虹の袂   作:M-SYA

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お待たせしました!

今回は優木せつ菜説得回となります!

今までの中で一番のボリュームになると思いますので是非お楽しみください!

それではどうぞ!


大好きを叫ぶ

【菜々視点】

 

「……分かりました。その件は私の方で処理をしておきます」

 

 嫌な記憶を蘇らせた日の放課後、生徒会役員全員が揃った定例会を行っていた。

 

 最近の学校内での困り事といえば校内で猫が発見されている報告を数多く聞く。

 

 それは私も把握しており以前に捕まえようとしたのだが、実はとある生徒が密かに飼っている事が発覚した。

 

 下手に誰かに手を出させるよりかは私が手を打った方が確実なので、担当を自分に割り振らせ次の議題へ移そうとする。

 

「他に議題はありますか?」

 

 私からの問いに誰からも声が上がらないようなので定例会を終えようとした時、沈黙を破るように校内放送のアナウンスが流れてきた。

 

 いつもなら自分に関係ないと判断した瞬間に放送には耳を貸さないが今日はどうやら違うようだ。

 

「普通科二年、中川菜々さん。優木せつ菜さん。教室棟の屋上へお越し下さい。繰り返します。普通科二年、…………」

 

 私はその放送を聞いて、眉を細めた。

 

「生徒会長? お呼びですよ」

 

 召集が掛けられた放送に私が反応を示していないことを心配して、副会長が声を掛けてくれる。

 

 どうやら私の先ほどの様子は見られていないようだ。

 

「……分かっています。それでは、今日の定例会を終了します。各自忘れ物等には気を付けてお帰り下さい。お疲れ様でした」

 

 副会長からの催促に返事をしつつ定例会の終了を告げる。

 

 そして、胸の中に嫌な予感を秘めながらも、指定された場所へ向かうために荷物を整理する。

 

「……それではお先に失礼しますね」

 

 私の言葉に聞き、その場にいたメンバーらは一礼してくる。

 

 それを見て満足した私は生徒会室から去った。

 

 

 その道中、私は先ほどの校内放送の意図について考えていた。

 

 先ほどの放送を普通の人が聞いても何も思う所はないだろう。

 

 部活をやっていた人は放送の内容をひとしきり聞いてからいつも通りの活動を行い、勉強をしていた人物は放送に耳を傾けながらも知識を増やすことに余念を欠かさない。

 

 だが、私としてはこの召集には疑問しか浮かんでいなかった。

 

(何故、私と優木せつ菜を一緒に……?)

 

 私と優木せつ菜を同時に呼びつける。

 

 それは絶対に叶う事の無い望みだ。

 

 優木せつ菜は中川菜々から生まれたもう一人の私。

 

 自分の大好きを具現化するために生まれた偶像。

 

 この二人が同時に現れることなど、私の身体が二つに分かれでもしない限り叶わないのだ。

 

 当事者はそれを知った上で呼びつけているのだろうか。

 

 私は屋上へ向かう途中でいくつかの予想を考えた。

 

(私と優木せつ菜の正体を知ってる人物……巴さん達……? それか同好会関係なしに朝香さんが呼びつけた……?)

 

 一つは既に私達の正体を既に知っている人物の呼びつけ。

 

 これは同好会の所属していたエマさん達と巴さん、鈴川さん、そして同好会に所属していない朝香さんが該当するでしょう。

 

 そしてもう一つ、私の正体を知らない第三者が呼びつけた。

 

 これはシンプルに優木せつ菜のファンによるものである可能性が高いですが、この説はあまり考えにくいでしょう。

 

 単に優木せつ菜のファンであるならば私を呼びつける可能性はないですし、自分で言うのも可笑しいですが普段の生活で私と優木せつ菜を同一人物だと見破れる人はいないでしょう。

 

 性格が真逆であるし、中川菜々で居る時は優木せつ菜の片鱗を、優木せつ菜で居る時は中川菜々の片鱗を見せていない自信があるので可能性は低い。

 

(となると……やはり巴さんでしょうかね)

 

 二つの説を考えた時にやはり前者の方が可能性として高い。

 

 そして、私に対して一番不満を持っているであろう巴さんが鈴川さんと一緒かはたまた一人で私たちを呼びつけて想いをぶつけてくるという所でしょうか。

 

(何を言われようと私の決意が変わることはありませんが……)

 

 私の大好きは独りよがりで、同好会に居ても良いものにはならない。

 

 私がいるとラブライブには出る事なんて到底出来ない。

 

 彼と会っても自分の意志は変わらない事を改めて確認していると屋上の扉の前に着いた。

 

 私は深呼吸をした後に取っ手を手に取り、目の前の扉を開く。

 

 扉を開けた隙間から夕陽が差し込んでくる。

 

 それは私の優木せつ菜としての最後の輝きを彩ってくれているようだ。

 

「……あなたは……!」

 

 屋上に出た先にいたのは私が予想していたものは異なるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 優木せつ菜が屋上に来る少し前。

 

【輝弥視点】

 

「普通科二年、中川菜々さん。優木せつ菜さん。教室棟の屋上へお越し下さい。繰り返します。普通科二年、…………」

 

「歩夢、ちゃんと放送してくれてるね」

 

「そうですね……」

 

 歩夢さんによる校内放送が学校全体に流れている時、俺と侑さんは屋上のベンチで腰掛けていた。

 

 せつ菜さんを同好会へ連れ戻すと決めた後、せつ菜さんをどう呼び出そうか模索していた時、同好会メンバーが手を挙げてくれた。

 

 せつ菜さんの説得は俺達に委ねる事になるがそれ以外の準備は任せてほしいと立ち上がってくれたのだ。

 

 そうして、俺たちはみんなの意思を尊重して屋上でこうして待機している。

 

 侑さんによると校内放送は歩夢さんとかすみが主導で動いてくれたみたいだ。

 

 どうやら放送委員に伝手があるとのことだったので作戦は上手くいったようだ。

 

 せつ菜さんが来るまでの間、俺と侑さんの間に暫しの無言の時が流れたが俺は気になることがあったのでその沈黙を破る。

 

「侑さん、どうしてせつ菜さんと一緒に中川さんも呼ぶことにしたんですか?」

 

 そう、先ほどのアナウンスでは中川さんも一緒に呼んでいたのだ。

 

 せつ菜さんを説得するのみであるならばわざわざせつ菜さんと中川さんの二人ではなくせつ菜さんのみを呼べばいいはずなのだ。

 

「……輝弥君たちの話を聞いてもせつ菜さんと生徒会長は別の人物なんじゃないかって思ってる自分がいてね……。その確認も含めて二人を呼び出してって歩夢にお願いしたんだ」

 

 侑さんははにかみながら答える。

 

「確かに侑さんは直接本人と話したわけではないですもんね。状況の整理も含めて有りだと思います」

 

「へへっ、ありがと」

 

 侑さんの言い分も一概に否定できない自分がいたので、俺は侑さんが自分一人しか思ってないと思わせないように肯定する。

 

 侑さんは俺の意見を聞いて安心したのか笑顔を向けてくる。

 

 スクールアイドルにならないとは言っているが、この人の笑顔も見ていたら凄く力を貰えるような気がした。

 

 そんなことを考えながらも一抹の不安が俺の頭に過っていた。

 

「……僕たちの言葉は……上手く……せつ菜さんに伝わるでしょうかね……?」

 

「輝弥君……」

 

「僕は……誰かの世話を焼くことはあっても、言葉で説得するってことはやった事がないですし……僕なんかの言葉があの人に届くのか、少し自信が無くて……」

 

 俺は心に湧いた不安を吐露しつつ、その不安を抑え込むように両手を合わせる。

 

 人間にはそれぞれ得意不得意がある。

 

 誰とでも仲良くできる人懐っこい人や人と話すのが苦手な人見知りな人、千差万別だ。

 

 そんな中で俺は人の話を聞くことが多かった。

 

 それは与太話然りただのありふれた日常会話も同様だ。

 

 その中でも知人からの悩み相談も受けることがあった。

 

 人は話を聞いてくれそう、悩み相談しても良い答えが得られなさそうなど、各個人から漂う匂いを嗅ぎ取り自分と話が出来る人を選別する。

 

 そうした中で俺は聴く側の人間として扱われることが多く、その立場で元気づけることが多かった。

 

 しかし、今回は自分の口で相手を勇気づけるといういつもとは真逆の方法となるので上手くいくか確証がなかった。

 

 合わせた手が自然と震えてくる。

 

「……大丈夫だよ」

 

 そう言いながら侑さんが震える手に重ねる形で手を乗せてくれる。

 

 俺よりも小さな手だが温かみがあり気持ちが落ち着いてくる気がした。

 

「輝弥君があの時感じたトキメキと今想ってるざわめき、それを真っ向からせつ菜ちゃんにぶつければいいんだよ。こういう時って飾る必要のないまっすぐな言葉が一番響くはずだから」

 

 侑さんはそう言い切るとベンチから立ち上がりガラス張りの柵にもたれかかる。

 

「侑さん……」

 

 俺はただただ侑さんを見つめるのみだった。

 

「やっぱり輝弥君って真面目なんだね。私はあんまり深く気にする方じゃなくてどうにでもなるんじゃないかって考えるから輝弥君みたいに慎重に行動を出来ないんだよね」

 

 侑さんは柵にもたれながらも身体をこちらへ向ける。

 

 そして、身体を向き直し俺に手を差し伸べる。

 

「だから、自信を持てない輝弥君の背中を、微力ながらも私が押してあげる」

 

 侑さんのその言葉は慎が放ったそれとは違った。

 

 慎は前に立って手を引っ張ることで前へ進ませてくれるが、侑さんは横に立って背中を押して前へ進ませてくれる。

 

 やはりここで出逢った人たちは俺に大きな変革をもたらしてくれる予感がする。

 

「侑さん、ありがとうございます」

 

 俺はそれしか言葉が出なかった。

 

 いや、それだけで侑さんに気持ちは通じるという確信があった。

 

 そう言うと俺はベンチから立ち上がり侑さんの横に並ぶ。

 

「……そう言ってくれるのはここにいる人達だけですよ……」

 

「……ん? 何か言った?」

 

 静かに呟いた俺の言葉は侑さんに届くことはなかった。

 

 否、届けるつもりなど甚だなかった。

 

「なんでもないです。今はせつ菜さんの説得に全力を注ぎましょう」

 

 そう言い切ったと同時に屋上の扉が開かれる音が聞こえた。

 

 そこには俺たちが呼び出した張本人である中川菜々さんが立っていた。

 

 優木せつ菜さんの姿はいないが、それが答えという事だ。

 

 中川さんは扉の前で屋上を見回し、俺達の姿を確認するとこちらに向かって歩いてきた。

 

「あなたは……!」

 

 中川さんは俺達の顔を見て、驚きの声を上げた。

 

 いや、厳密には侑さんの顔を見て、と言った方が正しいが。

 

 中川さんとしては侑さんがここにいることが珍しいと感じたのだろう。

 

「初めまして、せつ菜ちゃん」

 

 侑さんの言葉に中川さんは一瞬眉をしかめた。

 

「……巴さん達から聞いたんですね」

 

「それもあるけど、音楽室で話したときにそうじゃないかなって」

 

「……音楽室?」

 

 俺は思わず侑さんの方を見る。

 

「うん。今日、輝弥君がいなくなってからね」

 

「そういえば、巴さんは使用許可書を置いたままいなくなったんでしたね」

 

「あっ!? 確かに……そうでした……」

 

 あの時は慎からの呼び出しに頭が一杯で使用許可書の存在を完全に失念していた。

 

「……まああの時の書類は高咲さんが持っていって下さったのでお礼は高咲さんにしてください。それで、私をここに呼んだ理由とは?」

 

 余談をそこまでにして中川さんは本題を切り出す。

 

 中川さんからの問いに侑さんは自分が答えると言うように一歩前に出た。

 

「……ごめんなさい!!」

 

 そして口火を切ったと思ったら深く頭を下げて謝罪の言葉を述べるのだった。

 

「……へっ?」

 

 思わず俺は気の抜けた声が出てしまった。

 

 そして、それは中川さんも同様だった。

 

「なっ……!? 何なんですかいきなり!?」

 

「私……何でスクールアイドル辞めちゃったんだろうなんて不躾な事を聞いたから、ひどいことを言っちゃったなって思って……」

 

 侑さんは苦笑いしながら弁明する。

 

「ふふっ、別に構いませんよ。隠していた私が悪いんですから」

 

 中川さんは苦笑しながら返事をする。

 

 このやり取りを見る限り、この二人の関係性が俺達みたいな悪いものには見えなかった。

 

「そして、巴さんはどうしてここにいるんですか? 私を同好会に引き戻そうとしているんですか?」

 

 中川さんの視線が俺に向いてくる。

 

 前に感じた冷える感覚を味わいながらも俺は臆しないように立ち向かう。

 

「……そうです。貴女を……優木せつ菜さんをスクールアイドル同好会に連れ戻しに来たんです」

 

「貴方が私に拘る理由が分かりません。何故そこまでして私に構うのですか」

 

 中川さんは少しうんざりしたように話す。

 

 だが、中川さんがどういう態度で来ようと俺の気持ちが揺らぐことはない。

 

「決まっています。僕の人生を変えてくれたからです」

 

「…………」

 

 中川さんは表情を変えず無言で見つめてくる。

 

「僕は、スクールアイドルに出会うまで何もやりたいことがなかった中身の空っぽな人間でした。音楽に関して勉強をしたいっていう名目だけでここに来て、部活動についても何をやりたいかと言われても今までやっていたことの延長線上でやるくらいかなとしか考えていませんでした」

 

「輝弥君……」

 

「ですが、この学校で自分のピアノを評価してくれる人物に出会って……そこから自分のやりたい事についてヒントをくれた人物に出会って……そして、やりたい事を決意させてくれる人物に出会えました!」

 

 中川さん達への想いが溢れてくると同時に自然と握り拳を作っていた。

 

 無意識にやってしまうほどに俺の言葉を聞いてくれている目の前の人への気持ちで胸がいっぱいだった。

 

「今の僕がいるのはあの時の中川菜々さんと優木せつ菜さんのお陰なんです! 大好きな事はいつでも自分の味方なんだと、その気持ちに嘘を付いたら向き合うのが辛くなると教えてくれた中川さん……そして、その言葉に二言がなかったように自分の大好きを余すことなく曝け出して一つの空間を作り出していたせつ菜さん……。お二人が僕に勇気をくれたんです!」

 

「…………」

 

「貴女が僕に言ってくれた"大好きな気持ちに嘘を付いたら辛くなる"。それをそっくりそのまま中川さんにお返しします。スクールアイドルが大好きでやっていたのであればそれは貫いてください! 僕だけが幸せになって……せつ菜さんが苦しいまま過ごすなんて……そんなの僕は絶対に嫌です!!」

 

「……何も知らずにぺらぺらと言ってくれますね……」

 

 中川さんは両手をぷるぷると震わせながら返答する。

 

 先ほどよりも怒気が含まれているのは明らかだった。

 

「私が抱いていた大好きなんてものは所詮ただの独りよがりだったんですよ!! 大好きな事をありのままにやる……それが出来るのであれば私は今も同好会でそれを貫いています!! ですが、私の夢は皆さんの事を何も考えていない自己中心的なものだったんです! それを知った今……あの頃と同じようにやれると思いますか……?」

 

 最初は強かった中川さんの語気が段々と弱くなっていく。

 

 前同好会の光景がフラッシュバックされているのだろうか。

 

「あの頃の続きを見ることは出来ないと思います……。

 

 ……ですが、あの頃と違う夢を見る事は出来ます!!」

 

「…………」

 

「せつ菜さんだけが……自分の大好きを追いかけることが出来ない……それはあまりにも馬鹿げてます!! 言ってくれましたよね、()()()()()()()()()()()()()()()と。誰も貴女の事を否定していない……だから貴女は貴女のなりたいスクールアイドルを目指していいんですよ!!」

 

 俺の必死の訴えが中川さんに届いているのか彼女の眼が震えてるように見えた。

 

 そして顔を俯かせた。

 

「もうだめなんですよ……」

 

 そう言いながら顔を上げた時には中川さんの眼には涙が溢れつつあった。

 

「もう全部わかっているんでしょう!? 私が同好会に居たら皆さんの為にならないんですよ!! 私が居たら……ラブライブには出られないんです!!」

 

 彼女はすでにいつもの冷静さを欠いていた。

 

 今ここに居るのは迷える生徒に道を示す生徒会長ではなく、皆から見放され道は閉ざされて途方に暮れたと思っている一人の少女だ。

 

「……だったら!!」

 

 怒号が鳴り響く中、それをかき消すほどの大きな声が響いた。

 

「だったら……()()()()()()()()()()()()!!」

 

 侑さんだった。

 

 ラブライブ……スクールアイドルなら誰もが目指す高みのステージ……確か慎からそう聞いた。

 

 せつ菜さんもそこを目指す一人のスクールアイドルで彼女もまたラブライブ出場を夢見る少女。

 

 だがその夢を侑さんは出なくていいと切り捨てたのだ。

 

 力強く言い切った侑さんに俺と中川さんは驚愕するのみだった。

 

 だが、そう言ったのも束の間、すぐにアワアワとしながら侑さんは弁明する。

 

「あっ、あの……! ラブライブがどうとかじゃなくて……!」

 

 侑さんは一呼吸置いてから改めて説明に入る。

 

「私はせつ菜ちゃんが幸せになれないのが、笑顔でいられないのが嫌なだけ。輝弥君も言ったように私達だけが幸せになるなんて嫌なんだよ。私はせつ菜ちゃんのステージが見られればそれでいい。せつ菜ちゃんが幸せになれないのならば、ラブライブに拘らず、せつ菜ちゃんの歌が聴ければそれでいいんだよ」

 

 侑さんの言葉に中川さんは少しはっとした顔を浮かべる。

 

「……どうして……こんな私に……?」

 

 泣きそうになりながらも疑問を浮かべる中川さんに侑さんの曇り気のない笑顔を向ける。

 

「決まってるよ! 大好きだから! 私をこんな気持ちにさせてくれたのは……せつ菜ちゃんだよ!」

 

「……っ!!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、中川さんの頬から涙が流れた。

 

 今まで彼女自身が抱えていた苦悩や悲しみが一斉に彼女の身体から出ていくようだった。

 

「貴方達みたいな人は……初めてです……。誰かに期待されるのは……嫌いではありません。ですが……本当に……良いんですか……? 私の我儘を……大好きを貫いて良いんですか……?」

 

 中川さんはやっと自分の本心を曝け出してくれた。

 

 また否定されるかもしれない、自分の大好きが壊れてしまうかもしれない。

 

 彼女の中でまだ僅かながらも不安な気持ちが残っているのだ。

 

 ならばそれを払拭するのが優木せつ菜さんの背中を追いかけてきた、これから彼女を支える仲間の務めだ。

 

「勿論!!」

 

「貴女の大好きを……俺たちが受け止めます!!」

 

 俺たちの言葉に中川さんは既に流れている涙を堪えるように身体に力が入る。

 

 そして、彼女はその涙を自分の腕で拭いきる。

 

「……分かっているんですか……?」

 

「えっ?」

 

 突然の中川さんからの問いに俺と侑さんは一瞬理解が追い付かなかった。

 

「貴方達は今……自分達が思ってる以上に凄いことを言ったんですからね」

 

 涙を拭いきった中川さんはふと笑って見せる。

 

 挑戦的な言葉を放ち、俺と侑さんの横を通り過ぎる。

 

 そして、彼女は眼鏡を外し、三つ編みを解いてみせた。

 

 その姿に俺と侑さんは言葉を失った。

 

 この瞬間、目の前にいる少女は生徒会長である中川菜々ではなく一人のスクールアイドル、優木せつ菜に変わったのだ。

 

 こちらに振り向いたせつ菜さんは先ほどまでの泣き顔から凛々しい表情へと変わり、右拳をこちらへ突き出した。

 

「どうなっても知りませんよ!!」

 

 菜々とは似つかぬ挑発的に言葉に俺たちは自然と笑顔になる。

 

 これこそライブで見た優木せつ菜の姿なのだ。

 

「これは……始まりの歌です!!」

 

 そう言い放ち、学園の屋上をステージにした優木せつ菜のライブが今、幕を開けた。

 

 




如何でしたでしょうか?

この回を書くためにアニガサキの内容、そしてこの小説で書いた今までの話を沢山見返して作った大切な回です。

感想・評価・お気に入り等お待ちしております。

よろしくお願いいたします。
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