虹の袂   作:M-SYA

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お待たせしました!

いつも読んで下さる方はありがとうございます。

それでは本編をどうぞ!


勇気をくれた人

「よし、今日の作曲を始めていくかな。」

 

 服飾同好会での試着会を終えた後、各々がいつも通り練習を始めていた。

 

 俺は侑さんから提案のあった歩夢さんとかすみの曲について作っていこうと思い、音楽室へ来ているのだが、活動内容について方針を変更することにした。

 

 理由は先ほどのエマさんの態度だ。

 

 果林さんと喧嘩をしているわけではないようだが、少なくとも良好な関係性とは言えない事だけははっきり言える気がする。

 

 二人の間に何があったのか、それを簡単に本人たちに問い質せるほど俺も無神経ではない。

 

 彼女たちの問題に部外者が介入してもいい結果にはならない。

 

 だからこそ、少しでもエマさん達の迷いを晴らせるようにやれることを見つけていかなくてはいけない。

 

 そう決意を胸にピアノの前に座ったが、正直エマさんの歌についてインスピレーションが何も浮かんでいなかった。

 

「……そういえば、スイスの曲ってどういう曲調が多いんだろう……?」

 

 エマさんはスイス出身の人なので、母国のイメージを織り交ぜたものを作るのも有りかと考え、スマホでスイス民謡について調べる。

 

 動画サイトでスイス民謡を投稿している動画があったため、それを開いて視聴する。

 

「……軽快なリズムだけれども広大な自然の中にいるような穏やかな気持ちにさせてくれる……」

 

 三拍子で刻まれる音楽に俺は目を瞑りながらリズムに合わせて頭を動かしていた。

 

「明るいけれども、自分の心を包み込んでくれる温かさ……。まるでエマさんみたいだ」

 

 こじつけが過ぎるかもしれないが、同好会の長女的なポジションでいつも傍でメンバーの事を支えるエマさんはこういった曲調の歌が彼女らしさを体現しているのではないかと感じた。

 

「よしっ。なんとなく曲の方向性は出来た気がする。あとは歌詞をどう作っていくか……」

 

 前回の愛さんの時と同じようにこちらが作曲したものを本人と一緒に作詞していくか。

 

 だが、今のエマさんはそれをこなせる精神状態なのだろうか。

 

 現状果林さんとのいざこざがありそうなこの状況で作詞をやっていくとなると、かえってプレッシャーとなり、どちらも中途半端に取り組むことになる気がしてしまう。

 

 どうやってエマさんに曲を引き渡そうか考えていた時、音楽室の扉が開く音がした。

 

「あっ、輝弥くん。ここに居たんだね。」

 

 音楽室へ入ってきたのは意外にも歩夢さんだった。

 

「歩夢さん? お一人とは珍しいですね。何かありましたか?」

 

「うん、私たちが外で練習してる間、輝弥くんは音楽室で作曲してるって聞いたから一人で大丈夫かなーって……。えへへ、迷惑だったかな?」

 

 歩夢さんは苦笑いしながらそう答える。

 

 一人で仕事をしてる俺をわざわざ見に来てくれたと思うと少し顔が綻んでしまう。

 

「迷惑なんてことないですよ。むしろ気に掛けて下さってありがとうございます。」

 

「ふふっ、よかった。この前は愛ちゃんの曲を作ってたんだよね? 次は誰のを作るとかってもう決まってるの?」

 

 歩夢さんは勉強机用の椅子を俺が座っているピアノ椅子の隣に持ってきて腰掛ける。

 

 礼儀正しく座る姿に歩夢さんの誠実な性格が如実に表れている。

 

「いえ、正直誰を優先にとかっていうのはあまり考えていないんですよ。この前のも曲を作るきっかけをくれたのが愛さんだっただけなので」

 

 俺はメンバーの贔屓をしているような感覚に陥り少しバツが悪い顔をする。

 

 だが、歩夢さんはそんな俺を咎める事は無かった。

 

「そうなんだね。じゃあ、次は誰のっていうのは決まってるの?」

 

「う~ん、そうですね……」

 

 歩夢さんの問いに俺は唸り声を上げながら天井を仰ぐ。

 

「今考えているのは三人なんですよ」

 

「そ、そんなに決めてるの!?」

 

 俺の回答に歩夢さんは少し声を荒げる。

 

 そこまでオーバーにリアクションする事でもないのでは、と俺は歩夢さんの素直な反応に笑みがこぼれる。

 

「はい、一人はエマさん。そして残りはかすみと歩夢さんのお二人です」

 

「わ、私も……!?」

 

 自分も決まっていたことに驚く歩夢さん。

 

「はい、実は侑さんから以前に歩夢さんとかすみが侑さんに向けて自分のスクールアイドルへの想いを歌に込めてくれたという話を聞きまして」

 

「そうなの……!? な、なんだか恥ずかしいなぁ……」

 

はぐらかして話しても歩夢さんならすぐに勘付くだろうと思い、包み隠さず事の発端を話したが歩夢さんは恥ずかしくなってきて膝上で手をもじもじさせている。

 

「でも、決して馬鹿にするつもりで話したわけではないんですよ? 侑さんは歩夢さんのその想いを無下にしたくないつもりで僕に声を掛けて下さったんです。」

 

「侑ちゃんがそんな事を……。」

 

侑さんが俺に託したものを告げ、歩夢さんは少し顔を下げた。

 

「本当に素敵な幼馴染ですね。誰よりも近くで歩夢さんの事を応援して下さるんですから。」

 

「……ふふっ。本当にね。いつも自分勝手に突っ走っていくことが多いんだけど、それでも私の事は決して置いていかないの。」

 

侑さんへささやかな小言を呟いているが、笑顔で語っている歩夢さんはそれを苦には思っていないようだ。

 

むしろ、自分を見たことのない世界へ連れて行ってくれる童話の世界の白うさぎのような存在に感じているのだろう。

 

大人びているようだけれども子供のように無邪気な笑っているようにも見えるそれを見て、俺は歩夢さんに対して興味が湧いた。

 

「……良ければ、もう少し教えてくれませんか? 僕、歩夢さんの事をもっと知りたいです!」

 

「うん! 私で良いなら!」

 

俺のリクエストに歩夢さんが応えてくれる。

 

「でも、輝弥くんの事も沢山教えてね? 私、まだ輝弥くんの事もあんまり深く知ってるわけじゃないから……」

 

「そうですね。教えてもらってばかりじゃ不公平ですし。でも、それこそ僕の方が多分つまらないですよ……?」

 

俺は歩夢さんみたいにいつも楽しい世界へ連れて行ってくれる友人はいなかったし、充実した過去を生きていたかと言われたら首を縦には振り辛かった。

 

「そんな事ないよ。そうやって自分の事を悲観的に考えちゃうのは輝弥くんの悪い癖だよ!」

 

歩夢さんはそんな事ないと眉間に眉を寄せながら異を唱えた。

 

だが、そんな表情もすぐに解いて優しいお姉さんのようなオーラを纏わせる。

 

「それに、輝弥くんの事を知ってるのと知ってないのでは、これから先の信頼関係に関わるんじゃないかなって思うから」

 

「歩夢さん……」

 

「大丈夫。今までがどんなに辛い過去だったとしてもそれは絶対良い方向へ未来が進むきっかけだから、自分の事を卑下しないであげて?」

 

歩夢さんは俺の肩に手を乗せてくる。

 

決して重すぎず、されど軽すぎもしない力の入り方に俺は少し安心感を抱いていた。

 

「……ありがとうございます。僕にこうして親身になってくれるのは、歩夢さんが初めてです。」

 

「そうかな? えへへっ、輝弥くんが弟みたいだから、ついお姉さんみたいになっちゃった。」

 

「って、歩夢さんも僕の事を可愛いって言うんですか!?」

 

「そうは言ってないけど……でも、そう言えるくらいに輝弥くんの事がちょっとだけ分かった気がする♪」

 

「絶対に思ってる表情じゃないですかー……!」

 

優しいお姉さんかと思ったら急に他の人と同じようにからかってくる歩夢さん。

 

だが、かすみ達のそれとは違って決して嫌とは思わず、むしろ歩夢さんならばいいかと許せてしまう自分もいる。

 

「……ってこんなことを話してる場合じゃなかったよね!? ご、ごめんね……つい私もからかいたくなっちゃって……」

 

「そうやって情に訴えてくるのはずるいですよ……」

 

本題から話が逸れ、俺の貴重な時間を無駄にしたと思ったのか、歩夢さんがしおらしくなってしまう。

 

本当にこの人は侑さんが言った通り、表情がころころと変わって見てて飽きない人だ。

 

こういう人が近くに居てくれたらどんなに幸せだっただろうか。

 

そんな達観した考えを抱いてしまうほどに今の時間は楽しい。

 

「まぁ、雑談はこれくらいにして本題に戻しましょう。歩夢さんがスクールアイドルをやろうと思ったきっかけって何なんですか?」

 

歩夢さんの事をからかっても埒が明かなくなってしまうので、俺も話題を戻して仕切り直す。

 

俺からの質問に歩夢さんは人差し指を顎に当てながら考えていた。

 

「うん、私ね、小さい頃から特筆してやりたいことっていうのが無かったんだ。」

 

歩夢さんは再び手を膝の上に置いて、ゆっくり話を始める。

 

「幼い頃からおままごととか女の子が着るような可愛い服を自分で着たり、見たりするのが大好きだった。でも、それって普通の女の子ではよく見る光景だよね。」

 

「そうですね。それが女の子であればよくある特徴だと思います。」

 

確かに侑さんのような明るい元気な女の子であれば外で遊ぶことが多い。

 

だが、それとは反対に歩夢さんのような大人しい女の子ならば、屋内で人形遊びやおままごとで遊んでいる印象がある。

 

なんらおかしなことはないごく普通のことだ。

 

「うん。でも、成長していくにつれて自分にはピンクの服は子供っぽいな、とか少し無理してるんじゃないかなって思うようになって、気が付けばそういった服を買ったり着なくなっちゃったんだ。」

 

確かにそういった服は子供が着るからこそ可愛さが芽生えるものもある。

 

ピンク色の服も子供が着る分には年相応の女の子としてオシャレに目覚めつつあるのかな、と感じてしまう。

 

それが大人になってくると次第に達観するようになり、流石にもう似合わないなどと自分を卑下して遠ざかってしまうようになる。

 

だが、今の歩夢さんは可愛らしい服を着ても違和感はないし可愛いことに間違いはないと思う。

 

だが、人の感覚と自分の感覚というものは絶対に合わないもので、歩夢さんの場合はどう頑張っても謙遜する気持ちの方が勝ってしまうのだろう。

 

「でも、それらを嫌いになったわけじゃないの。ただ、もう自分には似合わないなって思って、普通の女の子を演じてた。」

 

俺は何も言わずに歩夢さんの言葉に耳を傾ける。

 

「だけど、侑ちゃんと一緒にお台場で見たせつ菜ちゃんの姿を見て、凄く感動したの。せつ菜ちゃんは自分の大好きを包み隠さず見ている私たちにぶつけてくれて、自分にはもう……って塞いでた気持ちを開けてくれたの。」

 

「せつ菜さんのお披露目ライブの時……ですよね。」

 

「うん、輝弥くんもいたんだよね? 侑ちゃんが悔しがってたよ。あの時に声を掛けていればもっと早くから仲良くなったのにーー!って。」

 

「あの時は僕もせつ菜さんにしか目が行ってませんでしたからね。お二人の姿も見たのかもしれないですが、記憶になくて……。」

 

自分の記憶力の無さに少しばかり歯痒さを感じたが、歩夢さんは首を横に振って否定の意を示す。

 

「それは気にしないで。あの時は周りに沢山女の子もいたから見つけられないのは仕方ないよ。」

 

歩夢さんはそう言って俺をフォローしてくれると話を戻した。

 

「それでね、私もあんな風に自分のやりたい事を素直にやれたら、どんなに素敵なんだろうって思えたの。それに侑ちゃんと一緒に何かをやるなんてことも今までなかったから、あのライブも見て侑ちゃんも同じ気持ちで……なら一緒にやろうよって声を掛けて、同好会に入ることにしたの」

 

「なるほど、侑さんが同好会に入るように声を掛けたのかと思ったんですけど、意外にも歩夢さんからなんですね?」

 

「うん! 自分一人では勇気も自信もないけど侑ちゃんが一緒に私の夢を見てくれるって言ってくれたから、今ではちゃんと言えてよかったって思ってるよ」

 

俺は歩夢さんの話を聞いて、二人の信頼関係がより素敵に思えた。

 

今までは侑さんの背中をついていくばかりだっただろうに、そんな引っ込み思案な印象のある歩夢さんが侑さんに精一杯の勇気で訴えたのだ。

 

自分の気持ちを素直に話せて、しかもそれに賛同してくれる人というのは早々出会えないと思う。

 

だからこそ、この二人は強固な絆で結ばれていると改めて認識することが出来た。

 

「ありがとうございます。おかげさまで良いメロディーが生み出せそうです。」

 

「ほんと? それならよかったー! 輝弥君が少しでも楽になるように私も頑張るからこれからも一緒によろしくね♪」

 

「はい。こちらこそよろしくお願いしますね、歩夢さん!」

 

歩夢さんが胸に抱いていた想いを聞いて、より歩夢さんに向けた楽曲のイメージを掴んでいくことが出来た。

 

それと同時に歩夢さんの優しくもそれでいて芯が通った性格に俺は好感を覚えるのだった。

 





読んで頂きありがとうございました!

今回は以前のお話で侑ちゃんと輝弥くんで話してた歩夢ちゃんの曲についての話でした。


それと前回の後書きで更新頻度を上げられるかもと言っておきながら、早速それが覆りそうで更新頻度がいつもの週一ペースになってしまうかもしれないです。

楽しみにして下さる皆さんには申し訳ないですが、どうかご理解のほどお願いいたします。

長くなりましたが、引き続きこれからもよろしくお願いいたします。

それでは次回もお楽しみに!
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