今回から侑ちゃんが本格的に絡んできます。
それでもよろしくお願いします。
「私は普通科二年の高咲 侑! よろしくね! 貴方は?」
侑先輩が自己紹介をしてきたので俺も併せて自己紹介をする。
「僕は音楽科一年の巴 輝弥です。よろしくお願いします。侑先輩」
「あはは、そんな堅くならなくていいよ! よろしくね、巴君!」
俺は相手が上級生だから堅苦しく挨拶をするが、侑先輩はそれをむず痒く感じたのか頭の後ろを掻く。
「そ、そうですか? では侑さん……で呼ばせてもらいます」
「うんうん、それくらいが私も丁度いいかも」
上級生に対して先輩付けせずに名前呼びするのは忍びないが本人たっての希望とあればそれを無下にするわけにもいかない。
「にしても侑さんのクラスは普通科なのに男子はいないんですか?」
「そうなんだよね~。他のクラスは少数だけれどもいるのに私の所だけはゼロ。すごい偶然だよね。輝弥君の所も?」
「どうなんでしょうね。僕のクラスは僕ともう一人いるくらいで同じ学科では聞いたことがないですね。人から聞いた話だと普通科には少しいるって聞きましたけど……」
「やっぱりこの学園は女子の方が人気高いからそれだけの差が出てくるってことだね」
侑さんと他愛無い会話が続く。
この人、変に気を遣わず自分のペースに合わせてくれるから凄く話しやすい。
あと、さっきまで苗字呼びだったのにもう名前呼びに変わっていた。
俺が名前呼びに変えた影響なのだろうか。
そこまでされると返って気を使ってしまう可能性が高いが。
「あっ!! ってそんなことを話に来たんじゃないよ!!」
何かを思い出したかのように侑さんは突然大声を上げる。
理由は一つしか思い当たらない。
「さっきの曲、CHASEだったよね!? もしかして輝弥君も優木せつ菜ちゃんのファン!?」
侑さんは突然目にハートが映ってるんじゃないかと思わせるくらいに目を輝かせながら接近してくる。
更には意識していないのか手まで握ってきているのでこの人の熱量は相当なものだという事が伝わってくる。
「えっ? えぇっと……」
「うんうん、言わなくても分かるよ! いいよねCHASE!! いや、CHASEだけじゃなくてせつ菜ちゃんもだけど、あの子見てると凄く力が湧いてくるよね!! 私もこの前のライブ見てからせつ菜ちゃんのファンになっちゃってね……!!」
俺が侑さんへの回答にしどろもどろになっているがお構いなしに侑さんのマシンガントークが炸裂する。
しかもどんどん顔も近づいてきて、ついにはお互いの鼻があと数センチで当たるという所まで来ている。
ここから感じる彼女の鼻息の荒さは尋常ではなかった。
「あの……ち、近いです……!!」
「あっ!? ご、ごめんね……つい熱くなっちゃって……! いやぁはは……分かる人が見つかったことがすごく嬉しくてつい舞い上がっちゃった……」
侑さんは自分の行いを思い出したのか顔をほんのり紅潮させながら手を後ろでもじもじさせている。
こんなことされたら男子は普通に騙されてしまうから侑さんは天然たらしの素質があるのかもしれない。
「そ、そんなに落ち込まないで下さい! 自分もちょっとびっくりしただけなので……!」
俺は侑さんが手を離したことに少し残念な気持ちになる。
だが、そんな煩悩は切り捨てて、先ほどの侑さんの発言に気になる所があった。
「それと……この前のライブ……と言うと……?」
「あれ、知らない? 先週、ダイバーシティのフェスティバル広場でやってたライブなんだけどねー?」
俺はそこで少し眉をしかめる。
それは俺とこの人は同じ時間を共有していたと確証付けるものだったからだ。
「優木せつ菜さんのお披露目ライブ……ですよね?」
「あぁー……そう……なのかな? ごめんね? 私、途中から参加したからライブの趣旨をあんまり知らなくて……あはは……」
侑さんはそう言い後頭部に手を当てるが俺の発言に気になった箇所があったのか、それをやめて俺にまた一歩近づく。
「って輝弥君知ってるの!?」
「知ってるも何も僕もそのライブに参加してましたから」
「えぇー!! そうだったの!? …………はっ! そういえば確かにニジガクの制服を着た男子生徒を見たような……?」
侑さんはこれまた大きなリアクションで驚くがすぐさま先日のライブを思い出すように手を顎に当てて思慮していく。
「と言っても僕も侑さんの事はあまり覚えていないですから、それはお互い様ですよ」
「そっかー……」
侑さんはまだ腑に落ちていないようで不完全燃焼のままだったが、考えても仕方ないと思ったのか話題を元に戻す。
「輝弥君はどうしてライブを見に行ってたの?」
「僕は大した動機じゃないんです。スクールアイドルの事はあんまり詳しいわけじゃなかったんですけど、ある人に近々ライブが開催されるから一度行ってみては? と提案されたんです」
「そうなんだね。実は私もスクールアイドルの事はあんまり知らないんだ~。あはは、私たちってなんだか似てるね」
侑さんの言葉に俺は凄く共感を得る。
お互いスクールアイドルを詳しく知らず、動機は違うけれども同じライブに偶然参加していた。
こんな奇跡は早々巡りあう事は無いとおもう。
「ふふっ、そうですね。という事は侑さんもスクールアイドル同好会に入ろうと思ってるんですか?」
「うん。友達とライブを一緒に見て、お互いにときめいちゃってね……。私はアイドルとしてじゃなくて、みんなを支える立場で参加したいなって思ってたの」
「侑さんもなんですね。僕も同好会に入るつもりなんです。と言っても侑さんと同じようにアイドルではなくマネージャーとして活動していきたいなって思ってますが」
「輝弥君もそうなんだ! でも輝弥君っていい顔立ちだからスクールアイドルに向いてると思うけどなぁ」
「ぼ、僕なんかがステージに出ても誰も喜びませんよ……。それを言うなら侑さんも素敵な方ですし……」
「な、何を言ってるのさ、君はー? 私なんかじゃ人の応援なんて出来ないから私こそ誰も喜ばないよ……」
お互いが褒めて謙遜してと繰り返していたが、突然空気がだんまりする。
だが俺はその空気に耐えられず思わず笑いがこみ上げてくる。
それは侑さんも同じようだ。
「ぷっ、あはははは。なんだか私たちって結構似た者同士だね」
「ははっ、本当にそうですね。なんだか近い存在に感じます」
初対面でここまでウマが合う人は全国で見ても雀の涙ではないだろうか。
「なら一緒にスクールアイドル同好会を駆け抜ける仲間としてこれからよろしくね」
侑さんはそう言うと手を差し出してきた。
「……はい、こちらこそよろしくお願いします」
俺は差し出された手を握り返す。
自分よりも小さいながらも握る力は強いその手からはこれから走っていく道を駆け抜ける自信に満ち溢れているようだった。
すると、ポケットに入れていた自分のケータイが振動し始めた。
「ん? なんだろう、すみません」
侑さんに一言断りを入れケータイを覗くと慎から電話通知が出ていた。
「あっ!! しまった、昼ごはんの事忘れてた!! すみません、友人とお昼を取るので僕は先に失礼します!」
「あぁ、いいよ。呼び止めちゃってごめんね? 私の事は気にしないで行ってきなよ」
そう言うと俺は鞄を持ち、侑さんに頭を下げて音楽室を去っていった。
【??? 視点】
今日の昼は校内の見回りをやって、終わったら昼休憩を取るつもりだった。
昨日、あの出来事がフラッシュバックしてからすぐに寝つけたはいいものの朝の目覚めは良くなかったので午前中は少し瞼が重かった。
午後の授業を真面目に聞くために気分転換がてら見回りと称して散歩をしていた。
今日は教室棟を見回っているがふと聞き覚えのある音楽が聞こえてきた。
「ん? この曲は……?」
今となってはあまり聞きたくない私にとっての大切な曲のメロディが流れてきた。
だが、メロディと言ってもそれは一個一個音を叩いてる幼稚園児の音楽教室で聞こえてくるような拙いものだ。
いつもピアノの音が聞こえてくるとすればとある少年を頭に浮かべるが、この旋律を聞く限りだとどうやら彼ではない。
私は音楽室の前に着いたので中を覗くと、過去に数回顔を合わせている黒髪をツインテールにした女の子がピアノの椅子に座っていた。
【侑視点】
音楽室から聞こえてきた素敵なメロディで私は前に感じたトキメキが胸の中で再燃していた。
ここであった子は輝弥君と言って若々しい一年生だけどやっていたことは一年生のレベルではないと思う。
CHASEをピアノであんなに完璧に弾けるって早々いないのではないだろうか。
ましてや話を聞けばスクールアイドルやせつ菜ちゃんの事も全く知らなかったという点も驚愕の事実だ。
私はただ歩夢の事を応援したくてスクールアイドル同好会に入ろうとしていたけど、彼の存在を見ると自分の存在価値が薄らいでしまうのではないかと少し悪寒が走ってしまう。
彼の才能に比べて私は特筆すべきものが何もない寂しい女だ。
こんな私でも役に立つことはないのだろうか。
そう思考したとき、ふとピアノが目に入った。
私が彼と同じ土俵に立てるとは思っていない。
むしろそう考えることは烏滸がましく、輝弥君に対して失礼だ。
だけど、私も歩夢の為に、かすみちゃんの為に、みんなの為に私の出来ることをやってみたい。
そう思った瞬間、私の腹は決まった。
思い至ったが吉日、何事もやってみなければ分からないんだ。
ピアノの椅子へと腰を掛け一つ一つの鍵盤を叩いてみる。
何の変哲もない無機質な音が教室内に響く。
これを世間のプロは両手を駆使して一つの音楽を創っているのだ。
こうしてみると改めてピアノが出来る人って尊敬してしまう。
私は自分を変えるきっかけとなった曲の音を一音一音ピアノから聞こえてくる音を頼りに鍵盤を指で叩いていく。
最初は何の曲を弾いているのか自分でも分からないものだったが、少しずつ使う音が分かってきたら少し楽しくなってきた。
今までスクールアイドルとは、音楽とは縁の遠かった私が少し近づけた気がする。
そして、何回も練習を重ねる内にサビのメロディを拙いながらも弾くことが出来た。
まだ両人差し指で弾くことしかできないけれども、私の好きな曲を弾くことが出来た事実は初心者である私の心を奮い立たせるには十分だった。
彼がいなくなってから笑うという感情を捨てていたが、せつ菜ちゃんが体を張って刻んでくれた胸のトキメキのおかげで笑顔を取り戻すことが出来た。
「……どうしてその曲を……?」
一人、ピアノに向き合いながら笑顔になっていると聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
「……ん? って、うわぁぁ!! 生徒会長ー!?」
音楽室の前には生徒会長である中川さんが立っており私の方を凝視していた。
少し顔が強張っているように見えるのは気のせいだろうか。
「何をしているんですか、高咲侑さん。ここを使用するには使用許可書が必要です。生徒会に通してるんですか?」
「えぇっと……その……」
生徒会長は音楽室に入ってくるなり私にお叱りを授けるのだった。
そもそも音楽室を使うのに申請書がいるなんて聞いたことなかったから、音楽の事で一杯だった頭の中が一瞬で真っ白にぬりかえられてしまった。
どう弁解しようか考えているとふと黒板に貼ってある紙が目に留まった。
生徒会長も私の目線を追うように黒板に目を向ける。
「何を余所見をしているんですか? ……って、これは……」
生徒会長は黒板へ近づき貼付してある紙をはがす。
その紙には"音楽室使用許可書"と書いてあった。
そこの使用者欄には見覚えのある名前が書いてあった。
「……巴……輝弥……」
どうやら知り合いからの呼び出しに焦ってしまったが故に許可書の存在を忘れてしまっていたようだ。
「……彼も来ていたんですね……」
「えっ?」
生徒会長が何かボヤいていたが不意であったが為に聞き取ることが出来なかった。
「……見たところ巴さんの姿はありませんが彼はどこに?」
「あっ、友達に呼び出されてたよ。一緒に昼食を取るって言ってたのに忘れてたー! って言って、鞄を持ってそのまま行っちゃった」
「なら、彼が戻ってくることはなさそうですね」
生徒会長は輝弥君の事に呆れつつも笑っていた。
まるで無邪気にはしゃぐ弟を見守るお姉さんのようだった。
「輝弥君の事を知ってるの?」
「へ? え、えぇ……まぁ……。彼はよくここでピアノを弾くために使用許可書を貰いに来ますから、それで少し」
生徒会長は一瞬鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしたが、すぐにいつも通りに戻った。
「へぇー、輝弥君はもうこのルールも知ってるんだね」
「はい、彼も貴女と同じように最初は許可書無しに無断で使用していましたからね」
「あはは、そうなんだね」
ここでも私と輝弥君の奇妙な偶然が重なった。
ここまで運が連なることはあるのだろうか。
「そういえば、生徒会長はどうしてここに?」
「校内の見回りです。昼休憩の日課として不審なことがないか監視していたんです。そして近くを通った時にピアノの音が聞こえたので覗いてみれば貴女でしたから驚きましたよ」
「あっはは……私も輝弥君のピアノを聞いてたらちょっと興味が湧いちゃって……」
私は生徒会長からの苦言に思わず頭を掻いてしまう。
にしても、こんな時間まで見回りをするなんて本当に生徒会は毎日忙しいんだなと実感する。
だが、先ほど私の事を見て呟いた言葉が私には引っかかっていた。
「あっ、そういえば、さっきどうしてその曲を……って言ってたけど……もしかして生徒会長って……。
優木せつ菜ちゃんのファンですか!?」
私は生徒会長がせつ菜ちゃんの曲を知っていると思い、容赦なく生徒会長の手を握る。
その目の中のハートが脈動しており純真な眼差しで生徒会長を見つめる。
「えぇ!? いやぁ……あのぉ……」
「もうそうならそうだと早く言ってくださいよ! こうしてせつ菜ちゃんの事を知ってる人と会えてうれしいんですから~! せつ菜ちゃんの事、どこで知ったんですか? CHASEっていい曲ですよね! 生徒会長は他にもせつ菜ちゃんが歌ってる曲を知ってるんですか? もし知ってるなら教えてほしいです!!」
「あ、あの! ……ち、近いです……」
気が付けば生徒会長と鼻があと数センチで当たるという所まで顔が近づいていた。
そして、さっきの輝弥君の時と同じようにマシンガントークが炸裂してしまい、生徒会長は少し顔を赤くしていた。
「あっ……あっはは……ごめんなさい……」
私はこの癖が抜けることは当分ないんだと痛感し、思わず涙が出てしまうのだった。
読んで頂きありがとうございました!
侑ちゃんと菜々の邂逅でした!
ピアノ素人からすれば好きな曲を拙いながらも弾けることって凄く嬉しくなりますよね。
自分もピアノに関しては楽譜すらも読めない無知ですが、好きな曲のメロディを弾いてみたいと思い、アプリで軽く練習してたら意外と弾けることがわかって嬉しくなったの覚えています。
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次回もよろしくお願いします!