今回から同好会の練習風景です!
新しい一面が沢山見られると思うので是非楽しんでください!
それではどうぞ!
「おぉぉぉぉ…………おぉぉぉぉぉ…………!!」
「じゃあ……もう少しどうかしらぁ……?」
「こ……これ以上はムリムリムリぃぃぃ……!」
何も事情を知らない人がこのやり取りを目の当たりにしたら誤解されること間違いなしだが断じてそんなやましいことはしていないとだけ言っておく。
ここは学校の屋上。
部室で各々やりたい事を提案しあい、それぞれでグループに分かれて練習することになった。
屋上では体力トレーニングを中心に練習が繰り広げられていた。
ただ練習を始める前にまずは柔軟を行って身体を温めていくこととしたのだが、その時点でとある人に彼方さんはいじめられていた。
勿論いじめと言っても質の悪いそれとは違い、筋肉をいじめるという意味だ。
そして彼方さんの相手をしているのは果林さんだ。
果林さんは同好会のメンバーというわけではないが、モデルをやっているとの事で柔軟やストレッチのやり方について力になってくれると言ってエマさんが呼んで下さったのだ。
どうやら彼方さんは柔軟が苦手なようで最初に始めた前屈の時点で果林さんに限界まで身体を押され悲鳴を上げていたのだ。
「彼方さんって身体柔らかそうなイメージなのにちょっと意外だなぁ~」
「そう……だね……。ちょっ……慎くん。もう少し優しく押してくれないか?」
「えっ? 輝弥、これくらいで音を上げるのか? まだまだ行けるだろ、もう少し勢いをかけるぜ!」
「えっ!? いたたたた!! ちょっおまっ……! ギブギブ!!」
弱っている彼方さんを横目に慎に背中を押してもらいながら前屈をしていたが俺も如何せん身体が柔らかい方とはいえない。
彼方さんよりは倒れてると思っているがそれで許すほど、この男は甘くなかった。
己の限界を理解しているつもりだったのだが、慎はそれを限界と認めずに更なる境地へと体重と追い込みをかける。
慎からの唐突な攻撃により俺は背骨が折れるんじゃないかと心配になりながらも激痛に耐えるがそれでもしんどいので精一杯の声を張って待ったをかけた。
「おぉぉぉ…………おぉぉぉぉ……おぉぉぉぉ……」
そしてさらにもう一人、柔軟運動に苦しむ人物がいた。
璃奈さんだった。
彼女は何ともないように飄々としているが、その表情とは裏腹に体が直角の状態から何も変化が起こっていない。
璃奈さんの後ろからエマさんが背中を押しているが力を抜いているように錯覚してしまうほどに璃奈さんの身体は倒れなかった。
「……それが限界……?」
「……そうみたい……」
「……これもこれで貴重な一面を知れたな……」
璃奈さんのようなタイプを初めて見た三人はその様子にただただ戸惑いの声を上げるのみだった。
一旦柔軟運動については休憩となり、彼方さんと璃奈さんと俺は疲れがどっと押し寄せてきて床に寝るのだった。
「ったく……彼方さん達はともかく輝弥はもう少しやれるようにした方がいいぞ?」
「これでも男子の平均には立っていると思ってたけど……」
「輝弥君は平均で留まる男でいいの? 折角なら上位に入りたいのが男の子の野心ってものじゃないの?」
慎のボヤキに苦言を呈していると果林さんが覗き込むように顔を近づけながら煽りを入れてくる。
果林さんが前かがみになって近づいてくるので、下から見てる俺にはとある部位が嫌というほど目に入っていた。
「……まぁ下には落ちたくないですし、もっと慎にも近づきたいですよ」
「……じゃあこっちにも近づいてみる?」
「ぶっ……!! そう言いながら自分で近づけないで下さい……!」
必死に見ないように堪えていたのに果林さんは否が応でも胸元をゆっくり近づけながら扇動してくるので、流石に耐えられまいと上半身を起き上がらせた。
「わぉ~輝弥君ってば意外と大胆~?」
「彼方さん、どうして今の実態を見て俺にそんな評価を下せるんです?」
彼方さんのトンデモ発言にただただ呆然としていると慎は両手を後頭部に当てながら笑ってくる。
「あはは、さすが輝弥の専売特許って所だな!」
「じゃあ……慎くんも大胆になってみたら?」
慎が俺を嘲笑していると果林さんの標的になってしまった。
そして、慎に対しても自分のスタイルの良さを余すことなく見せつける果林さんに慎もたどたどしくなるしかなかった。
「えっ……いや……べ、別に俺も……そんな必要ないです……」
「もう二人揃ってつれないわねぇ~? だけど随分と顔が赤くなってるじゃない? からかい甲斐があってかわいいわ♪」
「……美の暴力……」
慎と共にまごつかせていると璃奈さんが果林さんを見て羨望の眼差しを向けていた。
やはり果林さんのあの美ボディは同姓ですら虜にしてしまうのか。
「もう果林ちゃんもそこまでにして? 早く練習を続けるよ?」
折角の練習時間を惜しまなく使いたいエマさんは俺達に茶々を入れる果林さんに頬を膨らませながらぷんぷんと怒りの表情を見せる。
彼女なりに真剣に怒っているのだろうが、それでも愛くるしさを感じてしまうのが彼女のオーラなのだろうか。
「あらっ、ごめんなさい。やっぱり男の子たちの反応が良くてつい楽しんじゃうわ」
女性としての恥じらいよりも異性をからかう気持ちの方が強いというのは少し考え物ではないかと俺と慎は思わざるを得なかった。
「じゃあ、気を取り直してもう一度柔軟運動を行いましょうか」
「えぇぇ!? 彼方ちゃんこれ以上やると壊れちゃうよぉぉ~~」
「私も……」
「また慎にしごかれるのか……」
「おい、ばかぐや」
しごかれ組が口を揃えて不安げな声を上げる。
だが、その不安を消し飛ばすように横から自信に満ち溢れた声が聞こえた。
「大丈夫だよ! 愛さんに任せなさい!」
屋上の扉から愛さんが腕を伸ばしながら輪の中に入ってきた。
緑色のインナーに白いシャツで軽快に動けるようにコーディネートされた服装はスポーツ万能な愛さんらしい格好だ。
そして、柔軟運動で足を両側に開いたままお腹が地面と密着するほどに倒れこむ姿を見せ、その身体の柔らかさを十二分にアピールしていた。
その姿に俺と彼方さんと璃奈さんからは驚嘆の声が出た。
「別に輝弥たちも練習すれば出来るようになるよ」
「そうそう! シンシンの言う通り! 二人ともまずは体勢作りな?」
愛さんに促されるがまま彼方さんと璃奈さんは長座をする。
「はい、吸って~?」
愛さんの掛け声と共にゆっくりと息を吸う二人。
「はい、吐いて~?」
合図と一緒に二人の背中をゆっくりと押す愛さん。
そして、息を吐きながら倒れる二人に更に追い込みをかけるように押す力を強める愛さん。
通常の屈み方ならすぐに彼方さんが悲鳴を上げ、璃奈さんは身体が硬直していたが今回の二人は先ほどまでとは違い幾分か大きく倒れていた。
二人もそれに勘づいたようで少し顔が綻んでいた。
「ね? 難しいと思ってたことも少しコツを掴めば成果が得られるようになるから楽しいと思えるんじゃない?」
「そうだねぇ~。さっきよりも大きく倒れられるようになったしそんなに身体もきつくなかったよ~」
「うん、もう少し頑張ってみる」
愛さんのお陰で彼方さん達は折れていた自信が修復されるのを実感したようだ。
「流石愛さん。苦手を克服させるやり方を熟知してるね」
「伊達に部室棟のヒーローとは呼ばれてないわね」
「部室棟のヒーロー?」
「あらっ、知らないの? 彼女、いろんな部活から助っ人として依頼が来てるのよ」
「あぁ~、だからいろんなところで愛さんの姿を見たんだな」
果林さんからの解説によって愛さんの素性をまた一つ知ることが出来た。
確かに以前の見学で活躍している姿を見た際、卓越した運動神経で相手を圧倒していたな。
「よし、なら璃奈達に負けないように輝弥も意地を見せる所だぞ! さっき二人がやってたように輝弥もやってみろよ!」
「ちょっと待て、慎! あれはゆっくりと息を吐きながらこそ効果が発揮するもので勢いに任せてやるもんじゃあ……ぎゃあああぁぁぁぁぁ!!!」
璃奈さん達の進歩に触発された慎が俺も新境地に立たせようと熱が入ってしまう。
そして太陽の如く燃え上がっている慎に徹底的にしごかれるのだった。
「……もう骨も気持ちもへし折られた……」
「輝弥くん、大丈夫?」
一通りの体力トレーニングが終了し、次の練習に合流するために俺と璃奈さんは移動していた。
慎との暑苦しい練習により体力も何もかもが搾り取られたので、身体の疲労感が尋常ではなかった。
脱力感に苛まれながら歩いているが、そんな俺を心配するように背中を優しくさすってくれる。
璃奈さんがこうして寄り添ってくれるとは思わなかったので密かに驚いている自分がいる。
「ありがとう……璃奈さんの暖かさが胸に沁みるよ……」
「ったく……輝弥、こんなので音を上げてたらこの先持たねえぞ?」
「慎のしごきっぷりが馬鹿なんだって……」
「おいおい、誰が馬鹿だよ?」
「慎以外に誰がいるんだよ?」
慎が不敵な笑みを浮かべながら俺の肩に腕を乗せてくる。
このまま慎にやられ続けるのは癪なので皮肉を織り交ぜながら笑顔で返す。
慎との冷戦状態が数秒間続く中、璃奈さんはそんな俺達をじっと見つめていた。
表情は変わらないが少し目を輝かせているように見えるのは気のせいだろうか。
「二人って凄く仲が良いね。中学の頃からの友人とか?」
「えっ? いや違うよ。慎とはこの学校で初めて知り合ったんだ」
「そうそう、お互いに狼の群れの中に放り込まれた羊のようにびびりながらな」
「それは慎だけでしょ?」
「ち、ちげーよ! 輝弥も密かに怯えてただろ!?」
「少なくとも慎よりはびびってないな」
「お、おまえぇぇ──!!」
慎は少し赤面しながら俺に飛び掛かってくる。
男同士の下らない意地の張り合いに璃奈さんは一切笑いを見せていなかったが、それでも羨望の眼差しを向けているように感じた。
「でも、二人みたいに素の自分を出せる相手がいるの凄く羨ましい。私は表情が変わらないからここに来るまではいつもクラスメイトからはおばけみたいとかロボットみたいな子だねっていつもからかわれてた」
璃奈さんは顔を落としながら自分の過去について語ってくれる。
「……璃奈さんはどうしてこの学校に?」
「……私、プログラムとかそっちの情報処理に興味があったからここを志望した。それに、ここなら私の学区から距離は離れてるから同級生の子が少ないし、今までの弱かった自分とさよならをする意味を込めて入学した。……でも、ここに来ても最初は何も変わらなかった」
「璃奈……」
「クラスメイトの子とどう馴染めばいいのか分からなかったの。また今までの様に笑ったり驚いたり嬉しそうにしない私を見て不気味に思うんじゃないかって。私の中にその恐怖だけがしこりのように残ってた」
誰よりもみんなと仲良くしたい璃奈さん。
だけど、そんな璃奈さんを見てほくそ笑むように顔を覗かせる過去の記憶。
同級生たちが起こした蛮行が璃奈さんの未来に大きな障がいを生み出しているのだ。
(……なんだか昔の俺を見ているみたいだ……)
璃奈さんを過去の己と照らし合わせてしまう自分がいた。
璃奈さんに同情しようとした時、璃奈さんは突然まっすぐ目を見据えた。
「でも、そんな時に助けてくれたのが愛さんだった。私の事を決してからかおうとせず、悩んでいた私にそっと寄り添っていつも私の事を支えてくれた。愛さんがいてくれたからこそ、今の私が居る」
璃奈さんは何も見えない暗闇の中を黙々と歩いていた時、愛さんという太陽に出会った。
それは璃奈さんの生活に彩りが戻ってきた瞬間だった。
愛さんは誰とでも分け隔てなく接することが出来て、触れ合った人の心情を敏感に察知する。
そんな人懐っこさが璃奈さんを救ったのだ。
「そうなんだ。愛さんと璃奈さんは強い絆で結ばれてるんだね」
「うん、でも愛さんとだけじゃない。もっと沢山の人と繋がりたい。それに私がスクールアイドル同好会に入ろうと思ったのは輝弥くんと慎くんのお陰でもある」
「えっ、俺達が?」
俺と慎は璃奈さんの為に何かをやった当てがなく、必死に記憶の奥底を掘り起こした。
「あの時、私の事を不思議がりはしても決して煙たがらずに仲良く話してくれた。同級生でああやって話すことが出来たの初めてだったからすごく嬉しかった」
あの時とは同好会の部室を探していた時の事だ。
部室の場所が分からず慎とくたびれていた時、璃奈さんが助け舟を出してくれた。
同級生の子で気兼ねなく話しかけてくれたことが嬉しかったのでその場の勢いで名前で呼び合う所まで発展したけど、それが彼女にとってはありがたかったようだ。
「璃奈さんにそう言ってもらえるなんて少し照れるな……」
「だけど、これからはもっと俺達にも色々と相談してこいよ」
「え?」
慎の発言に璃奈さんは驚きの表情を一瞬見せた。
「うん、俺達は璃奈さんの事をもう友達だと思ってる。璃奈さんが不安に思ってた事とか楽しみにしてる事とかもっと話してほしい」
「えっ……いいの? 二人の輪の中に私も入っていいの?」
「当たり前だ! それとも璃奈は迷惑だったか?」
璃奈さんは力強く顔を横にぶんぶんと振り、慎の言葉を否定する。
「いや、迷惑だなんて思ったことない。凄く……嬉しい」
「なら、これからも改めてよろしくね。璃奈さん」
「っ……うん……!」
璃奈さんの返事は今までの中で一番感情が込められてるように聞こえた。
それだけ彼女の中に込み上げるものがあったのだろう。
「……にしても友人でいるつもりならかすみと同じように呼び捨てにしてもいいんじゃないのかぁ~?」
「えっ!? それは……璃奈さんに迷惑だろうし……」
「……迷惑じゃない。私も二人と仲良くなりたいから好きに呼んでほしい」
璃奈さんからの必死の訴えに俺は折れるのみだった。
「うっ……。……分かった。璃奈……さえ良ければこうして呼ばせてもらうね?」
「うん。ありがとう、輝弥くん」
璃奈の要望に応える事で俺達の間にまた一つ友情が生まれたような実感がした。
「さて、急がないと次の練習に遅れるぜ! 二人共、早く行くぞ!!」
「もう慎! そんな慌てなくても……まぁいっか。璃奈、行こ?」
「……うん……!」
先輩たちに叱られないように先行して走る慎を他所に璃奈と二人で並走している。
璃奈の顔は何も変わっていないがそれでも心の中では彼女と笑い合えてる確信があったのだった。
読んで頂きありがとうございました!
慎くんは愛さんに劣るけれども運動神経は良いので、愛さんとは違うタイプの熱の入り方を表現してみました!
また璃奈ちゃんが初めて輝弥くん達と出会った時の事についても、ここで言及しました。
彼女にとって二人と出会えたことは奇跡に等しいものですからね。
それでは次回もお楽しみに!