今回はシリアスな内容となっています。
せつ菜に秘められた過去とは…?
それではどうぞ!
【菜々視点】
巴さん達がスクールアイドル同好会の再結成を直談判してきた日の夜、私はその日の授業で出てきた課題を片付けるために勉強机へ向き合っていた。
授業は真面目に受け黒板に書かれた内容も後で見返しやすくするように要点を抑えながらノートを取っていたので復習をする際には重宝している。
ですが、今日の私は調子が悪いみたいでした。
課題の量は多いわけではなく、いつもの私であれば三十分あればこなせるのですが、現時点で倍の時間が経過していました。
私がこうなっている原因は分かっています。
今もその原因となる言葉が私の脳内で音楽の如く繰り返し再生されています。
(同好会に入って……スクールアイドルを目指す人たちにしか歌えない曲を作りたいと……夢を叶えたいと本気で思えたんです……!!)
(それを貴女は……自分勝手な都合で……同好会を……!!)
(それだけって……あんた……そんな軽く言える口なのかよ!!)
「はぁ……。私の事を慕ってくれていたというのに流石にこれは来るものがありますね……」
ときに音楽室で一緒の時間を過ごして親睦を深め、ときに悩み相談に乗って彼らとの距離を縮めていけたというのに、今日の出来事で全てが振り出しに戻ってしまった気がします。
いや、振り出しよりもマイナスからのスタートと言った方が正しいでしょうか。
「明日から彼らにどういう顔を向ければいいでしょうかね……」
彼らに対しての方便も考えながら私はふと押し入れと目を向ける。
「…………」
私はふと押し入れの取っ手を握り、中を物色する。
中には親に隠れてライトノベルやアニメのブルーレイを保管している。
アニメ鑑賞やラノベ読みは優木せつ菜の……もとい中川菜々の意外と見られる一面だが、私はそれをひた隠しにしながら今まで生活をしている。
こんな姿を見た両親や学校の生徒はどういう反応をするのか。
それを知るのが怖くて、誰にも打ち明けられず独りで趣味に没頭している。
だがそんなアニメグッズらが並べられている押し入れの中でもとりわけ目立つ存在となっているのが、スクールアイドルの衣装だ。
私は徐に衣装を手に取り感傷に浸る。
先日実施したライブで着た大切な衣装。
これを身に纏う事でいつもの私とは違う私が自分の中に入ってくる感覚。
中川菜々から優木せつ菜に切り替わる瞬間。
そしてこの衣装を着たライブは巴さん達に優木せつ菜を見せた決定的な瞬間であり、ここからあの二人の物語は進み始めた、という所でしょうかね。
「菜々ー? 入るわよー?」
物思いに更けていると部屋の外から母親の声が聞こえ扉をノックする音が響く。
「は、はい! どうぞ!」
母の声が聞こえた瞬間、衣装を反射的に押し入れの中にしまい扉を閉めて勉強机に向き合う。
こういった緊急時は動きに無駄がなく洗練されているのは私だけではないと信じたいです。
「勉強は捗ってる? はい、少し休憩したら?」
母はお盆にお菓子と紅茶を乗せ、差し入れてくれました。
「うん、勉強は大丈夫。今日は少し課題の量が多くてね」
「そう。無理はしないようにね」
母は差し入れを渡し労いの言葉を言って満足したのか部屋から去っていきました。
私は後ろから聞こえる扉の閉まる音が静まった瞬間、差し入れてもらったコップを机に置きベッドへと向かう。
そして、全身から力が抜けベッドに倒れこみます。
「はぁっ……ここまで何もやる気が起きないのはいつぶりなのかな……」
酷く脱力感に襲われているこの感覚はいつ以来だろうか。
深夜に放送しているアニメをリアルタイムで見るのが楽しくてそれがきっかけで連日夜更かしした結果、風邪を拗らせた時以来でしょうかね。
今ではそれを反省点に携帯で月額サービスのアプリを使ってアニメを視聴しておりますが。
それは置いておいて、他所事でやる気が起きないというのは私にとっては身に覚えがない事でしたが、実際に体感してみるとその力はすさまじいものですね。
見ていたアニメでも好きな人に恋い焦がれ、勉強やスポーツが手に付かないという状況はありましたが今ではその気持ちが理解できてしまいます。
まあ、私は今抱いているのは恋なんていう美しいものではなく罪悪感という残酷なものですが。
「……課題は明日の朝でもやれるし、それでやろうかな……」
そうして、枕に顔を埋め嫌なことを忘れるように眠りに着こうとする。
だがこういう時に限ってそんな簡単に夢の中という甘い楽園には連れて行ってくれない。
忘れたくても頭に蘇るのは同好会のあの練習の後にあった出来事。
今でも昨日のように鮮明に思い出すのはスクールアイドル同好会を廃部にさせるきっかけとなったあの練習。
「スクールアイドルが大好きなんでしょう? やりたいんでしょう? こんな事で根を上げるようでは大好きを皆さんに届けることはできませんよ!」
一人前のスクールアイドルになるために今日も来たるライブに向けて練習にも熱が入っていました。
今は近くに迫っているライブに向けて練習をしていますが、ここで成功すればいずれはラブライブに出場して私が目指した理想のスクールアイドルになることが出来る。
その為にこのライブは失敗できないと思い、いつも以上に力が入っていました。
「でもっ……!!」
しかし、そんな私のやり方に反旗を翻したのは誰よりも可愛いを追及しているかすみさんだった。
「でもっ……こんなの全然可愛くないです!! 大好きを届けるとかかっこいいを見せるとかではなくて、かすみんはもっと可愛いのがやりたいんです!!」
私はその言葉にはっとしました。
私はかすみさんのやりたい事や彼女の可愛い所をパフォーマンスや仕草に反映させたいと思い、向き合ってきたつもりでしたがその気持ちが本人には届いていなかったのです。
「なっ……! それでは私が周りを見れていないみたいじゃないですか!! 私はかすみさんのやりたいことも尊重したうえで……!」
「あんなので尊重したなんて言わないで下さい! かすみんの今の気持ちも現に分かっていないじゃないですか! その発言が周りを見れていない証拠なんです!!」
私は自分の意見を伝えようと反論しようとしたがかすみさんに一蹴される。
そしてかすみさんから放たれた一言が私に衝撃を与えました。
(かすみさんの……今の……気持ち……?)
私は彼女の事を理解していたつもりでしたが、どうして私の想いが彼女に届いていないのか理解できませんでした。
そして、眉をぴくぴくさせながら反論しようとした時、その場の空気が止まった。
「もうこんな喧嘩やめようよ!!」
エマさんが普段の穏やかな声色からは想像できない程に、泣きそうになりながらも声を大きく上げていました。
「お願いだから、仲間同士で争うのはやめようよ……」
「エマさん……」
「エマ先輩……」
私はエマさんの訴えを聞き、金づちで頭を叩かれたような衝撃が襲ってきました。
自分の大好きを広めるために、皆さんの大好きを広めたいが為にやっていたことは所詮独りよがりだったことに気付いたのです。
「……私はっ……」
自分の愚かさに歯痒さを隠せませんでした。
そして、それと同時に皆さんからの目が怖くなりその場から逃げるように屋上を立ち去ろうとしました。
「せつ菜さん……!」
「今日の練習は……これで終わりにします……。皆さん、気を付けて帰って下さい……」
しずくさんから待ったの声がかかるがそれを振り切り、練習を終える連絡だけ残し私は屋上から姿を消すのでした。
私は屋上から逃げるように部室へ戻った後、人目に付かないように物陰へと隠れました。
「はぁ……はぁ……!!」
先ほどまで私が皆さんに行っていた所業がフラッシュバックする。
私がやりたかったのはこんなひどい事じゃない。
私がやりたかったのはもっと楽しい事。
皆さんと素敵な青春の一ページを刻むことだったのに。
その大切なページを私自身の手で無残に引き裂いていた。
「私は……自分の大好きを貫こうとして……皆さんの大好きを……否定していた……。こんなことで……理想のスクールアイドルになれるわけがない……!」
私は物陰で蹲り、涙がこみ上げてきた。
私が泣いていいはずがないのは分かってる。
一番泣きたかったのはかすみさんやエマさん達のはずだ。
だが、そう思っていても相反するように身体の中の水分が涙となって外へと出ていく。
「うぅっ……うわぁぁぁぁぁ…………! ひっく…………うわぁぁぁぁん…………」
外に漏れないように泣き声を上げる。
独りしかいない部室ではその声がひたすらに反響していた。
否が応でも私の耳に入ってくる。
「こんな……こんなことをしたかったわけじゃないのに……!!」
今になって途轍もない罪悪感が私を苛んでくる。
頭の中に浮かんだ同好会のみんなの笑顔が狂気と苦痛に満ちた顔へと変わっていき、それが私の精神を抉ってくる。
「……ようやく分かりましたか?」
私しかいない部室の中で一人の少女の声が聞こえてくる。
「貴女のやろうとしていることは誰かのため、なんていう綺麗事ではないんです。自分勝手に同好会の皆さんを巻き込んで混乱に陥れていただけなんですよ」
少女は容赦のない言葉で私へ事実を突きつけてくる。
嘘紛れのない真実に私は弁解のしようがなかった。
「貴女は昔言っていましたね? 人の喜ぶ顔が見たいと。そのために自分が大好きとまっすぐに向き合わなければ誰もついてこないと」
私は徐にその場で立ち上がる。
そして、部室に用意していた全身鏡の前に立つ。
「ですが、現実は違ったんですよ。そもそも貴女の後ろには誰も付いてきてなかったんです。貴女が後ろを振り向かずに前しか見ていないから、誰もいないんですよ」
「えぇ。私も今になって……それを痛いほど実感しました」
少女の言葉に合わせるように私も言葉を紡いでいく。
「私が皆さんを引っ張っていけば素敵な未来を作っていける。そんな傲慢な考えを私はいつの間にか持っていたのでしょうね」
「はい。そんな貴女に誰が付いてきたいと思いますか?」
「えぇ、いるはずがないです。私でさえも嫌悪感を抱いてしまったのですから」
「……なら、どうしますか?」
少女の問いに私は間髪を入れず答える。
「……貴女ならそれを聞かずとも分かっているでしょう? もう一人の私なんですから。
ね?
全身鏡を見つめ、そこには私が映っていた。
いや、これが優木せつ菜なのか、中川菜々なのかは本人でさえも分からない。
「決まっています。私はスクールアイドルをやるべきではなかったんです。私は誰かを支えられるような力を持っていない。誰かのヒーローには……なれない……」
「優木せつ菜さん……」
鏡に映る中川菜々は私の名前を呼びながら涙を流していた。
「ふふっ……貴女の涙を見るのは……ひ、久々ですね……。私に同情しているんですか……?」
中川菜々は頬を涙で濡らしながらも返答をしない。
「……まあどちらでもいいです。生徒会長、中川菜々さん。私のお願いを聞いてください」
「……どうぞ……」
「私……優木せつ菜は……スクールアイドル同好会から退部します……。退部手続きを……させて下さい……」
「……っ。貴女がそれで良いのであれば私はそれを止めません。この後、生徒会室へ来て下さい……」
そして、中川菜々は私の脳裏に焼き付けるように最後に言葉を言い残した。
練習着のポケットからヘアバンドを取り出して、三つ編みのお下げに髪を戻しながら。
「さようなら、優木せつ菜さん……」
こうして優木せつ菜はスクールアイドル同好会から去ることとなった。
ベッドで追憶に更けていたらいつの間にか枕に濡れ跡が残っていた。
まだ湿り気を感じるので、時間はそう経っていない。
「私には……あそこにいていい資格はないんです……」
そうして、私は夢の中へと誘われるのだった。
今度は何の障害もなくすんなり眠ることが出来た。
読んでいただきありがとうございました!
せつ菜の葛藤は書きたかったシーンでしたので、ここを書くのを楽しみにしてました…!
また、先日、この小説にも評価が付いたことでバーに色が付きました!
ここまで出来たのも読んでくださる皆さんのおかげです!
本当にありがとうございます!
これからも「虹の袂」をよろしくお願いします!
評価・感想お待ちしております!