今年もいよいよあと二日となりましたね。
2021年に入ってから始まったこの小説ですが、皆様のお陰で止まることなく続くことが出来ました。
来年も引き続き書いていきたいと思いますのでどうぞお付き合いください。
それでは本編をどうぞ!
エマさんと一緒に昼食を取った日の放課後、俺達は学園の校庭でエマさんのプロモーションビデオ撮影の準備をしていた。
昨日の服飾同好会でエマさんに似合いそうな服装をピックアップして、今度はそれを試着した状態で撮影に臨もうという話になった。
服飾同好会の人達は、自分たちの用意した衣装がこういった形で活用されるなら拒否する理由はないという事ですぐに了承の意を示してくれた。
エマさんも再び沢山の衣装を着れることを嬉しく思っていたが、流石に借り物という事もあり衣装に着替えた後は極力汚れが付かないように慎重に行動していた。
「エマさん。その衣装、凄く素敵ですよ!」
「ありがとう、侑ちゃん♪ 今日の撮影は成果が得られるように頑張るよ!」
侑さんからの励ましの言葉にエマさんは笑顔で答える。
お昼に二人で話をした影響もあってか表情は明るい印象だった。
「エマっちは白いドレスも似合うね!」
「うん、女神様みたいで凄く綺麗。可愛い」
エマさんは白を基調としたドレスに身を包んでおり、愛さんと璃奈はその姿を絶賛していた。
そして、彼方さんが手に何かを持ちながらエマさんの元へと駆け寄った。
「エマちゃ~ん、これを頭に付けてみたらもっといいんじゃないかな~?」
彼方さんはそう言いながらエマさんの頭に三葉で作ったリングを乗せた。
白いドレスに三つ葉のリングを被ったエマさんはギリシャ神話に出てくるような女神そのものだった。
「うん、凄く良いですよ。エマさんの雰囲気に合っていて僕は好きです」
「さっきよりも凄く可愛い! う~ん、ますますときめいちゃうね~!」
俺が称賛を述べると侑さんもカメラをセッティングしながら感嘆の声を上げていた。
「えへへ♪ 彼方ちゃん、ありがとう」
「むふふ~、果林ちゃんに負けじとエマちゃんに似合うものを選んでみたよ~♪」
果林さんは昨日の試着会の時にエマさんに似合う服をチョイスして、読者モデルと呼ばれる所以のセンスの良さを見せていた。
彼方さんもそれに負けじとエマさんと相性が良さそうなアクセサリーを探してくれたようだ。
「じゃあ、エマさん。準備はいいかな?」
「…………」
撮影に向けて準備万端となったところでエマさんに声を掛けるが当の本人は突如顔を俯かせてしまい、俺の合図に返事をしなかった。
「エマさん?」
「……えっ!? どうしたの!?」
「こちらの台詞ですよ。今から録画を開始しますよ?」
いきなり声を掛けられて驚いた様子のエマさん。
こちらとしては突然大きな声を出されて内心驚いていた。
今から撮影を始める旨を伝えるとエマさんは気を落ち着かせようと深呼吸した。
「あっ……ふぅ……。うん、ごめんね?」
「はい、それじゃあ行きますよー?」
エマさんの様子を見てスタートできると判断した俺は指で三、二、一とカウントダウンした後に録画開始のボタンを押した。
「……虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会に所属しています、エマ・ヴェルデです。国際交流学科の三年生でスイスからやってきました」
いつものエマさんらしい明るい挨拶で始まった自己紹介だが、カメラの前で聴いている俺の後ろで彼方さんと侑さんがひそひそとエマさんの様子について話をしていた。
「なんだか元気が無いですね?」
「んー、お眠なのかなぁ~……?」
流石に動画撮影をしている中で眠くなるのは彼方さんくらいだとは思うが、エマさんが心ここに在らずとなっている要因は薄々分かっていた。
恐らく先ほどの彼方さんの口から出てきた果林さんという言葉だろう。
勿論、果林さんと喧嘩をしているわけではないが、それでも気掛かりになっていることは事実だろう。
どうすれば果林さんと話が出来るのか、お昼に渡した楽曲の事も考えた上でまだ答えが出ていないのだと思う。
しかし、原因が分かったところで俺には何も手助けができない所が非情にも現実だ。
二人の間に起きている問題に口出しをするのは野暮というもの。
仲裁した所で二人きりだからこそ出来る話を断ち切ってしまう事になる。
ここはエマさん自身の力で切り開いていくしかないのだ。
「……こんな私だけど、応援してくれたら嬉しいな。改めてよろしくね♪」
そんなこんなで気が付けば締めの言葉に移っていたので俺は切りのいいタイミングでカメラの録画ボタンを押して撮影を終了する。
撮影が終了して気が抜けたのかエマさんは笑顔を保ったままだがふにゃっと力が抜けているようだった。
「えへへ、どうだったかな?」
「うん、内容としては良いと思いますよ。エマさんが目標としている事やエマさんから感じ取れる雰囲気を掴み取れた気がします」
エマさんからの確認に俺は嘘偽りのない感想を伝える。
内容としては沢山の人に見てもらう分には申し分ない。
しかし、それも内容は、という所だ。
「ですが、表情や仕草が少し心ここに在らずと言った印象を与えてしまうかなと思いました。侑さん達はどうですか?」
「……そうだね、私もかーくんと同じようにいつものエマさんらしさを感じなかったかな。いつもはもう少し元気に笑顔を向けてくれてる印象だったけど、今は無理してるように感じました」
「彼方ちゃんも同意見かな~」
俺はエマさんの話し方に感じた違和感や改善点について伝える。
そして、自分の意見だけを押し付けるわけにはいかないので侑さんと彼方さんにも意見を仰いだのだが、どうやら二人も同じことを感じていたようだ。
「……そっか……」
俺達三人の率直な意見を聞いてエマさんは顔色を悪くする。
「あっ……も、もちろんこれは自分たちが感じたことなのでエマさんが良いと思ったなら、それは否定しませんが……」
そんなエマさんを見て余計な心痛を増やしてしまったと思い、俺はつい慰めの言葉をぶつける。
が、エマさんは首を横に強く振りそれを否定した様子を見せる。
「んーん、かーくんたちが全員そう感じてるって事はきっとそうなんだよ。みんなさえ良ければもう一度撮り直してもいいかな?」
「……分かりました。余計な事を言ってすみませんでした」
「全然いいよ♪ むしろかーくんは気を使ってくれたんだよね。かーくんにそうやって気を使わせちゃうなんて私もまだまだだね……えへへ」
俺は先ほど放った慰めの言葉が返ってエマさんに不安を与えてしまったと思い、謝罪の言葉を述べる。
だが、エマさんはそれを気にしてないことを示すように先ほどの張ったような笑顔とは違ういつものエマさんの暖かな笑顔を向けてくる。
これが本番でも見せることが出来れば文句ないのだが、そう思い通りにいかないのが現実というものだ。
「いえっ……僕が変に気を張り過ぎてるだけです。では、もう一度行きましょうか」
こうしてエマさんの動画撮影は続いたのだが、なかなか納得のいく内容になることはなかった。
気持ちを切り替えようと一時動画撮影を中断していた時、エマさんは忽然と校庭から席を離してしまったので居場所を探していた。
俺は普段とは違う場所で風を感じていると思い、教室棟の屋上に来ていたと予想したがそこには誰もいなかった。
「屋上にいないということは……部室かな……?」
エマさんの居場所に予想をつけられるのはここと部室くらいしか俺には出来なかった。
屋上を後にし、部室棟へ向かおうと足を運ぶと部室棟の入口で侑さんと歩夢さんが歩いていた。
「侑さん、歩夢さん!」
「あっ、かーくん! どうしたの?」
俺の声を聞いて振り返る侑さんに部室棟へ来た目的を伝える。
「エマさんを探しているんですが……お二人は見かけませんでしたか?」
「実は私たちも探してる所なの。侑ちゃんからエマさんの事を聞いて何か悩みでもあるのかなって思って、もしかしたら部室にいるのかもってこっちに顔を出したんだ」
どうやら歩夢さん達も目的は同じだったようでエマさんを探していたようだ。
「そうですか、僕も部室へこれから顔を出そうと思っていたのでタイミングが合ってよかったです」
「なら一緒に行こうよ! 歩夢の曲の事についても聞きたいしさ!」
「僕は一向に構いませんが歩夢さんは大丈夫ですか?」
侑さんの突然の提案に俺は賛同の声を上げるが、歩夢さんの意向も確認する。
「私も全然大丈夫だよ! ちょっと恥ずかしいけど侑ちゃんだったら……!」
どうやら歩夢さんも問題はないようだ。
「分かりました。では、状況だけでもお話しておきますね」
こうして俺と歩夢さんによる楽曲制作の進展を侑さんに話すことにした。
部室へ向かう途中、紆余曲折を経て作曲の方向性が決まったことを報告したら侑さんは安心したように頷いていた。
「そっか、歩夢がスクールアイドルに興味を持った動機も含めて曲に織り込もうとしてるんだね」
「はい。歩夢さんが自分から動いて侑さんをスクールアイドル同好会に誘ったという事には驚きましたが、それと同時に僕は歩夢さんへの印象も改めることが出来た良いきっかけにもなりました」
「えっ、そうだったの!?」
思わぬ告白に歩夢さんは驚きの声を上げた。
「実はそうなんです。僕、歩夢さんの事を最初は侑さんに付いてきてスクールアイドルになったんだと思っていました」
俺は歩夢さんへの第一印象について話し始めた。
初めて歩夢さんを見た時、幼馴染である侑さんと一緒の部活で楽しく過ごしたいという至ってシンプルな気持ちからここに来たのかと思っていた。
勿論、それは決して悪い事ではない。
むしろそういった理由も部活に入る動機としては申し分ないものだ。
だが、友人である侑さんは同じ動機なのかと言われたらそれは確証を持って答えることは出来ないだろう。
「侑さんがスクールアイドルに対して凄く熱心でしたし精力的に取り組むんだろうなって事は伝わってきたんです。ですが、対して歩夢さんはまだそういったわけでもなかったので、果たして同好会の練習についてこれるだけの気持ちがあるのかを少し疑問視している部分があったんです」
実際、友達と一緒に始めたがそれはわいわいやるだけのもので考えており、真剣なレベルのそれを想像していなくてあまりの練習の厳しさに耐えられずに部活をやめてしまうという例も少なくはないだろう。
歩夢さんもそれと同じ類いのものと思って少し心配にはなっていた。
「そっか、輝弥くんはそうやって思ってたんだね」
「す、すみません……先輩に対して凄く失礼なことを言って……!」
「んーん! 気にしないで? 確かに私はスクールアイドルに関しては初心者だし、実際侑ちゃんやみんなの指示で活動しているところはあるから……」
歩夢さんへ無礼を働いてしまい慌てながら謝罪を述べたが、歩夢さんは気にしないでと声を掛けてくれる。
本人もそれは自覚していたようで、あははと苦笑しながら自分の活動について振り返った。
「でも、自己紹介動画や楽曲制作を一緒にやってきて、それは違うんだってことを知る事が出来ました。自分の強みを見つけられないながらも決して努力を怠らない姿や一人で取り組んでた僕に声を掛けて傍で励ましてくれる姿。それは歩夢さんにも本気で頑張りたいという気持ちがあるから起こせることなんだと思ったんです」
昨日、歩夢さんが自分を気に掛けて探してくれたことや俺の過去の事について話した時を思い出しながら歩夢さんの魅力を熱弁していた。
あの出来事があったから歩夢さんの事をもっと知ることが出来たし、彼女の為に良い曲を作りたいとより強く決心することが出来たのだ。
「そこまで言ってもらえるのは嬉しいけど、な、なんだか恥ずかしいよぉー……!」
「確かに誰よりも努力家な所は歩夢の一番の強みだよね。実際それで勉強面も成績は優秀な方だし」
少し顔を赤くしている歩夢さんを他所に侑さんは思い出すように顔を上に向け、歩夢さんの特徴について振り返っていた。
「それに事ある毎に表情がころころと変わる所も凄く表情豊かで魅力的なポイントですよね?」
「あっ、やっぱりかーくんもそれは分かる?」
「それはもちろん」
そして、少し揶揄うように歩夢さんの愛嬌あるポイントに付いて話した。
侑さんもそれを直ぐに感じ取ったようで悪戯っ子のような表情をしながら共感してくれる。
「も、もう二人してからかうのはやめてよぉ~!」
歩夢さんは大きめに声を上げて俺達の肩をポコポコと叩いたのだった。
三人で同好会の部室へ到着し、扉を開けると中にはエマさんが立っていた。
「エマさん、お疲れ様です!」
「あっ、侑ちゃん。それにかーくん達もどうしたの?」
窓から外を眺めていたエマさんはこちらへ振り向く。
エマさんの問いに侑さんと歩夢さんが答えてくれる。
「だってエマさん、休憩に入ってから全然帰ってこなかったから何かあったのかなって思って」
「大丈夫ですか? 具合が悪いとか無いですか?」
「んーん、大丈夫。心配かけちゃってごめんね。本当はみんなの心もぽかぽかにしてあげられないといけないのに……」
身体に異常が無いことを教えてくれるが、途中で俺達から目線を外して俯くような表情をするエマさん。
そんな様子を見て侑さんは疑問の声を上げる。
「エマさん?」
「あっ、ううん、なんでもないの! 撮影頑張らなきゃだよね!」
エマさんは笑顔を作り部室を出ようとするが、侑さんが机の上に置いてある誰かの鞄を見て興味を示した。
「あれっ、これって最新号?」
「そうだよ、もしよかったら読む?」
どうやら鞄はエマさんのもので中には昨今のスクールアイドル事情を掲載している雑誌の最新刊のようだ。
エマさんの許可を貰って侑さんは雑誌を手に取り中身を読んでいたが、その最中で雑誌の間から一枚の紙が落ちた。
「ん? なんだこれ……?」
何かイベントの応募用紙のようなものを想像しながら用紙を拾い内容を確認すると、その予想とは大きく異なるものだった。
「っ!? エマさん……これ……!?」
「うん? ……へっ……?」
書かれている内容を見せるとエマさんに見せるとエマさんも驚きの声を上げた。
その表紙には名前の記入欄に「朝香果林」と記載されたアンケート用紙が挟まっていた。
どうして果林さんのものが混じっているのかは不明だが、エマさんの反応を見る限りおそらくこの雑誌は元々果林さんが所持していた物だろう。
だが、今は誰の所有物であったかという話はどうでもよい。
問題はそのアンケート用紙に記載されている内容だ。
アンケートの内容はモデルのプライベートに迫るものとなっていた。
最初の質問は「モデルとして心掛けていることは?」という内容だが、それには「毎日ストレッチすること」と果林さんらしい回答が書かれていた。
そして、次の質問で「今、一番興味があることは?」の質問に対して果林さんが答えていた内容をエマさんが復唱する。
「……
その次にある「休みにやってみたいことは?」に対しては「友だちと思い切り遊ぶ、お台場でブラブラ食べ歩いたり」と普段は聞くことが出来ないであろう内容がそこには書かれていた。
「これって……」
「果林さん、僕らの知らない所でこんなことを書いてたんですね」
昨日、エマさんに対して素っ気ない態度を取っていた人が書いていたとは思えない内容だが、わざわざ興味があることにスクールアイドルと書くという事は本人にその気はあるということだろう。
「エマさん、これは本人の望みを叶えてあげるチャンスじゃないですか?」
「えっ?」
「まだ、今日の時点でエマさんの中にも迷いがあったはずです。であれば、それを払えるチャンスだと思いますよ」
先ほどの撮影時点では、まだエマさん自身も悩みに悩んでいたはず。
この用紙を見れば果林さんに対して次に何をするべきか、それは明白なはずだ。
「果林ちゃん……」
俺の言葉に聞いてエマさんは用紙を見つめる。
そして、真剣な表情のまま幾ばくかの静寂が流れる。
「……うん……私、いってくる!!」
「へっ!? え、エマさん!?」
エマさんは決心がついたのか、用紙と鞄を抱えて部室から立ち去ろうと駆け出した。
侑さんは驚きの声を上げるが、エマさんは足を止める事は無い。
いや、エマさん自身が俺に対して言うことがあったのか、そこで足を止めた。
「かーくん! ……ありがとう」
エマさんはただ一言、俺を見ながらそうお礼を言い部室外へ出た。
「……待ってます」
俺はエマさんに届いていないことを承知の上でそう呟いた。
「さあ、エマさんは急用が出来て早退したという事にして、僕たちは練習を再開しましょう!」
そして、扉の方を見て呆然としている侑さん達へと振り返り、練習を再開するように促す。
だが、今日の練習の本題であるPV撮影が疎かになってしまい歩夢さんは不安になる。
「で、でも、エマさんのPV撮影は……?」
「それはきっと大丈夫です。エマさんならば……」
俺はスクールアイドル雑誌を手に取りながら、エマさんの成功をただただ祈るのみだった。
自信からか不安から来るものか分からないが、雑誌を握る力が強くなっており少し表紙に折り目が付いてしまっていたのはここだけの話。
読んで頂きありがとうございました!
エマ編もそろそろ佳境に入るので、もう一話投稿できればと思っておりますが、そこは私の気力次第といった所です……。
また、今年一年、『虹の袂』を読んで頂きありがとうございました。
10月以降は中々本編を更新できず、非常に心が痛い状態でした。
来年も早々はあまり更新速度をあげられないかと思いますが、出来る所で投稿できればと思いますので、引き続き本小説をご愛好頂けると嬉しいです。
改めて今年一年大変お世話になりました。
来年もよろしくお願いいたします。
それでは次回もお楽しみに!