今回から少し新しい展開が始まります。
それではどうぞ!
「そういえば昨日の愛さんのライブを見て、思ったんですけど」
同好会メンバー各個人の自己紹介動画を制作することで方向性を決めた後、俺はとある疑問を口にした。
「愛さんとせつ菜さんは、この同好会の中でソロライブを実施してる数少ない方達ですから、お先にミュージックビデオを撮っても良いんじゃないんですか?」
「えっ、愛さん達の?」
「はい、折角お二人の晴れ舞台をお披露目できたんです。その場に居合わせた人だけじゃなくてもっとたくさんの人にも見てもらいたいんです」
二人のライブは見ている人たちの心を満たしていた。
それは直で見てた人だけじゃなく、動画越しで見ている人にも届けられるものではないかと俺は考えていた。
勿論、これを動画化することは並大抵の事じゃないことは分かっている。
だが、この人達の魅力を現地で参戦していた人しか堪能できない、全国にいるスクールアイドル好きの人たちがせつ菜さん達の勇姿を目に焼き付けられないのは宝の持ち腐れだ。
だからこそ動画として残し、サイトにアップすることで現地に来られない人達でもせつ菜さん達の事を覚えてくれるのではないか。
同好会の知名度を上げられるのではないかと考えたのだ。
俺の案に侑さんは食い気味に乗っかってくれた。
「あぁー! 確かに、それ凄く良さそう!」
「そ、それでは私たちが抜け駆けをしているようですが……?」
「でも、全員分が揃うまで動画サイトを利用しないのも勿体なくないですか?」
せつ菜さんはそれでも否定的な反応を示すが、慎もこちらの意見に賛同してくれる。
「そうだね~。せつ菜ちゃんと愛ちゃんはもうスクールアイドルとしてのスタートを切ってるわけだから抜け駆けも何もないと思うけどなぁ~」
「はい、私たちもお二人に追いつけるように頑張るので、先に進まれるのは良いと思います」
彼方さんとしずくさんもこちらに乗っかっているので、せつ菜さんと愛さんが少数派となった。
「まぁー、みんながそういってくれるならいいんだけど……」
「二人には負けてられないね♪」
エマさんも決意を固めながら笑顔を振りまく。
そんな中、璃奈がとある提案を口にした。
「せつ菜さんと愛さんの動画撮影と編集は私に任せてほしい」
「えっ、璃奈が?」
「うん。私、パソコンの扱いに関しては自信がある。だから、動画編集は任せてほしい」
璃奈の発言に凄く頼もしさを感じた。
ここに居るメンバーで動画編集に長けている人は──―俺も含めてだが──―如何せん欠けていると思うのが俺の憶測だ。
その中で動画サイトに上げるための技術を兼ね備えている璃奈の特技は凄くありがたいし、活動の中で力になることは間違いない。
「りなりーにパソコンを扱わせたら右に出る者はいないから絶対頼りになるよ!」
「なら、動画制作に関しては璃奈ちゃんを主動で動く形で良いかな?」
「うん、任された」
愛さんと侑さんから太鼓判を押され、璃奈の専属業務が決定した。
「なら、早速二つのグループに分かれて各々の動画制作と行きましょうか?」
俺の進言に反対するものはおらず、そこからプロモーションビデオ制作組とミュージックビデオ撮影組で分かれる事になった。
「あっ、輝弥くん。少し良いかな?」
グループ分けを行った後、動画を作るために場所を変える事にしたのだが、廊下を歩いている途中で侑さんに呼び止められた。
「どうかしましたか? 侑さん」
「実は折り入って相談があってね……」
侑さんからの相談……新曲の事についてだろうか。
そんなことを考えていたが、帰ってきた回答はそれとは少しニュアンスが異なるものだった。
「歩夢とかすみちゃんの曲についてなんだけど……二人の楽曲を完成させてほしいんだ!」
俺は侑さんの言葉を聞き、理解が追い付かなかった。
歩夢さんは幼馴染として密かに曲の案を考えていたことも分からなくないが、どうしてかすみも出てくるのだろうか。
「……えっ、どういうことですか?」
俺は素直な感想を侑さんにぶつける。
曲を完成させるも何も俺はまず二人の曲を一切齧っていなかったが。
「うん、いきなりこんなことを言って戸惑うのは当然だと思う。だからちゃんと経緯を説明するね」
侑さんはそう言うと、事の発端を説明してくれた。
「実は、二人と一緒にスクールアイドル同好会の再始動に向けて動いてた時、二人がそれぞれの想いを込めた歌を私に歌ってくれたんだよ」
それは二人が自分たちで作詞をして、侑さんに聞かせたという事だろうか。
歩夢さん達の意外な一面が垣間見えた瞬間だった。
「でも、その時はアカペラで歌ってくれただけで、それ以降はその曲らについては一切進展がないんだよね」
侑さんの言わんとしていることが分かってきた。
「なるほど、つまり侑さんとしてはお二人の可能性の芽を摘みたくないということですね」
「おっ、流石かーくん! 相変わらず察しが良いね!」
「それほどでも、です。にしても侑さんもかーくんと呼ぶんですね」
先ほどまで輝弥くんと呼んでいたのに急にかーくん呼びに変わっていたので、少し気になってしまった。
「エマさんが呼んでていいなぁって思って私も呼んでみたくなったんだけど、あまり嬉しくなかった?」
「いえ、そんな事ないです。むしろ僕としてはそう呼ばれることがなかったので……少し……むず痒いと言いますか……」
「あっはは、輝弥くんが照れちゃうなんて珍しいね。なら今後はそう呼んでいくしかないかな、かーくん?」
「……そんな悪戯っ子のように見ないで下さい」
侑さんの揶揄うような目つきに少し口元をムッとする。
だが、その行動とは裏腹に身体が痒みで落ち着かないので噤んでいた口元も緩くなってしまう。
「あはは、やっぱりかーくんってかわいいな」
「も、もう……それはもういいでしょう……! 話を戻しましょう」
「ぷっ、もう……もういいでしょう……
「……はぁっ……」
俺の意図せぬダジャレでツボに入ってしまい話が進まなくなってしまった。
流石に俺も埒が明かないと思い、ついため息を吐いてしまう。
「って、かーくんごめん! 話を逸らすつもりは毛頭なかったの!」
そんな俺を見て、侑さんはあたふたしながら弁明をし気持ちを切り替えてくれた。
「話を戻すね? さっき、かーくんが言ってくれた通りなんだけど、歩夢たちの気持ちが込められた歌なのに、それを使わずにいるのは私は凄く勿体ないと思うんだ」
侑さんはそう言うと、懇願するように俺に頭を下げた。
「だからお願い! 二人の曲を完成させてあげてほしい!」
侑さんは無理を承知でお願いしているようだが、俺はむしろその内容に興味を示していた。
歩夢さんとかすみがそれほどスクールアイドルに惹かれて、侑さんに想いの丈をぶつけたのだ。
三人の中で留めるだけにしてしまうのは非常に惜しい。
確かに曲をどのように改良するか、そういった方向性は全くと言っていいほど見えていない。
だが、これも自分が前に進むための大きな挑戦なのだ。
それに彼女たちの事をまた一つ知る事が出来るいい機会だというのに、これを利用しないわけにはいかない。
こうして俺の腹は──―侑さんが頭を下げる前から分かっていたことだが──―決まった。
「分かりました。是非とも僕にやらせて下さい」
「本当!? でも、かーくん、これからプロモーションビデオの制作にも取り掛かるのに……」
侑さんは俺の返事に表情が明るくなるが、もう一つの懸念点を心配し声色が暗くなってしまう。
そう、俺は今回プロモーションビデオ制作のグループに入っていたのだ。
動画撮影となると既に曲は完成されているので俺が居ても邪魔になると思い、そこは動画編集のプロこと璃奈と観察眼のプロこと侑さんに任せようと考えていた。
「歩夢さんとかすみの事を知るいい機会です。それに二人が紡いだ想いを僕も聞きたいです」
俺はたった二言。されど二言だ。
これだけで今回の取り組みにどれだけ興味を示しているか明確に伝わったと思った。
侑さんはそんな俺の意思を汲み取ったのかすぐに安堵の表情になった。
「分かった。なら、かーくんが行き詰まったりしないように私も出来る限り力を貸すね」
「そうしてもらえると助かります。流石に、これにばかり注力していたら慎あたりにどつかれそうなので……」
「あはは、慎くんならあり得るかもね」
冗談交じりでそんな会話をし、二人の間に柔らかな空気が流れる。
侑さんもずっと抱えていた蟠りを無くすことができたから気分は良さそうだ。
「では、歩夢さん達には後でお声掛けします。今は、お互いにやれることをしっかりやっていきましょう」
「うん! じゃあ、また後でね!」
長話に区切りをつけ、それぞれの持ち場へ向かう。
同好会に入ってから立て続けにイベントが発生しているが、それを苦と思わず次はどんな事が待っているんだと楽しみにしている自分がいた。
俺は、これから先の事に胸を弾ませながらプロモーションビデオ制作組と合流するのだった。
読んで頂きありがとうございました!
アニガサキで歩夢ちゃんとかすみちゃんが披露した挿入歌は侑さんの前でしか披露していなかったので、それを楽曲として完成させるお話も作っていきます。
是非、今後の動きをお楽しみに!