期間が空いてしまいすみませんでした!
同好会の活動方針はどのように決まっていくのか、是非楽しんでいって下さい!
それではどうぞ!
かすみとせつ菜さんが教室棟から出てきた後、すぐに別れの挨拶をして各々帰路に着いていた。
「うーん、どう進めていけばいいのかな……」
俺は練習終わりで飲み物が欲しかったため一人で自動販売機に寄っていた。
既にみんなは帰っているので今は一人の時間となっていたが、その中でも俺は同好会の進め方について悩んでいた。
今までのようなグループでの活動だとメンバーそれぞれの個性を最大限に活かし切れない可能性がある。
かといってソロアイドルとして活動するのはハードルが高い。
もちろん、こういった苦労は買ってでもこなしていくことがスクールアイドルとしてスキルを上げていく近道だという事は分かっている。
しかし、それは経験者だからこそ出来る挑戦だと思う。
この同好会にいる人はまだ経験が浅い或いは全くの未初心者が集まっているのだ。
まだ右も左も分からない状態でソロアイドルをやるのはあまりいい結果を得られるものには思えなかった。
むしろ一人で立った時の恐怖がトラウマとなってライブに立てなくなってしまうことはないだろうか。
「あっ、カグヤーン! そんな所に突っ立ってどうしたーん?」
飲み物を買って、一人黄昏ていたら愛さんに声を掛けられた。
財布を手に持っていたので彼女も同じように飲み物を調達しようとしていたのだろうか。
「愛さん? そちらこそどうしたんですか?」
「おん? 愛さんは喉が渇いちゃったから自販機で買おうと思ってさー。カグヤンも手に持ってるってことは買ったばかりか!」
どうやら俺の予想は当たっていたようだ。
「僕は先ほどの話を整理したくて一人になってたところです」
「そっか。愛さんも一緒にいいかい?」
「はい、いいですよ」
愛さんの要求を断る理由がないため、暫し二人だけの会合を行う。
とは言うものの特に雰囲気を用意するわけでもないので学校内のベンチに腰かけた。
この時間帯だと夕日が建物で隠れているため、ここも彼方さんのお昼寝スポットなのか、なんてことを考えながら一呼吸ついた。
「ここ、ちょうど日陰になってるから風が気持ちいいね! カナちゃんだったらここですぐにすやぴしちゃうんじゃない?」
どこからともなく吹いてくる風に高い位置にまとめたポニーテールを揺らしてリラックスしている愛さん。
しかし、まさか彼方さんの件について同じことを考えているとは思わなかった。
「奇遇ですね。僕も同じことを思ってましたよ」
「あははっ、マジ? あたしら、今までこうして二人で絡んだことなかったけど意外と気があるのかもね♪」
愛さんはおちゃらけながらそう言うが、彼方さんの影響でそう考えているに過ぎないのではないかと思う。
とはいえ、せっかくの雰囲気に水を差すのは野暮なのでだんまりしておく。
「確かに愛さんはいつも璃奈と一緒にいますし、僕も慎と一緒にいることが多いですからね」
「おん! 愛さんとりなりーは親友だからね!」
愛さんは屈託のない明るい笑顔を見せてくる。
その表情は見ていると元気が戻ってくるような感じがして、練習疲れが吹っ飛んでいくような感覚がした。
「じゃあ、親友の愛さんから見て璃奈は一人でスクールアイドルのステージに立つことが出来ると思いますか?」
「へっ? いきなりどうしたん?」
突拍子のない質問に愛さんは素っ頓狂な反応をする。流石に不意打ちが過ぎたので解説を入れる。
「突然すみません。僕が考えていたことって言うのもスクールアイドルの活動方針をどうしていけばいいんだろうって事なんです。同好会にいる人は全員が経験者じゃないので、グループでリーダーの方針に従う形で進めていくのが定石だと思うんです。ですが、それをすると前回の二の舞になってしまうのではないか、という事でみんなが意見を出しにくくなるんじゃないかって思うんです」
「なるほどねぇ……」
愛さんは相槌を入れながら話を聞いてくれる。
スクールアイドルに関して素人組である彼女からしたら俺の話に少なからず思う所はあるようだ。
「そこでもう一つある案が、愛さんが部室で提言してくれた一人でステージに立つということです。これも各メンバーの個性を押し出すことが出来る非常に魅力的な内容ですが、その分、みんなの視線が自分一人に集中するという事です」
「一人のパフォーマンスだからこそ一つのミスも目立ってしまうし、お客さんからの重圧が押し寄せてくるって事だね」
「はい。スクールアイドル経験者であるせつ菜さんやかすみは問題ないとは思いますが、歩夢さんや璃奈は全くの初心者。それに人前で何かをやるというのも得意そうには見えません。そんな彼女たちを一人で立たせるというのは些か無謀な気がしまして……」
話し終えた後、スポーツドリンクを口の中へ流し込み喋ったことによる渇きを潤すとペットボトルを両手で包むように持ちながらだんまりする。
こんなことを自分一人で抱えても仕方ないとは分かっているが、次の話し合いまでには自分の中で答えを決めておかないと議論が頓挫してしまう気がしたのでこうして考えているが、やはり答えは見つかりそうにない。
半ば諦め気味にため息を吐くと愛さんが声を掛けてきた。
「……そうやって先の事をしっかりと考えてるなんて凄いね、カグヤンは」
「えっ?」
愛さんはそう言って目を少し細めながら微笑むとベンチの背もたれに身体を預けるように座り込む。
「愛さん、そんな風に考えたこと、今まで無かったから」
「それは……どういう事ですか……?」
「あたしさ、他の人よりも運動神経に恵まれてるからそれをいつもどこかの部活にお邪魔していくのが日常茶飯事だった」
「昼間に言ってた部室棟のヒーロー……ですね」
「うん。でもあたしはそう呼ばれるの実はあんまり好きじゃないんだよね……。だってヒーローは自分の中にある信念を持って困ってる人を助けるでしょ? あたしは……みんなと楽しくやるのが好きだから参加してるってだけで自分の快楽の為にやってるだけだもん」
愛さんはふと天を仰ぐ。
月とスッポンのような正義のヒーローとの格差に呆れているのだろうか。
「だけど、せっつーのライブを見て……スクールアイドル同好会に入部して……みんなのスクールアイドルに対しての向き合い方を見て、思ったんだ。あたし……今まで何も考えてなかったんだなって」
「愛さん……」
「部活動に助っ人参戦するのもみんなと楽しくやれればいいって思ってたし、あたしがどんなことをやりたいかなんて……そんなこと一ミリも考えたことなかった」
愛さんはよっと言いながら立ち上がりこちらへ向き直す。
「だから、今は愛さんのやりたい事を見つけて、ゆくゆくはそれを愛さんだけのステージで見せたい!! ……それが、愛さんなりの同好会での活動方法かな」
愛さんのいる場所がちょうど夕日が当たる位置なのもあって凄く眩しく見えた。
先ほどまでどのように走ればいいのかわからない仔馬だったが、浮かび上がった道を全力で出走してくれるであろう頼もしい姿へ変貌していた。
そんな愛さんにただただ見惚れていた。
「……なるほど……。素晴らしい考えだと思います。愛さんのその信念、是非サポートさせて下さい」
「えへへ、当然だよ! あっ、あとね。みんながソロ活動への賛成を口にしたがらない理由として感じてることが一つあるんだー」
「ほう? それは一体……?」
愛さんはビシッという効果音がなるように俊敏に俺を指差した。
「それは……カグヤンについてだよ!」
「ぼ、僕ですか……!?」
「うん! だって愛さん達がソロでステージに立つっていう事は歌うための曲が必要になるでしょ? 作曲は現時点カグヤンにしか出来ないから九人分の作曲をカグヤンがすることになるじゃん? そうなるとカグヤンへの負担が大きくなるから声を上げなかったんだと思うな」
「あぁー……確かにそれは言えますね……」
愛さんの言葉に俺は相槌を打つしかできなかった。
俺自身は仮にそうなってしまったとしても、と思う所があったが他のメンバーからすればそれは途轍もなく大きなことなので言い出せずにいたのも無理はない。
「だから、この件はちゃんと現実的にやれるかどうかも含めてしっかりと決めていこ?」
「……そうですね。僕の正義感だけで動いてたら他の方達に心配かけてしまいますもんね。愛さん、ありがとうございます」
「いいよいいよ! カグヤンこそ話を聞いてくれてありがと! 改めて、これからよろしくね!」
二人だけの秘密の会議を終え、愛さんは帰路に着く。
愛さんのお陰で自分の中にあった靄が晴れていくのを感じた。
やはりあの人は困ってる人に何も言わず手を差し伸べるヒーローの素質があると実感した。
(まあ、本人は否定してるけど……)
自分の中の評価と他人からの評価でギャップが生じるのは自然の摂理だが、愛さんのイメージはプラスに上書きされる一方だった。
そして、密かにとある計画も模索し始めた。
次の日、俺は昼休憩に音楽室へ来ていた。
一日の楽しみでもある友人たちとの会合をそっちのけにここに来た理由は一つ。
愛さんの話を聞いた上で今の彼女のイメージに対する曲が作れるかどうかというものだ。
愛さんの正義感をどのように織り込むことが出来るかを挑戦してみたくなった。
確かに一人で九人分の曲を作るのは無謀という話をしたが、それでもやらずに後悔するというのは一番かっこ悪いと思ったのだ。
やらない後悔よりもやる後悔。
挑戦してみて、これが原因であるからこの案は駄目だった、と言い切れるか。
それを確認したかった。
そして、何よりみんなのやりたい事をサポートすると決めた以上、自分が原因で頓挫するという事はしたくなかった。
自分の中の決意を固めるとピアノ椅子に座り一呼吸着いた。
「ふぅ。……よし、やろう」
愛さんから貰ったイメージを元にピアノを奏で始めるのだった。
「カグヤーン、おつおつー! 愛さんを呼び出して何かあったん?」
その日の放課後、愛さんに音楽室へ来てもらった。
ちなみに身体は慎にしごかれた関係で筋肉痛が凄まじく伸ばしただけでも激痛が走ってくる。
「実は少し聞いてもらいたいものがあるんです」
「へっ? 愛さんに?」
突然の連絡に愛さんは目が点になった。
突拍子もなくそう切り出したからそうなるのも無理はない。
「はい。……と言ってもワンコーラス分だけなんですけどね」
こうして、小さなピアノ演奏会が始まった。
「はぇ~、噂には聞いてたけど、カグヤンって本当にピアノ上手なんだね!」
一曲を披露し終え、愛さんは目を輝かせながら拍手をしていた。
真っすぐな称賛のコメントなので少し背中がむず痒くなってしまう。
「あ、ありがとうございます」
「いやぁ、聴いてるだけで元気が湧いてくる感じがしたよ! ちなみにこれって何の歌なの?」
「これは、愛さんに歌ってほしいなと思って作った曲です」
「へっ!? ど、どういうこと!?」
愛さんは頭が混乱してきたようなので一つずつ説明を始めていく。
「昨日、愛さんと話をして思ったんです。九人分の楽曲を作ることによる僕への負担。それは相当なものになると思います。ですが、何もやらないまま別案を考えるというのが気持ち悪くて……一回挑戦してみたいなと思ったんです」
そう言うと、俺は一枚のディスクを鞄から出した。
「その第一号は愛さんです」
「どうして……あたしに?」
「愛さんの誰にでも手を気軽に差し伸べる姿、それってヒーローとしての素質があるからこそできる事だと思うんです。あくまで自分は楽しみたいからやってるだけ……それでも人からのヘルプに対して嫌な顔をせずに手を貸すっていうのは凄く勇気がいることだと思います。だからこそ、僕はそれが愛さんのやりたい事につながるんじゃないかなって思ったんです」
手に持っているディスクを愛さんに渡そうと彼女の前へ差し出した。
「まだワンコーラスのみですが、それでも愛さんのイメージを僕なりに表現できたと思ってます。是非、この曲を一緒に作って下さいませんか?」
愛さんは俺から差し出されたディスクを無言で受け取る。
今の愛さんには喜怒哀楽の感情は込められておらず、どのような想いを抱いているかは分からない。
二人の間に暫しの沈黙が訪れる。
そして、固まった空気を破ったのは愛さんだった。
「カグヤンは……あたしにヒーローの姿を重ねてこの曲を作ってくれたんだね。だったら、愛さんはその期待に応えないわけにはいかないか!」
愛さんは笑顔になりながらそう言うと、元気よくディスクを受け取った。
「オッケー! 後輩がこう言ってくれてるんだもん! 先輩として情けない姿を見せるわけにはいかないよ! 是非この曲を愛さん色に染めさせてよ!」
愛さんはウィンクを決めていく。
その姿を見て、俺の第一の曲を愛さんに向けて作ってよかったと心の底から思った。
「愛さん……ありがとうございます。ここから貴女を最高のスクールアイドルにしてみせます!」
スクールアイドル同好会はまだスタート地点に立ったばかりだが、俺が走り出す道は太陽によって明るく照らされていると実感するのみだった。
読んで頂きありがとうございました!
同好会がソロで活動するにあたってぶつかる問題。
そして、それに対しての解決の糸口、如何でしたでしょうか?
次回もお楽しみに!