今回は果林さんの視点がメインとなります!
それではどうぞ!
「…………」
「どうしたー? 随分と不機嫌な顔をしてんじゃねえか」
俺としずくさんが中川さんと論争を繰り広げた翌日、俺は昨日の事で頭がいっぱいになっていた。
「慎……そんなに怖い顔してた?」
「してたしてた。こぉーんな感じの顔をしてて、声を掛けたら今に食って掛かりそうな感じだったしな」
慎はそう言いながら俺の顔真似をしてくる。
眉間に深く皺を寄せてしかめっ面をしていたので正直信じがたいと思っていたが、少し眉間が熱を帯びている感じがするのであながち間違ってはいないのかと半ば諦め気味に認めるしかなかった。
「……で? 昨日あの後に何かあったのかよ? しずくとの間で何かいけない事でもあったのか?」
「べ、別にしずくさんとあったわけじゃないよ! ……実はあの後にせつ菜さんと遭遇したんだ」
慎がしずくさんの事を話題に出しておちょくってきたので思わず語気を強めて否定する。
だが、そこに時間をかけるのも無駄なので慎に俺が悩んでいたことを話した。
「えっ、優木せつ菜さんに会えたのか!?」
やはりせつ菜さんと会えたことを話したら目を見開きながら驚いていた。
「うん……でもすぐに見失っちゃってね……。そのあと、中川さんにも会ったんだ」
俺は昨日起こった出来事を慎に話すことにした。
「なるほどなぁ~、中川さんも何か裏がありそうだな。っていうかなんでそんなに強情になってんだろうな?」
慎は俺の話を聞き終えた後、腕を組み唸りを上げながら浮かんだ疑問を口にする。
「それは俺にも分からない。ただ色々とおかしいんだよね。せつ菜さんに対して扱いとか彼女の秘密についての隠し方とか……」
「うーん、中川さんとせつ菜さんが実は姉妹とか? ほら、身内のやってることを邪魔したくないからとか可能性としてはありそうじゃないか?」
慎は自分が考えた推理と合わせて一つの説を俺に唱えてくる。
「なるほどね~……。確かに家の事情とかで苗字が違う姉妹もいるし何もおかしいことはないな」
「それに同じ黒髪だろ? 俺はそれを推してもいいと思うんだけどなぁー」
慎の着眼点の良さに俺はただただ驚嘆していた。
「……なんかいつもと違って随分と頭が切れてる気がする」
「おいおい、普段の俺がだらしないみたいな言い方すんなよ……!」
慎の事はまだまだ掴みきれてない点が多い。
普段の授業はしっかりと聞いているがそれでも時折そっぽを向いて考え事をしていることがある。
昨日のしずくさん達との会話でもあまり意見を出さずに聞いている印象が強かったから勝手に偏見を持っていたが、そういった事は簡単に決めつけてはいけないなと反省する。
「ごめんごめん。でももし本当に姉妹だとしたら、なんで中川さんはせつ菜さんの事を秘密にする必要があるのかな?」
「えっ? それは……せつ菜さんに変な気を起こす奴がいるかもしれないから…………とか?」
慎は自信なさげに答える。
「慎の言うことも一理あると思う。でもさ、まだ始めたばかりでこれから頑張らなくちゃいけないって時にその活動を支援するのではなくて、彼女の事を隠そうとするって逆にせつ菜さんの活動に支障をきたしてる気がするんだよね……」
「な、なるほどな……。確かに輝弥の言ってる事も間違っちゃいねえな……」
俺たちの会話は机上の空論にも関わらず意外と盛り上がってしまい、昼休憩が終わるまで談義は続くこととなった。
【果林視点】
一日の授業が終わり、いつもなら読者モデルの仕事に行くのだけれど今日の私は違う。
昨日約束したエマ達とのスクールアイドル同好会再始動に向けた話し合い。
私はスクールアイドルに興味はないけど親友がずっと楽しみにしてたことがこんなあっさりふいになるなんて納得がいかなくて、つい協力することにしてしまった。
でも、大好きなエマのためだもの。
生半可な気持ちで挑んで、だめでしたってなるのはあまりにも格好がつかないから、話し合いに向けて私も準備を進めておきたい。
帰りのホームルームが終了し、私が真っ先に向かったのは昨日訪ねた場所。
あそこにはこれからの進め方に大きく影響を与える物があると私の直感が教えてくれる。
その道中、向かおうとしていた先から何やら叫び声が聞こえた。
「きゃあ~~~~! 猫よ~~~~!」
「あらっ、校内に猫が入るなんて珍しいわね?」
学校内はそれなりに警備が行き届いているのもあって野生の動物が侵入するなんてことは早々ないと思ってたけど案外すんなり入られるものなのね。
私は目的の場所に着いた時、その部屋に入るための扉から人が出てくるのが見えた。
「あっ、こら! 待ちなさい!」
見るとそれは生徒会長の中川菜々だった。
普段は整えられている前髪が少し乱れている様子を見るに猫に顔を踏まれたのかしら。
そんな軽いことを考えていたら、あっという間に猫を追いかける中川さんの姿が見えなくなった。
私は開いたままの扉の前に立ち部屋の中をさっと見回す。
中には中川さん以外の人はおらず、もぬけの殻だった。
「ふぅ~ん? これは……案外早く目的が達成しそうね……?」
苦労すると思っていたミッションが予想よりもスムーズに事が運ぶ事となり、私は思わず口元を緩めてしまった。
私は目的を終え、エマ達と合流する約束をしていた場所へ向かうことにした。
もう彼女にはこれから向かう事を連絡してあるので、あとはたどり着くのみなのだけれど一つだけ問題がある。
「……ここは……今どのあたりなのかしら……?」
そう。この私、朝香果林は少し方向音痴なのである。
いや、本当に少しだけなんだけどね?
エマが言ってた場所の景色は覚えてるからそれを頼りにすれば今回は迷わずに到着すると思っていたんだけれど、やっぱり思うようにはいかないみたい。
「日が暮れる前に到着すればいいけど…………あらっ?」
みんなとの話し合いに遅れないように少し急ごうかと思った矢先、ふと女の子が喋る声が聞こえてきた。
校舎の裏から聞こえてくるので少し顔を覗かせたら、きれいな赤髪をお団子にしている子が校舎の窓に喋りかけていた。
「……学園普通科2年の上原歩夢です。少し臆病な性格だから構ってくれないと寂しい……ぴょん♪」
歩夢と言った少女は手をうさ耳に見立て語尾にぴょんを付けながら喋っていた。
その声の張り具合からして誰かに話しかけている様子ではないことはわかった。
にしてもこんな人目の付かない所でやるってことはこの子はおそらく。
「だから温かく…………」
可愛いところを遠くない距離から眺めていると急に固まってしまった。
これは私の存在が気付かれちゃったってことね。
「んん~~~~~~~~!?!?!?」
歩夢ちゃんは一瞬で顔が真っ赤になって声にならない声を上げながら激しく動揺していた。
それにしてもこの子、なんて可愛い反応するのかしら。
口をアワアワさせて目の焦点が震えながら私の事を見ちゃって……。
「こ……これは……その……練習をしてて……す、すす……」
「スクールアイドル?」
私がそう言うとこの子は凄まじい勢いで相槌を打つ。
(この子、エマ達とは違う形でスクールアイドルをやろうとしているのかしら)
もし、この歩夢ちゃんも本気ならば是非一緒に仲間に引き入れたいところだけど、今は出会ったタイミングが悪く近づこうものなら距離を離されるような気がした。
「ふふっ、そうなの? ごめんなさいね、とびきり可愛いところを見ちゃって」
私は自分の人差し指を頬に当て少しからかい気味に言う。
だけど、おふざけはこれくらいにして一つこの子を見て気になったことをぶつけてみる。
「だけど、それは貴女が本当にやりたい事なの?」
「えっ?」
「真面目そうに見える貴女がそんなことをやるのはギャップがあって可愛いと思うけど、それって疲れない? 私には少し無理をしてるように見えるわ」
「そ、それは……」
歩夢ちゃんは元気をなくした子犬のように縮こまってしまった。
少し言い方が厳しかったかしらね。
「だからこそ貴女なりの可愛らしさっていうのをちゃんと見つめ直してもいいんじゃないかしら? 例えば……貴女にとっての一番大切な人ならどんな私をずっと応援してくれるんだろう……とかね?」
「私にとっての……一番大切な人……」
「貴女にはいるかしら? そんな人は」
アイドルという偶像は猫を被っていてもすぐに化けの皮は剥がれる。
無理をして作ったキャラも一度崩壊してしまえば、自分が知ってる子はこんな子じゃないと見切りをつけて別の子を推すようになってしまう。
まして、この子はそういったキャラを取り繕うのはあまり得意ではないように見えるからこそそういった可愛さを求めてはいけないと思った。
こんな真面目な子なら身近な人がどんな自分を好んで推すのか。
それを考えれば自ずと答えは見えてくるのではないかと、私は親友を思い浮かべながらアドバイスを送る。
そして、このアドバイスが利いたのか歩夢ちゃんは先ほどよりもしっかりと前を見据えて私に向き合ってくれた。
「……応援してくれる人なら……います……!」
「……そう。喋りすぎたわね。応援……してるわよ」
自分の歩き出す道が見え始めたこの子ならこれ以上何も言う必要はない。
私はエマ達との時間に遅れてしまうのでそろそろ向かうことにした。
「……ありがとうございました!」
歩夢ちゃんは深く頭を下げながら感謝の言葉を言う。
本当になんて良い子なのかしらね。
(この子は……いずれエマ達と……)
こんな魅力的な子が同好会に入ってくれるなら、と淡い期待を抱きながら私は待ち合わせの場所へ向かうのだった。
【輝弥視点】
「……遅くないですか、エマさん」
放課後、果林さんを含めた同好会メンバーにて作戦会議をする予定なのだが、肝心の果林さんがまだ到着しない。
「うーん、もしかして迷子になっちゃったかな~?」
「いやいやエマさん。果林さんは三年生ですよ? 今になって迷子になることってあるんですかね?」
エマさんの返答に慎は手を横に振りながら反論する。
確かにこの学校に慣れていない一年生が迷う事は仕方ないと思うが、三年生が、ましてやあの果林さんが迷うなんてことがあり得るのだろうか。
「でも、私たちが集まってから、かれこれ一時間は経ってるよね~?」
「き、きっと野暮用に時間がかかってるだけですよ……!」
彼方さんが軽く小言を言うがしずくさんは果林さんに対してフォローを送る。
そう、果林さんは用事があるのでそれを終わらせてから向かうと言っていた。
本人曰くすぐに終わるから、とだけメッセージを残していったそうだが、彼女のすぐに終わるは一時間を想定しているのだろうか。
「まぁ……こればっかりは待つしかないですかね。そういえばお電話は通じないんですか?」
「うーん、掛けたんだけど繋がらないんだ~。果林ちゃんってば、おっちょこちょいさんだからスマホを鞄の奥底に置いてるのかも……!」
「エマさん、果林さんに対しての偏見がひどくないですか?」
エマさんは俺の質問に答えるが、少し果林さんの事をバカにしすぎではないかと思うくらいに彼女の口から放たれる言葉が容赦ない気がする。
「えっ? これが普通だよ?」
「そ、そうなんですか……?」
エマさんはさも当たり前のように返事をするが、慎は疑いの眼差しを向ける。
エマさんが親友に対して毒舌なのか果林さんが本当にだらしがなってないのかそれは本人たちのみぞ知るという事か。
「あらっ、待たせてごめんなさいね」
二人の関係性について頭を悩ませていると悩ませる要因となった果林さんがやっと姿を現した。
「果林ちゃん、遅いよ? どこで迷子になってたの?」
「え、エマ! 別に迷子になってたわけじゃないわよ! 少し遠回りでここに来ただけだから……!」
早速エマさんの毒舌が炸裂し、果林さんも少しムッとしながら反論する。
「遠回りでこんなに遅くなるもんなんですか……!?」
「慎くん、貴方は何も気にしなくていいの。いい?」
「うぅ~つねらないで下さいよー!」
慎が余計なことを言った事で果林さんの矛先が慎に向き、頬をつねっている。
俺も同じことを思ったが口に出さなくてよかったと内心ほっとしている。
「果林ちゃん、そういえば用事って何をしてたの〜?」
彼方さんの質問に果林さんは待ってましたと言わんばかりに誇らしげな顔になった。
「それはね……優木せつ菜の正体を探っていたの!」
実際、果林さんの取った行動が俺たちの今後を大きく進展させることになるとはこの時点では誰も予想できなかった。
今回も読んでいただきありがとうございました!
歩夢のあゆぴょん伝説を間近で見られた果林さんが羨ましい限りですね…。
また、小説とは別になりますが先日開催された校内シャッフルフェスティバルに有料生配信で参加しました。
他の子の持ち曲を歌うことにより、メンバーの新たな可能性を見出すことになった非常に大きいライブになったと思います!
いずれは1stアルバム以外の曲でもシャッフルされたりするのでしょうかね…?
楽しみが止まりません!