虹の袂   作:M-SYA

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大変長らくお待たせいたしました。
ほぼ一ヶ月開けてしまいすみませんでした。

本編に入る前に一点だけご連絡します。

既に気付いている方もいらっしゃるかと思いますが、創作アカウントとしてTwitterでアカウントを立ち上げました。

そちらで創作の事を喋っていきますので是非気になる方はフォローしてくださいませ。
リンクはホームに掲載してますのでよろしくお願いします。


それでは本編をどうぞ!


癒してあげたい

 歩夢さんと二人で昔話に花を咲かせた次の日。

 

 昼休憩となった先で俺が向かったのは食堂ではなく音楽室だった。

 

 いつもなら慎やしずくさん達と一緒にご飯を食べるのだが、今日は少し違った。

 

「さてと、エマさんが来るまで……」

 

 そう、今日はエマさんを音楽室へ呼び出しているのだ。

 

 理由は昨日の夜に考えた楽曲案を聞いてもらう事。

 

 そして、もう一つの彼女と友人についての事。

 

 エマさんが果林さんとの間に抱えている蟠りを払拭しなければ、彼女は心の底からスクールアイドルを楽しむことが出来ないのではないか、そんな事を考えていた。

 

「かーくーん! お待たせー!」

 

 姉さんに作ってもらったお弁当を先に開けておこうと思った矢先にエマさんが息を切らしながら入ってきた。

 

「エマさん、お疲れ様です。急にお呼びしてすみません」

 

「ううん、気にしないで! 折角のかーくんからの誘いなんだもん! むしろ誘ってくれてありがとうね♪」

 

 朝に突然チャットで昼食の誘いをしてしまったので、急な予定を入れてしまい少し申し訳なさを感じているがエマさんは気にさせまいと笑顔で感謝を述べる。

 

 その振る舞いから昨日の出来事から果林さんとのいざこざが続いているようには見えない。

 

「いえいえ、そう言って下さるならお誘いした甲斐がありました」

 

「ふふっ、それで今日はどうしたの? かーくんが一緒にご飯を食べようなんて珍しいね?」

 

 エマさんが本題へと切り出した。

 

 彼女の問いに俺は特に慌てる様子も見せず、弁当を静かに開封する。

 

「ちょっとやりたいことがありまして、それに向けてお話をしがてら一緒にご飯も食べたいと思いまして」

 

「やりたい事?」

 

 俺の話にエマさんは頭にハテナを浮かべているが、エマさんのお腹から虫の音が聞こえてきた。

 

 その気の抜ける音を耳にして、俺は思わず笑みがこぼれてしまった。

 

「……積もる話も後にして、まずはご飯を食べましょうか?」

 

「あははっ……そうだねぇ……」

 

 エマさんは少し慌てたように鞄から昼食を取り出す。

 

 心なしか顔が赤くなっていた。

 

「エマさん、それは購買で売ってるパンですか?」

 

「うん! 食堂以外で食べる時は購買のパンを買ってくるんだー♪」

 

 エマさんが取り出したのは綺麗に包装されたホットドッグだった。

 

 しかし、彼女が出したのはその一本のみで他にパンを取り出す素振りは見せなかった。

 

「あれっ? お昼ご飯はそれだけですか?」

 

「えっ!? んーん、まだ鞄の中にあるよ! いきなり机に広げたらはしたないかなって思って……」

 

 エマさんは鞄の中にまだパンは残ってることを示すように側面を叩く。

 

 袋の擦れる音が聞こえてきて、まだ三、四本は入っていることが予想できた。

 

 そして、今度は自分の番とエマさんが俺の弁当を舐めるように見渡した。

 

「それにしてもかーくんのお弁当も美味しそうだね! これってお母さんに作ってもらってるの?」

 

「いえ、このお弁当は姉に作ってもらったんです」

 

「えぇー!? かーくんってお姉ちゃんがいるの!?」

 

 身内の事を話すとエマさんは目玉が飛び出るんじゃないかという勢いで驚きの声を上げる。

 

 歩夢さんはころころと表情が変わるけど、エマさんは一回のリアクションが大きいのでこれもまた見ていて飽きないものだった。

 

「……そんなに驚くことです?」

 

「驚くよ~! だってお弁当をお姉さんがいつも作ってる事もそうだけど、かーくんが姉弟だったっていう事にもびっくりだもん!」

 

 俺はそれに対しての共感を覚えられずにいたが、エマさんは口早に捲し立ててきた。

 

「エマさんも沢山の弟妹がいると仰ってたじゃないですか。それと同じことですよ」

 

「それはそうだけど……。でも、かーくんがこんなに素敵なんだもん! きっとお姉さんも同じくらい美人だなって考えたら、もっと羨ましいなって思っちゃって……」

 

 自分が褒められるのはむず痒くなってしまうが、姉さんが美人なのは認める。

 

 女子高に通っているので異性との色恋沙汰は聞かないが、共学校に通っていたらきっと姉さんに惚れる男は数多くいたことだろう。

 

 尤も姉さんはそこいらの男に目もくれないだろうし、俺もおいそれとは認めはしないだろうが。

 

「もう、僕の事は良いですよ。それよりも早くご飯を食べちゃいましょ?」

 

「あっ! うん、そうだね! 折角のかーくんとの時間なんだもん、沢山おしゃべりしたいな♪」

 

 

 

 

 

 

 

 その後、食事中にエマさんと沢山の事を話した。

 

 エマさんが何のためにこの学校に来たのか、どうしてスクールアイドルになりたかったのか。

 

 普段は話を聞いてくれる立場だったエマさんが自分の事を話してくれることに嬉しさを覚えていた。

 

 海外にまで伝わっているスクールアイドル。

 

 それを見てエマさんはやりたいと心から願い、日本にやってきたのだ。

 

 その行動力は尊敬に値する。

 

 以前に話していたホームシックは無いことも本当に凄いことだと思う。

 

 俺の場合だと、何も状況が分からずに慌ててしまう未来しか見えない。

 

 いや、エマさんの場合は自分から退路を断つ意味も込めて日本に来る決断をしたのかもしれない。

 

 国を超えれば身近な人に頼ることは出来ない。

 

 自分の力で何とかしなければ自分が生きていけなくなるのだ。

 

 そう考えると誰よりも胆力のあるたくましい方だと改めて実感する。

 

「ふぅ~、お腹いっぱい♪」

 

「エマさんの話を聞いてる内にご飯が無くなっちゃいましたね」

 

 俺はそう言いながら自分の弁当を見つめる。

 

 普段は食堂で昼食を取っているが、今回はエマさんとの時間を何よりも大事にしたいと姉さんに頼んでお弁当を作ってもらった。

 

 姉さんはいつもと違う俺の要求に戸惑いを見せながらも快く引き受けてくれたが、多く作り過ぎてしまったかもと心配していたのだ。

 

 だが、そんな心配も一緒に飲み込むほどにただただエマさんとの時間が楽しくて、食事が進んでいたのだ。

 

「にしても、エマさんって本当にスクールアイドルが好きなんですね」

 

「うん! やるからには後悔したくないから今しかできないことを全力で楽しみたいからね!」

 

「……今しかできないこと……か……」

 

 エマさんのその言葉を反芻し、俺は一人の生徒の顔を思い浮かべる。

 

「かーくん?」

 

「エマさん、スクールアイドルをこのまま続けてもいいんですか?」

 

「えっ?」

 

 突然の俺の質問にエマさんは頭の整理が追い付かず、つい聞き返してしまう。

 

「このまま一人でスクールアイドルをやってもいいんですか?」

 

「かーくんどうしたの? 一人でって私たちはソロアイドルを……」

 

「そういうことじゃないです」

 

 エマさんは薄々俺の言いたい事を感じてか、とぼけたような反応を見せるが俺は一蹴する。

 

「……果林さんの事、何か考えてるんじゃないんですか?」

 

「……っ」

 

 エマさんは触れられたくなかったように悲しげな表情をする。

 

「……昨日のあのやり取り、普段のお二人なら考えられないんじゃないかなと思ったんです。果林さんはどんなことがあってもエマさんのお力になりたいと仰っていましたし、エマさんには相応の信頼を寄せていたと思います。……なのに、あの突き放し方は友人のそれとは思えませんでした……」

 

「かーくん……」

 

「それに最近、思い出したことがあったんです」

 

 俺の言葉にエマさんは首を傾げる。

 

 そして、俺はため息を吐きながら呆れるように笑顔を作る。

 

「果林さんって同好会のメンバーじゃなかったんですよね……」

 

「あっ……」

 

 エマさんは俺の言葉にはっとしている。

 

 それは自分の考えが甘かったことを突きつけられてショックを受けているのか、自分と同じ考えを持った人が見つかって嬉しくなっているのか、すぐには読み取れなかった。

 

「果林さんといる時間って凄く楽しいんですよね。僕らとも仲良くして下さるし、メンバーの事をかなり見ていらして、沢山アドバイスもくれる。いつの間にか同じ部活のメンバーであるものだと錯覚してました」

 

「かーくんも……そうだったんだね……」

 

 エマさんの感情はどうやら後者だったようだ。

 

 俺と同じ考えで安心したのかつい笑みがこぼれていた。

 

「僕、エマさんも同じことを考えていたと思ったんです」

 

「えっ?」

 

「この学校に来て最初に出会えた友達がこうして仲良くなった部活の後輩と親身な関係でいてくれること。大好きな友人と一緒に同じ時間を共有できていたこと。エマさんは僕が抱く楽しいという感情より何倍も強い感情を抱いていたのじゃないかなって」

 

「……私も思ってたんだ。果林ちゃんは同好会が無くなろうとした時もいつも私の隣で微笑んで見守ってくれてて、かーくんたちと行動を共にするってなった時にも変わらず率先して動いてくれてた。だから果林ちゃんも同じ気持ちだったんじゃないかなって……」

 

 エマさんの言葉を聞きながら、俺は過去の果林さんの行動を振り返った。

 

 しずくさんから同好会活動停止の話を聞いて憤慨していた所を横から入りエマさんの為に、と精力的に活動していたところ。

 

 せつ菜さんに立ち向かうためにメンバーを集める所からと彼方さんから探すべきでは、と提案してくれたところ。

 

 彼方さんと璃奈と俺が筋トレに悪戦苦闘している中、愛さんや慎と一緒にどうすれば効果的に練習が出来るかを考えてくれたところ。

 

 どれを取っても、ただエマさんの為だけという言葉で片付けられるものではないと俺は確信めいたことを持っていた。

 

「でも、果林ちゃんはそうじゃなかったみたい……。果林ちゃんは私のためを思ってやっただけって言ってたから、私だけが舞い上がってたみたい……えへへっ、なんだか恥ずかしいね」

 

 自分の思い上がりだったことを思い知らされたエマさんは照れ隠すように頭を掻きながら笑ってみせる。

 

 そんなエマさんを見て、ふと立ち上がる。

 

「本当にそうでしょうかね?」

 

「えっ?」

 

 俺の言っていることが分からず、困惑するエマさん。

 

 そんなエマさんを置いて、俺はピアノの方へと向かう。

 

「本当にエマさんの為だけなら、自分から生徒名簿を取りに行くなんて博打を仕掛けないと思いますよ?」

 

 俺は以前に生徒会室から生徒名簿を持ち去り、せつ菜さんの正体を追っていた時の事を思い出した。

 

 あれは生徒の個人情報が掲載されている秘匿性の高い文書であるため、それを生徒会長の許可なく持ち出すことはどのような理由があろうと始末書を書かされてもおかしくはないバツのはずだ。

 

 そんな自分の得にならないハイリスクな行為を、人の為だけで動けたというのならば果林さんは相当なお人好しという事だ。

 

 だが、これまで一緒に活動してきたからこそ果林さんはそんな理由だけで動く人物ではないと自信を持って言える気がした。

 

 時に姉御肌として俺達の事を優しく見守り、時に客観的な意見から歯に衣着せぬ発言で俺達を叱責するところ。

 

 それは密かに自分も楽しいと感じたからこそ出た愛なのではないか、そう考えていた。

 

「そうかな……」

 

「きっとそのはずです。……実は果林さん自身もこの中に自分が入っていないことから劣等感みたいなものを抱いている可能性だって……」

 

「そんなの……」

 

「はい、分かるはずがないです」

 

 果林さんの心が分からず不安になっていくエマさんに俺ははっきりと言い切る。

 

「正直、僕なんかが言っても果林さんは理由を話してくれるとは思えません」

 

「…………」

 

 手を膝の上でもじもじさせているエマさんに俺は手を差し出した。

 

「そこで、エマさんの番ですよ」

 

「……私?」

 

「はい。エマさんなら果林さんも信頼してる。エマさんが胸の中に抱いている感情を果林さんに負けない気持ちでぶつければ、果林さんもそれに応えてくれるはずです」

 

「かーくん……」

 

「エマさんにこの歌を送ります。エマさんの持ち味を考えた時にこんな曲ならエマさんにぴったりだと思って完成させたんです」

 

 俺は昨日まで聞いていたスイス民謡のフレーズも織り込んで作った曲をエマさんに聞かせてみせた。

 

 俺のピアノ演奏中、エマさんは一言も言葉を紡がずに俺を見つめていた。

 

 それは感動のあまり圧倒されているのか、果林さんの事を考えて曲が耳に入っていないだけなのかはエマさんのみぞ知るだ。

 

 だが、どのような事を考えていようとこの方法がエマさんには届くと思った。

 

 エマさんはスクールアイドルとして沢山の人の心を温かくしてあげたいと言っていた。

 

 ならば、言葉で訴えかけるよりもスクールアイドルとしてのエマさんを見せつける方がより効果的だと感じた。

 

 まさに論より証拠。

 

 想いをぶつけるというのも結果を見せて相手を納得させる方が早いと感じたのだ。

 

 まもなく演奏が終わり、俺は再びエマさんに向き合った。

 

 エマさんは感動からか口を半開きにしながら俺の演奏に対して小さく拍手を送ってくれる。

 

 エマさんのささやかな拍手に俺は一礼した後に、鞄から一枚のCDを差し出す。

 

「これが今披露した曲です」

 

「今の曲がこの中に入ってるの?」

 

「はい。ですが、歌詞はついていません。それをエマさんが完成させるんです」

 

「私が……」

 

 エマさんは受け取ったCDを見つめながら不安げに呟く。

 

 まだ弱気になっているエマさんに俺は跪いてエマさんへと向き合いCDを握っていない左手を握る。

 

「誰よりもスクールアイドルの事が大好きなエマさんなら絶対大丈夫です。僕が保証します」

 

 エマさんははっとした表情をするが、すぐに笑顔になる。

 

「ふふっ、ありがと、かーくん。かーくんがここまでしてくれたのに私が一歩を踏み出さないのはずるいよね」

 

 エマさんはCDを膝の上に置き、両手で俺の手を握り返してくる。

 

「もう少し、自分の中で気持ちを整理してみるね。まだ、この曲に合う歌詞が作れる自信はないけどもう一度自分がやりたい事を考えてみるね」

 

「……はい、まずは自分の中で答えを見つける所からです」

 

「ありがと、かーくん♪」

 

 エマさんから迷いの晴れた清々しい笑顔をぶつけられるが、俺はそれよりも気になっていることがあり、そちらに意識がいっていた。

 

「……お礼はいいんですけど、そろそろ手を離してくれませんか……? なんだか恥ずかしくなってきました……」

 

「えっ!? かーくん、自分で握ってきたのに!?」

 

「そ、それは言わないで下さい……! そうなんですけど、いざ言われるとかっこつけちゃったなって思って余計に……!」

 

 つい出来心から出た行動を思い返し顔が熱くなってきた。

 

 そんな俺を見てエマさんは手を離した。

 

 密かにほっとする俺だったが、その次に俺の頭を撫でてきた。

 

「そんな事ないよ。かーくんに言われなければ私はずっとうじうじと後ろを向いてたところだったから、かーくんのお陰だよ♪」

 

「な、ならよかったです……」

 

 手を握られる以上の事をされてしまい、さらに俺は落ち着きが無くなっていた。

 

 そして、半ば強制的にやめさせるように俺はその場から立った。

 

「で、では、今日の練習も曲作りを主軸でやっていきますよ! それではお時間も少なくなってきたので、僕はこれで失礼します!」

 

 恥ずかしさからこの場を早く立ち去りたいと気が急いてしまった俺は放課後の練習方針だけ伝え荷物を纏めてそそくさと音楽室を出てしまった。

 

「……本当にありがとうね、かーくん」

 

 一人取り残された音楽室でエマさんはただ一言だけ、微笑むように俺が去った方面を見ながらそう呟いた。

 

 

 





読んで頂きありがとうございました!

気が付けばあと2週間弱で今年も終わり……早い事ですね……。

今年に入ってから始まったこの小説もあと1ヶ月で1周年です。
いつも読んで下さっている方々は本当にありがとうございます。

これからも精一杯執筆していきますので是非付いて来てくださいませ。

それでは次回もお楽しみに!
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