今回は本編の記念すべき40話です!
特に特筆すべき連絡ではないですがここまで続けられるとは思ってなかったので驚愕の一言です!
それでは本編をよろしくお願いいたします!
璃奈、慎と一緒に同好会の部室へ向かうと既に愛さんとしずくさんが授業を受けるように椅子に座って待機していた。
「遅いぞ三人とも!」
「ほら、三人の席はそこだから座って座って」
愛さんとしずくさんに急かされ、それぞれが用意された席へ着く。
「講義の先生はまだ到着してないのかな?」
「多分、もうそろそろ来ると思うんだけど……」
「呼ばれて飛び出てばばばーん、です!!」
次の練習が始まるまで時間を潰そうとしていたら、タイミングを見計らったかのようにかすみが部室外から飛び込んできた。
今日のかすみはいつもと違い、新しいファッションを取り入れていた。
「遅いぞ、かすかすー」
「かすかす言うな、慎のすけ!! 大体三人が遅いからかすみんも暇を持て余したんだよ!」
「かすみ、時間がもったいないから本題に入ろ?」
「ふん、かぐ男に免じて慎のすけへの文句はこれくらいにしといてあげる」
慎の態度に憤慨するかすみを窘めると普段は掛けていないであろう眼鏡を整えた。
「さぁ! 気を取り直してこれからスクールアイドルについての講義を始めたいと思います!」
「いえーい、頼むよーかすかすー!」
「愛先輩までかすかす言わないで下さい!!」
「かすみさんそこまで。それにしてもその眼鏡はどうしたの?」
しずくさんの問いにかすみは見栄を張るように眼鏡のふちをくいっと直した。
「よくぞ聞いてくれました! これはせつ菜先輩から借りてきたんです!
…………無断で」
「……その根性に敬意を表すよ」
自分の行動を誇らしく思っているのか罪悪感に苛まれているのか分からない態度を見せながら、他所へ目を向けるかすみに俺は呆然とため息を吐くのみだった。
「にしても、スクールアイドルの講義っていったい何を勉強するんだ?」
「それを今から教えようというのだよ、慎のすけくん」
「調子に乗るな、かすかす」
「かぁすかす言うなぁぁ!!」
二人の漫才が止まらず講義が先に進む気配が一向に無い。
愛さんもそんな二人を見ながら一緒に茶化すのだった。
「ほーら二人共、時間が無くなっちゃうんだから夫婦漫才はその辺にして早く進めようよ!」
「「夫婦言わないで下さい!」」
ここまで阿吽の呼吸で喋る内容が揃うのは二人の仲が良い証拠だろう。
「もぉ~慎のすけは一々被せてこないでよー!」
「お前こそ俺に被せてきてるんだろ!」
「慎、埒が明かないからそこまで」
仲が良いと言っても犬猿の仲だったようだ。
そろそろくどくなってきたので慎の肩に手を置き、そっとあやす。
「かすみちゃん、スクールアイドルについてもっと教えてほしい」
「りな子~♪ 慎のすけと違って物分かりがいいねぇ~かすみんがなんでも答えてあげます!」
「かすみさん? いい加減にしなよ?」
猿の方を抑えても犬は猿に向かってキャンキャン吠え続ける一方だったので、そろそろブリーダーの堪忍袋が切れそうだった。
「ひぇっ……じょ、冗談だよぉ~しず子~。ほら~アイドルが怒るのはご法度だよ? ほら笑顔笑顔ー!」
「うーん、今のかすみさんには私が怒ってるように見えるのかな? こ~んなに笑ってるのに~?」
そう言うしずくさんは口は上向いているが目は笑っていなかった。
(……しずくさんを敵に回したら命は無いな)
しずくさんとかすみのやり取りを見て、絶対にしずくさんを怒らせることをしないようにしようとそっと心に決めた俺なのであった。
「……と悪ふざけはここまでにして、早く本題に入ろ?」
「……切り替え早すぎないか?」
「……慎くん、何か?」
「いえ、なんでもないです。はい」
般若のようなオーラを纏っていたのに一瞬で普段のしずくさんに戻るのは流石演劇部で培われた能力といった所だろうか。
慎はそんなしずくさんに引き気味だったが、しずくさんから刺されそうな視線を受けて、姿勢を真っすぐに伸ばしながら講義に臨もうとしてごまかすのだった。
「ごっほん! それでは本題に行きます!」
かすみもさすがにおふざけは止めにして、いよいよスクールアイドルの講義が始まった。
「では、最初に質問します! スクールアイドルのあるべき姿とは一体何でしょうか?」
「スクールアイドルのあるべき姿……?」
かすみの最初の質問に早速頭を悩ませる。
「かすみさん、それってどういうこと?」
どうやらしずくさんでも同じように理解が追い付いていないようだった。
「あれぇ~? しず子、スクールアイドルをやってるのにそんなことも分からないの~?」
「むぅ……」
かすみからの煽りにしずくさんは目を細めながらハムスターのように頬を膨らませる。
普段の彼女なら見せないであろうギャップに俺はただ見惚れる一方だった。
「うーん、見ている人を熱くさせるパフォーマンスをすることか?」
「ふむふむ、慎のすけくんの言う事も正解です」
「も、っていう事は他にもあるの?」
「もっとありますよ! じゃあかぐ男くん! 他には何があると思いますか?」
突然の指名に驚きつつも一呼吸置いて答えを考える。
「そうだなぁ……見ている人に力を与えるアイドル……かな? 勇気とか夢とか」
かすみは俺の回答を聞いて、大きく頷きを見せる。
「うんうん、それも正解です! じゃあこのまま他の三人にも聞いてみましょう! 順番に愛先輩からどうぞ!」
かすみはまだまだ答えを引き出そうと参加者全員へ回答を促した。
「へっ? ん~、なんだろうねぇ~……。元気をくれるアイドルかな!」
「私は、心を通わせてくれる人だと思う」
「じゃあ見てくれる人を夢中にする存在、ってどうかな?」
かすみはみんなの回答を聞いて大きく手を広げる。
「うぅぅぅ、正解正解正解ですぅー!」
「これ、結局何を言っても正解になるんじゃねえか?」
かすみの満足気なリアクションを他所に慎は少し捻くれた発想をぶつける。
「ちっちっち。正解になることは当たり前です! だってスクールアイドルの在り方は無限大なんですから! 百の発想があって、百の発想が正解です!」
「ほ~ん、つまりは自分がなりたいアイドル像を目指せばいいって事か!」
愛さんは手のひらをグーで軽くたたき、自分の中で納得がいったようなリアクションを取る。
「さすが愛先輩、ずばりそう言う事です! そのためにかすみんはとある重要なことをしたんですが何か気付きましたか?」
かすみからの突然の問題に五人は全員思考を巡らせた。
今までのやり取りの中で謳うほどに大切なことを言っていた記憶が無く、今回はかすみの満足のいく答えを出せる気がしない。
一つ一つ先ほどまでのやり取りを既に読んだ小説のページをめくり返すように雑把に残っている記憶を思い出していく。
しかし、いくら読み返しても思い出されるのはかすみの言動よりもしずくさんのそれだ。
勿論、慎とかすみの夫婦漫才もあったがしずくさんのお怒りモードが目に焼き付いてしまいそれ以外の記憶が明瞭に思い出されなかった。
かすみクイズが始まってから幾分か時間が刻まれたのち、かすみは耐えきれなくなり口を開いた。
「もう、皆さん仕方がないですねぇ~? では答えを発表しますよ?」
「……かすみ、お願いします」
「まず、これの一個前に質問した内容は何ですか? はい、慎のすけくん」
「慎のすけ言うな。えーと……スクールアイドルのあるべき姿とは何か……だな」
慎の答えにかすみは満足するように頷く。
「うんうん、ご名答です! それではりな子。その問題の答えは一体何だったでしょうか?」
「いろんなスタンスがあって、不正解はそこにはない」
「流石りな子! よくわかってますね!」
「でも、それって何の関係があるの?」
「それを今から言うんだよ、しず子! どんなやり方でも応援してくれる人たちへの気持ちが届いていればそれは正解なんです。かすみんはそのやり方っていうのは人それぞれであり、まさに千差万別だと思うんです!」
「かすみが千差万別なんて言葉を使えるなんて……」
「そこ、茶化さない!! ……ごっほん。話を戻します。皆さんはスクールアイドルを目指す上でコンセプトを決めておかないといけないです。かすみんならばとにかく可愛い姿をみんなに見せてキュンキュンさせたいステージを見せたいです」
かすみのコンセプトを聞いて、かすみらしくて凄く良いテーマだなと密かに納得している自分がいる。
「でも、皆さんはまだそういったテーマというのは決まっていないですよね? だからこそ、各々がどんなスクールアイドルを目指したいか、それを引き出させたという事です!」
「……つまり、どういうことだ……?」
慎はまだ腑に落ちていないようなので俺はかすみの意見を聞いた上で持論を展開する。
「まだ慎たちはスクールアイドルを目指す上でその理想像を浮かべられていない。その状態では自分が本来やりたかったステージが出来ず、ファンが思い描いているステージとはギャップが生まれてしまう。それを防ぐために自分が描いたイメージを出すことで本人としてはそれを自覚するように、周囲の人間としてもその人のやりたい事を尊重するようになる。という事かな?」
「そっかぁー、愛さんの場合は元気をくれるアイドルって言ったから、それがあたしのやりたい事と少なからず紐付いてるってことだね!」
「私の場合は心を通わせてくれる人……」
「璃奈は自分の想いをみんなに届けたいって言ってたから、間違っていないんじゃないかな?」
俺の解説に愛さんと璃奈は自分が出していた答えを振り返る。
二人ともやりたい事として非常にマッチしていたので何も不思議ではなかった。
「慎くんは見ている人を熱くさせるパフォーマンスをしたいって事なんだね?」
「そうだな~。初めてせつ菜さんのライブを見た時に感じた胸の熱くなる感触。あれを自分もやってみたいって思ってさ。そういうしずくだって見てくれる人を夢中にさせるっていうのは演劇部の人間としては凄く大事なことだと思うぜ?」
しずくさん達もそれぞれが語った夢に対して会話を弾ませている。
各々が談笑している様子を見てかすみはにんまりしていた。
「むふふ~、流石かすみんですね~! かすみんが輝くだけでなくこうして同好会の手助けも出来るなんてかすみんってば罪なアイドルですぅ~!」
「確かにこの講義のお陰で自分がどういったアイドル像を描いてたのか、それを改めて認識出来たから今回のMVPはかすかすで決まりだね!」
「愛先輩、折角良い雰囲気で終われると思ったのにかすかすって言わないで下さいぃぃぃ!!!」
かすかすと呼ばれてかすみは不満気にしているのを尻目に俺は今回の講義を有意義に感じていた。
今後のスクールアイドル活動を行う上で自分が目指すアイドル像を認識した上で共有するというのは非常に大切なことだ。
この講義は一番かわいいスクールアイドルを目指すという確固たるコンセプトを持っているかすみじゃないと出来ないものなので、講義の成果をただただ噛み締めるのだった。
そして、噛み締めると同時に俺は自分が提示したコンセプトについて考えていた。
見ている人に力を与える。
スクールアイドルとしてステージに立つわけではないがこれまでの経験から自分が持つに相応しい目標ではないかと密かに自負していた。
スクールアイドル同好会に成長の風が吹いていることを感じつつ、講義は大盛況のまま終了するのだった。
読んで頂きありがとうございました!
本編と話は逸れますが、明日で『虹の袂』を連載して0.5周年となります。
前書きでも書いておりますが、ここまで続けられるとは私自身思っていなかったのでこれも読んで下さる読者様のお陰です。
これからも引き続きよろしくお願いいたします。
それでは次回もお楽しみに!