虹の袂   作:M-SYA

50 / 96
お待たせいたしました!

更新が滞っており申し訳ございません。

それでは本編をどうぞ。


手掛かり

「うぅっ…………もうお嫁にいけない……」

 

「うぅっ…………俺もお婿にいけない……」

 

 俺としずくさんによるスパルタ教育が終わり、彼方さんと慎は芝生で寝るように転がっていた。

 

 いや倒れていると言った方が正しい。

 

「ふぅ。まぁ、これくらい出来れば上々じゃないかな?」

 

「まったく、少しは反省してくださいね?」

 

 二人用の動画撮影が終わり、俺達は腕を組みながら二人を見下ろしていた。

 

 

 

 そもそもどうして慎も一緒に倒れているのかというと、彼方さんとの特別練習を行っていた時に彼方さんが俺達のあまりの鬼教官っぷりに耐えられず逃げ出してしまったのだ。

 

 そして、その逃げた先が運悪く慎が隠れていた先だった。

 

 慎がバレないようにと息を殺しながら立ち去ろうとしたときに後ろから彼方さんに追突された。

 

 すぐに動き出そうにも慎の身体の上に乗っかる形で居た彼方さんを無理矢理引き剥がすなんてことは彼には出来なかったので、そのまま身動きが取れないまま俺達に捕まったというわけだ。

 

 

 

 そんなわけで二人仲良くしごかれたためにひどく疲れ切っていた。

 

「まさか慎も練習したさから覗き見をしてたなんてね」

 

「そのまま逃げていれば少しは生き永らえることができたのにね」

 

「ぐうの音も出ねえけど……どっちにしろ逃がす気ゼロじゃねえか……」

 

「「もちろん」」

 

 意外な形で慎も捕獲できたので、ついしずくさんと悪役が言いそうなセリフを並べてしまった。

 

 若干しずくさんに演劇スイッチが入っているように見えるのは気のせいだろうか。

 

「で、でも……これで彼方ちゃん達の動画撮影は終了なんだよね……?」

 

 彼方さんはこの絶望から救われると思って笑顔になるが俺はその笑顔を一蹴した。

 

「え? しないですよ?」

 

「……は?」

 

 思わず慎もアイドルが出してはいけないトーンの返事をしていた。

 

 彼方さんも状況が理解できずに呆けていた。

 

「流石に僕たちの怒声が入った状態のものを投稿したら、ハラスメントでサイト側から訴えられちゃいますしこの学校の名前にも傷が付きますから」

 

「お前……鬼畜にも程があるだろ……」

 

「そうさせたのはどこの誰かな?」

 

 先ほどまでの特訓は俺としずくさんの私怨も混じっていたので流石にそれを動画として投稿するのはドが付くほどのアホだ。

 

「中々練習に参加しようとしないお二人に対して、悪戯心が湧いてしまったのは事実ですね」

 

「まあ、やり過ぎたなとは後々思ったけどね」

 

「ひ、ひどいよぉ……」

 

 彼方さんは涙を浮かべながら訴えかけてくる。

 

 上目遣いでこれをやられるとつい罪悪感に駆られてしまうのは彼方さんの為せる業だろうか。

 

「でも、この練習のお陰でちょっとは動画撮影に向けての見せ方とかは勉強できたんじゃない?」

 

「俺らはお前らを敵に回したくないことが勉強になったわ……」

 

 俺のお気楽な考えに慎はただ苦言を呈すのみだった。

 

 

 

 

 

「むにゃぁぁ……やっぱりエマちゃんのお膝が一番落ち着くぅ~……」

 

「えへへ、こうして彼方ちゃんを撫でてるとネーヴェちゃんを思い出すよ~♪」

 

 練習も一区切りにして、俺達は部室へ帰っていた。

 

 彼方さんは部室に戻るとくたびれたようにエマさんの膝の上へ猫のように丸くなっていた。

 

 俺達とは別行動をしていた侑さん達も部室へ戻ってきており、今は休憩中だった。

 

 侑さんは聞き慣れない名前を聞いて興味津々だった。

 

「エマさん、ネーヴェちゃんって?」

 

「スイスにいる子ヤギの名前だよ」

 

「子ヤギ?」

 

「うん♪ 凄くふさふさしてて気持ちいいんだ~」

 

 今まで聞いたことがなかったが、どうやらエマさんはスイス出身の人のようだ。

 

 母国でスクールアイドルの動画を見て、普通の高校生がひたむきに努力する姿に心を惹かれたらしい。

 

 にしても、スクールアイドルに憧れて渡航してくるその挑戦心は並大抵のものではないと思う。

 

「スイスの山々でヤギたちに囲まれながら歌を歌って、一緒に遊んで……。楽しかったなぁ~」

 

 母国に対して郷愁を感じるエマさんだが、それでも楽しかった思い出が多かったのだろうか顔が綻んでいる。

 

「エマさん、ずっと日本に居てホームシックとかないんですか?」

 

「最初はやっぱりあったけど、でも今はそんな事ないよ」

 

 歩夢さんからの質問にエマさんは首を横に振りながら答える。

 

 そして、俺達全員を見渡す。

 

「かーくんや侑ちゃん、みんなと一緒にいるとスイスの弟や妹たちみたいに見えて凄く胸が温かくなってくるんだ♪」

 

「なんだか……恥ずかしいけど嬉しい」

 

「エマさんがそう言って下さるなら嬉しい事ですね」

 

 璃奈と俺は少し胸が熱くなるのを感じつつ、エマさんとの距離感が近づいていると実感できて嬉しさが込み上げてくる。

 

「でも時折、家族から私が日本でちゃんとやれてるか不安でお手紙が届くんだけどね」

 

 エマさんがちょっと呆れるような表情をしながら微笑んでいると、部室の扉が開きせつ菜さんとかすみが入ってきた。

 

「皆さん、お揃いですね」

 

「お疲れ様です。せつ菜さん」

 

「輝弥さん達もお疲れ様です。して、プロモーションビデオの感触はどうでしたか?」

 

「うーん、しずくさんはいいものが出来たと思うんですけど、彼方さんと慎はまだ完成してないですね」

 

「……彼方さん、あいつは何を平然と言えるんですかね」

 

「うむっ、顎に手を当てながら言える所業ではないよね」

 

 せつ菜さんと各々の近況報告をしている横で彼方さんと慎が内輪話を始めた。

 

 俺は気が散りそうだったのでそちらの話を耳に入れないようにせつ菜さんとの話に集中する。

 

「そうですか……お二人共、まだ緊張が抜けないといった感じですか?」

 

「いえ、そういうわけではないんです。むしろ二人は撮影時に全然緊張していなかったのでびっくりしてます。ただ、動画の構成が普通過ぎるというか……二人の個性を殺してる構成になってしまった感じでしたので……」

 

「……彼方ちゃん達は夢を見てるのかなぁ……?」

 

「よくもまあ淡々とあんな綺麗な言葉を並べられますね」

 

「そこの二人、うるさいですよ」

 

 数刻前に制作した動画を思い返しながら素直な感想を呟いたが、どうやら二人にはスパルタの風景が脳裏に焼き付いてしまっているようだ。

 

「ふっふっふー、ならここは今までの人たちの勇姿を見て勉強することにしましょう!」

 

 そんな慎たちを他所にかすみは胸を張りながらパソコンの方へと席を移し、とある動画を再生するのだった。

 

『虹ヶ咲学園 普通科二年の上原歩夢です』

 

「おぉ、歩夢の動画だね!」

 

「ど、どうしてこれを今ここで!?」

 

 確かに、グループで分かれる前にこの動画は視聴していたが、なぜ今になってもう一度見る事にしたのか分かっていなかった。

 

「実は最近、かすみん達の自己紹介動画の評判が上がってるんですよ!」

 

 そう言われ、再生回数を確認すると二千回を超えていた。

 

 一般的な動画の視聴回数は百回ほどが基本となり、三百回を超えればそれなりに見ている人がいるものだ。

 

 それが歩夢さんの動画だと二千回再生を超えているのだ。

 

 スクールアイドル好きの人たちからかなり認知してもらえているとプラスに受け止めていいだろう。

 

「そういえばかすみちゃんの動画はどれくらい再生されているの?」

 

「それは……もちろん歩夢先輩よりもちょっと上にいる状態でしたね! 皆さん、かすみんの魅力にメロメロなんですよ!」

 

 侑さんの問いに一瞬言葉が詰まったかすみ。

 

 これはかすみのいつもの癖が出ている感じがしたので、密かに自分のスマホでかすみの動画を確認してみた。

 

「あっ、かすみの動画は再生数、千九百回だった」

 

「ちょっとかぐ男ぉ!!」

 

「まぁ、かすみにしてはそれなりに人気を得れてるんじゃないのか?」

 

「慎のすけ! かすみにしては、じゃないしそれなりじゃだめなんだよ! そんな甘い認識だから動画制作も納得のいく出来がしないんじゃないの!?」

 

「んだとぉ、かすかす!! 折角こっちが少しは認めようとしてたのによぉ!!」

 

 慎が珍しくかすみを褒めていたが言葉のチョイスが気に入らなかったかすみはそれを一蹴し、つい慎の動画制作の成果に対してケチをつけていた。

 

「かすみちゃん、慎くん。そこまで」

 

「かすみ、二人は経験の差があるからそんな事で調子に乗らない」

 

 吠えられた慎も噛みつきそうな勢いだったので璃奈が二人を宥める。

 

 俺もかすみの発言が慎をけなしているように聞こえたので、眉間に熱を感じながらつい強めの語気で咎めてしまう。

 

「ふん! 別に歩夢先輩の方が上だから悔しい、とかそんな事じゃないし!」

 

「皆さんそこまでにしましょう。お互いに闘争心が芽生えているのは良い事ですが、いがみ合うのは違いますよ」

 

「そうそう、せつ菜ちゃんの言う通りだよ。かすみちゃんも歩夢に負けないくらい可愛いんだからそれぞれの良さがあるんだよ」

 

 一年生組が嫌悪ムードになっているのでせつ菜さんが双方を窘める。

 

 そして、それに呼応するように侑さんもかすみの頭を撫でて、かすみの気持ちを落ち着かせる。

 

「……やっぱり侑先輩が一番かすみんの事を分かってくれますね」

 

「かすみさん、慎くんもしっかりと練習してるんだから、それは理解してあげてね」

 

 侑さんにフォローされ、下がっていたテンションが戻ってきたかすみだが、それに釘をさすようにしずくさんが口を挟んでくる。

 

「……まあ、ちょっとかすみんも言い過ぎた……」

 

「……こっちも……悪い」

 

 かすみはしずくさんの指摘を聞き、自分の発言を反省する。

 

 慎の方も普段は言われることがなかったため、一瞬驚きはしたものの彼女の気持ちを汲み取っていなかったとして自分の発言を謝罪する。

 

 侑さんは二人の仲直りし合う姿を見て満足したようで、うんうんと頷いていた。

 

「それじゃあ気持ちを入れ替えてさっきの慎くん達の動画撮影のコツも聞きながらみんなでプロモーション動画制作を進めていかない?」

 

「あれっ、ミュージックビデオ撮影はどうしたんですか?」

 

 各々のグループに分かれての活動と行くはずが、唐突に路線変更してしまったので俺は思わず聞き返した。

 

「ある程度、ミュージックビデオのイメージは出来てたし動画撮影も始めていこうかって話してたんだけど、やるなら機材とかも揃えたいってりなりーが提案してくれてね!」

 

「折角のみんなの勇姿だから、最高の動画にしたい」

 

「そういう事で、今日は動画の構成を作るまでにして本格的な撮影は後からにしようって事にしたの」

 

「なるほど、もう動画構成や撮影の準備まで進められてるんですね」

 

 璃奈の頼もしい発言に愛さんと歩夢さんも頭が上がらないようだ。

 

 でも、そうなるのも仕方ないだろう。

 

 機材用意から動画編集まで任せられる人が目の前にいるのならば、頼りたくなってしまうものだ。

 

「はい、それに私たちはプロモーションビデオも持っていないので、折角ならそちらも並行して進めていこうという事になったんです」

 

「別々にって話をしてたけど、結局はいつも通りみんなで一緒に考えていくってことで頑張ろう!」

 

 せつ菜さん達の助けもあるのは非常にありがたかった。

 

 正直、俺自身も動画制作などやったことなかったし、中身の精査など何が正解かもわからなかったため今のままだと路頭に迷うと思っていた。

 

「そうしていただけるのは非常に助かります。是非皆さんのお力も貸してください!」

 

 最初は頓挫してしまうかと思われた動画制作だが、一から作り直していく形でみんなで話し合う事とした。

 

 




読んで頂きありがとうございました。

前回の更新から日が空いてしまって虹ヶ咲の情報について喋っておりませんでしたね。

ついにアニガサキ2期の放送時期が決定いたしましたね。

22年4月からということでこの作品も極力近いところまで進めるようにいたしますので、どうぞ温かい目で見守って頂けますと幸いです。

それでは次回もお楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。