今回は今までと比べて少し短めとなります。
それではどうぞ!
「よし、準備オッケーっと。慎、行こうか」
「おう」
愛さんのゲリラライブが行われた日から数日後。
いつもと変わらない授業風景が通り過ぎていった後、部活へ向かうための身支度を済ませ慎と部室へ向かっていた。
「にしてもこの前の愛さんのライブ、凄かったなぁー。スクールアイドルに関して初心者なのにあそこまで人を惹きつけられるなんてとんだ才能だよな」
「あんなに大盛況になるなんて誰も予想着かないよ」
あのライブの後、愛さんは子供たちからヒーローの様に慕われてしまったため、練習開始が大幅に遅れてしまったのだ。
だが、このライブのお陰で愛さんの魅力を自他共に認識することが出来たので時間をロスした分、収穫は大きかった。
「誰とでも分け隔てなく接することが出来て、気付けば友達になっているのは愛さんの凄い所だな」
「本人としてはそれを自覚してないから尚のことね」
愛さんの話題で盛り上がっていると部室へたどり着いた。
「……好会の練習に行こうかい!」
「あっはははははは──ー!!!!!」
扉を開けようとすると部室内から何やら話し声や馬鹿でかい笑い声が聞こえてきた。
突然発せられた声に、思わず扉を開ける事をためらってしまう。
「…………」
「今のって……侑さんだよな……?」
「……そうだと思うけど、流石に近所迷惑が過ぎないか……?」
慎と小さな声でそう話すが、扉の前で棒立ちしているわけにもいかないので意を決して扉を開ける。
目の前に飛び込んできたのは土下座姿の侑さんだった。
いや、部室内のみんなは怒っている人は一人もいなさそうなので謝罪のためのそれではないことは理解できたが、どうして侑さんがそんな態度を取っているのか理解できなかった。
「侑さん!? あの……これは一体……?」
「あっ、カグヤン! 今日も眩しいくらいかぐやいてるねぇ~! かぐやだけに!」
「ひぃ──っひひひぃ……!! も、もう勘弁してぇ……」
愛さんは俺達に目を向け、挨拶と同時に俺の名前を捩ったダジャレをかましてくる。
それを聞いた侑さんは手で地面を叩きつつ抱腹絶倒していた。
その光景を目の当たりにして俺は言葉を失っていた。
「えぇっと……」
「凄くウケてますね……」
「侑ちゃんは小さい頃からずっと笑いのレベルが赤ちゃんだから」
せつ菜さんが静かに呟くと歩夢さんが苦笑いをしつつ補足を入れてくれた。
笑いのレベルが赤ちゃんって随分とパワーワード過ぎませんか。
「というかなんでダジャレなんですかぁ??」
「これもスクールアイドルの練習だよ♪ ほら、ライブMCとかでみんなの前で喋るってなった時、咄嗟に見ている人たちを笑顔にすることが出来るでしょ?」
「それも一つの手段としていい事だと思いますよ」
「MCか……俺もそういう所を練習していかないといけないなぁ……」
かすみの素朴な疑問に愛さんはにっこりと笑顔を作りながら答えていく。
解答と一緒に述べられた愛さんの考えにせつ菜さんは肯定し、慎はライブ以外の面の練習も考え込む素振りを見せる。
「おっ、シンシンも愛さんのやり方に興味
「も、もうやめてぇぇぇ…………笑い過ぎてお腹が痛い……ひぃ~~……」
「別にダジャレを織り込もうというわけじゃないですよ!?」
愛さんのダジャレ追い打ちが留まるところを知らず、侑さんの腹筋に大ダメージを与えていく。
慎は愛さんの無理矢理なこじつけに思わずツッコミを入れているが、愛さんはただそれが言いたかっただけと思うのは俺だけだろうか。
俺は荷物をロッカーへしまい、彼方さん達がたむろしている大机の方へと近づいた。
「かーくん、授業お疲れさま。はい、お茶入れたからよかったらどうぞ?」
窓際にいたエマさんが俺に目を向け、ポットで沸かしたお湯とティーバッグでお茶を作ってくれていた。
「ありがとうございます、エマさん。ありがたく頂きますね」
「ふふっ、はい、どうぞ♪」
エマさんからコップを貰い口を付ける。
お湯で沸かしたと言っても熱すぎず、されど冷めてるわけでもない優しい温かさが残っていた。
飲み進めてる途中で俺は先ほどのエマさんの言葉を思い出した。
「……って、かーくん!?」
「えっ? うん♪ 輝弥くんだからかーくん! 愛ちゃんにならってあだ名を考えてみたんだけどどうかな?」
「おぉ~、かーくん、いいじゃない~。より弟らしさを感じられて彼方ちゃんは好きだよ~」
エマさんが愛さんに負けじとあだ名を考えて下さったのは嬉しい事だが、これまた呼ばれたことがないタイプだったので少し恥ずかしさが湧いてしまう。
「まぁ、かぐ男よりかはあだ名らしさがあっていいんじゃねえか?」
「ちょっと、慎のすけ! それかすみんをディスってる!?」
慎がかすみの呼び名にケチをつけるように言うが、当人は案の定そう感じたようで慎といがみ合いを始めてしまった。
「相変わらず慎くんとかすみちゃんは元気」
「毎日やってて疲れないのか……」
バチバチと火花が発生している慎たちを他所に璃奈がそう呟き、俺も二人に聞こえない程度の声量で漏らす。
「でも実際かーくんって呼び名、良いと思うよ? 私は好きだな」
「しずくさんがそう言ってくれるなら嬉しいよ」
「……私も呼んでみても……」
「あっ、エマさん。お茶ごちそうさまでした……」
しずくさんからのフォローに満足した俺はエマさんから貰ったお茶を飲み干したので、エマさんへコップを返そうとした。
だが、エマさんは俺の言動に気付かず、ひとり、空を眺めていた。
「エマさん? どうかしました?」
「えっ? あぁ、ごめん。どうかした?」
エマさんは鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしており、どうやら本当に自分の世界に入り込んでいたみたいだ。
「お茶を飲み終わったので……ごちそうさまでした。コップはどうしておきましょうか?」
「あっ、私が洗っておくから貰っていくね。お粗末さまでした」
そう言い、エマさんにコップを差し渡すがそれでも彼女の顔色が晴れる様子は無かった。
「……エマさん、何か悩み事ですか?」
「へっ? んーん、そうじゃないの。ちょっと考え事をしてて……」
「なになにー? エマっち何か悩みでもあるん?」
「……まさか、エマさんからの
そう言った瞬間、部室内の空気が凍った。
何気なく放った言葉がダジャレとなっており、俺は今すぐにでもこの場から全力で逃げ出したくなった。
つい口にしてしまったため、恥ずかしくて周囲を見る事が出来ないがきっと真顔で俺を見つめているに違いないだろう。
それか、寒いギャグを披露して憐れむような眼差しで見ているだろうか。
どうやってこの場を切り抜けようか考えていた時、沈黙を破ったのは侑さんだった。
「ぶっ……あっはははは!! ちょ、ちょっとかーくんまで笑わせてくるのやめてよ……! も、もうむりぃぃ……!」
「あはは!! 愛さんも流石に今のは不意打ちだったぁぁ……! カグヤン、真顔でそんな爆弾を放り投げないでよぉぉ……!」
侑さんと愛さんはお腹を抑え込みながら、ぷるぷると身体を小刻みに震わせていた。
どうやら笑いのレベルが赤ん坊だった二人には俺のダジャレはクリーンヒットだったようだ。
他のメンバーはそんな二人を見て笑っていた。
だが、しずくさんだけは頬をぷくっと膨らませながらこちらを睨みつけていた。
睨みつけるとは言っても目つきは鋭くなく頬を膨らませているので逆に愛くるしさが宿っていた。
「しずくさん? そんな顔して何かあったの?」
「別になんでもないよ。どこかの誰かさんが勝手にどこかに行っちゃうんだもん」
「……
「……私、今無性に輝弥くんに対して怒りたい気分だよ」
「えっ、今のってそういうことじゃないの?」
「もう、輝弥くんのバカ」
「えぇ……」
さっきまで柔和に会話していたはずなのに途端にしずくさんがご立腹になってしまった。
彼女は俺に対して何か言っていたのだろうか。
「……お前って真面目なのか天然なのかどっちなんだ?」
「少なくとも慎よりは真面目だと自負は出来るよ?」
「……俺もお前をぶん殴りたいわ」
「なんで二人共急に辛辣なの?」
二人揃って急に態度が悪くなって俺は状況が理解できなかった。
まあ、慎に対しては若干煽りの意も込めてはいたが。
「しずくちゃん、慎くん。二人にもお茶を入れたから一旦落ち着いて?」
空気を変えようとエマさんがお茶を差し入れる。
二人は頭を下げながらコップを受け取り、ゆっくり喉の奥へとお茶を流し込む。
「……美味しいです」
「……エマさんに免じて、これくらいにしておいてやる」
しずくさんはまだ顔が怖いけれどもしっかりと味の感想を伝えている。
慎も虫の居所が良くなったのか、先ほどよりも穏やかな雰囲気が流れている。
普通に喋っていただけなのに何故こんな理不尽を受けなければならないのだろうか。
二人を見ながら俺はそう考えざるを得なかった。
読んで頂きありがとうございました!
侑ちゃんの笑いのレベルがバレてしまうシーンでした。
あと、真面目な子が急にダジャレをかますのはって凄く可愛さを感じますね。
次回もお楽しみに!