虹の袂   作:M-SYA

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お待たせいたしました!

新年一発目の投稿です。皆様、改めてあけましておめでとうございます。

今年も本作を沢山更新出来たらと思っておりますので、是非楽しみにしていって下さい。

それでは本編をどうぞ!


今だからこそ出来ること

エマさんが部室からいなくなった後、練習内容を変えるとしてせつ菜さんから指示があった。

 

せつ菜さんは急にいなくなったエマさんに苦言を呈していたが、本人の事情が事情なので今回は目を瞑ると言っていた。

 

このツケとして次回の練習で今日と同じミスをしたら罰を考えておくと言っていたので密かにぞっとしたのはここだけの話。

 

俺は歩夢さんの曲を作ろうかと思い、音楽室へ行こうとしたが慎に引き留められる。

 

「輝弥~、一緒に外へ行かねえか?」

 

「外?」

 

突拍子もなく受けた誘いに俺は彼の意図が読めずつい聞き返す。

 

「そっ、たまには外のレジャー施設で遊びに行かねえか? 色んなスポーツで楽しめるし身体も動かせるしで一石二鳥だろ?」

 

「まぁ、それは妙案だと思うけど、せつ菜さんが許してくれるのかな?」

 

後者の事情を聞くと魅力的な話ではあるが、前者の通り遊びに行くと思われてしまい、流石に許可してくれないのでは、と疑問を口にする。

 

だが、慎は心配ないと言わんばかりに力強くサムズアップした。

 

「大丈夫だ! さっきの理由を説明したら絶賛して快く了承してくれたぜ!」

 

「……マジか」

 

大方、二人で沢山の血と汗の滲む練習を重ねてくるとかアニメの世界でありがちな台詞を言ってせつ菜さんを納得させたのだろう。

 

だが外に出る口実はさておき、俺は内心楽しみにしていた。

 

「じゃあ、今回は俺たち二人だけってこと?」

 

「そうだなぁ~。しずく達にも声を掛けたんだけど、かすみの遊びに付き合わされるみたいであっちは女子会って名目で遊びに行くようだぜ?」

 

「そ、そうなのか……」

 

せつ菜さんとしては一年生組がこぞって帰る光景を見て、不審に思ったりしないだろうか。

 

彼女が認可したというならそこにとやかく言うつもりは無いが、にしても自由過ぎないかと俺は心配していた。

 

「まあ、慎と一緒に遊びに行くって今までやったことなかったもんね。折角だし二人で遊び尽くそうよ」

 

慎と二人きりでレジャー施設等に遊びに行く機会があまりなかったのだ。

 

いつもは部活で忙しかったり、時に遊ぶ機会はあってもしずくさんや他のメンバーも一緒だったりと中々男子限定での付き合いは少なかった。

 

故に俺はこのお出かけが楽しみだった。

 

「おうさ! なら早速行こうぜ!」

 

俺のワクワクしている声を聞き満足した慎はニカっと笑いながら出発し、俺もそれに付いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レジャー施設内の競技場へ足を運び、これからやる競技の腕前を慎が確認してくる。

 

「輝弥、お前ってどれくらいボウリングは上手いんだ?」

 

「うーん、スコアは100前後の平均的なタイプだよ」

 

俺達は自分のサイズに合ったボウルを持ちながら割り振られたレーンへと歩いていた。

 

お台場には各種スポーツを楽しむことが出来る大型レジャー施設があるのだが、その一環で遊ぶことが出来るボウリング場にまず来ていた。

 

「へぇ~、俺も150前後でさまよう事が多いから似たようなもんだな」

 

「それ、だいぶ差がない?」

 

「ようはその時の気分でスコアが変わるって事だ!」

 

「……それはみんな同じことだ」

 

慎の奇妙な持論を聞き、苦笑いしながら俺は指定レーンにボウルを置いた。

 

ボウリングは姉さんと年に1回ほどのペースでやる程度のものだ。

 

お互いとりわけ得意というわけでもないが、二人で初めてやった際には似たようなスコアを叩きだしていたので、いつしか姉弟間での恒例イベントとしてボウリング勝負を行っている。

 

それに勝負が終わった後のカラオケで燃え上がった闘志が収まるのも実によく出来た流れだと今となっては思う。

 

「ただ普通にやるだけじゃつまらないから勝負しようぜ?」

 

「……なんか慎が勝ちそうな気がするけど、一応内容は聞いておこうかな?」

 

俺は決まり切った流れが頭に浮かんでしまい、慎の事を大人げないとでも言うようにジト目で見つめる。

 

だが、慎はそんな俺の視線にはお構いなしで手に持ったボウルを俺に見せつけるように構えながら勝負の内容について触れていく。

 

「今回は三ゲームやるからそれの合計スコアで勝負だ!」

 

「負けた方は?」

 

「そんな大掛かりな罰ゲームにするつもりは無いしこの後に飲むジュースを奢るって事で」

 

慎はそこら辺の常識を弁えてるようで比較的穏便な罰ゲームであることに俺は内心安堵していた。

 

だが、勝負と言われたら俄然やる気が出てくるのが男というものなので慎の提案に賛成するように手に持ったボウルを突き合わせるように手を差し出した。

 

「ならオッケー。その勝負、乗った!」

 

こうして俺達だけの小さな勝負が幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり慎には叶いっこないなぁ……」

 

慎とのボウリング勝負を終えた後、俺は予想していた結末である慎に奢るというシチュエーションを実行していた。

 

最初は慎と30ほどのスコア差を叩きだされてしまったが、次第に感覚を掴んだ俺が二ゲーム目でスコア差を5まで持ち返した。

 

そして、そこまでの勝負で現在が部活の練習明けというのもあってか疲労が蓄積しており三ゲーム目では集中力が切れて結局慎に逃げ切られてしまった。

 

「ははっ、それにしても輝弥って凄くフォームが綺麗だよな~? 傍から見ればプロと思われても可笑しくないじゃねえか?」

 

「うーん、俺としてはあくまで自然とやってるだけだからあんまり自覚は無いんだけど……」

 

そう、慎は俺の投球中に事ある毎に投球フォームが綺麗と褒めてくれたので、それによる嬉しさと恥ずかしさが押し寄せてきたのも敗因の一つである。

 

しかも、この男は決して俺を陥れようとして言っているのではなくうんうんと唸りながら本心で褒めてくれていたので余計に俺としてはいたたまれない気持ちになってしまった。

 

「そうかな?」

 

「絶対そうだって! 今度しずく達も誘って一緒にやろうぜ? その時に見てもらえば俺の言いたい事が絶対分かってもらえるはずさ!」

 

「うーん、じゃあ楽しみにしておこうかな……?」

 

次回遊びに来る際にしずくさん達を誘う事も確定したことで自販機で買ったスポーツドリンクを慎に差し出した。

 

慎は「さんきゅ」とお礼を言いながら蓋を開けて一口ぐいっと流し込んでいく。

 

「この後はどうする?」

 

「そうだなぁ~……折角だし外に出てそこらのベンチで風にでも当たろうぜ?」

 

慎の提案に賛成し俺達はレジャー施設内から出る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にしても、慎にはどうしてもスポーツ系での勝負となると勝てないなぁ~」

 

レジャー施設を出てベンチへ向かう道中、俺はこれまでのスポーツが絡んだ慎との勝負を振り返っていた。

 

やはり運動神経に関しては慎の方が秀でていることもあり、中々慎へ吠え面をかかせることが出来ない。

 

むしろ慎にその実力差を見せつけられ俺は茫然自失となっている始末だった。

 

「あのなぁ、輝弥だって筋は良いんだぜ? 今回だって最終的には俺が逃げ切ったけど、一時はあと一歩まで迫ってきたじゃねえか」

 

慎ははぁっとため息を吐きながら俺にガンを飛ばしてくる。

 

「それでも、最終的な結果は変わらずだよ? 慎の才能にはどうしても勝てないよー……」

 

慎がフォローしてくれるが、勝てないものは勝てないと俺は開き直る。

 

だが、最初は俺を励ますように言っていた慎だが捻くれる俺の態度を見てから怪訝な表情をしながら厳しく叱責する。

 

「ばぁーか、才能なんてもんで言い訳すんじゃねえよ。そんなもんは出来ない自分の事を都合よく正当化しようとする甘い奴が言うセリフだぜ?」

 

そして、慎は俺から視線を外し表情が陰を落とす。

 

「それに、そうやって卑下ばかりされるとこっちだって楽しくなくなるんだよ……」

 

そんな慎の様子を見て、俺は自分の先ほどの行動を反省する。

 

「……ごめん、俺が幼稚だったな」

 

「……こうやって一緒に楽しく遊べるのもお前だからこそ出来る事なんだよ。だからそんな興覚めするような事を言わないでくれよ……」

 

「……うん、気を付ける」

 

珍しく慎が気落ちしているので、俺は一言だけそう呟き前へと視線を向ける。

 

きっと彼の中で俺が隣で居るということが何よりも安心するという事だろう。

 

過去の彼の事情に関しては未知ではあるが、それでもそこまで想ってくれているという事は慎は俺に対して相当な信頼を置いているという証になるはずだ。

 

ならば、俺もその関係性を自らの手で壊したくはないので、これからも慎が楽しいと思ってくれるように自分の在り方を考えなくてはいけない。

 

俺としても、こうして厚い信頼を寄せてくれる人物が現れてくれたのだ。

 

絶対に手放したくない。

 

「じゃあ、今度は慎の泣きっ面を拝めるようにもっと練習しないといけないね? それか今度はしずくさん達とチーム戦でもいいかもね?」

 

俺は重くなった空気を変えるように少し声色を明るくして慎へと話しかける。

 

慎も変わった話題にすぐ食いつき、明るい表情を見せる。

 

「へへっ、それもいいじゃねえか! なら輝弥はしずくとのペアで決まりだな?」

 

「なら慎もかすみとのコンビで決まりだね?」

 

「なんでそうなるんだよ!?」

 

「だって喧嘩するほど仲が良いって言うでしょ?」

 

「俺とあいつはそんな関係じゃねえっての!!」

 

慎とのいつもの喧騒が戻ってきて、俺はつい「ぷっ」、と笑いが込み上げた。

 

そして、慎もそれにつられて一緒に大きく笑い声を上げる。

 

二人でここまで声高らかに笑ったのは初めてかもしれない。

 

ひとしきり笑い合ったが、慎はまだお腹が痛いのか抑え込むような態勢を取っていた。

 

「はぁっー……ありがとな、輝弥」

 

「どうしたの、いきなり?」

 

急にお礼を述べてくるので、思わず問いかけてしまった。

 

「こんな俺と一緒に居てくれてさ」

 

「そんなの当たり前でしょ? 俺達、もう親友なんだしさ?」

 

「親友……」

 

慎が俺の言った言葉を反芻し考え込むような素振りを見せる。

 

そんな彼の様子を見て、俺はまた言葉のチョイスを誤ったかと錯覚し少し不安になってしまう。

 

「もしかして、嫌だった?」

 

「えっ、あっ、いや……そうじゃないんだ……。その……嬉しくてさ……」

 

「ふふっ、なんだか今日の慎は変だね? 遊び過ぎてもうお眠なのか?」

 

「ふっ、俺を彼方さんと一緒にするんじゃねえよ……」

 

俺の冗談にも慎はそっと微笑みながらツッコミを入れてくる。

 

そうやって返してくるという事は俺の言葉は間違っていないんだと密かに安心していた。

 

「俺達、ずっと友達だよな?」

 

「当然だよ。慎が俺の事を友達と思ってくれてる限り、俺も慎の事、ずっと友達だと思ってる」

 

不安気に聞いてくる慎に俺は間髪を入れずに返答する。

 

そして、俺はすっと彼に向けて手を差し出す。

 

「これからも、よろしくね?」

 

慎は何か込み上げるものがあるのかぐっと口を噤むと首を横に数回振ると、俺の手を握り返してきた。

 

「あぁ、もちろんだ!」

 

そう力強く返答する慎の表情はすこぶる晴れやかだった。

 

互いの友情を認識し合った後、俺達はこの先の事を話し合った。

 

「さて、気持ちも新たにできたことだし、この後どうするか?」

 

「そうだね、もうお開きにしてもいいけど……」

 

俺はそう言い、周囲を見渡す。

 

その時、とある二人の姿を見つける。

 

(あれは……果林さんとエマさん?)

 

そこには果林さんとエマさんがいた。

 

二人だけで遊んでいるのか、エマさんがはしゃいでいる様子を見て果林さんが一緒になって笑顔で楽しんでいる様子だった。

 

「慎、今日はここら辺にしようか。俺はちょっと姉さんから頼まれた用事があるから先に帰ってていいよ」

 

「ん、そうか? 分かった、じゃあまた明日な! 輝弥、今日は楽しかったぜ!」

 

「うん、俺も楽しかったよ」

 

俺は姉さんからのお使いと嘘を吐き、慎と別れる。

 

何も聞き返さずにいてくれるあたり、慎が純粋な少年で居てくれてよかったと心から思った。

 

慎と別れた後、二人の様子が気になり密かに尾行した。

 

二人はダイバーシティから南下した先にある科学館へ入っていった。

 

「もしかして……さっきのアンケートに書いてあったことを……?」

 

俺は二人がここにいる経緯を振り返り、果林さんが回答していたアンケート内容を思い出した。

 

『友達と思い切り遊ぶ、お台場でぶらぶらと食べ歩いたり』と書いてあったので、エマさんはそれを叶えようとして果林さんを連れ出したのだろう。

 

俺も科学館内へ足を踏み入れ、二人を探そうとしているとどこからともなくエマさんの声が聞こえてきた。

 

「……して言ってくれなかったの?」

 

「エマさんの声……この先かな?」

 

そこまで遠い場所にいるわけではないと確信した俺はいる可能性が高い場所に足を運んだ。

 

案の定、そこには果林さんとエマさんが立っていた。

 

エマさんは一枚の紙を果林さんに見せつけている。

 

恐らくアンケート用紙だろうとすぐに察しがついた。

 

俺は柱の陰に隠れて二人の会話を傍聴していた。

 

「私には興味無いふりをして……自分の心にしまいこんで……」

 

「…………」

 

エマさんの痛烈な訴えに果林さんは目を背けながらただ黙っていた。

 

本人としてもなんて返せばいいのか分からないのかもしれない。

 

「ねえ、この前に言ったこと覚えてる?」

 

「……何かしら?」

 

「私、みんなの心をポカポカにできるスクールアイドルになりたいと思ってるってこと。でも……私は一番近くにいた果林ちゃんの心を癒してあげられてなかった……。それどころか果林ちゃんの悩みの種になってて……。こんな私が人の心を温めてあげるなんて出来ないよね……」

 

エマさんが胸中を吐露してる姿を見て、俺は胸が痛くなった。

 

今まで何も言わずに付いてきてくれた果林さんが友人である自分には一言も相談せずに一人で抱えていたこと。

 

それは、まるで昔の自分を見ているようだったからだ。

 

周囲の人間からの圧力に押し潰されて何もかも嫌になりかけていた時、姉さんが自ら発起して助けてくれたこと。

 

あの時は俺がSOSを出したわけでもないし、俺自身もどうすれば良いのか分からなかったが故に何も言えずにいた。

 

姉さんの行動がなければ自分は破滅していたかもしれない。

 

実は果林さんも俺と状況は異なるが似た心情であったのかもしれない。

 

スクールアイドルとして琢磨しているエマさんの姿に憧れを抱きつつも果林さん自身で何かが邪魔をして誰にも相談できずに一人で抱えてしまっていた。

 

故にその苛立ちからエマさんにも冷たく当たってしまっていたのではないか。

 

「……それは違う……!」

 

「果林ちゃん……?」

 

エマさんの自分を卑下する発言を聞いて、果林さんは少し声を荒げて否定した。

 

「エマは……十分私の心を癒してくれていたわ……。そんな事を言わないで……」

 

果林さんは大好きなエマさんの事を否定するのはやめろと言わんばかりに、エマさんに鋭い視線をぶつけた。

 

そんな果林さんを見てエマさんは萎縮してしまうが、すぐに穏やかな眼差しに変わる果林さん。

 

本当にこの人はエマさんの事を大事にしているんだと分かる瞬間だった。

 

「……エマの為に同好会を手伝うようになって……そしたら、楽しかったわ」

 

「…………」

 

果林さんの意外な心情が吐露され、エマさんは目を見開いた。

 

「皆で一つの目標に向かって……悩んだり……言い合ったり……笑ったり……。下らないと思って遠ざけてきた事が……全部楽しかった」

 

楽しかった、そう発言する果林さんの表情は優しいものだった。

 

だが、そんな表情になったのも束の間、苦悶の表情をしながらエマさんから身体を背ける。

 

「でも私は……朝香果林はそんなキャラじゃない……。一人でクールに格好つけて、一人で大人ぶって……気付けば独りになってた」

 

痛烈に自分へダメ出しをする果林さんだが、その身体は小刻みに震えていた。

 

群れるのは苦手と何でも一人でそつなくこなす一匹狼な果林さんを一人の人間として格好いいと思っていたのだが、その裏は凄く繊細なものだった。

 

エマさんの為と思っていたことが実は自分も感化されてしまっていた。

 

だけど、元々定着していた一匹狼のイメージが果林さんを縛り付けていた。

 

故にそちらの世界に入ってしまったら本来の自分ではなくなってしまうのではないか、そんな畏怖もあったのかもしれない。

 

「分かったでしょ? 悪かったのは私、エマのせいじゃないわ。エマならきっと皆の心を……」

 

「……果林ちゃん」

 

必死に言葉を紡ぐ果林さんを黙らせるように後ろからエマさんが優しく抱き締める。

 

それは一人で藻掻くことしかできなかった果林さんを守っているようにも見えた。

 

「……エマ……」

 

「いいんだよ。どんな果林ちゃんでも、笑顔でいてくれるならそれが一番だよ」

 

どんな果林ちゃんでも。

 

それはクールな果林さんもみんなと和気藹々とする果林さんも全てを受け入れるというメッセージだった。

 

自分の腕を握って一人の寂しさを誤魔化していた果林さんもエマさんの行動により自然とその力が弱まって無気力になっていた。

 

「だからきっと大丈夫だよ」

 

エマさんは果林さんから離れ、少し距離を開ける。

 

果林さんは突然解放された身体に疑問を持ち、振り返るとエマさんは満面の笑みで果林さんを見ていた。

 

「もっと果林ちゃんの気持ち、聞かせて? 私に!」

 

そう言いながらエマさんは果林さんへ手を差し出す。

 

そして、とある曲を歌い始めた。

 

聞き覚えのあるフレーズに俺はすぐに自分の予想を口にした。

 

「このメロディー……あの時の……?」

 

それは昼休憩にエマさんへ聞かせた曲に歌詞を付けたものだ。

 

あの時は作曲のみをしていたのだが、エマさんはそれをこの短時間でそれに合う歌詞を考えていたのだ。

 

どこでそんな時間を作ったのかは分からない。

 

果林さんに対する想いがこの曲に相応しい歌詞を浮かび上がらせたのかもしれない。

 

アカペラで歌っているエマさんは所々リズムやフレーズが朧気になっているが、それでも彼女は笑顔でいる事をやめない。

 

そんなエマさんに俺と果林さんは終始釘付けだった。

 

目の前にいる人に向けた歌を笑顔で、全力で歌う事により、自然とその人の心を癒している。

 

俺も遠目で見ているにも関わらず、エマさんの姿が眩しくて彼女の笑顔を見て元気や勇気が湧いてくるようだった。

 

スクールアイドルに憧れて故郷を離れ異国の地にやってきたエマさん。

 

果林さんに支えてもらいながら自分の在りたい姿を見つける事が出来た彼女が今度は助けてくれた独りの少女に勇気を与える番。

 

俺はそんなソロステージに見惚れてしまうのだった。

 

感傷に浸っているとエマさんの歌は終わっていた。

 

「……果林ちゃん」

 

歌い終えたエマさんは息を切らしておらず、ただ真っ直ぐに目の前にいる少女を見つめ、その名前を呼んだ。

 

果林さんは目の前で太陽のように眩いキラメキを放つエマさんにその表面を覆っていた冷たい氷を解かされていた。

 

「スクールアイドル……出来るかしら?私に」

 

微笑みながら問いかける果林さんにエマさんは最後の一押しを掛ける。

 

「やりたいと思った時から、きっともう始まってるんだと思う!」

 

「ふふっ、そうね♪」

 

エマさんの答えに満足した果林さんは彼女に匹敵するほどに眩しい笑顔を放っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

大団円で収まったところを見て俺は踵を返し、二人に気付かれないように施設内を出た。

 

「……やりたいと思った時から、既に始まってる……」

 

風に吹かれながら一人歩いていると先ほどのエマさんの言葉が脳裏を過り、つい口に出していた。

 

それを呟きながら帰路に着いていると道中でせつ菜さんのお披露目ライブをあった場所が見えてきたのでそちらの方角に目を向ける。

 

「俺のこの活動も、やりたいと思ったあの時から始まってたんだな」

 

せつ菜さんのステージを見て、スクールアイドルの眩しさを知ったあの日。

 

そこから慎と一緒に同好会の事情を聞いて回ったり、同好会の再起を願って奔走したのが既に懐かしく思えてくる。

 

「まだまだ、俺の人生は始まったばかりなんだ……」

 

柄にもなく一人そう呟き、俺はダイバーシティを後にし帰路に着くのだった。

 




読んで頂きありがとうございました!


本編と逸れますが、今日で本作『虹の袂』が連載開始してから1周年を迎えます。

こうして一年間続けることが出来たのも読んで下さったり感想を送って下さる皆さんのお陰です。


いつも活力を与えて下さりありがとうございます。

頂いたパワーを本編に還元していくのでこれからも本作をよろしくお願いいたします!


それでは次回もお楽しみに!
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