最近モチベーションが戻ってきて執筆作業が止まりません!
頭の中の想像を具現化ってこんなに楽しいんですね…!
こんなことを言ってますが、本編は憧れの人との衝突です。
せつ菜さんの正体について真実を握っているであろう中川さんに会うため、俺たちは生徒会室前に来ていた。
「……なんだかいつにも増して緊張しちゃうな……」
「何も気にする必要はないだろ? 俺達もいるんだしさ」
こういう重要な局面の時に毎回武者震いをしてしまう俺だが、慎は肩を叩きながら励ましてくれる。
本当にこんな時でも物事はなるようになる精神で挑める慎が羨ましい。
こんな風に楽観視出来ればいいけど、これが俺の性分だから仕方ない。
「慎君の言う通りよ? 何かあればその時。貴方が一人で考えても仕方ない事よ」
「皆さん、ここで喋っていても仕方ありません。行きましょう」
しずくさんが空気を変えるために発破をかける。
俺はその声を聞き、意を決し扉を力強くノックする。
「はい」
中から昨日も聞いた声が響いてくる。
「音楽科一年の巴 輝弥です」
「……どうぞ」
入室の許可を貰い、俺は口の中に残ったなけなしの唾を飲み込むとノブに手を置き、扉を開ける。
「……お疲れ様です。中川さん」
「お疲れ様です。今日はどうしたんですか? また懲りずに優木さんの事を聞きに来たんですか?」
中川さんは昨日会った時と同じように氷のような冷たさが全身から滲み出ていた。
俺は足が竦みそうになったが男として情けない姿を見せていられないと思い、覚悟を決める。
こうなれば当たって砕けろだ。……砕けたら意味はないが。
「そうだとしたら……どうしますか?」
「どうもこうもありません。昨日お話したことをもう一度話すつもりは私にはないのでお引き取り下さい」
「あらっ? 貴女には無くても私たちにはその理由があるの」
中川さんの冷たくあしらう言葉に我慢ならなかったのか果林さんが俺の後ろから顔を覗かせてくる。
そして、生徒会長専用のデスクの前に立ち、中川さんと対峙する。
俺を含め他のメンバーもその後ろで並ぶ。
「何の御用でしょうか。ライフデザイン学科三年、朝香果林さん」
「ふ~ん、全校生徒の名前を憶えてるって噂は本当なのね。じゃあ優木せつ菜という人物に会わせてもらえるかしら?」
果林さんは目を細めながら中川さんの威圧感に負けないオーラを放っている。
この人が味方に居てくれて、その頼もしさを肌で感じる。
「彼から聞いたのではないんですか? 優木さんは皆さんに会うつもりはないと言ってるのです。生徒会長として生徒を守るのは義務ですので」
「なら、その義務とやらで自分の事をどうやって守るのかしら?」
「……何を言いたいんですか?」
果林さんの一言に中川さんは少し表情が険しくなる。
「隠しているのか、とぼけてるのか知らないけど別にいいわ」
果林さんは徐に鞄の中に手を入れ、一冊の本を取り出す。
中川さんはそれを見て、眉が一瞬動いた。
「生徒名簿、勝手に借りてごめんなさいね。優木せつ菜という名前の人物は見つけられなかったわ。……いないはずの人物とどうやって廃部のやり取りが出来たのかしら。
ねぇ……?
中川さんは顔色一つ変えることなく果林さんの事を凝視していた。
自分ではここまで不利な状況に立たされるとすぐに心が折れてしまう自信がある。
「……随分と勘が良いんですね」
中川さんは果林さんの言葉を肯定した。
やはりこの人は中川菜々であり優木せつ菜本人ということか。
果林さんの後ろで慎が目を見開いていた。
信頼を寄せていた人が、憧れの存在として輝いていた人がかたや同好会を潰し、かたや俺の夢を潰そうとしたのだ。
ショックが大きく、事実を認めたくないのだろう。
「……否定しないのね」
果林さんは微笑みながら会話を続ける。
「別に……いずれバレるだろうと思っていましたから。ですが同好会として一緒に活動していない貴女にそう言われるとは思いませんでしたが」
「私は貴女の正体については正直そこまで興味ないわ。ただ、私の親友の夢を簡単につぶしてくれるなんて随分肝が据わっているなと思って体が勝手に動いただけ」
果林さんは腕を組みながら答える。
声色が落ちているので少しでも隙を見せたら刺してくるではないかと思わせるほどに恐怖感が滲み出ていた。
「ちなみに貴女の事に真っ先に気付いたのは私ではなくて輝弥君よ」
「…………」
中川さんは何も言わずに俺へと目を向ける。
その裏に隠されている感情は憤りなのか虚無なのか読み取ることはできなかった。
「僕も……最初は確証なんてなかったんです。昨日、あそこまで拒絶される理由が分からなかったし、どうしてせつ菜さんの事を庇おうとするのか理解が出来ませんでした」
俺は目線を下に落とし昨日の出来事を思い出しながら話す。
「ですが、貴女が優木せつ菜さんというのならば話は早いです。
せつ菜さん、どうしてあの時俺をライブへ連れ出したんですか!?」
「輝弥……」
「同好会の事情をしずくさんから聞いた時……貴女がどういう気持ちであそこに立っていたのか……。俺には分からないんです……。俺はあの場で確かに貴女に心をがっちりと掴まれました。同好会に入って……スクールアイドルを目指す人たちにしか歌えない曲を作りたいと……夢を叶えたいと本気で思えたんです……!!」
「…………っ」
俺は自分の感情が制御できておらず、ありのままの想いをせつ菜さんへぶつける。
彼女もそれを聞いて全身に力が入っているように感じる。
「それを貴女は……自分勝手な都合で……同好会を……!!」
「輝弥くん、ストップ!」
「……っ。……エマさん……」
自分の口からとめどなく溢れ出る想いとこみ上げてくる怒り。
放たれる言葉に危険を察知したのか、それをせき止めたのはエマさんだった。
「輝弥くん、言いたいことは分かるけど私からも一つだけ言わせて?」
そう言うとエマさんはせつ菜さんへ向き合った。
「せつ菜ちゃん、どうして廃部にしたの?」
「一時的に活動を休止しようって言ってたよね? それがどうしていきなり……」
「教えてください、せつ菜さん……!」
彼方さんとしずくさんもせつ菜さんへ訴えかける。
そうだ、今せつ菜さんに物申したいのはこの人達な筈だ。
活動休止と言った矢先の同好会の廃部。
そのメンバーであればこの状況を納得できるはずがない。
「……私にはスクールアイドルをやる資格なんてないんです……」
「えっ? 今なんて……?」
せつ菜さんは小声で答えていたが上手く聞き取ることが出来なかった。
「……私はスクールアイドルをやめたんです。同好会は最低五人以上でのみ活動が許可されます。今までスクールアイドル同好会はその最低人数での活動でしたがメンバーの退部により廃部にせざるを得なくなった。……それだけのことです」
「それだけって……あんた……そんな軽く言える口なのかよ!!」
「慎君、落ち着きなさい。今ここで激昂しても仕方ないわよ」
せつ菜さんの答えに納得がいかない慎は思わず噛みつくが果林さんに制止される。
「でも~……あれはせつ菜ちゃんだけのせいじゃないって言ったでしょ? 私たちにも悪いところはあったんだからせつ菜ちゃんだけが背負う罪じゃないよ」
「…………」
彼方さんのフォローが入るがせつ菜さんは俺達にそっぽを向け、校舎外へと体を向ける。
「せつ菜ちゃん……!」
「優木せつ菜はもういません!!」
エマさんの声を振り切るようにせつ菜さんは大きな声で被せてきた。
突然の出来事に俺たちは言葉を失うのだった。
「……私はスクールアイドル同好会に戻るつもりはありません。やりたいのでしたら皆さんのみでやって下さい」
「せつ菜……さん……」
せつ菜さんの声は今にも消え入りそうなくらい弱々しく、目の前が真っ暗になっているように思えた。
「……そう。貴女がそう言うのならばこっちは勝手にやらせてもらうわ。今日はもう帰りましょ」
「果林さん……!? まだ話は……!」
「もう終わってるわよ。私たちがここに来た目的は何? 優木せつ菜とのお話、なんていう学校内ならどこでもやれることをここでやろうとしていたとでも言うつもり?」
俺は踵を返そうとする果林さんに待ったをかけるが、逆に言い返されてしまう。
果林さんの正論に俺は反論する余地はなかった。
「貴方達はスクールアイドルをもう一度やりたくて集まったんでしょ? なら再結成するための条件を聞くことがまずは最優先じゃないかしら」
果林さんはそう言い放つとそそくさと生徒会室を出ようとする。
扉の前で立ち止まりこちらへ、もといせつ菜さんの方へと振り返る。
「スクールアイドル同好会はメンバーが集まればもう一度結成してもいいのよね? 生徒会長さん」
「……はい。最低人数の五人を集めれば同好会として再度立ち上げて頂いて構いません」
「……それが聞ければ十分よ。なら今日は帰るわね。エマ、行きましょ?」
あまりにも唐突な展開に果林さん以外は付いていけなかった。
いや、あの人は元々スクールアイドル云々よりもエマさんの為だけに動いていた。
夢に見ていたスクールアイドルに彼女がなれるように手助けしていたに過ぎない。
これが朝香果林という人物なのだ。
「う、うん……」
エマさんは戸惑いながらも果林さんの後を付いて生徒会室から去っていく。
「さて、もう要件はないでしょう? 私はまだ仕事がありますのでこれでお引き取り願えますか?」
扉の方を見て呆けていると、中川さんに声を掛けられ我に返る。
先ほどまでのやり取りが鉄に出来た錆のようにしっかりと頭にこびり付いて中々拭う事が出来ない。
「貴方達に何を言われようが、これが私の選んだ道です。貴方は貴方の行きたい道へ……やりたい事へ進んでくださいね」
「中川さん……」
中川さんの最後の言葉には以前感じた温かな空気が纏われていたような気がした。
「輝弥、俺達も帰ろうぜ」
慎にも促され生徒会室を後にする。
生徒会室の扉を閉めようとした瞬間、席で仕事をしている中川さんの顔が光って見えたのは気のせいだろうか。
「一応、スクールアイドル同好会については再開できるようになったけど……みんなは嬉しい?」
生徒会室の外に出て校舎外にと歩いていた時、彼方さんが声を掛けてきた。
「私は活動再開については嬉しく思います。ですが……こんな再開の仕方は……うれしくありません」
「僕も同じ気持ちです。まだ蟠りが胸の中に残っているというか……まだ腑に落ちないというか……」
しずくさんと俺はその胸中を吐露する。
お互い考えることは同じなようだ。
本来ならば最難関である生徒会長を乗り越えたことで念願だったスクールアイドル同好会での活動に胸を躍らせるのだろうが、今の俺は逆に冷め切っていた。
「二人も同じなんだね。彼方ちゃんも同じ気持ちだよ~。このまま続けてもスッキリはしないけど、今はそうも言ってられないんじゃないかな?」
彼方さんはこちらを安心させるように微笑みかける。
そんな彼方さんとは裏腹に慎は俯きながら歩いている。
さっきまでのせつ菜さんの態度にまだ苛立ちが残っているのか少し眉間に皺が寄っているようだった。
「そうですね、こうしてまた活動できるんです。今はそれを素直に喜びましょう」
「うんうん、思う事はあるけど、まずは一歩前進って事で笑顔で帰りましょうぞ~!」
彼方さんは場を和ませるように拳を突き上げるように喜びの感情を大げさに表現した。
だがそれも束の間、彼方さんはすぐに腕を下して俺と慎の方へと体を向けた。
「輝弥くん、慎くん。今回は本当にありがとうね。二人の力が無かったらここまで進歩は無かったと思うから改めてお礼を言わせて?」
「私からも言わせて? 輝弥くん、慎くん。二人とこうして仲良くなれてなかったら私は路頭に迷っていたかもしれない……。本当にありがとうね」
彼方さんが今回の俺たちの活動について感謝を述べるとしずくさんも便乗してお礼を述べる。
「いえ、俺たちはむしろ中川さんに……せつ菜さんに不用意に突っかかろうとして状況を悪化しかねませんでした……。お礼を述べるべきは部外者ながらにも真摯に動いてくれた果林さんだと思います」
俺がそう反論すると彼方さんは頬をぷく~っと膨らませて睨んでくる。
睨んでくると言ったが、果林さんほどの威圧感を放っているわけでもないので逆に愛くるしさを感じる。
「むむ~。彼方ちゃんはそういうことを言いたいんじゃないんです。確かに果林ちゃんも凄く頑張ってくれたけど、君がいなければせつ菜ちゃんに近づくことはできなかったんだよ?」
「そうだよ。それに慎くんの言葉も私たちを奮い立たせてくれたんだよ? こんな状況でも諦めちゃいけないんだって心から思えたんだもん」
「しずくちゃんの言う通り。今は二人の行動に感謝をしたいんだからそれは素直に受け取ってほしいな?」
二人からの賛辞の言葉に俺たちはたじたじになるばかりだった。
俺だけならともかく慎もこういうまっすぐな言葉には弱いんだな。
「そういうことであれば素直に受け取ります」
「俺達も当然と思って行動しただけですけど、彼方さんとしずくが喜んでくれるのならばそれは何よりです」
「うむ、素直な子はお姉ちゃん大好きだぞ~?」
そう言いながら彼方さんは俺の頭を撫でてくる。
「んんっ!? 彼方さん、頭を撫でるのは流石にやめてください!」
俺は咄嗟に後退りし、彼方さんのなでなでから逃げる。
「むふふっ、ごめんね~? ちょっとからかいたくなっちゃった~♪」
そう言いながらも謝っている気が微塵も感じられない。
彼方さんも侮ってはいけないタイプだったことを失念していた。
「ぷはっ! お前、本当によくからかわれるな!」
「ふふっ、輝弥くんは相変わらずだね」
「三人にしてなんなんですか~~もう~~~!!」
久々のこのやり取りに恥ずかしさもありつつ、また和やかな空気が戻ってくるのだなと実感が湧いて、思わず顔が綻ぶ。
その裏でとある少女に対する一抹の不安がしこりとして残っているままだったが。
今回もありがとうございました!
菜々ちゃんとの衝突は今まで仲良くしてくれていた輝弥君からだと余計に辛いものですね…。
ここからせつ菜ちゃん回に走っていきます。
次回もお楽しみに!