虹の袂   作:M-SYA

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星屑の結集

【輝弥視点】

 

「あっ、やっときたじゃねえか。ったくどこで油を売ってたんだよ?」

 

 音楽室で侑さんと長らく雑談をしていた関係で昼ご飯をすっぽかしていたため、慎に呼び出しを食らってしまった。

 

 案の定、慎は少しご立腹だった。

 

「ごめんごめん。ちょっと用事を済ませてただけだから」

 

「にしても、昼休憩はあと30分だぞ? 何が”ちょっと用事”をだよ」

 

「まあまあ、慎くん。あまり言わないであげて? まだこうして時間は残ってるんだしさ」

 

 慎がぷんぷん怒っていると一緒にいるしずくさんがそれを宥める。

 

 なんだか手懐け方が手馴れているようにも感じるのは気のせいだろうか。

 

 今日はこの席にいたのはしずくさんと慎の二人だけだった。

 

「しずくさん、ごめんね? 折角のお誘いだったのに……」

 

「うぅん。気にしなくていいよ。私も急に誘った身だし先約があったならば仕方ないよ」

 

「ふ~ん? さっき、輝弥が遅れて来ることを知って明らかに落ち込んでたやつの発言とは思えない程達観してるな~?」

 

 しずくさんは遅れたことに対して咎める事なく笑顔で微笑みかけてくれるが、慎は目を細めながらしずくさんに悪態をついている。

 

「ち、ちょっと慎くん! 本人の前では言わないでよ!!」

 

 にやけながら煽る慎に対ししずくさんは顔を真っ赤にする。

 

「あっはは……そこまで楽しみにしてくれてたのにごめんね……?」

 

 俺は2人の反応に対してどう返せばいいか困惑しつつも当たり障りのない回答をする。

 

「……はぁっ……そういう事を言ってるんじゃないけどな~……」

 

 慎は俺の反応を見て途轍もなく大きいため息を吐く。

 

 慎に冷たい態度を取られるが、俺としてはしずくさんの反応を見て早とちりする方が余程嫌なのでこういった態度を取っているのだ。

 

 まあ、慎も俺の反応を楽しみにしているが為にそうぼやいているのだろうが。

 

「そういえば、しずくさんからお誘いとは珍しいね? 何かあった?」

 

 不貞腐れる慎は放っておいて、しずくさんに誘いの意図を問う。

 

 普通の男子であればこんな美少女にご飯を一緒に食べようなんて誘われたら舞い上がること間違いなしだ。

 

 しずくさんが俺にそういった感情があるとは露にも思ってないが、やはり気になってしまうのが男の性というものだ。

 

「深い理由があったわけじゃないの。一緒の部活をやることになったけどまだ二人のことをあんまり知らなかったから親睦を深める意味を込めて、ね」

 

 確かにひょんなことから入学初日に知り合ったしずくさんと俺たちだがこうして一緒に食事を取ることもなかったしどういった日常を過ごしてるのかも知らない。

 

「そうだね。まだしずくさんの事も演劇以外で知ってるかと言われたら全くもって皆無だし嬉しいよ」

 

 しずくさんともこれからは部活の仲間として同じ時間を共有するのだ。

 

 個人的にウマが合うんじゃないかと思ってる彼女の事をもっと知りたいし、困った時に頼ってもらえる存在にもなりたい。

 

 そんな事を密かに思いながら、心が昂っている自分がいた。

 

「でも、慎は一緒の部活に入るとは言ってないからちょっとだけ違うけどね」

 

「えっ? あ、あぁ……そうだな」

 

 しずくさんが部活仲間として慎も入れていたが彼はスクールアイドル同好会に入るとは言ってないので訂正を入れておく。

 

 とは言うものの当の本人は虚をつかれたのか突然我に返って返答する。

 

「そういえば、慎はどの部活に入るかは決めたの?」

 

「うーん、ある程度は絞っているけどまだ本決まりはしてないなぁ……」

 

 スポーツ万能タイプである慎のことだ。

 

 元々やってた所に入るとかありそうだけど、ここ最近は俺の都合に付き合わせている。

 

 そのため部活を見る時間もあまり無いから部活選びに関しては中々難儀させている事だと思う。

 

「慎くんは元々何か好きなこととかあったの?」

 

「うーん、とりわけこれが好きってやつは無いけど……ざっくり言えば体を動かすやつは好きだな。嫌なことがあった時はそれで気分転換になったしな」

 

「そういえば、慎はスクールアイドルの事とか知ってたじゃん。あれは妹さんの影響なの?」

 

「へぇー、慎くんってスクールアイドルの事も知ってるの? しかも妹さんもいたんだね!」

 

「ま、まぁ……そうだな……。スクールアイドルの事は妹から聞いたしそれでちょっと勉強した……」

 

 慎はまたも触れてほしくないかのように態度が一変する。

 

 それでも俺としずくさんの好奇心はそれを気にも留めずに増していく。

 

「そうなんだね! 妹さんは今いくつになるの?」

 

「確か中二になるって言ってたよな? 妹さんもこの学校に来るつもりなのか?」

 

 俺としずくさんの質問責めに慎は顔を俯かせ顔を震わせていた。

 

「…………てくれ……」

 

「えっ?」

 

「その話題はやめてくれ……。俺は……この話は好きじゃないんだ」

 

 慎は拳を震わせていた。

 

 これ以上その話題を続けようものなら手を出すと言わんばかりに表情も暗く重いものになっていた。

 

「あっ……ごめん。妹さんのことを話題に出すの駄目だったか」

 

「私も慎くんの事情を考えずに……ごめんなさい」

 

「いや……二人が謝る必要はないさ……。俺がそう言わなかったのが原因なんだし。むしろこっちがごめん。折角一緒にいるのに空気を悪くしちまって……」

 

「慎が触れたくない話題について続けても慎が楽しくないだろうからむしろ言ってくれてありがとう。今までも俺がこうやって妹さんの話題を出してた時も無理して喋らせちゃってたんだしだいぶ酷なことをさせてたね」

 

 自分がしたくない話を他人がやっていたら胸糞悪くなってしまうのは間違いないのに慎は平静を装って対応してくれていた。

 

 無理させてしまっていたようで感謝と共に申し訳なさが込み上げてくる。

 

「輝弥、そう言うのはやめてくれよ……。こんな空気にしたくて言ったわけじゃないんだし気を遣ってほしいわけでもない。ただ……普段通りの穏やかで楽しい時間を過ごしたいだけなんだ」

 

「慎……そうだな。俺もこれからは気をつけるよ」

 

 人には触れられたくない過去がある。

 

 それに土足で踏み込む愚か者にはなりたくない。

 

 俺は慎がいつかその心の闇を打ち明けてくれる日を信じて待つことにする。

 

 お互いの事を親友と呼ぶにはまだまだ遠い話になりそうだ。

 

 慎に対してまた一つ理解できた所でケータイのバイブレーションが鳴り響く。

 

「ん? 私のケータイ? ちょっとごめんね」

 

 それはしずくさんのスマホから発せられていた。

 

 しずくさんは俺たちに一言断りを入れて通知元を確認するとすぐ俺たちに向き直る。

 

「輝弥くん、今日の放課後に生徒会室へ入部申請を出す前にちょっとだけ時間いいかな?」

 

「うん、いいけど……何かあった?」

 

「作戦会議の招集が掛かったの」

 

 しずくさんは微笑みながら答える。

 

 真意が見えないその笑顔を前にして、俺は吉報である事を願うのみだった。

 

 

 

 しずくさんからの呼び出しに一抹の不安を覚えつつ、放課後を迎える。

 

「輝弥、しずくからの呼び出しがあったけど行くんだろ?」

 

「正直嫌な予感しかしないけど呼び出しが掛かったのならば行くしかないでしょ」

 

 軽くため息を吐いて苦笑いを見せると荷物をまとめて出発しようとする。

 

「そういえば、慎はどうする? 今までは俺の都合に付き合わせちゃってたけど他の部活とか見に行く?」

 

 俺の問いに慎は少し考える素振りを見せる。

 

「いや、特に今は入りたい部活とか無いから邪魔じゃなければ付いて行ってもいいか?」

 

「それはいいけど……わざわざ俺に付き合わなくても良いんだよ?」

 

 慎は自分のことを案じる様子がないので逆にこっちが心配になってしまう。

 

「俺が勝手に付いていきたいだけなんだ。輝弥が責任を感じる必要はねえよ」

 

 慎の事を分かったつもりでいたがまだ知らない事は多いようだ。

 

「……分かった。なら一緒に行こうか」

 

 今は考えても仕方ない。

 

 いずれその真意を確認する事になると思うのでその時まではお預けにしておこう。

 

 

 

 しずくさんから指示された場所へ行くとそこにはしずくさんを含め七人は集まっていた。

 

 見知った人とそうじゃない人で半々くらいかと思って身構えていたが遠目から見た感じ知らない人は一人しかいなかった。

 

「あっ、輝弥くん! こっちだよー!」

 

「おぉ〜輝弥くんお疲れ様〜」

 

「あれ、誰かと思えば巴くんじゃないですか!! どうしてここにいるんですか!?」

 

 そこにはしずくさん、彼方さん、エマさん、果林さん、中須さん、侑さん、そして知らない女生徒だった。

 

 その人は赤髪を頭の右側にお団子で結えており、優しげな雰囲気がその人の周囲から醸し出されていた。

 

 胸元のリボンはピンク色なので二年生のようだ。

 

 しずくさんが俺を見つけて手を振ると彼方さんはいつも通りマイペースに挨拶をしてくる。

 

 そして、集まったメンバーの中で俺の存在に一番驚いていたのは中須さんだった。

 

 彼女とこうして顔を合わせるのは入学式翌日にスクールアイドル同好会へ勧誘された時以来だ。

 

 まだ二、三週間しか経っていないがそれでもかなりの時間が過ぎていたように感じる。

 

「彼方さん、お疲れ様です。それに中須さんもお久しぶりですね」

 

「あれ、輝弥君ってかすみちゃんの事知ってるんだ?」

 

 侑さんは俺と中須さんの関係性が分からず疑問をぶつけてくる。

 

「はい、この学園に来て早々に勧誘されていたんです」

 

「そうですよ侑先輩! この人、このかすみんが直々にお誘いしたのにそれを振ったんですよ!! それがどうしてしず子からの勧誘に乗ってるんですかー?」

 

 中須さんは侑さんに上目遣いで訴えるように俺を悪者にしようとしてる。

 

 俺はそれよりも侑さんの隣にいる赤髪の方が中須さんの行動に何とも言えない表情をしている。

 

 この人が侑さんの言ってたご友人なのだろうか。

 

「中須さん、人聞きの悪いことを言わないで下さい。確かにあの時はスクールアイドルに興味を持ってなかったし自分は向いていないなんて言いましたけど、同好会のライブを見たりやりたい事について見つめ直した結果、同好会に入りたいと思うようになったんです」

 

「そうだよかすみさん。私が誑かしたわけじゃないんだから変な誤解を与えないでよ」

 

 中須さんにあらぬ誤解を持たれたままだとこれからの活動に支障をきたす未来しか見えないのでしっかりと弁解していく。

 

 しずくさんも俺の言葉に被せて中須さんに軽く怒っている。

 

 本人とすればそんな事をやった覚えは何一つないのだから理不尽極まりないだろう。

 

「そういえば、輝弥君と一緒にいる君は? 初めて見る顔だけど……?」

 

 侑さんは俺と一緒に来た慎を見て首を傾げる。

 

 確かにここのメンツでは侑さんとご友人は慎を知らないから唐突に彼が姿を見せて状況が分からなくなってしまうのも無理はない。

 

「どうも初めまして。音楽科一年の鈴川 慎と言います。輝弥のクラスメイトです」

 

「慎は僕の友人でこれまで色々と相談に乗ってくれたんです。彼は同好会に入るわけではないですが、本人が付いていきたいという事だったので勝手ではありますが連れてきました」

 

「そうなんだね。私は高咲 侑! これも何かの縁だしよろしくね慎君!」

 

 侑さんはそう言いながら手を差し出す。

 

 この人は持ち前の明るさで慎との距離を詰めていくからその人懐っこさが羨ましく感じる。

 

「は、はい。こちらこそよろしくお願いします……!」

 

「あらっ? 慎君、もしかして緊張してるのかしら?」

 

「侑ちゃん、性別問わずに平等に接してくれるから意識しちゃう子も多いんです……」

 

 慎も人懐っこい性格なのですぐ打ち解けるかと思ったがどうやらそうもいかないらしい。

 

 侑さんは天然たらしな所があるから流石の慎でもこれには弱いようだ。

 

「なるほどね、慎はまっすぐ系お姉さんに弱いと……」

 

「はぁ!? お前も姉気質系に弱いだろうが!!」

 

「ちょ、そこで俺に飛び火させるなよ!?」

 

 対岸の火事として高みの見物をしていたが、俺の発言を聞き逃さなかった慎が俺も犠牲にしようと爆弾を投げてきた。

 

 この状況で俺も巻き添えにするとはなんて質の悪いことをするのだろうか。

 

「あはは! 二人とも面白いね!」

 

「やっぱり輝弥君達がいると空気が和むね♪」

 

「もう……二人とも……」

 

 侑さんはこの光景を見て楽しくなったのか笑っている。

 

 エマさんは弟達の喧嘩を見守る姉のように微笑んでいる。

 

 その横でしずくさんは突然始まったいがみ合いを見て頭を抱えていた。

 

 この光景はさながら部活終わりのありふれた日常のように眩しく輝いていた。

 




今回も読んで頂きありがとうございました!

現在テレビアニメの再放送がやっておりますが気が付けば追い抜かれていましたね……

ですが、自分のペースで物語は紡いでいくので気長にお付き合い下さい!
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