虹の袂   作:M-SYA

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お待たせいたしました!

テレビを付ければオリンピックが行われているので、ついそちらに思考が持っていかれてしまいますね……!

……などと言い訳をするつもりはありません!

今回もよろしくお願いいたします!



同好会の方向性

「あぁ……声出し過ぎちゃったかも……」

 

「ははっ、一番せがまれてたもんな~!」

 

 歌の練習という名のカラオケ大会は終了し、一日の練習は終了した。

 

 せつ菜さんとのデュエットが終わった後も璃奈とのデュエットや、最近ハマっていたラップを用いたバトル曲についても披露したため、久々に喉を酷使した気がする。

 

 練習が終わり部室に帰る道中、みんなと今日の練習についての振り返りやこの後の時間についてなど各々好きなように駄弁っていた。

 

 歌い過ぎて違和感を感じた喉を必死に鳴らしていると璃奈が近づいてきた。

 

「輝弥くん、ありがとう。凄く楽しかった」

 

「こちらこそありがと。璃奈が凄く楽しそうでよかったよ」

 

 璃奈はカラオケ中もずっと表情は変わってはいなかったが、それでも声色が明るくなっていたのでそれだけで彼女が楽しいという気持ちを抱いていたことは鮮烈に伝わってきた。

 

「輝弥くんとはアニメの趣味とかも合いそうだから、また一緒に行きたい」

 

「うん、こちらこそだよ」

 

「輝弥はゲームの方も精通してるからそこも璃奈やせつ菜さんと通ずるものがあるんじゃないのか?」

 

「……そうなの?」

 

 璃奈は少し顔を傾けながら聞いてくる。

 

「うん。時折ゲームのBGMを弾きたくて音楽室に寄ってるからまた聴きに来てよ」

 

「分かった。絶対に行く」

 

「あの……輝弥さん……。今度は私も参加させてください……」

 

 璃奈と次のピアノ鑑賞会について約束を交わすとせつ菜さんも話に入ってきた。

 

「良いですよ。僕もせつ菜さんともっとお話ししたいですし」

 

「えへへ、約束ですよ?」

 

「っ……はい」

 

 屈託のない笑顔を向けるせつ菜さんを見て、思わず心拍数が上がるのを感じた。

 

 いつもなら特に気に留める事は無いのだが、今のせつ菜さんは無邪気な女の子の表情をしているため、そのギャップに思わずときめきを覚えてしまった。

 

「なーに顔を赤くしてんだよ?」

 

「べ、別にそんなんじゃないよ……!」

 

 慎に腰を肘で突かれながらからかわれてしまったのでつい反射的に否定しようとしたが、慎への効果は皆無に等しかった。

 

「エマ先輩だったりせつ菜さんだったり……。やっぱり輝弥って姉気質系女子に弱いだろ?」

 

「うるさい、まっすぐ系お姉さん」

 

「お前ぇぇぇぇぇ!!!」

 

 慎といつも通りの煽り合戦が展開され、慎との取っ組み合いが始まる。

 

「二人共練習が終わっても元気だね~」

 

「もう輝弥くん、慎くん。そういうやり取りは男の子二人の時にしてよ……」

 

 侑さんが俺達の体力に感服している一方、しずくさんはため息を吐きながら呆れていた。

 

「しずくさん……そういうわけじゃないよ……」

 

 慎が煽ってくるんだから仕方ない。

 

 自分がやられたままで終わるのは癪なのだからつい反撃してしまうのが男の性というものだ。

 

 

 

 そんなこんなで部室に到着したが、扉を開けた瞬間に襲ってきたのは今まで嗅いだことがないような不思議な匂いだった。

 

「ん!? 何ですかこの匂い!?」

 

「なんか表現しがたいような匂いが充満してますけど……」

 

 かすみと慎は思わず鼻を抑えていた。

 

 俺もこの匂いの元について正体を知らないので、原因の物を探したがどうやらそれは大机の上に置かれていたものだ。

 

「表現しがたいとはシンシン失礼だぞぉ~? 愛さんのおばあちゃんが作った特製のぬか漬けだよ! みんなも食べる?」

 

 大机には弁当箱が置いてあり、そこにはキュウリやニンジンなどの漬物が入っていた。

 

 どうやら愛さんが同好会に入ったことを祝してお祖母さんが用意してくれたらしい。

 

「これ凄く美味しいから慎くんたちも食べてみたら?」

 

「ぽむ先輩、俺はこの匂いに慣れるのから始めていいですか……」

 

 歩夢さんから一緒に食べる事を提案される慎だがぬか漬けを初めて目の当りにしたので、その独特な匂いに圧倒されていた。

 

 ちなみに慎は歩夢さんの事をぽむ先輩と呼んでいる。

 

 他の先輩と同様に歩夢さんと呼ぶかと思ったが、愛さんが命名したぽむぽむというのが気に入ったみたいでそういった呼び方になっている。

 

 流石にあゆぴょん先輩だと彼女の逆鱗に触れるので呼ばないみたいだ。

 

「ほらっ、輝弥くんもどうぞ! はい、あーん!」

 

「じ、自分で食べられますよ……! も、もう……」

 

 侑さんがキュウリに爪楊枝を刺してそれをこちらへ差し出した。

 

 侑さんから食べるようにせがまれ、その思いやりを無下にするわけにはいかないので恥じらいを残しつつ頂くことにした。

 

 食べたら口の中にキュウリのシャキッとした食感と漬物特有の甘さが伝わってきて凄く美味しかった。

 

「あっ、すごく美味しいです!」

 

「でしょ? 沢山あるからカグヤンも遠慮せずに食べなよ! はい、りなりー」

 

 俺の感想に満足した愛さんは笑顔を向けてくる。

 

 そして、弁当箱の中にある大根を爪楊枝に刺して璃奈へと食べさせる。

 

 璃奈は恥じらうことなく愛さんから貰った大根を口に入れていく。

 

「あむっ。……うん、美味しい」

 

「でしょ~♪」

 

 二人のやり取りが微笑ましく思え、その仲睦まじさが伺えてくるのでまるで姉妹のように見えてくる。

 

「しずくさん? 食べないの?」

 

 愛さん達から目を離すとしずくさんがぬか漬けを物欲しそうな目で見ているようだった。

 

「私、こういったものをあまり食べたことがなかったからどんな味なんだろうって思って」

 

「確かに最初は匂いに圧倒されちゃうけど、一度食べたら病みつきになるよ。はい、しずくさんもどう?」

 

 自分から食べにいかないものを食べる機会があるのだ。

 

 こういう時にチャレンジして自分の好みを広げていくのも今後の役に立つと思い、自分が使ったものとは別の楊枝を用意して大根を刺し、それをしずくさんに差し出す。

 

「うーん……じゃあ、頂きます。はむっ」

 

 しずくさんは俺から差し出された楊枝を持つことなくそのまま口の中に入れる。

 

 そして、無言で咀嚼しその味を噛み締めている。

 

「どうかな?」

 

 咀嚼し終え飲み込んだ後にしずくさんから向けられたのは花を咲かせたように開く笑顔だった。

 

「うわぁぁ……! これ、凄く美味しいね!」

 

「だよね! 愛さんの家のぬか漬け、凄く美味しいから部活終わりの身体に染み渡るよ」

 

 練習終わりでお腹が空いている中でこんなぬか漬けを用意されたら食べ進めてしまうのが人間というものだ。

 

 折角消費したカロリーをリバウンドさせてしまう背徳感に襲われながらもその味に癖になっているので瞬く間にぬか漬けが俺としずくさんの胃の中に吸い込まれようとしていた。

 

「おいおい、二人とも! 喜んでくれるのは嬉しいけどみんなの分が無くなるから食べ過ぎないでよ~?」

 

「でも、しずくちゃんと輝弥くんが気に入るのも分かるわ。ぬか漬けって身体にも良いし練習終わりに一口食べるだけで疲れがどこかへ飛んでいくもの」

 

「分かるよ! 痛いの痛いのとんでけ~みたいな感じだよね!」

 

「エマちゃん、それは少し違うような気がするな~」

 

 思わず愛さんから待ったを掛けられてしまうが果林さんがすかさずフォローしてくれる。

 

 エマさんも全力で乗ってくれるが、少し例えが違うとして彼方さんから優しくツッコミを入れられる。

 

「そうなの? 日本語って難しいね……」

 

「でもあながち間違ってないんじゃないですか?」

 

 指摘されて落ち込むエマさんを見て侑さんが慰めに入る。

 

 確かに日本語は外国人が一番覚えるのに苦労するらしいからエマさんも同様なのだろう。

 

 挨拶だけでもこんにちは、おはようの他にたくさん種類があるし、一人称に関しても十以上の呼び方があるのだ。

 

 さらに高校生の間ならば擬音語で会話することもおかしくない。

 

 それを日本に来たての外国人が聞いたら理解力を母国に置いてきてしまったのではないかと錯覚してしまうくらいに状況が掴めずじまいになってしまうだろう。

 

 エマさんもこっちに来た時にはさぞ大変だったろうと思い、その苦悩が伺える。

 

「そうですよ~、エマ先輩って日本語凄く上手ですし気にすることないと思いますよ!」

 

「えへへ、ありがとうかすみちゃん。こういう時に言う言葉も知ってるよ? 

 

 かすみちゃん、マジ天使!」

 

「うわぁ~~ん、もうエマ先輩、すきすきですぅ~♪」

 

 かすみの褒め言葉にエマさんは嬉しくなって覚えたてであろう台詞をかすみにぶつける。

 

 それを聞いたかすみは案の定、顔が以上に綻んでおりエマさんへ熱いハグを行っていた。

 

「一番、ぶつけちゃいけない奴に放ったな……」

 

「なんか言った!? 慎のすけ!」

 

「図に乗るなって言ってんだよ! かすかす!」

 

 あからさまに承認欲求を求めているように見えたかすみに慎が難癖をつけていた。

 

 それを聞き逃さなかったかすみが平常運転で煽り合いを始めた。

 

「はいはい、そこまで」

 

「いいかげんにしてよね、二人共」

 

 そして同じくお決まりのように俺としずくで仲裁に入っていく。

 

 このやり取りはこれから先も延々とやっていくことになるんだろうな。

 

「そういえば時間もそれなりに過ぎてるし雑談はそこまでにしてそろそろ帰ろうか」

 

「そうですね。あっ、その前にかすみさん、少し残ってもらってもいいですか?」

 

「へっ? かすみん何かやりましたか? …………はっ!! め、眼鏡の事は許してくださぁ~い……!!」

 

「別に眼鏡の事はよろしいですよ……」

 

 侑さんが時計を見ながら帰路に着こうと声を掛けてくる。

 

 そんな中でせつ菜さんに隠れて眼鏡を借用していたことを怒られると錯覚したかすみはしずくさんの後ろに隠れて震えていた。

 

「じゃあ僕たちは邪魔するわけにもいかないので外で待ってますよ?」

 

「私たちの事を待って頂く必要はないですが……そうして下さるなら嬉しいです」

 

 二人の話し合いに茶々を入れたくはないので、荷物をまとめて部室から引き上げる事にした。

 

 

 

 

「いやぁ、にしても練習楽しかったね!」

 

「う~ん、彼方ちゃんもう少し柔軟を頑張るよぉ……」

 

「私も……」

 

 せつ菜さん達を待つために俺達は校舎外のベンチで屯っていた。

 

 愛さんは両腕を空に向かって伸ばしながら満足気な表情をしており、彼方さんと璃奈は今日の練習で発覚した課題について気分が淀んでいた。

 

「しずくちゃんはこれから演劇の練習?」

 

「はい、演劇の方も役を貰えるように頑張らなくてはいけないので」

 

 エマさんからの問いにしずくさんは微笑みながら答える。

 

 今日の練習も中々にハードだったと思うがそれでも変わらず掛け持ちである演劇の練習もこなすというのは凄いことだ。

 

「大変だねぇ~掛け持ちって」

 

「それでもやりたかったことですから、どちらも中途半端にするつもりはありません」

 

 彼方さんもまだ練習を続けるしずくさんを見て、羨望の眼差しを向けた。

 

「流石しずくさんだね。でも無理して倒れちゃだめだからね?」

 

「ふふっ、ありがと、輝弥くん。心配してくれるのは嬉しいけど、輝弥くんもこれから大変になるんだから輝弥くんも無理しちゃダメだよ?」

 

 ハードワークにならないようにしずくさんに注意を促すが、同好会で作曲を担当することとなった俺が逆に心配される羽目になってしまった。

 

「ははっ、ならお互い気を付けていかなくちゃね」

 

「ふふっ、そうだね」

 

 知らず知らずの内に相互に心配を掛け合っていたことが少しおかしく、二人して思わず吹き出してしまうのだった。

 

「そういえば、どういう曲を作ろうとするのか方向性ってもう考えてるのか?」

 

 慎から同好会用の曲について聞かれるが俺はただ首を横に振るのみだった。

 

「いや、それが何も決まってないんだよね。まだ初日っていうのはあるんだけど……」

 

「まだ他に心配してることがあるの?」

 

「はい。皆さんの個性をどうやったら活かせるのかが分からなくて」

 

「私たちの個性?」

 

 歩夢さんは言ってる意味が理解できずただただ首を傾げるのみだ。

 

「歩夢さんの誠実さ、かすみの可愛い、しずくさんのお芝居、愛さんの元気、彼方さんのマイペース、せつ菜さんの情熱、エマさんの暖かみ、璃奈の想いの通じ合い、慎の熱気。どれも皆さんを象る重要な要素です。……ですが、それを一つの曲で表現できるかと言うと凄く難しいことだと思うんです」

 

「あぁ……個性がぶつかり合って逆に浮いちゃうって事だね」

 

 侑さんの発言に無言で頷く。

 

 テレビで見るようなアイドルと同じようにここにいるみんなも同じようにステージ上で輝く自分を見てもらいたいと思っているだろう。

 

 そんな彼女たちを彩る要素として楽曲はあるが、一つのテーマを皆で歌うにしてもそれぞれが取り入れたい要素というものは存在するはず。

 

 以前はその要素のぶつかり合った結果、同好会の存続も危うくなってしまったのだ。

 

 それ故にその方向性を大事にしようとするあまり、大きなチャレンジが出来ずにいる。

 

「なら一番手っ取り早いのは各々が一人でステージに立つって事だよね?」

 

「確かにそれが一番の近道です。ですが……」

 

「見てくれている人たちの視線が私一人に向くとなるとそれだけで怖くなってしまいますね……舞台なら役になりきっているのでまだ大丈夫ですが……」

 

 愛さんの意見に肯定しつつもしずくさんが胸中の不安を吐露する。

 

 そう、一人でステージに立てばそれぞれがやりたい事をめいいっぱい表現できるので十分なのだ。

 

 だが、一人で立つという事は隣で見てくれる人がいないということ。

 

 つまりステージに独りで臨むことになるためその重圧も大きくなる。

 

 ここにいる全員がステージに一人で立つなんてことをやったことがない。

 

 未知であるがゆえにその道を走り抜けることが出来るのかが分からない。

 

「じゃあかすみちゃん達もそのことで話してるのかな……」

 

 エマさんはふと部室のある方向を見つめ、その視線に誘導されるように全員が同じ方向を見据える。

 

 空はまだ明るく、全員が上を向いているはずなのに俺達にはただ暗く淀んで見えていた。

 

 




読んで頂きありがとうございました!

グループでアイドル活動をするか、ソロでやるか。
それは重要なキーポイントになってきますね。

次回もお楽しみに!
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