読者様からの激励の言葉で執筆に意欲が増している今日この頃です!
それでは今回もよろしくお願いいたします!
「はぁ……疲れた……」
唐突に慎と始まったいがみ合いがひとまず収束し、俺は疲労感に襲われていた。
何のためにここに来ていたかを忘れてしまうほどに意識を持ってかれていた。
「もう……輝弥くん。今日はこのために呼んだわけじゃないんだからね?」
「うぅ……面目ないです……」
「ふふっ。でもなんだか賑やかになってきたね」
しずくさんからお咎めを貰い落ち込んでいると赤髪の方が微笑みながら声を上げる。
俺たちの様子を見て小馬鹿にしているようには見えなかった。
「あっ、そういえば歩夢は輝弥君と会うのは初めてだよね?」
侑さんは歩夢と呼んだ方を見て声を掛ける。
確かに俺含め慎もこの人と会うのはこれが初めてだ。
「そうですね。改めて、初めまして。僕は巴 輝弥と言います。音楽科の一年生でスクールアイドル同好会への入部の前に作戦会議を、という事でここに顔を出させていただきました」
「俺もしておいた方がいいよな? 初めまして、鈴川 慎と言います。先ほど高咲さんにも言いましたが、スクールアイドル同好会へ入るわけではないですが、輝弥の付き添いでここに来させていただきました」
「丁寧にありがとう。私は普通科二年の上原 歩夢です。私もまだまだスクールアイドルについては素人だけど、幼馴染の侑ちゃんと一緒に頑張りたいなと思って同好会に入部しようと思っています。これからよろしくね、輝弥くん、慎くん」
俺と慎が丁重に挨拶をすると上原さんも同じように自己紹介をしてくれた。
この挨拶の時点で真面目な印象が俺の中で根付いていく。
また、エマさんやしずくさんと同じようなお淑やかさも兼ね備えているので自然と肩に力が入ってしまう。
「侑さんとは幼馴染なんですね。という事は侑さんが昨日言っていた友人というのは上原さんの事ですか?」
「うん、そうだよ。この前のダイバーシティでやってたライブを一緒に見て、スクールアイドル同好会に入りたいねって話してたんだ」
「そんな侑先輩達を捕まえたのがこのかすみんってわけです!」
侑さんと上原さんの入部きっかけについて聞いていたら中須さんが間に入ってきて誇らしげに胸を張っていた。
「中須さんは中須さんの方でメンバーを集めていたんですね。という事は今日こうして集まったのも同好会の再立ち上げに向けた顔合わせってことですか?」
「それもあるんだけど、まずは今はっきりしている情報について共有するべきじゃないかって思って」
俺の質問に対してしずくさんが答えてくれる。
だが、それを横で聞いていた慎は集合目的について意図を掴めていないようだった。
「今はっきりしてる情報?」
「それってどういう事なの、しず子? 同好会立ち上げに必要な人数は揃ってるからそれでいいと思ってたけど……?」
「うん、スクールアイドル同好会をもう一度始動させることは私たちにとって非常に大きなこと」
「だけど、最初に立ち上げた時とは一つだけ状況が違う事があるでしょ?」
中須さんが慎も抱いていたであろう疑問を口にする。
しずくさんとエマさんが一つ一つ情報を確認するように解説してくれる。
エマさんが言っていた最初と今で違う状況とすれば。
俺はここに居るメンバーを見渡して、可能性が高いであろう情報を掲示する。
「優木せつ菜さんの存在……」
「そう、彼方ちゃん達はここでスクールアイドルをやろうとしているせつ菜ちゃんを見て、入部しようと決めてたの。あの時、スクールアイドル同好会を立ち上げようと奔走していたのがせつ菜ちゃんだったから」
彼方さんは俺の発言に小さく頷きながら同好会立ち上げの動機を話してくれた。
「そうだったんですね……。でも……せつ菜ちゃんは……スクールアイドルを……」
「……ねえ、今ここにいない人物の話をする意味はあるのかしら?」
侑さんが彼方さんの発言を聞きせつ菜さんの事に頭を悩ませているが、それを果林さんが遮断してきた。
「貴女達はスクールアイドル同好会を立ち上げたくて色々と動いていたのでしょう? そこのかすみちゃんの言う通り、さっさと同好会を立ち上げてこれからの活動について議論する時間を設けた方がいいんじゃないのかしら?」
果林さんのいう事ももっともだ。
ここに居ないせつ菜さんの事を話しても、大して成果は得られず時間だけが過ぎていく一方だ。
そんな事よりもスクールアイドル活動に注力した方が今後の為にもなるし、それから彼女の事を気に掛ければいいのではないか、果林さんはそう言っているのだ。
「ふぅ~ん、部外者のお姉さんにしては良いことを言いますね~」
中須さんは果林さんの発言を聞いて、今までのこちら側の活動に対して声掛けをしてくれなかった皮肉も込めて賛同の声を上げる。
だが、その皮肉を聞いて果林さんは威圧感を出すように目を細めて中須さんを見つめる。
「へぇ~、随分と面白いことを言うわね~?」
「ひぇ〜冗談ですぅー! これ差し上げるのでどうか勘弁してくださぁーい……」
中須さんは果林さんの圧力に気圧されてしまい思わずしずくさんの後ろに隠れる。
そして手で持ってた鞄の中からコッペパンを取り出し詫びの品として献上する。
(……何故……コッペパン……?)
俺はその状況が理解できず困惑した。
「あらっ、美味しそうね。有り難くいただくわ」
だがそんな俺を置いてけぼりにして果林さんはそのコッペパンを受け取る。
「確かにかすみさんからすれば果林さんも一緒に行動してる理由は分からないだろうけど、一応かすみさんにも連絡したんだよ? でも電話に出なかったから……」
しずくさんが果林さんも同行してる理由について中須さんに解説を入れる。
「えっ? 本当? …………あ〜全然気付かなかったー!」
中須さんはしずくさんの影に隠れながらスマホを手に取り通知を確認する。
十件程の電話通知が入っていたようだ。
「ははっ、そういえば前にもこんな事があったよな?」
「確かにね。中須さんと初めて会った時もしずくさんから同好会の事で呼び出されてなかったっけ?」
慎と俺はこの状況にデジャヴを感じ、思わず笑いが込み上げてきた。
だがそれを見て中須さんはぷんぷんと怒りを示した。
「何なのさ! 二人して! かぐ男と慎のすけにとやかく言われる筋合いはないよぉーだ!」
「かぐ男……?」
「慎のすけってなんだよ!」
中須さんから唐突にあだ名をつけられ俺と慎は困惑が隠せなかった。
「二人のあだ名だよ! 輝弥だからかぐ男で慎だから慎のすけ! シンプルでいいと思うけど?」
「輝弥はともかく何で俺は慎のすけなんだよ! あだ名って言いながら逆に長くなってるじゃないか!」
俺はあだ名を付けられたことがなかったのでたまには有りかと思ったが慎は納得がいってないようだ。
確かに呼び名が長くなってるし、知らない人からすれば彼の本名が慎のすけなのではないかと錯覚されてしまうのは彼にとって迷惑極まりない。
「長くなっても語呂が良ければかすみんとしては有りと思ったからそうしてるんですよーだ!」
「じゃあお前のあだ名も考えてやるよ! な
「ぎゃぁぁ!! そ、そのあだ名で呼ぶな!! 慎のすけのくせに──!!」
中須さんの態度に業を煮やしたのか慎は中須さんのあだ名を提供する。
だがそれも中須さんの逆鱗に触れたみたいで先程よりも怒りが激しくなる。
「慎、ストップ」
「かすみさんもどうどう」
今は悠長にしてられないので止めに入る。
しずくさんも中須さんを止めてくれる。
だが、それを尻目に侑さんが何やら笑いを堪えているようだった。
「侑さん? 何か可笑しかったですか?」
「へぁっ? あぁ、ごめんね……。二人を馬鹿にしてたわけじゃないんだけど、突然思い出し笑いしたらツボに入っちゃって……」
確かに真面目な話をしている時に限ってその前にあった出来事が突然フラッシュバックされる現象は分からんでもない。
俺は侑さんの証言に共感を得ていたが隣で歩夢さんは頬を膨らませ怒っていた。
さっきまでの温和な雰囲気が残ったままなので彼女の怒りはそこまで怖さを感じなく、逆に愛くるしさが滲み出ていた。
「もう侑ちゃん。こういう時くらいはしっかりしなよ」
「上原さん、そこまでにしましょう。慎と中須さんもそこで止めて。話が進まないから」
「というかかぐ男はいつまでかすみんと歩夢先輩を他人扱いしてるのさ?」
「えっ?」
これからの活動に関して話を進めようと上原さんを宥めるが今度は中須さんが俺に噛みついてきた。
「かすみん達はこれからスクールアイドル同好会で一緒に頑張る仲間でしょ? それなのにいつまで他人行儀にしてるつもりなの? 蚊帳の外である慎のすけなんかはもう馴染んでるのに」
「確かに……。せっかく一緒にやるんだもん。もし輝弥くんさえ良ければ侑ちゃん達みたいに呼んでほしいな……?」
中須さんが腕を組みながら指摘とジト目を俺に飛ばし、上原さんはそれとは対照的に怖がらせないように微笑みながら要望してくる。
上原さんが顔を横に傾けながら言ってくるのでそれが俺にとっては一番効果がてきめんだ。
「かすかすと意見が被るとは思わなかっ「かすみんだよ!!」……たけど、それには同意だ。お前も少しは前に踏み出してみろよ。一歩離れた距離からじゃなくてもっと近くでみんなの事を見ないとメンバーの為の曲なんて書けないしマネージャーも務まらないんじゃないか?」
慎が中須さんをからかいながらも俺にアドバイスをする。
俺は今まで他人から馴れ馴れしく見られたくないし、からかいの対象として見られたくないが為に人から距離を離していた。
だが、この人達はそんな俺の態度を逆に打ち解けようとしてくれていないんじゃないかと心配してくれていたのだ。
どこまでも自己保身に走っていた自分が少しだけ情けなく感じる。
「慎……」
大切な友人がこうして自信を与えてくれるのだ。
それを無下にしてしまってはここにいる俺はもはや俺ではなく陰を好むつまらない人間になってしまう。
そう考えた時、俺は自然と笑みがこぼれた。
「もう少し慎みたいに簡単に考えられればいいんだけどね……」
「あぁ?」
慎はバカにされてるように聞こえたようで少し口が悪くなるが俺は気にしない。
「分かりました。ちょっとずつにはなりますけど、お二人との距離も縮められるように頑張ります。だから……こんなぼ……俺ですが、よろしくお願いします。歩夢さん、かすみ」
俺は吹っ切れて歩夢さんとかすみをそれぞれ見つめ自分の真っ正直な気持ちを吐露する。
どんなに胸中では頑張ろうと張り切ってもそれをすぐに実行できるほど、俺は強い人間ではない。
それを断った上でまずは二人の呼び方を変えていく。
「ま、まあ慎のすけよりはマシだね。その……こちらこそ……よろしく」
「うん! 私も嬉しいよ! こちらこそよろしくね、輝弥くん!」
二人も俺の対応を見て片や少し照れながら、片や花が咲いたような満面の笑みを浮かべてくる。
「……輝弥君の焦らし問題が解決した所で次に進んでもいいかしら?」
果林さんは話題を変えるために口火を切る。
果林さんとしてはここまでのやり取りにうんざりしているかと思ったが、彼女の表情を見る限りそう感じている様子は見えなかった。
「そうですね。優木せつ菜さんの……ことですよね……」
「貴方達はどうしてそこまで優木せつ菜に拘るのかしら? 昨日までのやり取りを聞いてあの子が復帰するつもりは無いと分かったんじゃないの?」
果林さんはそう言いながら俺達を見回す。
せつ菜さんの状況を理解しているメンバーらはその発言に苦言を呈していたが、かすみ、歩夢さん、侑さんはせつ菜さんの現状を知らないため状況が理解できずにいた。
「えぇっと……昨日までのやり取りって……どういうことですか? かすみん達のいない所で何があったんですか?」
「果林さん、先の事を話す前にせつ菜さんの事を三人にも話していいですか? 確かに前に進まなくちゃいけないのは事実ですが、同好会の仲間である彼女たちもそれを知る権利はあるはずです」
「はぁー……好きにしなさい」
俺の提案に果林さんは苦笑したのち軽くため息を吐く。
こうして、果林さんから承諾を得た所で俺たちは昨日までの活動内容とそこで知り得た情報について三人と情報共有するのだった。
読んで頂きありがとうございました!
輝弥君のように他人の目を気にするがあまり前に踏み出せない事は私もあるので輝弥君の勇気、私も見習っていきたいですね。
また、途中で侑ちゃんがツボに入っていた理由はこの話の中に隠されています!
彼女の笑いのツボが赤ちゃんであることを念頭に置いて、どこにそれがあったか探してみて下さい!
それでは次回もお楽しみに!