虹の袂   作:M-SYA

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お待たせいたしました!

璃奈誕の特別編から時間が空いてしまいすみません!

今回は輝弥くんの家族について分かってきます。

それではどうぞ!


I’m just me.

「そういえば、輝弥くんってどうして音楽に興味を持ったの?」

 

 歩夢さんのイメージを聞きその構想に基づいた作曲案が浮かんできたので早速始めようとした矢先、歩夢さんは今度は自分の番と俺に質問を投げてきた。

 

「僕ですか? あまり大したお話は無いですよ?」

 

「それでもいいよ。さっきも言ったように私が輝弥くんの事を知りたくて聞いてるんだもん。あっ、でも言いづらいならばそれでも無理して言わなくてもいいよ……?」

 

歩夢さんは大丈夫と言っておきながら、俺の事を気遣ってなのかすぐに眉を下がる。

 

どこまでも人の事を考えられる優しい方だなと俺は思わず笑顔になる。

 

「いや、別に特段嫌というわけではないので僕は良いですよ?」

 

「本当? それならよかった!」

 

 俺は了承の意を示すと安心した歩夢さんはすぐに笑顔になった。

 

 本当に見ていて退屈しない方だ。

 

「うちは舞台俳優や音楽関係の仕事をしている家柄で、その関係もあって音楽がいつも身近にあったんです」

 

「そうなの? 輝弥くんの家って結構凄いところなんだね」

 

「でも、両親曰くまだそこまで名は売れてないローカル音楽家と言っていましたけどね。でも、祖母は舞台女優として凄く名の知れた方だったんです。」

 

 俺は音楽の事と一緒にそのルーツとなった家族の事についても話すことにした。

 

「僕は一つ上の姉がいるのですが、姉はそんな祖母の姿を見て将来舞台女優の道に進むと夢を語っているんです」

 

「そうなんだ。お姉さんって事はきっと輝弥くんみたいに美人で素敵な人なんだね!」

 

突然、俺の事を褒めつつ顔も知らぬ姉の姿を想像して心を弾ませる歩夢さん。

 

そんな歩夢さんを他所に俺は目を反らしながら答える。

 

「……僕の事はともかく、姉さんは美人だと思いますよ。」

 

「ふふっ、なんだか慎くん達が輝弥くんの事を可愛いってからかう理由が分かる気がするよ」

 

「べ、別に今はそれは関係ないでしょう!?」

 

歩夢さんから揶揄われて少し顔が熱くなってしまうが、話が脱線してしまったので咳払いをする。

 

「ごっほん。話を戻しますが、僕は家にあったピアノを幼い頃から遊び目的で触っていました。ですが、ゲームや舞台での音楽の良さを知っていくにつれて、自分でも弾いてみたいという欲求が湧いてきて、そこから本格的にピアノを練習するようになっていったんです。」

 

俺は幼い頃に姉さんと一緒に語った夢を思い出しながら、ふと目の前にあるピアノにそっと触れる。

 

鍵盤を叩いていないので音は鳴らずに、その冷たさだけが手のひらに伝わってきた。

 

「お姉さんは舞台に、輝弥くんは作曲家の道にって事だね?」

 

「はい。でも、めきめきと頭角を現す姉さんに嫉妬したり、周囲からそんな優秀な姉と比較されたりなど散々な目にも遭いました」

 

俺は昔の事を振り返り、つい笑顔が消えてしまう。

 

「姉さんはいつも舞台の主演を勝ち取ったり、賞状を受け取ったりと何かしら優秀な成績を収めていましたが、対して僕はそんな事は無く、そんな姉さんの弟という事で周囲からはこちらにも羨望の目が向いてきました。」

 

「…………。」

 

歩夢さんは何も言わない。いつしか笑顔もなくなっており真剣に俺の話を聞いてくれていることが伺える。

 

「お前は何も実績がないんだな、運動神経も中途半端だな、とか……正直言って舞台とは関係のない事でもいちゃもんを付けられてましたね」

 

「そんなひどいことを……」

 

「身内に優秀な者がいるとそうなるんですよ。自分の知らない所で勝手に噂が広がって……勝手に期待して……勝手に失望して……挙句の果てにはそれを揶揄してきて……正直音楽から離れようかな、なんてことも考えてました。」

 

俺は鍵盤を撫でながらそう答える。

 

そして、重くなる空気を変えるように笑みを作る。

 

「ですが、そんな僕に姉さんだけは味方で居てくれていました。僕がどんなに姉さんにジェラシーを感じて距離を離していたとしても、姉さんは決して僕の事を見捨てずに守ろうとしてくれたんです。」

 

「優しい……お姉さんなんだね。」

 

俺が笑顔になったのを見て安心したのか歩夢さんも微笑む。

 

「今の僕がいるのも姉さんのお陰。だから姉さんから受けた恩に報いるために僕はこの学校に来たんです。そして……こうして歩夢さん達という素敵な人たちにも出会えました。」

 

俺はピアノ椅子から立ち、歩夢さんへと向き合う。

 

歩夢さんはその行動に思考を巡らせていた。

 

「姉さんとの夢もそうですが、今は皆さんの為に僕が出来る事を全力でやるつもりです。ですから、これからも……是非こんな僕ですが仲良くしてください」

 

そう言い切ると歩夢さんへ自分の音楽への熱意の再確認も含めて深く一礼する。

 

歩夢さんに言うのも可笑しな状況だとは理解している。

 

だが、こうして自分の過去を話せているのは紛れもない歩夢さんただ一人なのだ。

 

姉との約束、同好会メンバーの約束を果たすためにあの頃の弱かった自分にお別れをするという意志も込めた礼だった。

 

「……輝弥くんも一人で頑張ってたんだね。」

 

歩夢さんの声が聞こえ、俺が顔を上げると歩夢さんも席を立ちこちらへ向き直っていた。

 

「大丈夫。今ここに居るのは一人の男の子、巴 輝弥くんだから。独りで抱え込まないでね。私達……もう友達なんだもん。友達が悩んでる時は傍にいてあげるからいつでも頼ってあげるから、私の時も何かあったら助けてね」

 

歩夢さんは静かにそう言うと俺の頭を撫でてくる。

 

まるで本当の弟をあやすように優しく心地よい気持ち良さだった。

 

いきなり撫でられるものだから俺は心拍数が上がるのを感じるが、姉さんのそれと似た温もりを感じたのか俺は何とも言えない安心感に包まれていた。

 

「もう……撫でないで下さい。恥ずかしいですから……」

 

「でも、輝弥くん、嬉しそうだよ?」

 

「これは決してそういうのじゃないです」

 

「もう、素直じゃないんだから」

 

歩夢さんと恋仲な関係ではないが、そう思わせても可笑しくないやり取りが目の前に広がっている。

 

歩夢さんは俺の扱いを完全に理解してしまったようだ。

 

悲しく思えるが、それと同時に彼女との距離感が一気に縮まったと感じて嬉しくもなった。

 

「でも、輝弥くんの事を知れてよかった。話してくれてありがとうね♪」

 

「こちらこそ話を聞いて下さってありがとうございます。これからも歩夢さんの事、全力でお助けしますね」

 

「うん!」

 

歩夢さんとお礼を言い合い、二人しかいない教室の中でただひたすらに笑い合っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

歩夢さんとの談笑後、部活も終了し俺は帰宅した。

 

「ただいまー。」

 

挨拶をしても返事が返ってくることはない。

 

恐らく次の舞台に向けての練習で忙しくなっているのだろう。

 

「姉さんはまだ帰ってきてないか……」

 

自室で荷物を置き、リビングへ向かうと机の上に一枚のチラシが置いてあった。

 

表紙には姉さんが写っており次の舞台の開催が決定したことを知らせる所謂キービジュアルというものだ。

 

「……本当、姉さんはかっこいいなぁ」

 

チラシを見て思わずそんな言葉を漏らした。

 

普段は穏やかな雰囲気を醸し出しているのに、舞台では別人のように変貌する。

 

そのギャップで観客を虜にして中学校でも密かに人気を集めていた。

 

そんな学生時代で姉さんが輝いていた事もあり、俺は陰の存在となっていた。

 

姉さんが褒められることは苦痛ではない。

 

むしろ嬉しいし誇らしい事だ。

 

だが、全ての人間が純粋な気持ちから姉さんを称賛していたわけではなく、姉さんを引き合いに出して俺の存在を軽んじる人間もいた。

 

それがトラウマとなり俺の胸にはしこりとして残っているが、同時に思い出される言葉もある。

 

 

 

 

「貴方は私の弟……。だけど、貴方は巴 輝弥。それ以上でも以下でもないのよ」

 

 

 

 

「分かってる。俺はあの頃の俺じゃない。もうあんな事に負けるもんか……」

 

「……ただいまー」

 

過去は過去。

 

そう割り切って改めて前に進む決意をしていた時、扉が開く音がした。

 

姉さんが帰ってきたようだ。

 

「あらっ、輝弥。お疲れさま。ごめんね、遅くなっちゃって。」

 

「おかえり、姉さん。全然いいよ、俺もさっき帰ってきたばかりだから。それよりもさ、姉さん次の舞台で主演やるんだね?」

 

俺は置いてあったチラシを手に取り、姉さんへ見せる。

 

姉さんは荷物を置き、夕食の用意をしながらチラシを一瞥する。

 

「えぇ。と言っても、まだ話が決まったばかりなんだけどね。今日はその打ち合わせ」

 

「いよいよ姉さんが主演の舞台を見ることが出来るんだね。楽しみだよ。」

 

「なんだか随分と嬉しそうね?」

 

俺の表情を見て、姉さんはそう呟く。

 

「だって姉さんが主役なんだもん。弟としては誇らしい気持ちでいっぱいだよ?」

 

「急にどうしたの? そうやっておだてても何も出ないわよ?」

 

藪から棒に褒めちぎられて姉さんはつい訝しんでしまう。

 

「いや、改めて姉さんの弟でよかったなって思ってさ」

 

「もう何よ、それ」

 

ますます状況が分からないと姉さんはふふっ、つい吹き出してしまう。

 

「学校で何かあったの?」

 

「あったよ。いい意味で」

 

姉さんからの問いについ含みのある言い方をしてしまう。

 

だが、すぐに切り替えて俺はとある質問を姉さんへ投げる。

 

「ねえ、姉さん。姉さんは……俺が弟でよかった?」

 

「えっ? 本当にいきなり何を言い出すのよ?」

 

突拍子もなく投げられた質問に姉さんもついに心配の眼差しを向ける。

 

だが、そんな表情をされても俺は必死に弁解する様子は見せず、至って冷静に補足をする。

 

「……今日ふと昔の事を思い出してさ……。姉さんと約束した幼かった日の事や眩しいキラメキを見せる姉さんに嫉妬して口を聞かなかった事。あの頃から両親は仕事の関係で家を留守にすることが多くて、姉さんにお世話を焼いてもらっていたのに酷いことをしたなって思って……」

 

うちの両親は音楽関係の仕事に勤めている関係もあり各地へ出向いての仕事が多い。

 

その為、中学の頃からはほぼ姉さんとの二人きりの生活がメインとなっていた。

 

そんな中で学校での出来事もあり、ただでさえ大変な姉さんに更なる心労を募らせてしまったのだ。

 

過ぎたことではあるが、それでも俺の事を見捨てずに付き添ってくれたことは凄くありがたい事なのだ。

 

それを感謝しなければいけないと思い、ついそんな質問を投げてしまった。

 

「もう終わったことよ」

 

「だけど……!」

 

俺が続けて弁解しようとすると姉さんは口に手を当てて制止するように促す。

 

「あの頃は、みんなまだ子供だから言葉が及ぼす影響というものを理解していないだけ。それに貴方がそう言われているのに気づかなかった私も甘かったわ」

 

「…………」

 

俺は何も言わずに姉さんの言葉を待つ。

 

「貴方がそう考えれるようになったって事は貴方も少し大人になったって事かしらね。私は素直に嬉しいわ」

 

「……俺は別に……」

 

「先にあなたの問いに答えておくとね、私は貴方が弟でよかったと思ってる。いや、むしろ貴方じゃなかったら私も壊れていたかもしれない」

 

料理の仕込みが終わり、ヒーターにタイマーを掛けると姉さんはエプロン等を外してキッチンからこちらへとやってくる。

 

「貴方が昔語った夢。私はそれを叶えるために自分に出来る事を増やしていこうと思ったの。私の事を貴方にとって最高のお姉さんとして見てもらいたいもの。辛いときも貴方の言葉が、貴方の笑顔が私を勇気づけてくれたの」

 

「俺が……姉さんに……?」

 

姉さんは俺の横に腰を下ろして正座を組んだ状態で話の続きを喋る。

 

「えぇ。だから、私も貴方が弟でよかったと思ってるし、貴方がこうして音楽の道を走ってくれてることが嬉しいの。だから自分の事を卑下しないであげて?」

 

姉さんは俺の頭を撫でながらそう慰めていく。

 

この年で撫でられるのは恥ずかしいものだが、いつも姉さんから感じていた温かさを久々に感じることが出来たので今日ばかりはつい嬉しくなってしまう。

 

「分かった。ありがとう、姉さん」

 

「こちらこそ気に掛けてくれてありがとうね、輝弥。」

 

姉さんと姉弟の絆を確認し合いほっとしていたら腹の虫が鳴ってしまった。

 

「ふふっ、もう少しでご飯が出来るから食べましょうか」

 

「ははっ、うん」

 

突然のヘンテコな音に思わず笑い合い、ご飯の準備を進める。

 

それから姉さんと一緒に食べたご飯はいつもよりも美味しく感じたのだった。

 

 




読んで頂きありがとうございました!

輝弥くんや珠緒姉さんとの過去について、少し掘り下げる回となりました。

次回もお楽しみに!
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