虹の袂   作:M-SYA

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お待たせいたしました!
今回から今まで登場回数が少なかった彼女たちが出始めます!

それではよろしくお願いいたします!


本編『理想のアイドル像』
巡り逢い


【璃奈視点】

 

 とある日の放課後、私はこの学校で初めて出来た友達を待っていた。

 

 その人はとにかく元気に溢れていて、クラスメイトからも人気が高い。

 

 だが、彼女にはその人気を後押しする要素が備わっている。

 

「お待たせーりなりー! いやぁ~、今日もいい汗かいたよ~!」

 

 部室棟に入る扉の前で立っていると部室棟の中から声を掛けられる。

 

 綺麗な金髪をポニーテールでまとめ、学校指定のパーカーを腰に巻き、動きやすい服装にアレンジを加えた女子生徒。

 

 タオルで首周りの汗を拭いているが、額やこめかみに残っている汗が彼女をほんのり艶っぽく見せ、彼女を遠目から眺めている生徒を男女問わずに魅了している。

 

「お疲れさま。愛さん」

 

 彼女は宮下愛さん。

 

 情報処理学科の二年生で私の先輩に当たる人。

 

 そして、顔を表に出すことが苦手な私が唯一友達と呼べる人。

 

 私はどんな話をしても表情が変わることはない。

 

 楽しい話も悲しい話も笑い話も怒り話も、表情変化に乏しい私には同じ顔色でしか会話が出来ない。

 

 だけど、愛さんはそんな私をおかしく思わず一人の人間として扱ってくれる。

 

 私の人生を変えてくれた恩人と言っても過言ではない。

 

「ありがと♪ 今日はバレー部でやってきたけど、前に参戦したときよりもみんな上手くなってて驚いたよ!」

 

 愛さんは私からの労いの言葉に返事をしつつ、今日の部活動の成果を教えてくれる。

 

 愛さんは特定の部活動に所属しているわけではなく、運動部の助っ人として各部活動の練習に馳せ参じているのだ。

 

 愛さん曰く、特定の部活で一つを極めるではなく様々な活動を通してみんなとの交流を持ちたいというポリシーの元でこういった活動をしているらしい。

 

 実際愛さんのスポーツセンスは抜群に良い。

 

 その類いまれな運動神経を活用して、どんな競技でもそつなくこなすし本業の部員を差し置いて活躍をすることが多いので、愛さんによく助っ人の要請が来る。

 

 私はいつもなら愛さんの活躍を遠目から見ていることが多いが、今日は授業の課題の関係もあって観戦できなかったので練習後に落ちあう事として連絡を取っていた。

 

「これからのバレー部の成長が楽しみだね」

 

 愛さんの嬉しそうな表情に私もつられて笑顔になるべきなのだが、表情が変わることはない。

 

 言葉では楽しそうな雰囲気を出しているが、蓋を開けてみると無表情の人間が上っ面の言葉を並べてるようにしか見えない。

 

「そうだね~、愛さんはもう少しで用済みになっちゃうかもしれないなぁ~」

 

 愛さんは私の気持ちを汲み取り、お話に付き合ってくれる。

 

 私みたいな人間にも優しく触れてくれるのが愛さんの良い所であり好きな所。

 

「そういえば、この後はどうしよっか? またはんぺんの所に行く?」

 

 はんぺんとは、白い猫さんの事で食べ物のはんぺんのように身体が真っ白な事から私と愛さんで名付けた。

 

 この学校内にいつの間にか住み着いていた所を私と愛さんで発見したのだが、親猫の姿は無くずっと独りで生活していた所を見かねた私たちが密かに学校内で飼っているのだ。

 

 私の家はマンションということもあってペットは禁止、愛さんの家も自宅が飲食店という関係もあり飼う事が出来ない。

 

 だが、このままはんぺんを見過ごすことも出来なかったので秘密裏に学校内で世話をしている。

 

 本来、学校でペットを飼うのは禁止とされているので見つかったらはんぺんとお別れすることになってしまう。

 

 そうならないように常日頃から私と愛さんで餌付けという名の見回りを行っている。

 

 しかし、少し前に校内に猫がいるという情報が生徒会長の耳に入ってしまった。

 

 それを聞いた生徒会長はすぐさま捕まえようと網を持ってはんぺんに対抗していたのだが、寸での所で私と愛さんが仲介に入ったのだ。

 

 はんぺんについて愛さんも事情を説明してくれたが、学校規則もあり生徒会長は中々首を縦に振ってくれなかった。

 

 でも私たちの必死の訴えに応えるように生徒会長ははんぺんに条件を付ける事で校内でのお世話を認めてくれた。

 

 生徒会お散歩役員。

 

 学校の一員として活動すれば追い出す必要もないので隠れてお世話をする必要もないと生徒会長は言ってくれた。

 

 無理なこじつけだとは思うが、それでも私たちの気持ちを尊重してくれた生徒会長には凄く感謝をしている。

 

「うん、はんぺんに餌を上げる時間だから」

 

「オッケー。じゃあ行こっか」

 

 愛さんと一緒にはんぺんがいる中庭へ行こうとした瞬間、校内に大きな歌声が響いた。

 

「おん? 誰の歌声?」

 

「……屋上?」

 

 愛さんも周囲をきょろきょろと見渡して声の元を探しているが見つからない様子。

 

 私は空からの歌声が舞い降りているような感覚があったので屋上を見上げた。

 

 そこには見慣れているようで初めて見る人が立っていた。

 

 黒髪を長く伸ばし、その一部をサイドで纏めたその人は既視感があったのだが、その正体が私にはわからなかった。

 

「あれって……生徒会長……!? いや……でも……雰囲気が違うね……」

 

 愛さんは目を凝らしながら同じ方向を見上げる。

 

 そして、愛さんが口にした人物を聞いて私ははっとした。

 

 誰と似ているのか分かってはいるはずなのに浮かんでこないこのもどかしさ。

 

 だけど、愛さんのお陰でその気持ち悪さを払拭することが出来た。

 

 目の前に映る人物は予想していた人物とは違うけれども、私の中に浮かんだ疑問が晴れたことで溜飲が下がったを感じる。

 

「生徒会長はあんなにアグレッシブには歌わないと思う」

 

 もしあの人が生徒会長と言うのであればこれは夢の中なのかもしれない。

 

 そう思わせるほど、生徒会長とあの少女のスタイルは雲泥の差だった。

 

「そうだね。だけど……不思議と見惚れちゃうなぁ~……」

 

 愛さんはうっとりするように言葉を漏らした。

 

 こんな愛さんを見るのは初めてだが、その気持ちは狂おしいほどに分かる。

 

 初めて見る人の初めて聞く歌なのに不思議と雑音の様には感じず、むしろ身体が熱くなっていくのが分かった。

 

 うっとりする愛さんを尻目に私も彼女に夢中になっていた。

 

 そして、彼女が歌い切った後、私と愛さんは自然と拍手をしていたのだった。

 

 

 

「凄かったね……さっきのライブ」

 

 ゲリラライブが終了したのち、中庭ではんぺんを見つけてから私と愛さんは終始黄昏ていた。

 

 はんぺんの頭を撫でてその肌触りの良さを体感しているが、それ以上に胸が高鳴っていた。

 

「うん。ずっと……見入ってた……」

 

 愛さんの言葉に人並みの感想しか出てこなかった。

 

 これが、いざ感動を目の当りにしたら語彙力を失うや言葉が出ないという事なのだろう。

 

 私はこういった催しは初めて見るのでどう表現すればいいのか分からなかったが、どうやら愛さんも同じようだ。

 

 このように大騒ぎするようなイベントは愛さんにとっては手馴れているものだと思っていたが現実は違ったようだ。

 

 燃え尽きたように座り込むので一瞬戸惑ったが、いつもの愛さんとは違う姿を見ることが出来たのでこれはこれで貴重な体験だった。

 

「さっきの優木せつ菜って人……自分の大好きを曝け出してたよね」

 

「うん。何も恐れてないみたいだった」

 

「かっこよかったなぁ……」

 

 愛さんは先ほどの少女にもう一度会えたいとその場で懇願するように手を組んでいた。

 

「私にも……あんな風にできるかな……」

 

 私もふと自分の願望を吐露する。

 

 私は自分の気持ちを相手に上手く伝えることが出来ない。

 

 でも、せつ菜さんみたいにアイドルになれば、いつか私の本当の気持ちが誰かに届くのかもしれないと考えてしまう。

 

 はんぺんを撫でながら地面を見ていると愛さんが声を掛けてくれる。

 

「じゃあ、一緒にやってみる?」

 

「えっ?」

 

 あまりに唐突な発言に私は一瞬固まってしまった。

 

「りなりーが前から叶えようとしてた自分の気持ちを誰かに届ける。アイドルの世界だったらそれが実現できるかもしれないんだよ? りなりーの夢が叶うかもしれない、そう思ったら愛さんも一緒にやってみたくなっちゃったよ」

 

「私の……夢……」

 

 ふとこの世界に入った時の姿を想像する。

 

 みんながりなりーと呼ぶ歓声の元、ステージの上で笑顔を振りまきながら自分の気持ちを歌に込めてその場にいる人たちみんなと気持ちが繋がる。

 

 そんな夢のような世界が実現できたら、なんて素敵なんだろうと胸が躍るような感覚になる。

 

 だが、それと同時に考えてしまうのは反対の世界。

 

 笑顔を作ることが出来ず、見に来てくれた人たちも笑顔が無く誰とも気持ちが繋がらない世界。

 

 いや、むしろこんな私を不気味に感じてライブにすら来ないのかもしれない。

 

 光の裏に影があるのは必然だ。

 

 その影を恐れていては前に進めないことは分かっている。

 

 けれども、過去の私がそれを思い出させ、前に進めなくさせる。

 

 こんな私がアイドルの世界に飛び込んでいいのか迷っていると愛さんは私の手をはんぺんから離して握ってくる。

 

「大丈夫! 愛さんがいるし、りなりーを一人にはさせないよ? それに、そこならば愛さん以外にもりなりーの事を分かってくれる人はいるはずだから!」

 

「あっ……」

 

 その言葉を聞いて、私は少し前に会った男の子たちを思い出す。

 

 

 紺色の髪が線のように靡いた少し可愛い顔の男の子。

 

 そして、黒髪と赤い瞳が印象的な頼もしそうな男の子。

 

 

 以前、部室棟でスクールアイドル同好会の事を訪ねてきたあの人たちも、優木せつ菜さんと同じ同好会に所属しているのだろうか。

 

 何を話しても表情が変わる事の無かった私を不気味がらず接してくれた。

 

 あの二人からしたらたかがそんな事を、となるかもしれないが私にとっては最も重要な事だった。

 

 彼らもこの同好会に居るのであれば、二人共仲良くなりたい。

 

「分かった。愛さんがそう言うなら私もスクールアイドル同好会に入る」

 

 愛さんは私の言葉を聞いた瞬間、笑みを溢しながら大きく抱きしめてくる。

 

 私のなけなしの勇気をいつも大きな腕で受け止めてくれる。

 

 だからこそ、愛さんにもここで何か恩返しが出来たらいいな。

 

「それでこそだよりなりー! じゃあ、明日さっそくスクールアイドル同好会の部室にレッツゴー!!」

 

 こうして私たちのスクールアイドル人生が静かに幕を開けるのだった。

 




読んで頂きありがとうございました!

愛さんと璃奈ちゃんは久方ぶりの登場でした。
今までは話の都合上、登場が少なかったですが、ここから沢山喋らせていきます!

引き続き次回もお楽しみに!
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