくさんに対しての気持ちで頭がいっぱいだ。

 

 理由は一つ。

 

 しずくさんを悲しませまいと放った一言が今になって俺の頭の中でフラッシュバックしているからだ。

 

 そのためならどんなことだってやってみせる。

 

 正直好きでも何でもない男からそんなことを言われても、ただかっこつけようとしているようにしか見えないだろう。

 

 ましてや知り合ってまだ日も浅いのだ。

 

 こんなことを言えるのは随分と自分に酔いしれているキザな奴だと思う。

 

 だが、奇しくも今の俺はそんなキザな奴になれ果てていたようだ。

 

 しずくさんがどういう感情で今付いてきているのか分からないが、俺は彼女がどんな顔をしているのか見たくないので目を合わせることが出来ない。

 

「輝弥くん、急にだんまりしちゃったけど大丈夫?」

 

 先ほどは俺がしずくさんに似た言葉を言ったが、今度はそっくりそのまま俺に返ってきた。

 

「えっ……!? いや……別にそんな事ないよ……?」

 

「明らかに動揺してるように見えるけど……」

 

 突然、しずくさんに声を掛けられたのもあって俺は咄嗟に否定の言葉を出してしまったが、すぐにしずくさんにバレてしまった。

 

 自分で言うのもあれだが、俺は随分と単純な男だな。

 

「……もしかして、さっきの事?」

 

 しずくさんの一言にドキッという音がしずくさんに聞こえてしまうのではないかというくらいに俺の心臓は脈動していた。

 

 しずくさんに俺の心理をあっさり見抜かれしまい少し冷や汗をかいてしまう。

 

「うっ……はいっ……かっこつけすぎたなって思って……」

 

 今更じたばたしても意味がないと思い、俺は素直に打ち明ける。

 

 もうしずくさんに何を言われても耐えるだけの覚悟だけは持っておかなくてはいけない。

 

「ふふっ、別にそんなこと思ってないよ? むしろ頼もしいなって思ったから」

 

「ふぇっ?」

 

 俺は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしながら、思わず男が出したら可愛くない言葉を出してしまった。

 

 口は災いの元とはよく言うが、まさか幸運を運んでくれるとは思わなかった。

 

「私、こうやって親身になってくれる人が今までいなかったから……輝弥くんがいてくれて凄く嬉しいんだ」

 

 しずくさんはそう言いながら満面の笑みを向けてくれる。

 

「そ、そっか……」

 

 あまりにも純真な表情なので、思わず目をそらしてしまう。

 

(俺も……今までだったらこんなことできなかったのにな……)

 

 俺は他人のお節介を焼くのが性分ではあったが、会って間もない、ましてや異性に対してここまで積極的に動くなんてことは今までなかった。

 

 同性であればお互いに友人としての好意なりただの知り合いだからってだけで気兼ねなく手助けをするが、異性相手となると周囲がそれを見てわざと囃し立てようとするからあまり好んで動こうとしなかった。

 

 どうしてしずくさんにはこう出来たのかは分からない。

 

 周囲に人がいなかっただけかもしれないがこんな勇気は早々湧いてこないだろう。

 

「だから、これからもたくさん頼らせて?」

 

「あっ……うん。こんな俺だけどよろしくね」

 

 しずくさんもこう言ってくれているのだ。

 

 少しは信頼してもいいのかもしれない。

 

 

 密かに俺としずくさんが絆を深めていると部室棟に到着し、お目当ての同好会の部室へ向かう事とした。

 

 部室棟内はまだ天井用照明が付いており、部室棟内を照らしているがそれでも部活動の大半が終了しているからか小型照明は切られていた。

 

「やっぱりこの時間帯だと殆ど人はいなさそうだね」

 

「そうだね。もし人がいないんだったらここの照明も既に消されてるからまだ残ってる人のかな?」

 

「なら益々早くいかないと、だね。知らぬ間に照明が消されてたり部室棟が閉められちゃうかもしれないし」

 

 このまま部室棟を閉められてしずくさんと二人きりでこの中で一夜を超すのは流石に勘弁だ。

 

 刻々と部室棟が閉められるまでのタイムリミットが迫っているので、しずくさんと顔を見合わせ頷くと同好会の部室へ足を運ぶ。

 

「ん? 扉の前に誰かいないか?」

 

 あと少しで部室へ到着する所で俺達は扉の前で佇んでいる人を見つけた。

 

 照明がちょうど当たってなく、誰かを視認できないが黒髪を長く伸ばした少女らしき人物が立っている。

 

「……あれはっ……!?」

 

「しずくさん!?」

 

 しずくさんは目の前に見えた少女を認識するやいなや少女の元へ駆け出した。

 

 一方、少女も俺の声としずくさんの足音を聞き一瞬こっちを見るがすぐさま反対の方向へ走り出した。

 

「待ってください!! せつ菜さん!!」

 

「えっ……!? せつ菜さんって……あの優木せつ菜さん……!?」

 

 俺はしずくさんの後を追いながら問い返した。

 

 まさか運命の出会いをしたあの日からすぐにその顔を拝めるとは思わなかったからだ。

 

「あの後ろ姿は間違いなくせつ菜さんです……! 制服を着ていますがあの髪型に見間違いはありません!」

 

 しずくさんはどうやら彼女が本物の優木せつ菜であることに確信を持っているようだ。

 

 ならば逃がすわけにはいかないので全力で追いかけようと足を速める。

 

 本来ならば校内なので走ることは厳禁だが、是非も言ってられないし教師もいないからお咎めされることもないので今だけは悪いやつになってもバレないだろう。

 

 だが、目の前を走る少女はそんなのお構いなしに駆け抜けていく。

 

 俺達から逃げるために一心不乱といった様子だ。

 

 少女が部室棟の外へ出てしまい、俺達も続けて外に出るが待ち構えていたのは殺風景な学校のみだった。

 

「あれ……誰も……いない……?」

 

「確かにここを通ったはずだけど……上手く撒かれたか……」

 

 折角本人に直接聞けるまたとない機会だったのにそれをふいにしてしまった。

 

「それにしてもどうしてせつ菜さんはあそこにいたのかな……?」

 

「うーん……誰かが来るのを待ってた……とか?」

 

「でも、それだと放課後この時間帯までずっとあそこで待ってたことになるんじゃないかな?」

 

「確かに、それだと現実味がないね」

 

 しずくさんがふとせつ菜さんの動機について考えだしたので俺もそれに乗り、予想を立てるがしずくさんに矛盾を指摘される。

 

 自分から解散しようと言い出した本人が戻ってきた。

 

 それは何かせつ菜さんの中で気持ちの変化があった証拠なのだろうか。

 

「……こんな時間に一体何をしているんですか?」

 

 二人で考え事をしているといきなり誰かに声を掛けられた。

 

 その声には聞き覚えがあった。

 

「あっ……中川さん……!」

 

「生徒会長……」

 

「巴さんに桜坂さん。もうここにいるのは貴方達だけなんですから早く帰ってください。私がいなければ先生に気付かれぬまま正門を閉められたところですよ?」

 

 中川さんはいつかの音楽室で感じた温かな雰囲気はなく、少し空気が凍るような感覚があった。

 

「す、すみません。中川さんはどうしてここに?」

 

「私も生徒会の仕事が終わったばかりなので帰る前に見回りをしていたんです。そうしたら貴方達がいたので声を掛けないとお二人は帰りそうになかったので……」

 

「め……面目ないです……」

 

 中川さんは呆れた表情と声色で話すが、その瞬間周囲の空気が上がるのを感じた。

 

 いつも話してた中川さんの雰囲気が戻りつつあった。

 

 しずくさんが中川さんからの叱責にあたふたしながら頭を下げているが、俺は中川さんに対して違和感を覚えていた。

 

「中川さん、この場所を優木せつ菜さんが通りませんでしたか?」

 

「優木さんですか? いえ、私は見ていませんが……」

 

 中川さんは特に表情を変えることなく答える。

 

 その様子を見る限りは嘘をついているようには見えない。

 

「そうですか……。折角せつ菜さんを見つけることが出来たのに見失ってしまったんですよ」

 

「それはお気の毒ですね。彼女をこの学校で見ることが出来る人はかなり貴重と噂ですし」

 

「そういえば生徒会長もせつ菜さんの事はご存知なんですね」

 

 俺はついせつ菜さんを逃がしてしまったことをボヤいていたが中川さんは気に留めず受け止めてくれる。

 

 そして、せつ菜さんの事を口にした様子を見てしずくさんも中川さんに話しかける。

 

 生徒会長と呼んでいる様子を見て、彼女の事を苗字で呼んでる俺は少し優越感に浸れた。

 

「生徒会長として全校生徒の名前を憶えているのは当然のことですから」

 

「ぜ、全員の……!? そ、そうなんですか……」

 

 しずくさんは驚きの声を上げ、俺も言葉には出していないがこの人が生半可な気持ちで生徒会長をやっているのではないと思わせる片鱗を垣間見た。

 

 中川さんは少しも顔色を変えずに答えるがそれはちょっとやそっとじゃ出来る事ではない。

 

「では、優木せつ菜さんがどこの学科にいるのかも分かりますか?」

 

「……何のためにそんなことを聞くんですか?」

 

 俺の質問に対し中川さんはトーンを一つ下げながら聞き返す。

 

 声色が少しだけ変わっただけなのに冷酷な印象を受けてしまうのがこの人の本性なのだろうか。

 

「詳細を貴女に話しても関係の無いことですよ」

 

「関係が無いとしても生徒の個人情報を話すつもりは毛頭ありませんが」

 

「これは個人情報に値する内容なんでしょうか……? 別にせつ菜さんの住所を問い質しているわけじゃないのですし」

 

 何を言おうと突っぱねるような勢いの中川さんの対応を見て、少し苛立ちを覚えながら反論する。

 

 中川さんも中々引き下がらない俺の様子に少し眉を顰めている。

 

 しずくさんはいきなり険悪な雰囲気となったこの状況で俺と中川さんをただ眺める事しか出来ない。

 

「……貴方も強情な人ですね。もう少し聞き分けの良い方だと思っていましたが……」

 

「それはこちらも同感です。何をそこまで意地を張られるのか理解に苦しんでいますから……」

 

 目には目を歯には歯をと言ったように、中川さんが煽れば俺も煽り返す。

 

 この泥沼のようなやり取りに先に折れたのは中川さんだった。

 

「はぁ……時間の無駄です。話せばそれで解決するのですね」

 

「はい、それで僕たちは満足ですからね」

 

 中川さんは堪忍したかのように大きなため息をつく。

 

 俺もこのヒりついた空気で少し疲労感を覚えたのでやっと話す気になった中川さんに対して安堵の表情を浮かべる。

 

「……私は優木さんから自分の事は秘密にするように言われているんです。だから彼女がどの学科の生徒なのかを貴方達に教える義理はありません」

 

「……はっ……?」

 

 俺は想像からかけ離れた回答が返ってきて、年上に対してやってはいけない返事の仕方をしてしまう。

 

「ど、どういうことですか? 話してくれるのではなかったんですか?」

 

 しずくさんも中川さんの言動に理解が追い付いていないようだ。

 

「ですから、私が話したくなかった内容を話しただけです。私は優木さんの事を話すとは一言も言っていませんよ?」

 

(……この人……随分と質が悪いことを言うなぁ……)

 

 まさかこの期に及んでそんな頓智を利かせてくるとは思わなかった。

 

「秘密にするってスクールアイドルをやるから……ですか? だとしてもそれは中川さんにだけ言っても解決しないでしょう?」

 

 俺は真っ先に感じた疑問をぶつける。

 

 中川さんだけに秘密にするよう話してもクラスメイトが全員口が堅いなんてことあり得るのだろうか。

 

 誰にも喋らないでと言われて秘密を打ち明けられても、知人に対して同じように口外しないと約束させこっそりとその秘密を話すという人は少なからずいるだろう。

 

「……貴方達には関係のないことです。もう時間も遅いのでこの話はおしまいです。早く帰ってください。でないと学校内に取り残されますよ?」

 

 中川さんはそう言い放つと踵を返して学校内に戻ってしまった。

 

 俺は無理矢理話を終わらせられてしまい不完全燃焼となっていた。

 

「……輝弥くん、今日はもう帰ろう? また明日、みんなで集まって作戦を立てようよ」

 

「しずくさん……。……そうだね。ごめん、あの人に対してムキになってた」

 

 しずくさんは俺の肩にそっと手を乗せ、優しく微笑む。

 

 彼女の顔を見ると自然と気持ちが落ち着いてくるのが分かる。

 

 それと同時に先ほどまで険悪な雰囲気を作ってしまっていたのでそれについても自責の念に駆られる。

 

「気にしなくていいよ。あれは私も同じ気持ちだもん。少し生徒会長の事が分からなくなっちゃった……。それにせつ菜さんの事も……」

 

「……中川さん……一体何を隠してるんだ……? それにせつ菜さんも……」

 

 俺としずくさんはあの二人がそれぞれ何を考えているのか、複雑になる問題に思考回路がショートしていた。

 




読んでいただきありがとうございました!

アニメにはないシーンを書くのってそこを作るための資料がないですので少し苦労しますが、その代わり自由に書くことができるので、自分は結構好きですね。

今回もありがとうございました!
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