今回は輝弥君ととある人が接触…!?
それではどうぞ!
切っても切れぬもの
「…………」
同好会が活動再開となった一方、せつ菜さんの事が気がかりとなり気分は晴れることはない。
家に着いても雲が晴れることはなかった。
部屋で勉強机へ向き合い、頬杖を突きながらこれからの事を考えていると扉をノックする音が聞こえてきた。
「輝弥? 入ってもいいかしら?」
「姉さん? どうぞー」
入室許可をすると部屋着姿の姉さんが入ってきた。
手には差し入れ等を持ってきている様子はないので労いに来たようには見えなかった。
「姉さん、どうしたの?」
「貴方、今日帰ってからずっと機嫌が悪かったから何かあったのかなって思って」
確かに今日家に着いた時、いつもと声色が違っていたしご飯を食べている間も姉さんからの話題振りに空返事をしていたので姉さんはそれが気になったようだ。
「あぁ、ごめん。ちょっと今日学校であまり気分が良くないことがあって……」
「もしかして……いじめとか……?」
「いや、そういうのじゃないよ!」
姉さんからの問いに濁すような言い方をしてしまい、姉さんは少し不安を滲ませた声を上げる。
俺は否定するように声を被せて言葉を続ける。
「実はとある同好会の部長さんが退部しようとしてるんだ。その人はそれを大好きで始めたのにいざこざが原因でその大好きをやめようとしてて……折角やりたいことを真っ向から挑戦できてその人にとって幸せな時間がやってくるのにこんな形で幕を閉じてしまうなんてあまりにも酷だから……」
俺はせつ菜さんの姿がフラッシュバックしながら姉さんに問いかける。
「……姉さんは今の演劇同好会で自分がやろうとした事がきっかけでその同好会がバラバラになったら、それでも演劇の事を好きでいられる?」
「自分のやろうとしたことがきっかけで……ねぇ……」
姉さんは俺の問いに対して返答を考えながらベッドへと腰掛ける。
「私は……その場では嫌いになっても永久に嫌いになることは出来ないと思うな」
「たとえ大切な仲間との間に亀裂が走ったとしても?」
「それでも、よ。私は両親や祖母の舞台で煌めく姿を見て演劇を好きになった。そして、それが今の私を形成するきっかけになったんだもの。憧れとして抱いていた夢をこの手で叶えることが出来たからその喜びは何物にも代えがたいもの」
「…………」
姉さんのまっすぐな言葉に俺は何も言わず耳を傾ける。
「それにね? もし嫌いになっても何かきっかけがあればそれが引き金となってもう一度舞台に立ちたい、演劇をやりたいっていう熱が再燃するのよ。だから何者にもこの関係を引き離すことはできない、私は舞台とは切っても切れない関係になったと言っても過言ではないと思うわ」
そうだ、姉さんはこういう人物だ。
一度好きになってしまったものは決して離さない。
舞台の事も、姉弟である俺の事もずっと想い続ける一途な人。
こんな人が舞台を嫌いになったらこの人から何が残るのだろうか、そう考えてしまうほどに巴 珠緒という人物は演劇、舞台で形成されておりその人生は彩られているのだ。
「ははっ、流石舞台バカってところだね」
「ちょっと。バカって言うのはひどいんじゃない?」
俺は姉さんが舞台に染められた女だったことを冗談交じりに弄る。
姉さんは俺の言葉を真に受けずに流していく。
「でも……ふふっ、違いないわね」
そう言いながら姉さんは笑う。
「やっぱり……好きに対してはそういう考えになるのが普通なんだね……」
「誰だってそうよ? 輝弥だって、ピアノを弾くのが好きって言ってたでしょ? それを何かのきっかけでやめることになっても貴方からピアノという存在を完全に消すことは出来る?」
「それは……無理だね」
俺は苦笑しながら答える。
俺からピアノが無くなったらそれこそ何も価値のない浅はかな人間になってしまう。
ピアノへの熱が冷めてしまったとしても思わぬ所から引き金は現れ、その価値に縋ろうとして思わず手をかけ、自分の意思でトリガーを引く未来が見える。
「でしょ? それと同じことよ」
「そっか……」
俺は心のつっかえが取れ気分が少し晴れる。
「それにね? 高校生は好きなことを好きに挑戦できる時間が沢山あるの。その大切な時を好きなことに使わずにいるのって凄く勿体ないしこの後の人生で絶対後悔するわ」
「……!!」
姉さんの一言に俺は雷の如く衝撃が走った。
高校生活は人生に一度きりしかない。
こうしてスクールアイドルの魅力に気付くことが出来たのもこの一回きりの人生では想像もできない運命だ。
俺はこの学校で悔いのない高校生活を送りたい。
今までみじめだった自分が誰かを照らす光になれるチャンスなのだ。
そんなチャンスを、俺を引き入れてくれた人と一緒にやりたい。
「なるほどね……。姉さん、ありがとう」
「ふふっ、ようやく意志は固まったみたいね。……にしても貴方がそこまで熱心になるなんて余程いい部活動に出会えたのね?」
姉さんは俺の踏ん切りの付いた顔を見て全身の力を抜く。
だが、それとは裏腹に今度は自分の番と俺へジト目を向けながら質問してくる。
「えっ!? ま……まぁ……ねぇ……?」
「ちなみにどこの部活なの?」
「えっ……と……」
俺は途端に口を噤む。
姉に対してスクールアイドル同好会と答えるのが滅茶苦茶恥ずかしい。
笑われるような気しかしなくて今すぐにトイレにでも駆け込みたい。
駆け込んだら逃げ道はなくなってしまうが。
ここでじたばたしても埒が明かないので俺は心を決める。
自分で決めた道だ。笑われてもいい。
「……ス……スクールアイドル同好会……」
「…………」
姉さんは口を閉じたまま俺を見つめる。
石像みたいに固まってしまったため何かリアクションはしてほしいものだ。
「ス、スクールアイドルっていうのは、高校生がやるアイドル活動だよ。って言っても俺はアイドルになるわけじゃなくてアイドル志望の人を手助けするサポーターみたいな位置でやりたいなってこと!」
「輝弥が……ステージに立って歌うわけじゃないのね……?」
姉さんは表情を変えずに質問を続ける。
だが、姉さんは無機質な返答を行っているつもりだろうが俺には少し憂い帯びたような声色に聞こえた。
「歌うつもりはないよ。俺は自分の音楽を紡ぎたくてここに来たし、それを叶えられる場所がここにあった。俺は……姉さんみたいに出来た人間じゃないから」
「……誰もそんなことは一言も言ってないけど? でも……素敵なところじゃない」
「えっ?」
姉さんから感嘆の声が聞こえ俺は思わず聞き返してしまった。
「だって貴方が自分自身の意思でそれをやりたいって言ったじゃない。今までずっと私の後ろを付いて来ていた貴方が自分の手で好きなことを、やりたいことを見つけた。それはもう巴 珠緒の弟じゃない一人の巴 輝弥の人生のスタートよ」
「姉さん……ありがとう」
姉さんはこういう人間だ。
自分の意思で決めた道を決して笑って邪魔することはない。
むしろそれを応援するためにいつも背中を後押ししてくれる。
姉さんが傍にいてくれるから俺は自分のやりたいことを見つけることが出来たのだ。
「でも、少し悔しいな。昔は、貴方がピアノを弾いて私がそれを歌うのが夢なんだって言ってたのに……これじゃ先を越されちゃうわ」
「なっ! む、昔の事は掘り返さなくていいでしょ! 別に……姉さんとの夢を諦めたわけじゃないし……」
俺は昔姉さんに語った夢を思い出して恥ずかしさが増していく。
だが、姉さんと何かを一緒にやりたかったのは間違いないし今は平行線で歩いていてもその道がいつか交わることを信じて、夢を諦めてないことも伝えておく。
「そう? ならその時を楽しみにしておくわね」
そう言い残すと姉さんは部屋の外へと出ていく。
心の内に秘めた小さな願いを吐露しながら。
(もう貴方は……あの時の輝弥じゃない……。私は……信じてるわ……)
姉さんが部屋を出たのを確認すると俺はふと思いついたようにケータイを取り出し、とある動画を探すのだった。
姉さんとの姉弟話に花を咲かせた次の日、俺は昼休憩が始まったと同時にとある場所へと向かおうとした。
「輝弥ー? 食堂に行かないのか? しずくが一緒に食べないかって誘ってきてたけど?」
「あっ、ごめん。少し野暮用があるから先に行ってて」
「ふぅーん、分かった。しずくと待ってるから、ちゃんと来いよな?」
慎は特に詮索することなくお腹を満たそうと食堂へと足を運んだ。
俺は慎がいなくなったのを確認すると目的の場所へと向かった。
「ありがとうございました」
俺は生徒会室へ行き、音楽室の使用許可書を貰う。
今日は中川さんは不在だったので副会長さんに印鑑を貰った。
音楽室へ着いたらピアノ用の椅子へと腰を掛け、鍵盤蓋を開ける。
俺は弾く前に気持ちを落ち着かせるために一旦深呼吸をする。
「うまく弾けるか分かんないけど……」
そうして、俺はいつもとは違う曲を弾き始めた。
優しげなイントロから始まる、俺がこの道に歩くきっかけをくれた曲。
あの人の曲は聴くだけでも自分の夢を後押ししてくれる力をくれるがそれはこうして弾いてるときも同様だ。
あの人の歌声が自然と聞こえてくるような感じがして凄く勇気が湧いてくる。
本当に優木せつ菜というスクールアイドルは凄い。
やっぱりあの人はこんな所でくたばっていい存在ではないと痛感させられる。
そして、それと同時にどうやってあの人をもう一度奮い立たせることが出来るかを考えていると、知らない人から声を掛けられる。
「ねえねえ!! 今のってもしかしてCHASEだよね!?」
黒髪をツインテールにした女子生徒が音楽室の前で鑑賞していたようだ。
胸のリボンはピンク色をしているので二年生のようだった。
「わぁ! しかも男の子だ! 綺麗な髪だから女の子が弾いてるように見えてた……!」
「……それは男の僕に対してだいぶ失礼な発言じゃないですか?」
ついに可愛いから女の子にレベルアップしてしまった。
全く、他人からの俺はどう見えてるんだ。
「ってあぁぁ、ごめんね! 悪気はなかったの! 私のクラス男子いないからさ……ちょっと珍しく見えちゃって……」
元気に喋ったと思ったら失言してしまったことに対して深く頭を下げてくる。
中須さん並みに感情の起伏が激しい気がする。
「貴女のクラスには男子はいないんですか?」
「うん、っていきなり突っかかってごめんね。自己紹介がまだだったね」
そうすると女生徒は俺に向き直り、挨拶を交わす。
「私、普通科二年の高咲 侑! よろしくね!」
侑さんとの出逢い、それはこれからの同好会の動きに大きな変革をもたらすのだった。
読んで頂きありがとうございました!
初めての侑ちゃんと輝弥君の接触です!
これから先に起こる未来とは…?
また小説とは別ですが虹ヶ咲学園3rdライブの二日目に当選しました。
アニメ楽曲はどれも生で聞くのを心待ちにしていたので今からワクワクします!
それではまた次回もよろしくお願いいたします!