前回から期間が空いて申し訳ございませんでした。
今回もよろしくお願いします。
それではどうぞ!
「も、もう穴があったら入りたい……」
エマさんとの主人とメイドのやり取りが終わり、俺は慎の背中に顔を埋めていた。
「ふふっ。輝弥くん、かわいかったよ?」
「それは男が言われてもあまり嬉しくないやつだよ……!!」
しずくさんが微笑みながら俺をフォローしているが、それはただ俺の傷を抉っているのみだった。
なお、俺をこんな風にしたエマさんは、というと次の衣装に着替えようと試着室に入っていた。
今度は一体どんな姿で追い詰めようとしているのだろうか。
「ふふっ。やっぱり輝弥くんってからかいがあって可愛いわ♪」
「もう、果林さんも言わないで下さい……」
部室で一緒に衣装を眺めていた果林さんがこちらを見て笑いながらからかってくる。
異性に可愛いと揶揄されてばかりで流石に気が滅入りそうになる。
「はははっ! さすが輝弥のお家芸だな!」
「……あっ?」
「いてててて! おいっ、肩を握りつぶそうとすんじゃねえよ!」
ついにはいつも通り慎も茶々を入れてくる始末だったので、そこだけは反撃する。
「お待たせー!」
男同士のしょうもない喧嘩が始まろうとした矢先にエマさんの声が室内に響き渡った。
掛け声と同時に試着室から出てきたのはとある衣装に身を包んだエマさん。
「がおーっ、クマ・ヴェルデだよ♪」
遊園地でよく見かけるクマのコスプレのような衣装で姿を現したエマさんはふわふわな衣装のお陰もあって、マスコットキャラクターのような印象を受ける。
「うわぁー! クマさんだ! 可愛いーー!」
クマ・ヴェルデを前にして侑さんはメロメロだった。
そして、全力で抱き着いていき衣装の柔らかさを堪能していた。
「かーくん、行かないの~?」
「彼方さん、相手の顔が見えてないならともかく、あれに飛び込む勇気が僕にあるとお思いで?」
彼方さんからのゴーサインに俺は行こうとしない。
むしろ慎を差し出そうとしているので、行くの拒否しているのは見え見えだった。
「なんならシンシンと二人で行けばいいじゃん!」
「愛の言う通りよ。さあ行ってらっしゃい♪」
「って、なんで俺もなんだよぉぉ!!」
陰に隠れている俺と一緒に慎もクマ・ヴェルデの懐へ収めようと愛さんと果林さんが全力で背中を押す。
慎は理不尽な扱いに苦言を呈すしかなかった。
「二人共危ない!」
倒れかかろうとしていた俺と慎を見て、エマさんは全力で受け止めようとする。
そして二人仲良くクマ・ヴェルデの中に落ち着いたのだが、揃いもそろって手のやり場に困っていた。
「ぷっ、かぐ男も慎のすけもなんで手を後ろにピンと伸ばしてるの?」
まさかの同調にかすみも吹き出す。
外野からそんな事を言われているが、俺達はとある感情によりそれすらも頭から抜けていた。
「……これっ、気持ちよくないか?」
「……うん。凄くふわふわしてて寝落ちしそう」
クマ・ヴェルデの温もりとさらさらとした服触りに仲良く骨抜きにされていた。
次第に後ろに伸ばしていた手から力が抜け、自然と全身で毛触りを堪能しようと全力で抱き着いていた。
「……これ、知らない人が見たら訴えたりしないよね?」
「歩夢さん、その時は私たちが全力で弁護しましょう……」
冷静に見て女子高生によってたかって抱き着くという行為に歩夢さんが危機感を覚えていたがせつ菜さんが横で小さく擁護していた。
これは抱き締めた者にしかわからない気持ち良さなのだから、情けない姿を見せるのも致し方ないというものだ。
自分たちだけが堪能してしまうのも勿体ないので、後でしずくさん達にも教えてあげよう。
「……はっ!? 俺は一体……!?」
「……なんで俺達はぬいぐるみを抱き抱えてるんだ……?」
クマ・ヴェルデを堪能していたはずが、気が付いた時には二人揃ってクマのぬいぐるみを抱きしめていた。
「流石に絵が危なかったからね……」
しずくさんがうんざりするようにため息を吐いている。
そんな言い方をされると俺達が危ない一線を越えたのではないかと錯覚してしまうから勘弁してほしいものだ。
「あっ、二人も起きたね! ねぇ、このエマさんをセンターにして写真撮ろうよ!」
「おぉ! いいねぇー!」
侑さんが俺達に気付くと写真を撮るからと手招きされる。
愛さんもノリノリな様子でスマホを構える。
そして、机の上にスマホをセットしタイマーを掛けるとメンバー達の元へと駆け寄る。
俺はエマさんから少し離れてしずくさんと歩夢さんの隣に待機した。
「な、なんだかここまで密集してると凄く恥ずかしくなってくるのは俺だけかな……?」
多くの異性に囲まれている状況につい身体が委縮してしまう。
そんな俺を見て、しずくさんが励ましてくれる。
「大丈夫だよ輝弥くん。別に食って掛かるわけじゃないんだから」
「そうだよ♪ むしろ輝弥くんって人との距離感を大事にしすぎてるからこれくらいも良いと思うな」
歩夢さんも笑顔を向けながら、気にしないで良いとフォローしてくれる。
こうして近くで歩夢さんの笑顔を見ると、いつも以上に照れてしまうので正直勘弁してほしい所だ。
「で、ですが、歩夢さん……。だからと言ってここまで近くに来ずとも……!」
「ほら、シャッターが切られるよ!」
歩夢さんから距離を空けようと企んでいたがタイマーがそろそろ終わるという事でその猶予すらも残されていなかった。
どこまでもへっぴり腰な俺を見てしずくさんが仕掛けてきた。
「もう、仕方ないな。ほら輝弥くん♪」
「へぁ!? しずくさんなんでこっちに飛び込んでくるの!?」
なんとしずくさんが背中から抱き着いてきたのだ。
突然の行動に思わず声を荒げる俺だったが、既にカメラの存在など微塵も考えていなかった。
パシャリと撮影が完了する音が鳴り響き、予想もしないタイミングで写真が出来上がってしまった。
俺はしずくさんの腕から解放されようともがいているが、変に力を入れるのは気が引けるのでもどかしい気持ちになっていた。
そんな俺達を他所にかすみが我先にとスマホへと駆け寄り、写真の出来栄えを確認する。
「ぷぷぷっ。慎のすけ、顔ガチガチじゃん。どんだけ緊張してんのさ~」
「う、うるせぇ! 周りが女子だらけだと動き辛いんだよ!」
「ですが、この慎さんも新鮮で私は有りだと思いますよ!」
「せつ菜さん、それはなんのフォローにもなってない気がするんですけど?」
やはり慎も慎で俺と同じ葛藤を抱えていたようだ。
そして、侑さんも写真を見ようと顔を覗かせ全体を見渡した。
「おぉー、いい写真が出来たねー! みんないい表情!」
「そうだねー! これは良い宝物になりそう!」
愛さんも侑さんからスマホを受け取り写真を確認するが、俺が触れて欲しくない箇所に気付いてしまった。
「……にしても、カグヤンとしずくは随分とアグレッシブな事してるんだね?」
「愛さん!! それだけは触れないでほしかった……!」
「どれどれ~? おぉ~、しずくちゃんってば大胆~♪」
「輝弥くん、しずくちゃんに気が行き過ぎてて顔が映ってない」
愛さんの言葉を皮切りに彼方さんもちょっかいを入れてくる。
璃奈もカメラに写っていない俺の事を心配してはいるが、しずくさんの事については触れないでほしかった。
「うぅ……も、もう今日は駄目かも……」
「か、輝弥くんが固くなってたから、緊張をほぐしてあげようとしてたの!」
「しずく……それはこいつには逆効果だぜ……?」
しずくさんも少し顔を赤くしながら反論してくる。
彼女の中に恥じらう心が少しでもあるのであれば、それを大事に一歩踏みとどまってほしかったと切に願ったのはここだけの話。
撮影中に他所事をしていた俺達にエマさんはふくれっ面をしていた。
「もう~。二人共カメラの前ではちゃんとしようよ。だけど、まだ時間はあるからもう一度写真撮ろうよ! 今度は果林ちゃんも一緒に!」
「……へっ?」
エマさんはそう言って果林さんの方を見るが、当の本人は気が抜けていたのか情けない声で返事をした。
「確かにさっきまで果林ちゃんも見るだけだったし、今度はこっちで一緒に撮ろうよ~♪」
「……私は別にいいわよ。同好会のメンバーじゃないし」
彼方さんも果林さんと一緒に撮りたいと駄々をこねるが、果林さんは首を縦には振らなかった。
そして、着信が来たであろう自分のスマホを取り出し、画面を見つめるとすぐにこちらへ向き直った。
「今日は先に上がるわね」
「えっ……う、うん」
果林さんはそう言うと部室からいなくなる。
突然、果林さんが素っ気ない態度を取りエマさんは寂しげな表情をしていた。
「果林さん、なんだか疲れてるんですかね?」
「エマさんを突き放すなんてらしくない気がするけどな……」
俺と慎は二人の状況が分かっていないため憶測を喋る。
だが、エマさんは悲しい表情を消してすぐさま笑顔を見せるとスマホを持ってこちらへ振り向いた。
「私、すぐに着替えるからみんなはカメラに映る準備だけしておいて♪」
エマさんはそう言うと試着室へ逃げるように駆け出した。
「エマさんもなんだか様子がおかしい?」
「この感じだとあの二人の間に何かあったように見えるな」
エマさんと果林さん、二人に纏わりつくしがらみが何なのか。
その答えを見つけるのはそう容易い事ではないが、このままだと二人が距離を開けてしまう。
そんな予感がした俺は何とかしてあげたいと心の中で誓ったのだった。
読んで頂きありがとうございました!
ここ最近はリアルもひと段落してきているので、少しずつ更新頻度を上げていけたらなと思っております。
それでは次回もお楽しみに!